歳をとって嫌だと思うことがいくつかあるが、その一つは「爪切り」である。体か堅くて、目がぼやけて、自分の爪を切るのも一苦労である。だから、伸びすぎて支障が出るまでほっとくことが多い。それに加え、爪が変形し、おまけにボロボロになり、切った後が、美しくない。まったくなさけない。
今日、ニュースで北九州八幡東病院での看護師による「爪はがし事件」の裁判のことが報じられていた。
この事件は、2007年6月25日、同病院の東6階病棟の責任者である上田里美看護課長(40)が、6月8日から15日にかけて、入院している認知症の老人患者4人の足の爪をはがしていたことが病院側からの公表され、公になった。病院はこのことについて「あってはならないことが起きた。患者や家族にお詫びしたい」と謝罪した、と言う。
福岡県警捜査一課と八幡東署は7月2日、4人のうち70歳の女性患者について、上田看護課長が足の親指と中指の爪をはがし10日間のけがを負わせたとして、傷害容疑で逮捕した。病院側は逮捕後、彼女を懲戒解雇した。また同日、北九州市に提出した調査報告書の中で、看護課長が以前受け持っていた病棟で3人の患者の爪をはがした疑いがあることを明らかにした。以上が当初の事件報道である。
老人の爪は若い者の爪とは違って、ゆがんだり厚く盛り上がったりする。上田里美看護士はそれをていねいに切ったり削ったりなどを日常業務のようにしていた。しかし彼女が転勤して移った6号病棟は違っていた。患者の爪は放置され、十分なケアも受けず無惨な状態だった。上田看護士は当然のように患者一人一人の爪を親切にケアしていた。
ところが彼女が世話をした患者の爪が無くなっているのを見た別の看護士が、これを虐待であると病院側に訴え、病院は事実関係を把握しないまま記者会見にのぞみ、マスコミ関係者も病院側の発表を鵜呑みにして、これを虐待事件としてセンセーショナルに報道してしまった。
わたしもこの時点でこの事件のことを知ったが、マスコミ報道のままに、そういうこともあるのか、という程度にしか思っていなかった。これら一連の経過により、上田看護士は懲戒免職となり、起訴されて裁判となった。
この「事件」(これは決して「事件」ではない。)について、社団法人日本看護協会(会長:久常節子)は、マスコミ報道をはじめ、当該看護師及び病院関係者からの直接的な情報収集、法律やフットケアの専門家等有識者からの情報収集を行い、それらの情報を総合的に分析・検討した結果、当該看護師の行為は虐待ではなく自らの看護実践から得た経験知に基づく看護ケアであると結論づけている。
社団法人日本看護協会の見解は以下の通りである。
1.虐待ではなく看護実践から得た経験知にもとづく看護ケアである当初、虐待事件のように報道されたが、現在、検察側、弁護士側の見解も、「虐待するつもりでも、ストレス解消でもなかった」という点で一致している。
2.爪のケアの重要性と看護実践について
爪切りや足のマッサージなどは「フットケア」と呼び、高齢者看護領域では、ケアの向上と普及がすすんでいる。当該看護師の行為は、患者により良いケアを提供したいという専門職としての責任感に基づいた積極的な行為である。
それでは、上田看護師の行為が「ケア」だったとすれば、なぜ病院側は「虐待」と発表したのだろうか。まず、第1の要因は、病院内の管理体制(人間関係)の問題があるだろう。今回の事件は「上田課長が患者の爪をはがすところを見た」という他の看護師の目撃情報が発端だった。ここには新任の看護課長に対するいわれのない「批判やひがみ」があったのだろう。それまで、なすべきことをしていなかったケアに対する浅はかな護身感情もあったのかもしれない。むしろ、老人の爪切りについての理解不足もあったであろう。
問題はこれを聞いた病院側が、以前に起こった京都の事件を連想して「虐待だ」と思い込み、その線で内部調査を進めた可能性は否定できない。予断を持って調べれば、白の証拠も黒に見える。
以前に起こった京都の事件とは、それより3年前、2004年10月2日に京都市内の病院で看護助手(30)が女性入院患者(76)の左手中指、薬指、小指の爪をはがして3週間のけがを負わせた事件であり、この事件では、犯人は調べに対し「職場の人間関係に悩み、むしゃくしゃしてやった」と供述したという。直前の9月30日にも女性患者4人も被害を受け、そのうちの1人は片足の5指すべての爪を剥がされていた、という。その後の調べで、助手は患者6人の手足の爪計49枚をはがしていたことがわかり、2006年1月、懲役3年8ヶ月の判決を受け、確定している。
