「第4章」は次のような節の順で説明されています。
第4章 がんと老化の複雑な関係
●1 細胞老化と個体老化
●2 個体から解放された細胞は不死化する?
●3 細胞の分裂回数には限界がある
●4 テロメアは「細胞分裂時計」
●5 テロメア長を維持するテロメラーゼの発見
●6 テロメラーゼを標的としたがん治療
●7 TERTの別の機能を標的とする新たな戦略
●8 細胞老化の原因はテロメア短少化だけではない
●9 あらためて、なぜ年をとると発がんリスクが上がるのか
●10 そして「がん予防」の時代へ
今日のタイトルの100歳というのは、最後の節10で語られることですが、その節のはじめにこう書かれています。
最後に、本章で解説してきたいくつかのキーワードを結びつけるかもしれない最近の研究成果を紹介しましょう。
キーワード、例えば細胞老化、個体老化、テロメアなどなどこの章で語られる「老化とがんの関係」を理解する「基本的な言葉」について節を追って説明されています。
それを踏まえて最後に多くの100歳の人がもたらす「がん予防時代への展望」が語られます。
それは一般的に「男性高齢期はがん罹患期」である私にとって嬉しい「展望」です。ましてやがん患者と日常生活を共にしつつこの病が患者とその家族に深刻な陰を落とすことを実感している者として大きな期待を持って関心を寄せるものです。また、このブログを目にされた方々にとっても、喜んでるもらえるものと思います。
のp168〜170を写しておきます。
最後に、本章で解説してきたいくつかのキーワードを結びつけるかもしれない最近の研究成果を紹介しましょう。慶應義塾大学広瀬信義教授のグループの研究成果です。
百寿者という言葉をご存じでしょうか? 文字通り、100歳を超える長寿者のことで、105歳以上は超百寿者、110歳以上のスーパーセンチナリアンといいます。同グループは、
100歳以上の百寿高齢者とその家族を対象に長年にわたり追跡調査してきました。おそらく世界的にみても、これだけ多人数の〝超高齢者〟が参加した疫学研究は例がありません。この極めて貴重な疫学研究から非常に興味深いことがわかってきました。
100歳以上の高齢者やその子孫に共通する現象として、
① 同じ年齢の人と比較してテロメアが長い
② 炎症反応が低く抑えられている
ことがわかったのです。
調査対象となった方々は、100歳以上の長寿の方ですから、「100歳以上までがんで亡くなっていない」ことを意味します。必然的に、がんの発症リスクも少なく長生きしてこられたということが推測されます。
疫学調査では分子機序の解明はできないので、テロメアが長いことが原因なのか結果なのかはわかりません。同様に炎症が低く抑えられていることも原因なのか結果なのかはわかりませんが、大変興味深い結果です。
この研究では「細胞老化」「個体老化」「がん化」3つのパーツが見事に揃いました。
これまで、「細胞老化の原因と考えられてきたテロメアの長さ」がどうやら、「個体老化を紐解くひとつの指標として」の意味ももちそうですし、前述した、細胞老化による全身の炎症(SASP)が個体老化につながり、同時に発がんを助長する因子になり得るというモデルにもつながりそうな観察結果といえます。
そのモデルの複雑性から、長らく、別個の研究領域として捉えられてきた細胞老化と個体老化が、「慢性炎症」という分子メカニズムで統合される可能性が出てきました。
「慢性炎症」と発がんのプロセスの解明も相まって「ヒトはなぜ年を重ねるとがんが増えるのか?」という素朴な疑問に対しても、合理的な説明ができるようになってきました。単に「遺伝子変異の積み重ね」というだけではなく「生体内の環境を含めた後天的要因」が関与しているのは明らかです。
このようにみてみると、今後の発がんメカニズムを解明する研究は、古典的な「がん遺伝子、がん抑制遺伝子」の研究から、遺伝子産物による「生体内環境への影響」の研究に移行しつつあるといえるでしょう。今後は、発生したがんを治療するアプローチにとどまらず、「がん予防」への応用が期待される時代になりました。
今後、「ストレス老化」に対する科学的知見が積み重なれば、「生体内環境」をコントロールすることによって「がん予防」ができる時代がくるかもしれません。