いせ九条の会

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政府の中央審議会会長の山崎正和氏の意見について/山崎孝

2007-03-17 | ご投稿
朝日新聞は3月16日付でイラク「開戦時の賛成論 振り返ると/オピニオンリーダに聞く」と題して、イラク戦争に賛成した二人の意見を掲載しています。その一人、政府の中央審議会会長で劇作家の山崎正和氏の意見を紹介します。山崎正和氏の意見は、安倍首相が本年3月に述べた国会答弁とほぼ同じ考え方の意見です。

編集委員の質問 開戦直前のインタビューや、戦争時の総合雑誌の論文では道義はアメリカにあるとし、軍事行動を支持されていました。2年前の新聞論文では、支持してきたイラク戦争は終わった、とも。お考えは今も変わりませんか。

 「変わらない。ただ強調したいのは、私が支持した戦争は、加盟国がこぞって賛成した開戦前年11月の国連決議1441を出発点にした戦争だ。イラクの大量破壊兵器疑惑に対し無条件の査察などの条件をつけ、決議違反が続けば『イラクは深刻な結果に直面する』と警告していた。それまで2年近く続いた議論の決着点であり、すべての国がイラクは危険であり、大量破壊兵器の存在を疑っていた。ここまでは、アメリカは突出せず、全員がきっちりついてきた。しかし、フセインは大量破壊兵器の廃絶を積極的に証明しなかった。道義はアメリカの側にあったのは明らかだ。『深刻な結果に直面する』とは、外交用語で戦争するぞ、ということだ」

編集委員の質問 特に仏・独が査察継続を求め、早期の攻撃に強く反対しました。

 「アメリカの大きな過ちは、重ねて開戦決議を求めたことだ。1441決議のままでいけば、誰も反対できなかった。皮肉にもアメリカが湾岸に軍を派遣し、その圧力からフセインが査察を受け入れるふりをしたので、少し攻撃を見合わせようという国が出てきた。仏、独も査察継続を言うのなら、音頭をとり、全国連で米軍の駐留費を分担して圧力をかけ続ければよかったが、しなかった。あの争いは異様なものだった」

編集委員の質問 日本の対応で最も大事なのは、アメリカの行動への明確に支持とも言われました。

 「一つは国連中心の立場から、もう一つは長期的な国益の見地からだ。国際政治は多極体制から、戦後、冷戦下の二極に移り、今や、経済面も含めアメリカ一極体制にあるのが現実だ。米国は何よりも開かれた言論の国で、政府の動向も透明度が高い。また、大統領選挙が4年に1度あるように、内部から復元力がある。この一極体制はベストではないが、今のところは次善の形で、各国がいかに賢明に運用するかが重要になる。日本にとって、平和主義を貫くにも、アジアの安定を考えても、予測可能な将来を保証する意味で、今は日米同盟しか選択の余地がない」

編集委員の質問 大量破壊兵器の不在をもって開戦を非難する議論もあります。

 「大量破壊兵器の最大の効果は、使うことではない。あるかないか分からないのが、ある意味で最大の『攻撃』だ。そういう『攻撃』は排除しないといけない。米英がウソをいったという議論があるが、そういう細かい事実が仮に真実だったとしても、最大の査察は攻撃だったというのが私の考えだ。本来はフセインがすべきことを、はっきりさせた。無意味ではない」

編集委員の質問 今もイラクでは死者が連日出ているが、戦争は終わったとお考えですか。

 「もちろん。民主的選挙が実施され、イラクの国民議会が新しい大統領と首相を任命した時点で。繰り返しますが、私のこの戦争の原点は国連決議にあり、米国の道義もその中にある。決議を背景に開戦した時の目標は、独裁者の排除、大量破壊兵器疑惑の解明、イラクの民主化、テロリストの温床の制圧だったが、これらはほば達成された。副産物として、リビアの自発的核廃棄などを生んだ。

編集委員の質問 山崎さんがこの戦争を考えるものさしは、あくまでも国連決議1441だと。

 「私はイラク攻撃が根源的に賢明な戦争だとはいっさい言ってない。『文明の衝突』説には昔から反対だし、ネオコンが、民主主義と人権尊重の子供っぽい使命感から始めた戦争なら、賛成しない。国連決議に至る議論の前に戻せば、選択はいろいろあった。ただ、政治の論議はあくまで時限的な行動を問うもので、歴史の中に戻せば、戻すほど分からなくなる。様々に重なったものを、腑分けし、冷静に語るのが一人のモノを考える人間の仕事だ。整理すればこうなる、ということを、今回も一貫して述べてきただけだ」

