17日も職安に行き、1件申し込んだ。手続きが終わると係の女性が、「○○って、ご存じですか?」と聞いてきた。○○とは、私がだいぶ前に書類一式を送付した企業である。
女性のパソコンには、私の申込履歴が出ているはずだ。画面上に「選考中」とでも出ていたのだろう。
「はい。胡蝶蘭を売ってる会社ですよね。返事があったかどうかは忘れましたが、もう何ヶ月も前だし、不採用と理解しています。ここじゃないかもしれませんが、連絡が来なかった会社は1、2社あります」
私が先方の仕事内容を即答したので、女性は戸惑ったようだ。
「ああ…たしかに胡蝶蘭を売っていますね…」
「その会社、最近も求職を出してませんでした?」
「ああ…ああ、そうです」
女性は絶句してしまった。
「へへ、こっちも必死に求職してるんで」
私はこの会社名を最近も見たから思い出したのではなく、いままで応募した会社名と仕事内容は、すべて記憶している。何しろ私は、応募書類を書きながら、その会社で働くことをイメージしているのだ。そう簡単には忘れないのである(ウソ)。
ところで、私の求職もそろそろ1年になろうとしている。その間、工場の残務整理やプレス撤去の大作業はあったものの、かなり長くなった。係の人も、「あんた1年間何やってたんですか?」と言いたいところであろう。
※
徒歩で自宅へ向かう。外はギンギラギンの暑さだが、ここで歩数を稼がないと、運動する機会がない。
最寄り駅近くの墓地にさしかかろうとした時、10人前後の外国人グループとすれ違った。
ちょっとイヤな予感がしたが、案の定ひとりの女性が、「Sorry」と声を掛けてきた。
チッ、英語か……。こういう時、英語に不案内だと何も分からず、本当に情けない。
彼女は外国のガイドブックを取り出すと、ある1点を指した。「Pagoda」とあり、彼女らはそこに行きたいらしかった。「Pagoda」は、最寄り駅のすぐ近くにあった。
「オー、ステーション」
「No,Pagoda!」
それは分かっている。Pagodaに行きたいんだろう?
しかしこんな店名、私は全然知らない。私は周りに商店の類を探したが、ちょっと遠い。
私は信号を渡り、案内板の地図と照らし合わせた。しかしやっぱり、よく分からない。
そうか、「Pagoda」は英単語だ。この意味を調べればいいのだ。
私はスマホを繰ると、「(仏教の)塔」という和訳とともに、多重塔の写真が出てきた。
これか! そういえば近くに天王寺五重塔がある! しかしこれは昭和32年7月6日朝方、裁縫店に勤務していた中年男性が若い女性と無理心中をし、全焼してしまった。当時は辺りが大騒ぎになり、燃え盛る炎を私の父、叔父が自宅から見たものだ。
私は、自殺する人は勝手にすればいいと思っている。だけど、それによって器物を損壊するのは許せない。ことにこの五重塔は、地元のランドマークだった。もしこの五重塔が健在だったら、我が地元の自慢の文化財、いや東京の名所になっていたのにと、その悔しさを抑えきれない。このバカップルは、文字通り取り返しのつかないことをしたのである。こやつらは永遠に、地獄で苦しめばいいと思う。
私は彼女の元に戻る。残りの数人は、木陰でグッタリしていた。
私は英語で説明したいのだが、まったく単語が出てこない。昭和32年は西暦何年か、ということも出てこない。私は窮地に追い込まれると、頭が真っ白になる。だから将棋の秒読みにも弱いのだ。
私は屋根の形を作り、「アバウト、ファイブ(?)イヤーザゴー、ファイア!!」
と言った。
「Fire!?」
「イエス、ナウナッシング、イッツフラット! ナウ、パーク!」
「Oh…」
「ゴーストレート、ライト!」
「OK,Thank you」
私の言っている意味は伝わったと思うのだが、彼女らは行く気がないようだった。
しかし……彼女の行きたい場所はそれで合っていたのだろうか。私は深夜に風呂に入りながら考える。
外国のガイドブックに、60年以上も前に焼失した多重塔の案内なんか出ているだろうか。
あ! あの先、まさに駅の近くに、天王寺の大仏様がある!
昼の外国人団体が見たかったのは、あれだったのではあるまいか??
