以前にも紹介した本ですが『マルクスに凭れて六十年』。
そこにあったある選挙風景です。
頃は昭和五年、1930年一月、所は信州上田地方。
語っているのは『資本論』翻訳者岡崎次郎氏。
【 翌昭和五年一月には衆議院が解散され、二月の総選挙で社会民衆党に属する義兄の友人が、上田・小諸を中心とする長野二区から立候補したため、若干の好奇心も手伝ってその応援演説を引き受け、約一ヶ月間雪の山野をおんぼろ車で走り回った。マイクなどはもちろんなく、一高の寮歌で鍛えた喉が大いに役立った。演説会場は小学校の講堂かどさ回り用の芝居小屋だった。農閑期のことであり、娯楽も乏しいところから、無産政党にたいする物珍しさも手伝って、どこも超満員の盛況だった。演壇の片隅には臨監という役の警官が腰掛けていて、演説が高潮に達して満場の拍手が起こると、弁士注意と怒鳴り、なを同じ主旨で話を続けると、中止と叫び、それでも止めないと、検束! と叫んで、聴衆のなかに混じっていた二三人の私服も壇上に跳び上がって弁士を引っ立てた。私は軍縮と福祉とをと叫んで(なんと世の中は変わったようで変わらないことだろう!)よく中止させられたが、検束はされなかった。】
この太字部分(太字にしたのはkaeru)が目につき今夜の「つぶやき」にしました。岡崎さんがこの本を出したのは昭和58年・1983年、53年前と比べて変わったようで変わらないと嘆息されています。それから30余年経った現在も叫ぶべきことに軍縮と福祉があります。変わらない!と嘆息しているだけではいられません。