編集委員の質問 終わらない混乱については。

 「シーア派、スンニ派というイスラム世界内の代理戦争という形になっている。もう、イスラムの世界にまかせ、アメリカは手を引くべきでしょう」(聞き手・編集委員の質問 四ノ原恒憲)

山崎正和氏は「大統領選挙が4年に1度あるように、内部から復元力がある」と述べていますが、その復元力が明確に示した事実は、イラク戦争は間違いと言う意見が多数を占めています。このことを山崎正和氏は認識すべきです。

山崎正和氏は「テロリストの温床の制圧だったが」と述べていますが、フセイン政権は国際テロリストとの関係がなく、イラク戦争開始後に国際テロ組織がイラクに侵入し、イラクで新たに反米武装勢力などのテロが発生するようになったことは世界がよく周知していることです。

山崎正和氏は「開戦前年11月の国連決議1441を出発点にした戦争だ」と述べています。それではこの決議に対する国際社会、国連の多数意見や国際法学者の意見を紹介します。

2003年2月19日、国連安保理の公開討論会が行われ、35カ国・機構の意見は、国連原子力機関と国連監視査察委員会の査察継続の意思が示される中で、仏独の主張する「査察継続」を支持する声が大半を占めています。

2003年3月18日、国連監視査察委員会のブリスク委員長は、米国の最後通告を受けて査察団がイラクを撤退しなければならなくなったことを記者団に対して次のように語っていました。「失望している。査察再開からわずか3ヵ月半で中止する理由はないし、国連決議1441の趣旨は、このような短い査察をするためのものではなかったと思う」。国連原子力機関とエルバラダイ氏は、2005年度のノーベル平和賞を受賞して、その受賞の理由には、米国のイラク政策に対して毅然とした態度を取ったことも含まれていました。

2003年3月18日の朝日新聞に掲載されていた「イラク問題に関する国際法学者の声明」は、平和に対する脅威、平和の破壊または侵略行為に対する事実を認定し、武力行使を容認するか否かを決定するのは、唯一国連安全保障委員会である。安保理決議1441はそのような同意を与えたものではないと述べています。

山崎正和氏は「今や、経済面も含めアメリカ一極体制にあるのが現実だ」と述べています。しかし、今や世界は経済的には、米国、EU、相互扶助の関係を深める日本・中国・韓国・ASENA、インドなどのアジア経済圏、反新自由経済主義を掲げた中南米諸国圏、そしてイスラム圏などに多極化しています。

山崎正和氏は「日本にとって、平和主義を貫くには」と述べています。日本が平和主義を貫く指針は、戦後の国是とした日本国憲法の理念です。この理念の観点で、日米両政府のイラク政策を見なければと思います。その観点で2003年に書いた私の文章をお読みください。

朝日新聞2003年3月22日付「声」欄掲載文【理念無視した経済軍事優先】

 日本政府は国連の安全保障理事会の承認を得ない米英などの対イラク戦争を支持しました。支持する考えの基本は、日米の経済関係、軍事同盟にひびが入らないようにするため、また、国益のためだと言います。

 国連はイラクの大量破壊兵器の廃棄を平和的な方法で果たそうとしました。これは日本の憲法の理念と一致しています。

憲法が掲げる理想・理念に基づき日本政府はその役割を一番発揮しなければならない時に、日米の経済関係、軍事同盟の方を選びました。

日本はかつてエコノミック・アニマルといわれ、理念より経済的な損得しか考えない国と思われました。今回の決定はこの考え方の延長であり、とても残念で恥ずかしいと思います。

 政府は米国のイラク戦争の後で人道支援をすると言います。人道とは人命を失われることを防止することであり、多くの人命を失う政策を支持しながら、人道支援を口にするのは本末転倒です。

 今回の決定の要素には北朝鮮情勢への配慮があるともいわれます。米国の採用した武力による威圧、先制攻撃の論理を北朝鮮の問題に適用されたら、平和への大きな脅威になると思います。(山崎註 「廃棄」という言葉を用いたのは、この時点ではイラクの大量破壊兵器の有無ははっきりしていませんでした)