いせ九条の会

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額面どおりには受け取るわけにはいかない/山崎孝

2007-03-14 | ご投稿
朝日新聞3月12日の「ニッポン 人・脈・記」には、舛添要一参院議員に触れた部分があります。記事は、同氏は自民党新憲法起草委員会の事務局次長として、自分のパソコンで最終案を書き上げた人物と述べています。記事は自民党新憲法草案《9条は、自衛軍を創設するけれども、第1項の「戦争放棄」は変えなかった。舛添は若い日、フランスに留学、第一次世界大戦後に不戦条約を作った仏外相ブリアンの研究にいそしんだ。「1項は不戦条約と同じなんです。人類の理想です。1項を変えていつでも戦争をできるみたいにしちゃいけないよ」》と書いています。

舛添要一参院議員の「1項は不戦条約と同じなんです。人類の理想です。1項を変えていつでも戦争をできるみたいにしちゃいけないよ」との言葉を額面どおりに受け取るわけにはいきません。

北朝鮮の核実験を背景にした2006年10月11日の参院予算委員会で、舛添要一参院政審会長は、「軍事制裁」を後押しする立場に立って、米軍が北朝鮮への制裁として臨検(船舶への立ち入り検査)を実施するケースを想定して「臨検をしているアメリカ海軍に向かって発砲が始まったときにそばにいて、うちは憲法で禁じられているから何もできませんというのが通じるのか」とのべて、米軍とともに武力行使に乗り出すべきだという考えを主張しています。そして「もはや(自衛権を)個別や集団と峻別する意味はない」「憲法改正という形で筋道を立てたい」と改憲を強く求めています。

この参院予算委員会での発言と「1項は不戦条約と同じなんです。人類の理想です。1項を変えていつでも戦争をできるみたいにしちゃいけないよ」と言う言葉とは大きく矛盾しています。舛添要一参院議員が想定しているのは、「我が国周辺の地域における我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態」と規定されている周辺事態法を発動して、米軍の後方支援を行っている状況の時のことを述べています。この法律は、周辺事態への対応は、武力による威嚇や武力行使に至らない行動にすると規定しています。

北朝鮮の核実験に対する国連安保理事国の基本姿勢は、軍事制裁を行わないが、経済制裁はする。その目的は北朝鮮を6者協議に呼び戻すこと。そのために、国連加盟国は紛争を拡大させるような行動を慎むことでした。この国連の姿勢とも明らかに違う舛添要一参院議員の政治姿勢です。

日本政府は周辺事態法の適用に政権内からも異論があり適用を諦めます。従って米艦船の後方支援はできませんでした。そして肝心の米国も海上での臨検は行わず、港での船舶検査にとどめます。

結局は憲法の第1項を残したのは、国民をなだめるための意図で、自民党新憲法草案の9条2項を変えたことの危険な本質を隠すためのものです。「戦争の放棄」の理念は、前文と第2項を変えないことで確固として保証されるものです。

2006年10月11日の参院予算委員会では、久間防衛庁長官は、集団的自衛権と個別的自衛権の間に「グレーゾーンは本当にないのか」などと答弁。自衛隊機が他国の空中給油機から空中給油を受けているケースを示し、「相手は空中給油機を狙ってきた。日本の自衛隊機は、その敵機を撃ち落としてはいけないのか。実行はできるんじゃないのか」と述べています。

安倍首相は、公海上で米軍艦が攻撃された場合や、イラクで英豪軍が攻撃された場合を挙げ、「(集団的自衛権の行使を可能にするよう)しっかりと研究していくことが、われわれの責任だ」と答弁。さらに「研究を行った結果、それはわが国が禁止する集団的自衛権の行使ではないという解釈を政府として出すことも十分あり得る」と述べています。

2007年3月14日付朝日新聞は、オーストラリアを訪問した安倍首相が、ハワード首相と会談したことを伝える記事の中で《「個別具体例が憲法の禁じる集団的自衛権の行使にあたるかどうかの研究」を進めるなど、自ら主導して協力の拡大を図っている。研究例として「サマワで一緒に活動する英豪軍に攻撃があった場合に(自衛隊が)駆け付けること」を挙げている》と書いています。これを見れば、3月7日の内閣記者会でのインタビューで「集団的自衛権の研究」に関して「国民を守る大きな責任がある中で、そんなに時間をかけるべきではない」と述べた「国民を守る大きな責任」とは全く無関係なことがわかります。

現行憲法の解釈を変えることは許されません。歴代政権が戦後一貫して国民に説明してきた内容、国の最高法規の解釈が時の政府の都合で変えられたら、法治主義は大きく揺らぎます。「憲法改正という形で筋道を立てたい」という舛添要一参院議員の方がまだしも真っ当です。

2005年2月、日米安全保障協議会で、ラムズフェルド米国防長官が述べた「平和協力活動は、血を流してこそ未来につながる尊いものになる」と述べ、日本に武力の伴う国際貢献を求めました。しかし、ラムズフェルド米国防長官が思いましたが国連はそうとは思わなかった「平和協力活動」の大量破壊兵器の除去から大儀名分を変えたイラクにおける民主主義と「テロとの戦い」は無残な有様を呈しています。アフガニスタンにおける武力を主体とする「テロとの戦い」も成功を収めていません。安倍首相も日米同盟は「血の同盟」と述べたことがあります。

自民党新憲法草案の9条2項は、自衛軍を創設して武力の伴う国際貢献を謳っています。しかし、国連平和維持活動の原則は、非暴力の原理を紛争地に持ち込むことです。国連は停戦を勧告して、停戦成立後に紛争当事者が了解すれば国際部隊を派遣して、武装解除、停戦監視、人道支援を行います。国連軍が編成されて国連憲章第42条に軍事制裁のケースは今まで基本的にはありません。(朝鮮戦争時の国連軍編成は中ロと米国の対立で正常な状態ではなかった。湾岸戦争は国連部隊ではなく、このような事態はごく稀なことです)