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学芸員のちょっと?した日記

美術館学芸員の本当に他愛もない日記・・・だったのですが、今は自分の趣味をなんでも書いています

論文との付き合い

2025-08-14 21:07:44 | 仕事
 学芸員は、ある事柄を調査したら、その成果を論文におこし、対外的に示すことで、社会、しいては文明の進展に寄与する。よって、常日頃から、自分の感度を高く保ち、美術館に足を運んだり、画集を眺めたり、あるいは社会についての問題意識をもって過ごしていかなければならない。とはいえ、これはなかなか容易なことではない。
 私自身、学芸員となって数年間は普段の仕事をこなすのが精一杯で、論文を書く余裕が全く無かった。だが、あるとき、当時の館長から「論文を書かない学芸員は存在していないのと同じだ」と痛烈な言葉をいただいた。論文を書く書かないは仕事の問題ではない、自分自身の問題なのだと。普段は温和な方だっただけに、その言葉の重みを強く感じて、私は大いに反省した。以来、どんなに忙しいときでも、たとえ5分間しか時間が取れなかったとしても、少しずつ文章を書き進めて、年1回は必ず論文を出すようにしている。論文を書くことは体力も時間も使う。だが、執筆活動は自分の能力を高めることにもつながるし、調査の中で新しいことを誰よりも早く発見する楽しみもある。それに、その結果が対外的な評価を受けることで、独りよがりの考え方にならぬよう、自分への意識付けにもなる。
 過日、このたび自分が執筆した論文の抜刷を、その元館長へ近況報告も兼ねてお送りしたところ、わざわざ葉書で過分なお褒めの言葉をしたためてくださった。ご高齢になられ、公職からは引退されたが、今でも独自に研究を進めておられる。そういう研究者に出会えた縁に心から感謝したい。 
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ある絵師を追って

2025-07-25 19:56:00 | 仕事
 今冬の企画展に向け、1年以上前からある絵師の作品を追っている。その絵師は江戸後期に生まれ、大正の終わりと共に生涯を閉じた。作品を所有するのは、かつての旧家で公的機関には一切ない。そのため、さまざまな情報をたどりながら、20件近いお宅に調査へ伺わせていただいた。1点ずつ作品と向き合い、主題や筆、色使いを間近で確認し、コンディションや来歴などについて聞き取ってゆく。来歴については世代が変わり、不明なことが多くなってきているものの、その家の歩みを聞くことによって、この街の過去が立ち上がる。
 これまでに50点近くの作品を確認することができた。地域の絵師・作家を調査し記録する行為は、その美術館が担うべき重要な役割で、館の存在意義にもつながる。郷里の作家を大切にし、作品を残してゆくこと。それが地域の文化の層を厚くする。さらに、こうした調査の積み重ねがあってこそ、展覧会は開催されるべきものになる。このことは学芸員にとっての基本であるが、とかく忘れられがちで、熱量が少なく観念ばかりが先行する展覧会はあまり褒められたものではない。展覧会は学芸員の熱量によって支えられる。このことは常に意識しておきたい。
 7月も中頃になり、子どもたちも夏休みに入ったせいか、街全体がゆるやかな雰囲気になっている。これはおそらくお盆くらいまで。社会人にとっても怠惰への誘惑が続くが、アウグスティヌスは「労苦によってはじめて身体の栄養を得る」と述べた。展覧会に向けての作品の調査はまだしばらく続く。自分に一定の規律を課して、この夏を乗り切りたい。
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2024/03/08

