いせ九条の会

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麻生太郎外相の見解を考える/山崎孝

2007-03-04 | ご投稿
麻生太郎外相は、「論座」4月号に掲載されているインタビュー記事の中で、米国のイラク政策について「戦後統治の再考を促しただけ、イラク戦争を否定したわけじゃない」という趣旨の考えを述べています。

また、イラクに派遣した陸上自衛隊の活動の評価を、《昨年8月にバクダッドに行きましたが、とにかく自衛隊の評判、評価が高い。フランスの国防省が出している雑誌に「なぜ日本だけが成功したのか」という分析が掲載されてるんです。各国の軍隊が大変な目に遭っているのに、日本の自衛隊だけが歓迎され、だれも撃たれることなく撃つこともなく任務を完了した。なぜなのか、と。いろいろ理由があがっているんですが、面白かったのは、まず自衛隊の場合、部族の長や議員を集めて、「私たちは道路建設、補修工事、医療……とかくかくしかじかができますが、何をやってほしいですか」聞くんですね。イラク側はいろいろと勝手に言う。それで「一度にすべてはできないので、何を優先するか決めてくれ」と。そうやって「This is democratic」と教えていると。自衛隊はそんなつもりはないと思うんだけど(笑い)。で、最終的に「道路だ」と合意をとったうえでとりかかる。押しつけじゃなく、相手の希望に応える形をとっているというわけです。(以下略)》と述べています。

麻生太郎外相の「イラク戦争を否定したわけじゃない」という見解は、国連憲章を認識していません。国際憲章には次の規定があります。

第2条〔原則〕

この機構及びその加盟国は、第1条に掲げる目的を達成するに当っては、次の原則に従って行動しなければならない。

1 この機構は、そのすべての加盟国の主権平等の原則に基礎をおいている。

2 すべての加盟国は、加盟国の地位から生ずる権利及び利益を加盟国のすべてに保障するために、この憲章に従って負っている義務を誠実に履行しなければならない。

3 すべての加盟国は、その国際紛争を平和的手段によって国際の平和及び安全並びに正義を危うくしないように解決しなければならない。

4 すべての加盟国は、その国際関係において、武力よる威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない。(以下略)

この規定を見れば、米英の起こした先制攻撃のイラク戦争は国連憲章の規定に違反しています。特に日本人に一定浸透している北朝鮮に対する政府の強硬政策支持とも関連する《武力よる威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない》という規定の認識が重要だと思います。悪い政権の国でも「武力よる威嚇や行使」をしてはならないのです。これが国際秩序を守る大原則です。

麻生太郎外相は、《各国の軍隊が大変な目に遭っているのに、日本の自衛隊だけが歓迎され、だれも撃たれることなく撃つこともなく任務を完了した。なぜなのか、と。いろいろ理由があがっているんですが》と述べて、自衛隊の活動が《押しつけじゃなく、相手の希望に応える形》を取ったことを強調しています。

皆さんも気付いておられるように、麻生太郎外相が触れなかった肝心要のこと、「各国の軍隊が大変な目に遭った」のは、米英のイラク攻撃でイラク民間人が多数犠牲になり、反米感情が渦巻くイラクで武力行使をしたからです。米英の行為は正しいと言う主張をイラクで実地に実践したからです。日本は憲法に「海外で武力行使をしてはならない」という規定があるために自衛隊の活動を規定したイラク特措法もそれに従わざるを得なかった。自衛隊の宿舎周辺を何回も砲撃されてもシェルターにこもっていて、反撃をしなくても良いと政府は了解していて、武装組織である自衛隊員の名誉とか自尊心が傷つかなかったから。米国が日本にイラクの治安維持を要請したときも憲法規定で断ることが出来たからでした。要請された時はイラクで英国軍は100名を超す戦死者を出していました。政府はこれを見て治安維持活動を断る理由を、憲法に守らなければならないということを口実にしようという考えに傾き、日本の国民世論を考えれば得策と判断は出来ます。

日本もイラクに自衛隊を派遣し、米英の行為は正しいと言う主張をイラクで実践しましたが、戦闘行為をしなかったからイラク人を殺傷しなくても済みました。イラクサマーワでイラク人に道路の補修など法外な下請け代金を出せば、歓迎する人が一定出ても不思議ではありません。

麻生太郎外相は、現在の米国の北朝鮮政策を《いま米国はイラクで忙しい。アフガニスタンとイラクを抱え、さらに北朝鮮では手が回らない。だから、当面はソフトライディング派のライス国務長官とヒル国務次官補にまかせようと、ということじゃないですかと》という認識です。この「だから、当面は」という言葉で推察されること、イラク戦争を否定しなかったことから言えることは、米国政府の根底にある脅威を取り除くのに先制攻撃も止む得ないとする考えを容認し同調する考えがある(米国防総省のイランに対する先制攻撃の立案をしたと言われる)。自由と民主主義を拡大させるためには、他国への介入は出来るという主張を容認し同調する考えがあることです。

そして矛盾するのは、陸上自衛隊のイラクにおいて相手を傷つけず、自らも傷つかなかった活動結果を自慢しながら、自衛隊が紛争地において、相手を傷つけず、自らも傷つかなかった結果をもたらした憲法の規定を認識できず、この規定を変えようとしていることです。
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