学芸員のちょっと?した日記

美術館学芸員の本当に他愛もない日記・・・だったのですが、今は自分の趣味をなんでも書いています

ジュリアン・オピー

2019-10-02 20:58:44 | その他
柳宗悦は「工藝的絵画」(1941年)のなかで次のような文章を綴っている。

「すべての無駄が省け、なくてはならないものが残る。そこにはいつも不用なものへの省略があり、入用なものへの強調が伴う。これこそ模様の性質ではないか。」

私はイギリスのアーティスト、ジュリアン・オピーの作品を観るとき、いつも、柳のこの文章が脳裏をかすめる。

ジュリアン・オピーの作品を知ったのは、もう10年ほど前になろうか。茨城県の水戸芸術館へ行ったとき、ミュージアムショップで彼の画集と出会い、一目で好きになった。それ以来、本物の作品を見たいと願っていたが、なかなかその機会は訪れず、ようやく今年の夏に東京オペラシティアートギャラリーでお目にかかることができた。

私は彼の作品の全容を知っているわけではないが、それでも人物像を多く手掛けているイメージがある。その特徴は点と線だけで表されるシンプルな画面、といえば簡単だが、そのためには先の柳の言葉の通り「不用なもの」をできるだけ省き、模様のように「入用なものへの強調」がなされる必要がある。その残されるべくして残ったものを観るとき、私はあることを思う。それは、一見複雑なもので世の中は構成されているように見えるが、その本質はごく単純なものではないかということだ。仕事に置き換えても、ひとつの事業に対して色々な問題が生ずることがある。だが、その問題の根本的な部分は実はとても単純なこと、と考えることもできるだろう。

東京オペラシティアートギャラリーでの展覧会では、五感を刺激してくれるインスタレーションが多く展示されていた。やはり作品を実際に見ることのできる経験は大きい。我々の社会とは何なのか。ジュリアン・オピーからのシンプルな問いが発せられているようだった。