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ジャン・アレチボルトの冒険

ジャンルを問わず、思いついたことを、書いてみます。

貧弱な日本の外交力

2009-04-18 02:57:06 | 政治
4月11日、タイで行われた日中首脳会談。外交筋によると、一時間近くに渡って、麻生首相が、温家宝首相を説得。その情熱に押されて、中国が譲歩し、国連安保理の議長声明に、「違反」の文言が盛り込まれた。

これは一部マスコミの報道であるが、外務省の「希望的観測」に基づいた「自画自賛」でしかない。

もともと麻生首相は、「議長声明」ではなく、「安保理決議」に同意するよう、中国首相を説得するため、勢い込んでパタヤに乗り込んでいった筈である。

しかし、一国の首相が、一時間掛けてお願いしても、「安保理決議」は実現しなかった。

それどころか、手にしたものと言えば、すでに既定路線だった「議長声明」に、「contravection」という、欧米の記者でも聞き慣れない単語を、盛り込むことだけである。

「違反」を表す常套文句「violation」すら、獲得出来なかった。

もし、オバマ大統領が、同じことをして、同じ成果しか手に出来なかった場合、彼は、国民から能力を疑われて、政治的ピンチに立たされただろう。

麻生首相が自ら動くなら、それに見合うだけの成果がなければならない。成果を見込めないのなら、首相が出ていくべきではない。

「contavection」だけなら、国連大使を通じた交渉で十分である。

今回の「議長声明」は、日本が、「安保理決議」にこだわって、強い態度を見せたからこそ、実現したのだという声がある。最初から、「議長声明」でも良いと言っていたら、結局、「報道声明」で終わっていただろう、という意見だ。

確かに、外交テクニックとして、最初に大きく吹っ掛けて、相手の妥協を引き出す手法は、存在するだろう。

しかし、そのためには、吹っ掛けた裏で、中国やロシアと緊密に交渉して、お互いどこまで妥協出来るか、探らなければならない。

アメリカ国連大使のスーザン・ライスは、まさに、これを実行した。そして、中国から「議長声明」という譲歩を引き出した。

で、日本は、何をしていたのだろう?

もし、日本が、中国との交渉の結果、「議長声明」の合意にこぎ着けていたのなら、日本の外交力は、高く評価されるべきだ。

しかし、日本は、ライス大使が妥協点を探っている間、首相も国連大使も、ひたすら「安保理決議」「安保理決議」と唱えていただけだ。

そして、米中が「議長声明」でまとまると、今度は、「首脳外交」で一点突破とばかりに、無理を承知で、麻生首相が、中国首相に一時間に及ぶ直談判を決行。もちろん、「安保理決議」は、ゲット出来なかった。

これは「外交」と呼べるような代物ではない。

日本ではあまり報道されていないが、オバマ大統領は、ライス国連大使に、閣僚級の地位を与えている。つまり、彼女は、外務大臣と同格である。

この政治的措置によって、ライス大使は、交渉の場において、自分の判断で、相手側に、大胆な妥協案を提示することが可能だった。

おそらく、この権限は、米中合意の大きな原動力だったはずだ。

オバマ大統領は、北朝鮮のロケット発射に強く抗議しながら、同時に、ライス大使に必要な権限を与えて、国連安保理で、アメリカが中心となって動けるように、布石を打っていた。

これこそが、政権トップの仕事である。

一方、麻生首相と日本政府は、「ミサイル実験」だ、落ちたら危険だと、国民の危機感を不必要に煽って、強硬な世論を形成し、その結果、自分たちの外交の自由度を狭めて、手足を縛ってしまった。

何としても「安保理決議」を、という雰囲気が国民の間に漂い、政府は、中国やロシアとの交渉でも、なんらの妥協案も提示出来ず、アメリカに主導権を取られ、さらには、「起死回生のホームラン」を夢見て、日中首脳会談に臨み、政権トップの無力を世界に晒してしまった。

拉致問題でもそうだが、国際問題を解決するためには、国民にも冷静になって貰う必要がある。政府自ら、国民の怒りや危機感を煽って、「無条件降伏」を相手に求める世論を作ってしまっては、話にならない。

そうなると、双方が受け入れ可能な妥協点を見出しても、国民からすれば、それは失敗にしか映らない。

日本は、経済力の相対的低下によって、世界での存在感が、どんどん小さくなっているが、貧弱な政治が、その流れを加速させている。

しかし、それは、日本国民が、自分で選んだ政治である。

国民の怒りや不安を煽ったり、勇ましい挑発的な言動を繰り返す政治家を、好きこのんで当選させてきたことの、当然の帰結である。

本質的な責任は、我々国民にあるということだ。

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