こういう事件を知っていた病院関係者は、「うちでもか」と思い込み、行政機関やマスコミによって「不祥事隠し」と受け取られることを極度に恐れ、公表を急いだのではなかろうか。管理責任者のこのような心理が事件の真相を見誤らせ、「虐待があった」ことを既成事実にしてしまった。
高齢者虐待防止法は、虐待行為を見つけた人に市町村の通報を義務づけている。病院側が北九州市に報告したのは、最初の「爪はがし」発覚からたったの12日後だった。新聞は「報告遅れが被害を拡大させた」と書き立て、立ち入り検査した北九州市は「療養施設として不適切」と断じた。高齢者虐待について審議する北九州市の第三者委員会も、看護課長の行為を「虐待」と認定した。こうなると、もはやサンドバッグ状態である。「虐待」が独り歩きし始め、上田看護課長をかばう人間は誰もいなくなってしまった。こういうことはどこにでも起こる可能性はある。一人ぐらい、真剣に上田看護課長の立場を弁護する人間がいてもいいだろうと思うが、そうなるとその人間まで「被告」とされてしまう。
では、どうすればよかったのか。やはり、最初の記者会見で病院側が「看護課長が患者の爪をはがしたのではないかという疑いがある。今のところ虐待だったのか、ケアだったのか、判断がつきかねる。調査している段階なので、もう少し待ってほしい」と率直に打ち明けるべきだったのではないだろうか。そうすれば、「結論はまだか、遅い」とせっつかれたとしても、「虐待」が独り歩きすることはなかった。不慣れとはいえ、緊急記者会見は拙速に過ぎたと思う。
今日のニュースの中で「老人の爪」の映像が映し出されていた。これを見れば、事件の真相がはっきり見えてくるはずだ。
今日、ニュースで北九州八幡東病院での看護師による「爪はがし事件」の裁判のことが報じられていた。
この事件は、2007年6月25日、同病院の東6階病棟の責任者である上田里美看護課長(40)が、6月8日から15日にかけて、入院している認知症の老人患者4人の足の爪をはがしていたことが病院側からの公表され、公になった。病院はこのことについて「あってはならないことが起きた。患者や家族にお詫びしたい」と謝罪した、と言う。
福岡県警捜査一課と八幡東署は7月2日、4人のうち70歳の女性患者について、上田看護課長が足の親指と中指の爪をはがし10日間のけがを負わせたとして、傷害容疑で逮捕した。病院側は逮捕後、彼女を懲戒解雇した。また同日、北九州市に提出した調査報告書の中で、看護課長が以前受け持っていた病棟で3人の患者の爪をはがした疑いがあることを明らかにした。以上が当初の事件報道である。
老人の爪は若い者の爪とは違って、ゆがんだり厚く盛り上がったりする。上田里美看護士はそれをていねいに切ったり削ったりなどを日常業務のようにしていた。しかし彼女が転勤して移った6号病棟は違っていた。患者の爪は放置され、十分なケアも受けず無惨な状態だった。上田看護士は当然のように患者一人一人の爪を親切にケアしていた。
ところが彼女が世話をした患者の爪が無くなっているのを見た別の看護士が、これを虐待であると病院側に訴え、病院は事実関係を把握しないまま記者会見にのぞみ、マスコミ関係者も病院側の発表を鵜呑みにして、これを虐待事件としてセンセーショナルに報道してしまった。
わたしもこの時点でこの事件のことを知ったが、マスコミ報道のままに、そういうこともあるのか、という程度にしか思っていなかった。これら一連の経過により、上田看護士は懲戒免職となり、起訴されて裁判となった。
この「事件」(これは決して「事件」ではない。)について、社団法人日本看護協会(会長:久常節子)は、マスコミ報道をはじめ、当該看護師及び病院関係者からの直接的な情報収集、法律やフットケアの専門家等有識者からの情報収集を行い、それらの情報を総合的に分析・検討した結果、当該看護師の行為は虐待ではなく自らの看護実践から得た経験知に基づく看護ケアであると結論づけている。
社団法人日本看護協会の見解は以下の通りである。
1.虐待ではなく看護実践から得た経験知にもとづく看護ケアである当初、虐待事件のように報道されたが、現在、検察側、弁護士側の見解も、「虐待するつもりでも、ストレス解消でもなかった」という点で一致している。
2.爪のケアの重要性と看護実践について
爪切りや足のマッサージなどは「フットケア」と呼び、高齢者看護領域では、ケアの向上と普及がすすんでいる。当該看護師の行為は、患者により良いケアを提供したいという専門職としての責任感に基づいた積極的な行為である。
