冷たい風のような火

メモ書きですが、それにしても何で公開の場で書くんでしょうね。

南アルプス縦走の旅 その1 まずは三伏峠小屋テント泊

2016-09-17 23:53:36 | 旅行
昨年の夏、北アルプスの黒部方面を3泊4日でテント泊縦走しました。途中で雨と霧にやられたものの、3泊以上を山の中で過ごして黙々と歩き続けるという経験は初めてのもので、それまでの山行とは異なる充実感がありました。自身の体力を計るにも悪くない感じなので、これを機に1年に1回は3泊くらいの縦走をするのを目標にしました。やはり、長めに山に入っていると日帰りや1泊の山旅と比べると気づくことも多いし、ちょっとしたスキルも向上するし、絶景や珍しい高山植物、ライチョウさんなどの動物に出会う機会も多くなりますから。

で、今年のターゲットですが、白馬岳を中心とした後立山連峰、裏銀座の縦走コース、昨年は雨と霧で残念な結果だったものの山容と小屋の方々の気配りに惹かれた黒部五郎岳エリア、立山から薬師岳への縦走など、やはり北アルプスを中心に幾つかのプランを考えていました。が、その中で唯一、そしてかなり有力なプランとして当初から頭にあったのが、南アルプスの塩見岳と北岳をつなぐ縦走。これは、私が山歩きを始めた年に「ワンダーフォーゲル」という雑誌が夏山特集として「歩こう南アルプス」という特集記事を発行しており、その中で出てきたモデルルートです。この記事の写真、正確にはこのルートの写真で雑誌の表紙になっていた、北岳~間ノ岳稜線の格好良さは、自分にとってはアルプスの山歩きを始めてみようと思うきっかけの1つになったものです。今回は、そのルートに加えて塩見岳近辺の烏帽子岳、そして北岳、間ノ岳と一緒に白峰三山として知られる農鳥岳を登り、奈良田温泉に下るルートを取りました。最終日は2時間少しの下山だけですが、それも1日に数えると4泊5日の自分史上最長の縦走となります。山が大きくて縦走が辛いと言われる南アルプス。果たして、40代になってから山歩きを始めて4年目の中年一人旅は無事に成功するのか。

まったくもって、タイミング悪い話ですが、この縦走に出かける直前には急な用事でシンガポールに出張していました。行きも帰りもレッドアイのフライトで水曜夜中に羽田を発って木曜の朝5時前にシンガポール入りし、金曜夜中にシンガポールを発つという強行軍。土曜の朝に帰宅した時には疲れ切っており、土曜日はほどんど寝飛ばしました。そして日曜の夜行バスで縦走に向かいます。翌週は1週間の夏休みをもらっていました。まあ、土曜によく寝たのと日曜の昼間は十分時間があったわけで、体力回復も準備もそれほど問題はなかったですが、サラリーマン生活しながら縦走計画を実行するのは綱渡りです。

まずは塩見岳攻略ということで、鳥倉の登山口を目指します。自家用車のない私はいつもの毎日アルペン号で行きます。これ、北アルプスの便はともかく南アルプスの便はちょっと微妙ですね。大型バスでそれなりにゆったりできるのは諏訪湖サービスエリアまで。そこで小型のマイクロバスに乗り換えて南アを目指します。もともとの大型バスは白馬行き。つまり、鳥倉という比較的マイナーな目的地を選択した人たちは夜行バスで寝るのはとても困難です。特に小型のマイクロバスは足も全然伸ばせないしリクライニングもほぼ利かない。拷問的。取りあえず運んでくれるだけですね。

あと、気付いたのは同乗していた登山者もかなりの縦走を計画しているということ。ご高齢の方のグループが主体なのでテント泊ではないですが、それでも北岳を目指す人が多かったです。7月に北岳を登った時に思いましたが南アの登山者は平均的にレベルが高いと思います。経験も体力も。

