学芸員のちょっと?した日記

美術館学芸員の本当に他愛もない日記・・・だったのですが、今は自分の趣味をなんでも書いています

芥川龍之介『黒衣聖母』

2019-10-01 20:44:10 | 読書感想
私は幽霊のようなものを見たことが2度ほどある。そしてなぜか2度とも高校生の時分であった。1つ目は部活動の帰りに同級生3人と体験したもので、あまりの怖さに自転車で15分かかるところを5分で家へ逃げ帰った。もう2つ目は窓越しに幽霊と目が合ったもので、これはじわじわと恐怖が湧いてきて、今思い出してもぞっとする。私はこれを曇りガラスの幽霊事件と呼んでる。

芥川龍之介の『黒衣聖母』も背筋が冷たくなる小説である。「私」は黒檀で出来た黒衣の聖母子像を友人に見せられる。聖母子像の多くは白磁が多いことから、この黒くて不気味な聖母子像に「私」は見入ってしまうのだが、その心情を察した友人から像にまつわる不思議な話を聞かされる。実は、この像に神々が決めた運命(人の命の長短)を動かそうとする願い事を絶対にしてはならないことになっていた…。

短編ながら、なかなか気味の悪い小説である。巻末の解説によると、この小説の下敷きにはプロルペル・メリメの影響があるらしい。なお、蛇足だがメリメの小説ほどは怖くはないとの指摘もされている。それでも私は『黒衣聖母』が怖かったが、今のところチャールズ・ディケンズの『信号手』が最も怖かった。あと、フィクションなのかそうでないのかはわからないが、若き日の佐藤春夫と稲垣足穂が体験した幽霊アパートの話も、読んでいて身体が震えたことを覚えている。

暦の上では夏はとっくに終わり、今日からもう10月であるが、戸外は未だにむしむしと暑い。まだまだ怪談話を楽しめる気候は続きそうだ。