放菴日記抄(ブログ)

これまでの放菴特集・日記抄から「日記」を独立。
流動的な日常のあれこれを書き綴ります。

閖上へ・・・(The Life Eater)

2011年10月12日 12時21分47秒 | Weblog
 10月8日
 やっと閖上へ来ることができた。

 いままで来たくても来れなかった。
 用? 用なんて別にない。
 ただ、来たかった。来れなかったけれど・・・。

 空は抜けるように青く、このまま天上へとつながっているんだろうなぁ、という気候。
 道はただ広く、みわたすかぎり平らで、平らだった。
 ときどき大きな瓦礫の山がある。
 日和山よりも高い瓦礫。

 なぁんにもない。
 ホントになんにも・・・。

 貞山掘にかかる橋をこえて、すうっと車を走らせたらいきなり港に直面した。
 この先にはもう何もない。
 あれ、こんなに近かったっけ?

 お寿司やさんも、天ぷらラーメンのお店も、釣具やさんも、みんなみんな消えていた。

 喪失感で身体が軋む。

 かつては毎日納品に訪れていた港町。
 工場のオジさんに小突かれそうになったり、オバちゃんに冷やかされたり。
 車をムシして車道をあるく人たち。
 すげぇ、と理由もなくビビった。
 「にーちゃん!しっかりしろよ。」
 工場のオジさんのダミ声を思い出す。

 毎日来ていると、通りに面した路地はだいたいおぼえた。
 
 花火の夜にはみんな縁側から空を仰ぐ。
 どこの家でも魚の焼くニオイがしていたっけ。
 いいなぁ。ゼータクだねぇ。

 ささかまぼこのタネを分けてもらったこともある。
 みんなで焼いて食べた。あのささかまは美味しかった。

 いまはだれもいない。
 あたりには、土台だけの住居あとが広がっている。
 道が、陥没している。水の残っているところがいっぱいある。

 岸壁には、海のほうをじっと目詰めて立っている人たちがいた。
 よそから来たのか、それともここのひとなのか。
 
 びゅうと吹く風があざ笑う
 ― 何見たかったんだか知らないが、みんな終わっちまったよ -
 閖上は時が止まっていた。
 みんなみんな茶色くなって止まっていた。

  
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