いせ九条の会

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拉致問題も従軍慰安婦問題も現在進行形の問題/山崎孝

2007-03-28 | ご投稿
【安倍首相「拉致と慰安婦は全く別」国際批判に開き直り】(3月27日付「しんぶん赤旗」ニュース)

安倍晋三首相は26日、米紙ワシントン・ポストが、北朝鮮による拉致問題とは対照的に従軍慰安婦問題で「戦争犯罪に目をつぶっている」と首相の姿勢を厳しく批判したことについて「(拉致と慰安婦問題は)全く別の問題だ。拉致問題は現在進行形の人権の侵害だ」とのべました。

首相は「従軍慰安婦の問題は、それが続いているというわけではない」と強調する一方、拉致については「まだ日本の方々が北朝鮮に拉致されたままである、という状況が続いている」と指摘しました。国会内で記者団の質問に答えました。

この発言は、従軍慰安婦問題を「過去の問題」として切り捨てる姿勢を示したもの。日本政府は人権問題で二重基準をとっているとの国際的批判に対する開き直りであり、新たな批判は免れません。(以上)

安倍首相の「(拉致と慰安婦問題は)全く別の問題だ。拉致問題は現在進行形の人権の侵害だ」という言葉を考えてみます。たしかにまだ日本人が北朝鮮に拉致されたままである、という状況が続いています。このことは、今に生きる人間が苦しみと怒りを抱いて生きている状態があることを安倍首相は指摘しています。今に生きる人間が苦しみと怒りを抱き生きている状態という点では従軍慰安婦だった女性たちも同じです。生きている人たちの苦しみを解決しなければならないという共通の問題点を持っています。この問題を解決するには北朝鮮と交渉して拉致された人たちの状況を把握して救出をしなければいけない。過去に従軍慰安婦だった女性たちの声に耳を傾けて心を慰めなければならないということで共通しています。

従軍慰安婦問題は「現在進行形で人権・人間の尊厳を考える問題、それに関係して様々な反応が起きている現在進行形の問題」であります。当事者だった女性たちは、現在の日本政府に謝れと要求し、米国の議会がその訴えを支援して、同じ要求を現在の日本政府に要求する決議案を討議しています。議会での採決は日米の外交関係を考慮して、安倍首相の訪米の日程が終わった後に行うと言う米国側の変な配慮まで受けています。

そして、現在の日本で起きている事実として、過去の出来事を現在に生きる人がどう考え、その考えに基づいて日本の未来を担う子どもたちにその歴史をどう教えるのかで日本人の中で対立しています。一方の側は子どもには悪い影響を与えるから教えるなと主張、その主張に配慮して教科書会社は検定で問題を起こさないために教科書から従軍慰安婦問題の記述を無くしてしまっています。私は現在のドイツ人が、ナチスドイツの起こした残虐事件をしっかりと教えられても、自国に誇りを失わずヨーロッパにおいて指導性を持つ国に至っていることを考えれば、歴史は正確に教えるべき、と考えます。

従軍慰安婦問題が現在進行形の問題であることを安倍首相自身が証明しています。安倍晋三氏自身が過去に公共放送の番組内容に介入したと受け取られた事件があって、昨年はそのことが暴露されてそれに対して弁明をしています。NHKのあり方や言論の自由の問題としてNHKと朝日新聞社は激しく論争しています。NHKを訴えた団体に対して訴えた団体の主張を取り入れた判決が本年出ています。

また、自民党内に「河野官房長官談話」の見直しがあり、首相自身も初めからその見直しを了解していて見直した文章を受け取っています。最近の3月25日、下村官房副長官が民放ラジオ番組で、「従軍看護婦とか従軍記者はいたが、『従軍慰安婦』はいなかった。ただ、慰安婦がいたことは事実。親が娘を売ったということはあったと思う。だが、日本軍が関与していたわけではない」と歴代の政府の見解を否定する見解を述べています。

これらは正に現在進行形の問題です。そして拉致問題も従軍慰安婦問題も過去に起こった問題ですが、現在、拉致問題は北朝鮮政府が過去に犯した誤りを現在どのように誠実に対処するのか。従軍慰安婦問題は過去に犯した誤りを現在の日本政府がどのように誠実に対処するのかを世界の人たちが見守っているという点で共通点を持っています。この対処の仕方によって世界の人々は両国政権の指導者たちの「人間としての誠実度」「人権に対する意識度」「普遍的な人道という価値観を持っているかどうか」を評価します。安倍首相はこの視点を持たないと、民主主義の国としての指導者としての評価は受けず、ひいては日本に対する評価にもつながります。安倍首相の世界に通用する「美しい国」が造ることが出来るかどうかの資質も問われます。