ま、前置きが長くなりましたが、夜が明ける少し前の4時半過ぎに鳥倉のゲート前駐車場に到着です。本当の登山口はここから林道を50分程度歩いた先にありますが、バスはここまでしか入りません(路線バスは登山口まで行くのかも)。この駐車場には比較的きれいなトイレもあるので、便利と思います。
周囲を見回すと既に南アらしい山奥の様相。標高は1,630メートル。特に涼しくは感じなかったですが、東京の猛暑とは全く違う空気です。


さて、まずは登山口までの林道歩き。周囲には白や黄色の花が多く咲いており、針葉樹の森が深いです。途中に尾瀬の名物ネジバナらしき花も登場。


少し開けたところからは南アの深い山が見渡せます。


ウメバチソウはいたるところに咲いていました。


徐々に朝日が差し込みます。


そして、いよいよ登山口。何やらお勉強になるボードを読みながらおにぎりなどを食す。


登山口の標高は1,770メートル。2,560メートルの三伏峠まで約800メートルの登りを行きます。まあ、距離的にも斜度もアルプスの登りの中では特にキツイ道ではないと思いますが、15キロ程度のテント泊縦走装備だとそれなりにたいへんです。汗だくにはなりますね。
バイケイソウやセンジュガンピ、ウツボグサやエゾシオガマなどの花の多い道ですが、深い樹林帯であまり明るくはありません。






特徴的なのは、1合目からかなり正確に等距離でx合目の看板が出ていること。私の脚では丁度15分くらいで1合登る感じでした。いいペースメーカーでした。写真は撮らなかったんですけど。後半まで。
同じバスで来た登山者は、1名だけ凄いスピードで私の前を行かれた方を除くと皆さん高齢でゆっくりだったので、実質的に完全ソロで登りました。
時々樹間から景色が見える。


花は特に派手さはないですが、ヤマオダマキも結構数がありました。流石に南アの原生林。


中央アルプス方面かな。


ヤマレコレポートにも多く出てきますが、このような木の階段というかハシゴと言うか、道が多く出てきます。雨でなければ特に滑らないので、見た目ほど危険ではありません。


6合目辺りで水場があります。冷たくて美味。


この水場のあたりで、木の枝を杖代わりに使いながら凄く早いペースで登って行った人がいました。ザックの大きさ的に明らかにテント泊。この後一回も見かけなかったので、荒川岳、赤石岳など南部方面またはバリエーションルートに行かれた可能性が高いです。今回の南ア旅で見かけた人達は本当にレベルの違う人が多いイメージ。Twitterでも南アクラスタは一般登山道は余裕過ぎてバリルート、バリもバリで道迷いしないのが不思議なレベルだし、しかも凄いペースという超人が多い。まあ、八ヶ岳とは違います。

引き続き見た目危険な木のハシゴ。


ヤマハハコは咲き切ったものよりこのくらいのが可愛いと思う。


いっぱいあるこの花は名前が特定できない。エゾシオガマにしては小さいと思う。


南アルプス特有の長い樹林帯。特に盛夏は暑くて風も遮られて苦しいですが、この鳥倉から三伏峠は結構いいと思います。標高差がゲートからでも900メートル程度とあまり大きくないので、疲労度は小さいです。昨年の北アルプス、新穂高から双六小屋の1,500メートル以上の登りはかなり死亡しましたが、この程度なら何とかなりますな。まあ、それでもラヴェルのボレロが頭で鳴るようなワンパターンの繰り返しなんですけど。

大分登ってきて、樹の合間から見える景色もよくなってきました。まあ、お天気に恵まれています。




私はある分野で多少なりとも科学者的なアカデミックバックグラウンドを持っているくせに神の存在を信じていて、長い縦走には5つのお守りを持っていきます。その1つが昨年行った熊野三山の1つ、熊野速玉大社のお守り。お天気を制するものと勝手に信仰していますが、このお守りを持って風雨にさらされたことはありません。