それでは、上田看護師の行為が「ケア」だったとすれば、なぜ病院側は「虐待」と発表したのだろうか。まず、第1の要因は、病院内の管理体制(人間関係)の問題があるだろう。今回の事件は「上田課長が患者の爪をはがすところを見た」という他の看護師の目撃情報が発端だった。ここには新任の看護課長に対するいわれのない「批判やひがみ」があったのだろう。それまで、なすべきことをしていなかったケアに対する浅はかな護身感情もあったのかもしれない。むしろ、老人の爪切りについての理解不足もあったであろう。
問題はこれを聞いた病院側が、以前に起こった京都の事件を連想して「虐待だ」と思い込み、その線で内部調査を進めた可能性は否定できない。予断を持って調べれば、白の証拠も黒に見える。
以前に起こった京都の事件とは、それより3年前、2004年10月2日に京都市内の病院で看護助手(30)が女性入院患者(76)の左手中指、薬指、小指の爪をはがして3週間のけがを負わせた事件であり、この事件では、犯人は調べに対し「職場の人間関係に悩み、むしゃくしゃしてやった」と供述したという。直前の9月30日にも女性患者4人も被害を受け、そのうちの1人は片足の5指すべての爪を剥がされていた、という。その後の調べで、助手は患者6人の手足の爪計49枚をはがしていたことがわかり、2006年1月、懲役3年8ヶ月の判決を受け、確定している。
こういう事件を知っていた病院関係者は、「うちでもか」と思い込み、行政機関やマスコミによって「不祥事隠し」と受け取られることを極度に恐れ、公表を急いだのではなかろうか。管理責任者のこのような心理が事件の真相を見誤らせ、「虐待があった」ことを既成事実にしてしまった。
高齢者虐待防止法は、虐待行為を見つけた人に市町村の通報を義務づけている。病院側が北九州市に報告したのは、最初の「爪はがし」発覚からたったの12日後だった。新聞は「報告遅れが被害を拡大させた」と書き立て、立ち入り検査した北九州市は「療養施設として不適切」と断じた。高齢者虐待について審議する北九州市の第三者委員会も、看護課長の行為を「虐待」と認定した。こうなると、もはやサンドバッグ状態である。「虐待」が独り歩きし始め、上田看護課長をかばう人間は誰もいなくなってしまった。こういうことはどこにでも起こる可能性はある。一人ぐらい、真剣に上田看護課長の立場を弁護する人間がいてもいいだろうと思うが、そうなるとその人間まで「被告」とされてしまう。
では、どうすればよかったのか。やはり、最初の記者会見で病院側が「看護課長が患者の爪をはがしたのではないかという疑いがある。今のところ虐待だったのか、ケアだったのか、判断がつきかねる。調査している段階なので、もう少し待ってほしい」と率直に打ち明けるべきだったのではないだろうか。そうすれば、「結論はまだか、遅い」とせっつかれたとしても、「虐待」が独り歩きすることはなかった。不慣れとはいえ、緊急記者会見は拙速に過ぎたと思う。
今日のニュースの中で「老人の爪」の映像が映し出されていた。これを見れば、事件の真相がはっきり見えてくるはずだ。
私も(事件?)当初から、これは高齢者が入院している病院なら、当然行われている医療行為であると、経験上知っていたので、事件にはなるまいと思っておりました。
ところが、なんと当該病院自身を始め、市役所の担当者も「犯罪」と認定してしまいました。
経験上と言いましたが、私は医療関係者ではありません、今は亡き母を介護していた時に、介護施設でも、自宅でも、水虫による足の指の爪の変形のケアは、重要な仕事の一つでした。
最初は病院の皮膚科の先生から手当をしてもらいましたが、自宅でもする必要があるため、その方法と用具を伝授してもらい、自分たちで行いました、行う時にはヤスリ付きのペンチの様な爪切りを使うので、施設に入所させている、爪のケアについて知らない家族が見たら、疑問に思うでしょう、なぜなら如何にも痛そうな器具を使いますから、拒否の声を上げるでしょう、知らない家族や他人が見たら「虐待」と思うのも無理がありませんが、同じ病院の医療経験者や、市役所の介護、福祉関係者が知らないという事は、驚きとともに、今の高齢者が入院している病院や施設は、こうなった爪のケアを現在は全くしていないのかと思うと、病院や高齢者施設自体の「高齢者虐待」も極まれり、と思った次第です。
幸いに「高裁」で正しい方向に戻してくれました、あとは「上告」をしないで確定する事を祈るばかりです。