学芸員のちょっと?した日記

美術館学芸員の本当に他愛もない日記・・・だったのですが、今は自分の趣味をなんでも書いています

美術作品のデジタル化

2016-01-18 23:13:40 | その他
私は美術館の学芸員として、これまで何人かの館長にご指導いただきましたが、共通しておっしゃることがありました。それは、学芸員たるものは現物を扱うのだから、作品を間近で見ている人にしか書けない文章(論文)を書くように、との言葉です。私は仕事で文章を書くときに、常にその言葉を意識していたつもりでした。ただ、どうしても現物が見られない場合は、写真図版で確認をするという方法で対応せざる得ませんでした。

ここ数年は急速にデジタル技術が向上したこともあり、美術館によっては高画質の作品写真をウェブ上で公開しているところがあります。私が特に利用するのは「e国宝」のウェブサイト。これは日本の国立博物館が所蔵する国宝及び重要文化財を高画質で見ることができるというすぐれもの。国宝や重要文化財は四六時中展示されているわけではありませんし、展示されても厚いガラス越しに見ることになります。さらに観覧者も多いと、ゆっくり眺めるということが難しい。でも、ウェブ上なら時間を気にせずにいつでも見ることができます。特に優れているのは、画面の拡大ができるということ。これで微妙な筆づかいがわかります。例えば、雪舟が筆の流れを意識して、かすれ、濃淡などの墨の特質を十分に活かしていることがわかるし、長谷川等伯の《松林図》は松のイメージを描いていることがわかるし、久隅守景の《納涼図》なら横たわる男性の透けた着物の描き方がわかる。これは拡大した写真図版でもない限り、なかなか気づきにくい点でした。デジタル処理をするためには多額の予算が必要になるでしょうし、時間もかかる作業になるのでしょうが、作品の細部を見たい人にとっては重宝するサービスです。欠点としては、やはり現物を目にした時のような作品のインパクトが伝わりにくい点でしょうか。

このようなデジタル化が普及してくれば、あくまで現物を見ることをベースにしながら、ウェブ上での細部調査という方法を取ることができる日が来るかもしれません。時代の進歩には驚かされるばかりです!
コメント
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