私は観光地として意識したことはないのだが、東京の駅から徒歩2分で大仏様を拝める場所は、そんなにない。意外と外国人には受けているのかもしれない。
だけどそれなら、彼女らももう少し興味を示してくれてもよさそうである。やっぱり、五重塔が目的だったのだろうか。
もちろん今となっては、その真意は分からない。
せめて英語が話せていたら……。学校の授業として英語を考えるから拒絶反応を起こすのであって、ほとんどの国の人と会話ができる最強ツールと考えれば、何か別の勉強法がある気もするのだ。が、いまさら遅い。私は歳を取りすぎた。
女性のパソコンには、私の申込履歴が出ているはずだ。画面上に「選考中」とでも出ていたのだろう。
「はい。胡蝶蘭を売ってる会社ですよね。返事があったかどうかは忘れましたが、もう何ヶ月も前だし、不採用と理解しています。ここじゃないかもしれませんが、連絡が来なかった会社は1、2社あります」
私が先方の仕事内容を即答したので、女性は戸惑ったようだ。
「ああ…たしかに胡蝶蘭を売っていますね…」
「その会社、最近も求職を出してませんでした?」
「ああ…ああ、そうです」
女性は絶句してしまった。
「へへ、こっちも必死に求職してるんで」
私はこの会社名を最近も見たから思い出したのではなく、いままで応募した会社名と仕事内容は、すべて記憶している。何しろ私は、応募書類を書きながら、その会社で働くことをイメージしているのだ。そう簡単には忘れないのである(ウソ)。
ところで、私の求職もそろそろ1年になろうとしている。その間、工場の残務整理やプレス撤去の大作業はあったものの、かなり長くなった。係の人も、「あんた1年間何やってたんですか?」と言いたいところであろう。
※
徒歩で自宅へ向かう。外はギンギラギンの暑さだが、ここで歩数を稼がないと、運動する機会がない。
最寄り駅近くの墓地にさしかかろうとした時、10人前後の外国人グループとすれ違った。
ちょっとイヤな予感がしたが、案の定ひとりの女性が、「Sorry」と声を掛けてきた。
チッ、英語か……。こういう時、英語に不案内だと何も分からず、本当に情けない。
彼女は外国のガイドブックを取り出すと、ある1点を指した。「Pagoda」とあり、彼女らはそこに行きたいらしかった。「Pagoda」は、最寄り駅のすぐ近くにあった。
「オー、ステーション」
「No,Pagoda!」
それは分かっている。Pagodaに行きたいんだろう?
しかしこんな店名、私は全然知らない。私は周りに商店の類を探したが、ちょっと遠い。
私は信号を渡り、案内板の地図と照らし合わせた。しかしやっぱり、よく分からない。
そうか、「Pagoda」は英単語だ。この意味を調べればいいのだ。
私はスマホを繰ると、「(仏教の)塔」という和訳とともに、多重塔の写真が出てきた。
これか! そういえば近くに天王寺五重塔がある! しかしこれは昭和32年7月6日朝方、裁縫店に勤務していた中年男性が若い女性と無理心中をし、全焼してしまった。当時は辺りが大騒ぎになり、燃え盛る炎を私の父、叔父が自宅から見たものだ。
私は、自殺する人は勝手にすればいいと思っている。だけど、それによって器物を損壊するのは許せない。ことにこの五重塔は、地元のランドマークだった。もしこの五重塔が健在だったら、我が地元の自慢の文化財、いや東京の名所になっていたのにと、その悔しさを抑えきれない。このバカップルは、文字通り取り返しのつかないことをしたのである。こやつらは永遠に、地獄で苦しめばいいと思う。
私は彼女の元に戻る。残りの数人は、木陰でグッタリしていた。
私は英語で説明したいのだが、まったく単語が出てこない。昭和32年は西暦何年か、ということも出てこない。私は窮地に追い込まれると、頭が真っ白になる。だから将棋の秒読みにも弱いのだ。
私は屋根の形を作り、「アバウト、ファイブ(?)イヤーザゴー、ファイア!!」
と言った。
「Fire!?」
「イエス、ナウナッシング、イッツフラット! ナウ、パーク!」
「Oh…」
「ゴーストレート、ライト!」
「OK,Thank you」
私の言っている意味は伝わったと思うのだが、彼女らは行く気がないようだった。
しかし……彼女の行きたい場所はそれで合っていたのだろうか。私は深夜に風呂に入りながら考える。
外国のガイドブックに、60年以上も前に焼失した多重塔の案内なんか出ているだろうか。
あ! あの先、まさに駅の近くに、天王寺の大仏様がある!
昼の外国人団体が見たかったのは、あれだったのではあるまいか??
私は観光地として意識したことはないのだが、東京の駅から徒歩2分で大仏様を拝める場所は、そんなにない。意外と外国人には受けているのかもしれない。
だけどそれなら、彼女らももう少し興味を示してくれてもよさそうである。やっぱり、五重塔が目的だったのだろうか。
もちろん今となっては、その真意は分からない。
せめて英語が話せていたら……。学校の授業として英語を考えるから拒絶反応を起こすのであって、ほとんどの国の人と会話ができる最強ツールと考えれば、何か別の勉強法がある気もするのだ。が、いまさら遅い。私は歳を取りすぎた。
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