学芸員のちょっと?した日記

美術館学芸員の本当に他愛もない日記・・・だったのですが、今は自分の趣味をなんでも書いています

世の中は美しいものであふれている

2019-10-09 21:56:50 | 読書感想
5、6年前、出張先で電車待ちをしているときにそれは突然やってきた。心臓が急にバクバクしだし、立っていられないほどのめまいがして、自分は死んでしまうのではないかという不安が一気に押し寄せてきたのである。そのときは幸いなことにホームで5分程度じっとしていたら、症状はすぐに収まった。私は季節が夏だったことから、始めは熱中症にかかったのだと思った。だが、その後もその症状はときどき起こり、しだいに熱中症でないことに気づき始めた。どうも私は仕事のストレスから神経が参ってしまったらしい。

マット・ヘイグというイギリスの作家が『#生きていく理由』(那波かおり訳、早川書房)を書いている。彼もまた何の予兆もなく、うつ、自律神経失調症、パニック障害になった。彼は当初死んでしまいたいと思っていたが、周りの人たちの支えがあって、さらにそれらの症状を和らげるためのいくつかの方法(ヨガや瞑想など)を継続することで症状と向き合うことができるようになった。私はときおり症状が出るくらいで薬も飲まずに日常生活を過ごすことができているから、彼ほど悩み苦しんだわけではない。だが、症状といい、症状を誘発するものといい、気分転換の方法といい、彼と私はよく似ていて、どうも他人事とは思えない。彼が私のために書いてくれたのではないかと錯覚するほど、この本に共感するところが多いのである。

現代社会はストレス社会だとよく言われる。心を不安にさせる情報は至るところに溢れているし、仕事ではスピードを求められ、こなしてもこなしても次々とやってきてきりがない。これでは体が壊れるのは無理もないだろう。私は美術館に勤めていることを何よりも幸せだと思っている。神経が参ってしまった時期はあったものの、やはりこの仕事は好きだし、つらいことがあったときには絵を見ていると心が落ち着く。アートセラピー、という言葉があるが、私も絵に随分に癒され、また、助けられている。

最後にマット・ヘイグが生き方について述べたアドバイスのなかから、私が気に入った文言をひとつ紹介しよう。


「どこにいても、どんなときも、美しいものを探そう。誰かの顔、詩の一節、窓から見える雲、小さな落書き、風力発電の風車。美しいものは心を浄化する。」


久しく忘れていたが、確かに世の中は美しいものであふれているのだった。

コメント
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