⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️老人の覚悟⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️
中西英樹
・タイ・ロングスティヤー(チェンライ在住)
⬛️⬛️「機能は衰えていく」
●浦島太郎は東南アジアのどこかの島に流れ着いたのだろう、と
書いたことがある。
チェンライには、厳密にいえば季節はあるが、日本のように四季
の移ろいをしみじみと感じることはない。
概ね同じ服装で、年間を通してバナナやスイカを食べている。
カレンダーがなかったら、いつ正月が過ぎて、いつ春がきたのか
わからない。月日の経つのも夢の内、気が付いてみたら、玉手箱
をあけなくても白髪のおじいさん、というわけだ。
●今、週に数日のコート通いを続けていると、こちらに移住して
きた頃とあまり生活のリズムは変わっていないような気がする。
でもそれなりに馬齢を重ねているわけで、テニスだって昔と違っ
てあと一歩でボールに追いつけない、というか最初の一歩を踏み
出す時に一瞬の遅れがある。しょーがないよ、とは思うがちと悔
しい。
まだ自分はいい方かもしれない。友人、知人のメールを見ると、
愕然とすることがある。杖をついても出歩けるならいいが、それ
もままならない友もいる。自分だっていつそうなってもおかしく
ない。
東京にいるときに図書館で、老後に関する本を何冊か借りた。
三浦朱門、曽野綾子夫妻は気高く生きる老人の見本である。ご夫
妻のここ10年の!エッセイ集の内容はほぼ一貫している。老人に
対する助言、戒め、励ましであるが、不思議と退屈ではない。
曽野さんほど立派な老後を生きられる(生きている)かどうかわ
からないが、自戒のためにもいくつか引用してみたい。
(出典:祥伝社)
⬛️⬛️「戒老録」曽野綾子著より(1)
「老年は 自分で幸福を発見できるかどうかに関して責任がある」
●食うや食わずの貧困の中で暮らす人々を、私はたくさん見た。
今日、食べるものがない人にとって、夕飯に一切れのパンにあり
つくことは、全世界を満たすほどのすばらしい偉大な幸福を手に
することである。
しかし、贅沢に馴れた日本の子供にとって、おかずもなくバター
もないパン一切れを夕食に与えることは、不満と惨めさの極みに
なる。日本の年寄りさえも、このからくりの分からない人が増え
始めた。豊かになればなる程、不満な年寄りは増えるだろう。
社会が整備されればされる程、社会に不満を抱く人も多くなるだ
ろう。老年の幸福は、この判断ができるかどうかだろう。」
●子どもの頃、母に「上を見ればきりがない、下を見ればきりが
ない」と言われた。XXちゃんは買ってもらってるよー、と言うと
「よそはよそ、うちはうち」とも言われた。
仏教に「小欲知足」という言葉がある。
「欲が少なくても満ち足りていることを知っている者は安楽であ
り幸せである」という意味だ。 タイのプミポン前国王も国民に
「足るを知る経済」を説き、タイ貧困層の発展に尽くした。
(●故プミポン・タイ前国王)JIJJI通信)
「我利私欲」「大欲非道」の世界ではあるが、残り少ない時間を
口を尖がらせ、世を呪って過ごす老後は避けたい。
⬛️⬛️「戒老録」曽野綾子著より(2)
「年寄りは他人が『してくれること』を期待してはいけない」
昔から、人間の最も基本的な生活態度は自ら自分に必要なものを
取ってくることであり、次に弱い者に与えることであった。
“体の不自由な老女が、毎夜、道に面した窓の傍らに、あかりを
置いて、じっと座っている”という話が、私の記憶の中にある。
それは、そこを通りかかる旅人のためであった。長い道のりを暗
闇の中を歩いてくる人を迎える灯であった。 自然の威圧の中に、
小さなあかりが見える時、旅人はほっと人間の優しさを感じるの
である。・・
他には何の働きもできぬ老女でも、他人に光を与えることによっ
て、彼女自身も他人のために生きるという人間の本質を維持し、
しかもそのことによって、幸せを味わうことができるのである。
明るくすること。心の中はそうでなくても、外見だけは明るくす
ること。明るくふるまうことは、外界への礼儀である」引用終り)
●幼児はどうしてあんなに快活なんでしょう、
それに引き換え、年寄りはどうして不機嫌なんでしょう、
それは、幼児は好奇心いっぱい、すべてが新しく面白いことばか
りだから、
年寄りが不機嫌なのはすべて経験した気になって好奇心を失って
いるから、という。
●好奇心があっても健康、能力の衰えでそれが叶わず、不機嫌と
いうこともあろう。でもそうなるのは自分の責任ではない、
年のせいなのだから仕方ないと諦めて、せめて周りの人を不愉快
にしない、外見だけでも明るくふるまう、は大切なことだ
。
自分も「顔で笑って,心で笑って」をモットーにこれからも
頑張っていきたい。
以前、兄や友人に「お前はおめでたい奴だ」と言われたが、褒め
言葉として受け取っている。
⬛️ 「戒老録」曽野綾子著より(3)
「若さに嫉妬しないこと。 若い人を立てること」
●「日本の森は、世界でも特殊な照葉樹林を形成しているという。
森の匂いというのは確かに一種独特のものである。それは朽ちか
けた落葉の体臭である。
私は森が好きである。 そこに一人立つと、人間の運命を思う。
声もなく、ひそやかに生きる厳しさを思う。
若葉が芽吹き、それが木を成長させる力となる。 葉はやがて散っ
てもなお土となって、若葉を 木自身を育てる。
人間には二つの時期がある。
「育てられる時代」と「育てる時代」と。
●まだ老境の入り口にある人は、自分より高齢の人を立て、年を
とるにしたがって、若い人にその場を譲る気持ちを持つのが自然
である。私は、そのような行為の美しさを、実際に何人もの先輩
から教えたれたのである。
大人の美学は、大局に立って他人にとっていいことのために、自
分を少々犠牲にしてさりげなくしていることである。」引用終り)
●社会の中で暮らす個人は森の中の木に例えられる。
永遠に生きる事はなく後代に道を譲っていく。
・「育てられる時代」と、
・「育てる時代」と
曽野さんは言っている。
でも老年になっても若さを追求し、俺は、私は若いと思って飲む、
打つ、買うの生活を続ける。
即ち、薬を飲む、注射を打つ、サプリを買うの生活だ。健康の衰
えは年のせい、テニスだって、3ゲームやりたいと思っても、若い
人が待っていれば2ゲームで我慢する。一方、遅れてコートに来た
のに、待っているタイ人を押しのけて自分が先にプレーするファラ
ンがいる。そういう老人に限って、若いものに負けてたまるか と
全身サーブを繰り出す。でも技量は落ちる一方だ。
若さを競うのではなく実力の範囲で楽しむ、これができない年寄
りはいる。曽野さんの戒めをコートでも実感するくらいだから、
生活の上で自分も一歩下がって若い人を立てているのかと心配に
なる。
⬛️⬛️「戒老録」曽野綾子著より(4)
「若い世代の将来には、ある程度、冷酷になること」
●「年寄りになればなる程、今よりももっと深く絶望すればいい
のである。決して思い通りにはならなかった一生に絶望し、人間
の創り上げたあらゆる制度の不備に絶望し、人間の知恵の限度に
絶望し、あらゆることに深く絶望したいのである。
そうなってこそ、初めて、死ぬ楽しみもできるというものである。
その絶望の足りない人が、まだ半煮えの希望をこの世につないで、
いろいろなことに口を出す。若い者が、ばかをしでかしてもそれ
はそれでいい。自業自得を体験することも、若者にとっては大切
な資産である。」引用終り)
●心の中はそうでなくても、外見だけは明るくすること。
明るくふるまうことは礼儀、と曽野さんは言っているが、誰も心
の中には絶望を抱いている、どうしてあの時、こうしなかったの
だろう、こんな伴侶でよかったのだろうか、ムリしてもあっちの
学校、こっちの仕事についていれば・・・。自分も寝る前に若い
時のことを思い出して舌を噛み切りたくなることがある。
あー、と声が出てしまうこともある。でも、こうしてで飢えず、
凍えず、曲がりなりにも口に糊する身分なのだから、と思い直し
て眠りにつく。朝になって舌がちぎれていたということはまだな
い。でも日本が劣化していくことに耐えられない気持ちがあると
いうことは、まだ絶望が足りないのか。
■■「戒老録」曽野綾子著より(5)
●「生活の淋しさは、誰にも救えない。 あくまで自分で自分を
救済するしかほかはない。淋しさは、老人にとって共通の運命で
あり、最大の苦痛であろう。老年というものは、いつか肉体がだ
めになることだ。眼が悪くなった場合、耳が聞こえなくなった場
合、歩けなくなった場合を予測するのだ。
そして、ついに何もできなくなっても、それで自然だと思うこと
だ。自分の責任でそうなったのではないことには、気を楽にする
癖を初老と言われる年までにつけておくと便利だろう」引用終り)
●病院に行くと医師は、正直に「年のせいだから仕方ないね」と
は言わない。
・何か適当な病名をつける。
・それで年寄りは納得する。
・病気なら薬を飲むと治るかと思って飲む。
・飲んでも病気が治らないと医者を恨む。
・散弾銃をぶっ放す人も出てくる。
・年を取れば友人も年賀状も少なくなる。
・これは当たり前、淋しく思うことはない。
年を取ればあらゆる面で衰えるけれど、自分の責任ではない。
そう思うことは大切だ。
尚、認知症になれば淋しさを感じないで済む。
認知症は、神様がくれる最後のご褒美というが、ご褒美を貰える
僥倖は2割しかない。
(●出典明示以外の写真は、全てJtiro撮影)
⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️高齢化の資料⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️
⬛️1)日本の景気動向)(全資料の出典、ニッセイ経済総合研究所)
⬛️2)日本の高齢化の現況)
⬛️3)日本の社会保障の動向)
⬛️4)世界と日本の幸福度,2021)
⬛️5)日本の高齢化と将来予測)
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