8合目で初めてこの手の標識の写真。丁度2時間くらいで登ってきています。


アザミ。


シラビソと思われる針葉樹の森を行きます。登山道の整備度合いがよくなったので山荘が近いかと。


おー、甲斐駒や仙丈ケ岳もよく見えるのね。ここからだと相当遠いと思うけど。確かに甲斐駒格好いいな。仙丈ケ岳ビックマザーの大きさだ。


ちょっと右の方にずれると明日狙う塩見岳がようやくその姿を少しだけ現しました。


足元にはオトギリソウ。で、このあたりでヘリの爆音がしばらく響く。ヘリが目に入ると、こっちに飛んでくる時には墜落するんじゃないかと心配するくらいでした。遭難者が出たのかと思いましたが、後ほど三伏峠小屋の荷揚げだったことが分かりました。


ヤマレコなどでも有名な、あと200歩の標識。これでテント泊装備のザックを下せる。


ということで、登山口から丁度2時間半で三伏峠小屋です。8時半頃ですよ。まだ。


しかし、スタッフの皆さんは荷揚げで忙しくて誰も対応できない様子。テント場の一部に荷物が着くようで、テント場には入れないとのこと。仕方ないので別館の玄関のあたりにザックをデポして、烏帽子岳に向かうことにしました。時間があるので本当は塩見小屋に行きたいところですが、塩見小屋にはテント場がない上にあいにくの満室。この日は睡眠不足&登山口から稜線近くまで登ってきたので後はゆっくりすることにして、活動としては烏帽子岳に登るだけにします。比較的長い縦走ではこういう余裕を持った時間の使い方が大事ですね。縦走後半の体力温存のためにも。毎日10時間とか歩いていると事故のもとだと思います。

とりあえず山荘から15分弱下ったところにある水場で水を確保してから烏帽子岳に向かいました。途中には鹿除けの柵に囲われたお花畑があります。マツムシソウがこれでもかというくらいに大量に咲いていました。蝶も多くて、特に昔は南アの南の方は本当に楽園だったという話を思い出す。






ハクサンフウロもとても多いです。薄紫の花はやっぱり綺麗ですね。


他にはコゴメグサ。


ミヤマリンドウ。ただしつぼみ。


タイツリオウギかな。


私の影とウメバチソウ。


トリカブト。キタダケトリカブトのような固有種ではなさそう。


花は本当に多かったです。いわゆる固有種とかではないのだけれど、蛇紋岩の至仏山のように厳しい環境下で頑張って咲いているイメージではなく、暖かくて雨も多い南アルプスで楽園を形成しているイメージ。

お花畑を過ぎると開けた場所に出ます。南部の展望が開けます。緑が深くて山深いイメージ。北アルプスの岩稜とは明らかに違う。大らかな感じだけど、山深くて人間が入っていいのかどうか。自然に対する畏怖の念が湧いてくるような。


この写真の左端に見られるように、崩落地が多いのも南アの特徴だと思います。雨のせいというより、今でも毎年数センチ成長を続ける若い山脈だからなんでしょう。


緑が美しい。


これはトモエシオガマかな。


再びタイツリオウギでしょうか。


こんな崖のようなところに花が多く咲いていて、近くに寄って背景の山と一緒に撮影したいんだけど滑りやすくてとても危険です。




そんなところで頑張った写真。まあ、素人感が強く出ている。




ミネウスユキソウもありました。今年は尾瀬でも北岳でもよく会います。


タカネナデシコも。


烏帽子岳の山頂が近づいてきました。いやー、いい天気、


ほとんど他の登山者がいないので、余裕を持ってお花の写真に夢中になりながらも1時間程度で烏帽子岳へ。ここ、かなりお勧めスポットです。展望台として。標識の向こうに見えるのは塩見岳。その奥には間ノ岳。北岳がちょっとだけ見えて、左に甲斐駒。


快晴の南アルプスブルーと呼びたくなるような濃い空の色。そして緑濃い3,000メートル峰達。この時すでに南ア稜線の実力は北アを凌駕するのではないかと思い始める。本格的な縦走は翌日からなんですけど。
まずは振り返って南部方面を烏帽子岳からは前小河内岳、小河内岳につながる稜線、そしてその先には荒川三山のはずですが、行ったことのない山域なので山座同定はちょっと困難。




