学芸員のちょっと?した日記

美術館学芸員の本当に他愛もない日記・・・だったのですが、今は自分の趣味をなんでも書いています

『「豊臣政権の貴公子」宇喜多秀家』を読む

2019-10-24 20:41:37 | 読書感想
ロールプレイングゲームには「経験値」という概念がある。これは敵を倒すほど値が加算され、それによってキャラクターの能力が上がるという育成システムだ。だが、ゲームの話にとどまらず、私たちが生きるうえでも色々な経験は必要である。なぜなら、経験は私たちがモノを判断する基準のひとつとなるからだ。例えば、以前こういう失敗をしたから今度は同じ間違いはしないようにする、という発想は経験に基づいた判断である。それは簡単な一例だが、こうした経験を積む場が少なくて滅んでしまった戦国武将がいた。宇喜多秀家である。

先日『「豊臣政権の貴公子」宇喜多秀家』(大西泰正著、角川新書)を読んだ。秀家は、豊臣五大老のひとりとして備前・美作国(現在の岡山県付近)を任せられていた。弱冠20代にして五大老となったのにはわけがある。彼の卓越した能力を評価されて、というよりも、権力者との婚姻関係が絡んでいた。そのため周辺のサポートが厚く、戦国武将として時代を生き抜く経験を積む機会があまりなかったという。彼の後ろ盾だった義父豊臣秀吉や前田利家を失うと、次第に宇喜多家は崩壊を始める。秀家は宇喜多騒動をまとめることができず、有力な家臣たちを失い、あてにならない一門衆と経験不足の家臣のなかで慢性的な人材不足に悩まされる。こうして宇喜多家にとって最悪な状況で関ヶ原の戦いに突入。秀家は敗軍の将となり、八丈島へ流され、そこで生涯を終えた。

彼の生涯から学べることがいくつかある。ひとつは経験の重要性である。世の中に無駄なことなどない。周囲に寄りかかることなく、色々なことに挑戦し、自分を構築していくことが人生の荒波を乗り切るうえで大切になるだろう。ふたつめは腹心の存在である。気心が知れ、優秀な腹心がいることの心強さはビジネスの世界でも大きな役割を果たす。秀家は宇喜多騒動をまとめられなかったが、優秀な腹心がいればこれを最小限のダメージで回避できたかもしれない。八丈島で最期を迎えた秀家の心情は如何ばかりであったろうか。その心情を示す資料はあまり無いようだが、屈辱的な気持ちは当然あったろうし、あるいは政から離れられることを安堵する気持ちもあっただろう。豊富な資料で秀家の実像に迫った本書は、とても読みがいがあり面白いのでお勧めである。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする