放菴日記抄(ブログ)

これまでの放菴特集・日記抄から「日記」を独立。
流動的な日常のあれこれを書き綴ります。

最高位の鎮魂者

2012年09月10日 12時24分41秒 | Weblog
 天皇陛下ご夫妻は「最高位の鎮魂者」であると思う。

 ヒロシマ、ナガサキ、オキナワ、神戸、新潟、それから3.11の被災地など、悲しい記憶が刻まれた地へ赴かれ、祈ってくれる。
 「天皇制」への賛否は国内外ともにいろいろあるだろうが、今の有りようはまさに「鎮魂者」である。誰にもマネのできない「鎮魂者」。
 首相が祈ったって、アイドルが泣いたって、それほどまでに人々の心を鎮め和らげるということができるだろうか。

 皮肉を言えば、政治家や自治体の一部の役職の態度にくらべ、おだやかで丁寧で、国民に寄り添う姿勢が圧倒的な好感を呼んでいるということだけであり、特に今の日本の状況を変えられる力があるわけではない。それでも、どんなエライ人の話よりも心のヒビに沁みこんでくる。この力はいったい何なのだろう。

 お隣の大韓民国では天皇に謝罪を要求する動きがある。
 従軍慰安婦問題、その他日本軍が大陸に渡り荒らしまわった事実について、認め、謝罪しろというのだ。それを日本政府ではなく、国民の象徴である天皇が自らの言葉で謝罪するように求めている。
 
 とんでもない、と思うむきもあるのだが、冷静に考えると、一考の価値はあるのかもしれない。

 太平洋戦争当時、日本は昭和天皇の命で大陸に渡り、昭和天皇の命で戦火を広げ、昭和天皇の命で民の財産や身体、命までも侵した。だから敗戦直後には、アジアでは日本の謝罪と天皇の断罪を求める声が少なくなかった。
 日本がこれまでアジアの謝罪要求に対して態度を明確にしてこなかったのはなぜか。
 一口に言ってしまえば、おびえていたのだろう。
 日本は敗戦し、街は荒廃しており、他国に謝罪すれば、賠償としてこの国の一切合財はすべて持ち出されてしまうのではないか、という恐怖があったのだろう。食料も財産も文化も、そして王族である天皇の身柄でさえ、差し出さなければならなくなったかもしれない。
 日本が隣国の自権をさんざん踏みにじっておきながら、一方で自国の自権を護りつつ、潔く詫びるというのは、並大抵の難しさではない。時代的にも、周囲が日本の自権を容認してくれるほど国際法が機能してもいなかったのだから。
 
 さて、現在はどうだろう?

 国際法は完全とは言い難いが、機能している。たとえ制裁中であっても、自国の最低限の権利は主張してよい時代となった。
 日本は積極的に過去の歴史を清算する方法を模索したほうがよいのではないか。
 では、だれが隣国との関係改善の大使たる人と言えるのか。

 コロコロ代わる無責任は政権では、残念ながらだれも耳を貸さないだろう。
 事務的な手続きは進められても、全権を代表する人は、残念ながらいつ消えるか判らない首相(候補を含む)ではない。
 そこまで考えると、やっぱりあのご夫妻のことが頭に浮かんでくる。日本人の自分でさえ、やっぱりそうかな、と思ってしまう。
 ご夫妻がご高齢であり、当時の日本を昭和天皇とともに見ていたということもその理由になる。鎮魂者のお言葉であれば、大陸で死んでいった人たちも、恨みを鎮めてくれるのではないか・・・。

 では、誰に向かってお話をすればよいのだろう?

 これが難しい。

 隣国の政権に対してなのか、当時の悲惨な体験をした人に対してなのか、それとも反日教育を受けてきた現代の若者に対してなのか。

 僕は、実際に日本軍の横暴にあって財産、身体、生命を侵された人に対してお話ができたらいいな、と思う。
 いわゆる「当事者同士で」という話しだ。

 僕は戦後に生まれた。だから当事者ではない。ぼくらは所詮、整理のつかなかった案件を、どんどん歪曲させながら語り継いでいるだけの存在なのだ。
 暴走もするし、政局的に利用もされる。
 または目をふさがれ耳をふさがれ、加害者意識から遠いところに置いてかれる。そこは国際的な認識から隔絶された、発展性の無い世界なのだ。だから日本と中国、韓国、北朝鮮などは、年代を重ねれば重ねるほどに戦時中のことについて話が合わなくなってくるだろう。

 もしかしたら、今が過去を清算する最後の機会なのかもしれない。平成天皇がご存命のうちに、当時の被害者が一人でもご存命のうちに・・。


 なにをどうすればよいのかわからないが、相手が不愉快だからといってそっぽを向いていても火種は消えない。その火種は、当初のことを知らない人々にどんどん受け継がれて、謂れのわからない暗黒の火種になってゆく。東アジアがパレスチナのようになってしまうのではないかと危惧している。
 
 
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