今年の8月15日をもって、太平洋戦争が終わってから80年目となる。
私の祖父は召集されて中国大陸へ出征した。そこでは前線へ物資を輸送する任務についていたらしい。幸いにも命を失うことなく帰国した。祖父は今から15年ほど前に亡くなったが、ついぞ孫の私にはそのことを語らず、葬儀の時に見つかったという、無造作に積んであった古い写真を見ていたときに、叔父と叔母が祖父の過去を教えてくれた。
吉田裕氏の『日本軍兵士-アジア・太平洋戦争の現実』(中公文庫、2017年)を読んだ。祖父のように、民間人で召集された人たちが戦地でどのような経験をしたのかを記した好著である。戦場での栄養失調、極度の緊張による精神病(自殺も)、蚊が媒介するマラリア、内部でのいじめ、そして戦病死と餓死。そこには祖父が経験した確かな「現実」があって、そこに悲惨さのあまりに本を閉じたくなる私の「現実」が重なる。祖父が中国大陸で何を経験したのかはわからないが、もう思い出したくもなかったのだろう。孫に語りたくても語れなかったのが正直なところだったのではないか。本書を読んでからそう考えている。
まだ涼しさのある早朝、ある家の前を通りかかったら、親子とおぼしき2人が互いに冗談を言い合いながら、庭の手入れをしているのを見かけて微笑ましかった。そばの川に目を移すと、何人もの釣り人が川魚を狙って静かに糸を垂らしている。柵ごしに彼らの姿をにこやかに眺め、見守る初老の男性たちの集まり。近くの藪から鶯の威勢の良い鳴き声がする。これが戦後80年目の夏である。
私の祖父は召集されて中国大陸へ出征した。そこでは前線へ物資を輸送する任務についていたらしい。幸いにも命を失うことなく帰国した。祖父は今から15年ほど前に亡くなったが、ついぞ孫の私にはそのことを語らず、葬儀の時に見つかったという、無造作に積んであった古い写真を見ていたときに、叔父と叔母が祖父の過去を教えてくれた。
吉田裕氏の『日本軍兵士-アジア・太平洋戦争の現実』(中公文庫、2017年)を読んだ。祖父のように、民間人で召集された人たちが戦地でどのような経験をしたのかを記した好著である。戦場での栄養失調、極度の緊張による精神病(自殺も)、蚊が媒介するマラリア、内部でのいじめ、そして戦病死と餓死。そこには祖父が経験した確かな「現実」があって、そこに悲惨さのあまりに本を閉じたくなる私の「現実」が重なる。祖父が中国大陸で何を経験したのかはわからないが、もう思い出したくもなかったのだろう。孫に語りたくても語れなかったのが正直なところだったのではないか。本書を読んでからそう考えている。
まだ涼しさのある早朝、ある家の前を通りかかったら、親子とおぼしき2人が互いに冗談を言い合いながら、庭の手入れをしているのを見かけて微笑ましかった。そばの川に目を移すと、何人もの釣り人が川魚を狙って静かに糸を垂らしている。柵ごしに彼らの姿をにこやかに眺め、見守る初老の男性たちの集まり。近くの藪から鶯の威勢の良い鳴き声がする。これが戦後80年目の夏である。