2024-03-08 20:27:00 | 仕事
 今日は朝から雪。今年は3月になってから雪が多く、そのせいか、花粉症が楽でとても助かります。季節もだいぶ春めいてきて、日は長くなりましたし、タンポポも一輪見かけました。季節は少しずつ進んでいるようです。
 さて、今日の午前中は細々とした仕事を片付け、午後は次回の展覧会で展示する作品の点検をしていました。ガラスケース越しではなく、間近で作品をチェックする。学芸員冥利に尽きる仕事です。改めて作品を近くで眺めると、今まで気が付かなかったことにも目が行く時があり、やはりモノを見ることの大切さを実感します。
 それが終わってからは、依頼されていた原稿の仕上げ。誤字脱字のチェックや写真図版の準備などをしていきました。メドがついて、ほっと一安心。依頼された仕事は絶対に期限内に終わらせること。私が新人の時、館長から教えていただいた言葉です。自分が信用に足る人間かを証明することになると。原稿を書いていると、よく思い出す言葉で、今でも感謝しています。
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2024/03/07

2024-03-07 20:31:00 | 仕事
 今日は定例の美術館内の会議の日。私は会議というのが昔から苦手で、それはダラダラと続いてしまうから。
 以前、私は定期的に周りとコミニュケーションを取るような仕組みをつくり、会議をできるだけ開かない方向に持っていきたいと提案したのですが、多勢に無勢…。そこで終了時間を厳密に決めて、メリハリをはっきりつけては、と提案し、今はそれが採用されています。それでも、早く席に戻って自分の仕事をやりたいなあ、と思うことが多々あり。
 話がそれる、肝心なことが決まらないなどの日本式会議のデメリットは今に始まったことではありませんが、今はチャットやリモートでも会議ができる時代ですし、仕事の合理化が進められるなかで、わざわざスタッフ全員を集めて会議をする必要性があるのかどうか検討しなければならない時代でしょう、と私なぞは思ったりするのです。今日の会議に出て、そんなことが頭をよぎりました。
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2024/03/05

2024-03-05 20:34:00 | 仕事
 昨日の日経新聞の記事に「観光大国ニッポンの綻び」として、京都で暮らす人々が観光で来た訪日外国人の余りの多さで、日常生活に支障をきたし、京都市の人口減少が続いているとの記事がありました。
 観光、という点では、これまで多くの博物館は博物館法に基づく運営がなされていたわけですが、2020年の文化観光推進法によって、博物館は観光としての役割も担うことになりました。人もいない、予算もないで、一体どうやってやっていくのか、なかなか頭の痛いところです。
 私の勤める美術館では、インバウンドの集客の前に、まずは地域に住む外国籍の方々が利用しやすいよう、国際交流協会などと連携して、「やさしい日本語」を使ったチラシを導入を始めました。それで実際に来館された外国籍のお客様に色々と意見をいただきながら、やがてはインバウンドに向けての準備を進めていく取り組みです。まだ始まったばかりですが、観光の視点から、少しずつ一歩を踏み出しました。恐る恐るですが…。
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2024/03/03

2024-03-03 21:22:00 | 仕事
 今日は次回展覧会の作品解説を書く仕事をしていました。その作品が、過去の日本美術のどんな作例を参考にしながら制作されたのかを調べながら、作家のオリジナリティはどこにあるのかを書いていきます。文章を書く、というのは、なかなかエネルギーを使うもの。頭を使いすぎて、11時にはお腹が空く始末です。でも、こういう集中して原稿を書く時間は、私にとって楽しいことです。ありがたし。
 さて、私はネガティブなことがあるといつまでも引きずるほうで、それがストレスを増幅させてしまいます。これは心身ともに良くないことと思い、自己分析したところ、ご飯を食べている時、散歩をしている時、車の運転をしている時、食器を洗っている時など、あまり意識をしなくてもできるようなことをしている最中にネガティブなことを考えてしまいやすいことに気づきました。そこで、散歩からジョギングに変えたり、行儀が悪いのですが、食べながら雑誌を見たり、ラジオや音楽を聴きながら運転するようにしたところ、だいぶ気持ちの切り替えができるようになりました。自分のことを考えるのは何より大切なことかもしれませんね。
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2024/02/29

2024-02-29 20:18:00 | 仕事
 今日は査読の原稿を渡す日。そこそこ赤字を入れた原稿を担当に渡し、赤字を入れた理由を説明して、提出は無事に終わりました。
 別件で担当と話をしたときに、県内の美術館の学芸員を集めて、研究部会をつくれないかとの話がでました。私は研究部会までは考えていませんでしたが、例えばLINEでグループをつくり、この作家の情報を知っている人はいないかとか、この資料を持っている美術館はないか、など、情報共有をする仕組みをつくりたいとは思っていました。昨今のデジタルツールを使わない手はありません。まずは少しずつ前進、研究部会は段階的に、ということになりました。
 博物館や美術館は各館との連携が弱い、とある研修の場で指摘された方がいらっしゃいました。確かにこれからは単館として活動するのではなく、市町村を超えて、美術館同士が互いに協力することで何か大きなうねりを起こせるのではないかと思います。これから、私も色々なことにチャレンジしてみたいです。

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2024/02/28

2024-02-28 21:41:00 | 仕事
 このあいだ、日経平均株価が1989年以来、35年振りに最高値をつけたとの報道がありました。しかし、多くの人は生活が豊かになったという実感がないそう。
 1989年当時、私は世の中も大して知らない子どもでしたが、のんびり余裕がある社会で、周りの大人たちはみんな明るく、特に若い人たちはキラキラ輝いていて、私も早く大人になりたいと思っていました。それが35年後の今、日経平均株価は同じ数字なのに世の中はどうも暗い。たぶん、あのときは未来に希望があって、それが今はなくなってしまった。多くの人が幸せや豊かを感じられない最も大きな理由はそこにあるのではないかと思います。
 こうした社会のなかで、私たちはどうやって過ごすべきなのか。残念ながら、私も考えてはみるのですが、どうもわかりません。ただ、明るい社会をつくるには一人ひとりの気持ちの持ち方を変えていく必要があるのでしょう。心を豊かにする。自分の仕事が、アートが、少しでも多くの人に明るい希望を持ち得るような作用になることを信じて、仕事に取り組んでいます。
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2024/02/25

2024-02-25 17:53:00 | 仕事
 今日は昨日できなかった分の仕事をサクサクとこなしていきました。デスクワークの合間に、動く作業も取り入れて、なるべく煮詰まらないように意識しながら。今は新しい企画展の準備をしながら、来年度の企画展全般の概要などをチェックしている段階です。こうした作業をしていると、1年過ぎるのが本当に早く感じます。
 先日、たまたまある博物館に行ったとき、展示の解説員から、私を学芸員と知ったうえで、近世文書の読み方について教えて欲しいと頼まれました。そもそも私は近世が専門ではないし、まして古文書はほとんど読めないのですが、渡された写真版が割と読みやすい文字だったので、あくまで参考までに、とわかる部分の概要をまとめて話をしました。
 私の友人に近世を研究している学芸員がいて、彼が文書を読み、その文書が照らす社会的な背景までを語り出す姿を見ると、専門家の知見に唸らされます。専門は別でも、仲間の学芸員に刺激を受けることは多々あり、とてもありがたい存在で、私も負けずに勉強せねば、と思う毎日です。
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2024/02/24

2024-02-24 19:42:00 | 仕事
 今日は午後から打ち合わせの予定があり、それが気に掛かってか、午前中はなかなか仕事が捗らず。私の場合、何かひとつ、懸念事項が頭の中にあると、驚くほど効率が悪くなり、もう、これは性格だと思って割り切っています。午後、打ち合わせも終わり、ほっとした頃にはすでに夕方。1日が終わるのは早いものですね。
 効率が悪いながらも、依頼されていた査読と文章執筆は無事に終わりました。執筆の方は、自分の中で長年研究していたことのひとつの区切りだと思っています。これから新しい研究テーマを探すため、今まで以上にアンテナを高く張って、いろいろなことを勉強していく予定です。どんなことに出会えるのか、今からとても楽しみです。

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