でも稜線は綺麗で歩いてみたくなります。


小河内岳には避難小屋があります。こうして見ると北アルプスの種池山荘のようにメルヘンな感じだけど、実際にはどうなのかな。




その奥に見えるこれが悪沢岳などの荒川岳なのだろうか。


富士山はちょっと雲隠れ。


西には中央アルプス方面。


北側には塩見岳。右側に見えるのは北俣岳かな。


塩見岳の左側には間ノ岳、甲斐駒ヶ岳、仙丈ケ岳など南ア北部の重量級メジャーが勢ぞろい。手前のハイマツ帯の緑がとても美しくて、空の青さと合わせてかなり楽園感が強いと思います。


やはり甲斐駒と仙丈ケ岳はペアでアップせざるを得ない。2014年の7月に登った時は、仙丈ケ岳は晴れましたが甲斐駒は雨だったので、甲斐駒にはもう一度挑戦したいです。黒戸尾根には興味ないですが。


塩見岳と白峰三山。でかいし男くさい山々だ。バリルートとしては、塩見岳に塩見沢や北俣尾根から登るのはありなのだろうか。写真を見るととても美しいルートのように思われます。


山頂で一人で写真撮ったり蝶を眺めたりして30分くらい遊んでいると、小河内岳方面から高齢の女性が単独で登って来ました。どうやら昔から南ア中心に歩かれている筋金入りの山ガールのようで、毎年この時期には10日以上この山域に入り、山小屋や避難小屋に泊まりながら赤石岳を中心に稜線を歩いて楽しんでいるとのこと。冒頭から何度か触れている南アの超人が出現し始めました。

そうそう、花も写真に撮らないと。ヒメシャジンですかね。いっぱいある。


定番のイワツメクサ。




注意してみると三伏峠小屋も発見できました。結構周囲は崩落していますね。


キアゲハ。仙丈ケ岳でも会いました。南アには多いのかな。


それにしても、ハイマツ帯越しの塩見の絵は美しいと思う。




小河内岳稜線とその奥の荒川三山方面も重厚で格好いい。明日はもっと高い塩見岳から眺められるので、その全景が見られるはず。


大満足で1時間近く遊んでから三伏峠小屋に戻ります。途中でトウヤクリンドウ発見。秋のイメージですが、天気がよいとその白くて可憐な花を開くので、背景が決まると美しい花です。


マツムシソウの群生地帯に入りました。背景に甲斐駒とか見えているし。何気ない道に絶景が。。。




鳥の声もいつも聞こえていますよ。尾瀬にも負けません。


で、三伏峠小屋に戻ってテントを張って、お腹が空いたのでカレーライスを頂きました。肉が多めでリッチなカレーでした。


この後、午後は小屋泊の人やテント場の人と語らって過ごしましたが、冒頭から何度も書いているように超人が多かったです。例えば:
聖岳から仙丈ケ岳まで縦走する人。
妙高の辺りにあるアウトドア専門学校の1年生(18歳)の女子で、黒戸尾根から始まってその後は仙塩尾根をここまで歩いてきて超余裕で来年は30キロ担いでコースタイムの80%で行くと豪語する人。
80歳だけど若いときから南ア登山しまくっているベテランで、今でも20キロの荷物担いで聖まで行くという人。

私、密かに今回の鳥倉登山口から北岳、そして切り返して農鳥岳、奈良田下山というのはレベル高いルートと自負してましたが、初日から圧倒的に敗北しました。使える時間の問題もありますが、皆さんとにかくスケールでかいですね。スケールでかい山域に臨むならこういう山行の方が本質に迫れるのでしょう。

夕飯は茄子と豚肉のピリ辛炒めを作りました。4泊もすると、どうしても軽量化のためにフリーズドライが多くなります。それでも1日目くらいはある程度ちゃんと作って今後のために備えたかったので。


いつの間にかテント場もいっぱいに。さて、明日からはいよいよ大縦走です。