放菴日記抄(ブログ)

これまでの放菴特集・日記抄から「日記」を独立。
流動的な日常のあれこれを書き綴ります。

時計台と運河紀行10

2023年01月29日 00時52分52秒 | あんなこと、こんなこと、やっちゃいました
 舟を下りて(いや桟橋へ揚がって)石段を登る。
 考えてみれば運河もかつての規模ではないし、タグボートに乗っていた時間もそれほど長くない。
 けれど夕暮れ時から完全日没へと移りゆくひとときは、特別な時間だったと思う。
 で、ここからは小樽ビールで頭がいっぱい。
 さあ行こう!「小樽ビール醸造所 小樽倉庫№1」。
 
 そこは、いわゆる「バル(酒場)」。
 ぶっといエゾマツの柱がぶっ違いに交差して高い天井を支えている。結構広い。
 ヴァイキングかウィルヘルム騎士の酒場、はたまたシュタインベルグの山賊砦か。手回しオルガンのようなフォルクローレが流れ、白いエプロン姿のウェイターがジョッキを両手に掲げ歩き回っている。
 ホールの真ん中には巨大なコアタンクが据えられている。中身は言わずもがな、小樽ビール。当然現役のビールタンクということになる。
 コレを見上げながらビール飲むのか・・・。もうビールのこと以外は何も考えるなってことだよね。
 
 案内された席は窓のそば。換気のため少し窓があいている。運河からの夜風がきもちいい。
 マツ材(オーク材?)と思われる大きなテーブルに3人でちょんと座り、あれこれ迷いながら食事とビールを注文。ザワークラウトとソーセージの盛り合わせは欠かせない。
 そうそう、椅子の背もたれの曲線が優雅!

 ビールきた。そうそう。こういう背の高いジョッキ。カッコいい! ほしいなぁ。でもデカくてウチに置けないー。
 これでビール飲むと味がちがうんだけどなぁ。
 
 んがーっおいしい!

 この頃、ヴァイス(ヴァイスピア)を飲む機会が多い。どちらかというとピルスナーに飲み親しんだ自分としては、ヴァイスはやや酸っぱいように感じる。
 でも美味しい。よくわからないが、小麦を飲んでいるという感じはある。それに、同じヴァイスでもメーカーによって味の違いがあるように感じる。それもまた楽しみ。
 よくヴァイスはフルーティと表現されることがある。これはよくわからない。すくなくともヴァイスの酸味とフルーティという表現は結びつかない。酸味は酸味である。それで充分美味しさの説明になると思うけど・・・。つまり製法も何もわからず飲んでいるということ。まあそのうち詳しくなるのかもしれないが、今はただ、背の高いジョッキで冷たいビールを美味しいうちにゴクゴクっと飲みたいだけ。そうそう、ビールは早く飲まないと美味しくなくなるってのはわかる。特にクラフトビールってのは泡アワの注ぎたてが一番。ビールってのは空気に触れると美味しくなくなってゆくという話はよく聞くけれど、某ドライビールなど、アワがあってもなくても味が変わらない銘柄もあって、ピンと来ていなかった。でもクラフトビールには注ぎたての香ばしさあって、これを賞味しないと飲んだ意味がないと思う。おそらく凝りまくった背の高いジョッキも、注ぎたての香ばしさを散らさないための合理的なデザインであろう。それ以前にカットデザインされた冷たいグラスにみかん色の液体がアワたてて注がれてゆくのを見るだけで気分がアガるけど。

 んんーっおいしいいい!

 どうしてこんなおいしいものが仙台で飲めないんだろう?
 オクトーバーフェスとかに来てくれないかな! 田沢湖ビールは来てくれたけど。

 都合ビール2杯半(BELAちゃんの分が回ってきた)飲んでお腹パンパンになった。
 いやー飲んだなぁ。

 バルを出て運河沿いを少し歩いた。
 夜風がきもちいい。でもちょっと小寒い。もう少し時間があればもっともっと回りたいところ、食べたいモノがあった。
 けれど明日は仙台に帰らなければならない。
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時計台と運河紀行9

2023年01月15日 02時11分55秒 | あんなこと、こんなこと、やっちゃいました
 小樽ガラスの呪縛(いやミッション)から開放された。
 予定外に遊ぶ時間ができた。そこで急展開だけど、いきなりロープウェイに乗って小樽天狗山へ行った。
 しばらくお山を散策。小樽港を見渡せるパノラマを楽しみ、ジップライン(ロープに滑車をつけてぶら下がり、空中散歩する)を体験。そして山を下って小樽運河に戻ってきた。
 時刻は午後5時ちょっと過ぎ。
 小樽運河ではタグボートによる水上クルーズが楽しめる。それほど広いエリアではないが、夕暮れ時を狙ってクルーズすると茜色に染まる小樽港を堪能できる。もちろん予約制。
 気温はおそらく23℃くらい。夕暮れとともに海風が冷たくなるだろうと予想して上着を着る。簡単な救命具を渡された。腰にくくりつけるだけの救命具。これだけ?ライフジャケットとか着ないの?
 説明では腰にくくりつけたのは確かに浮き具だそうで、正しく使えば安全は確保できるという。でもコレお尻だけ浮いて頭沈むんじゃ・・・。
 午後6時。タグボート出発。船頭さんは女性。構造は確かにタグボートだけど、船上は金色の金具で装飾されていてまるで欧州のゴンドラのようにキレイ。まずは橋の下を2つくぐる。運河なんだから橋の下、つまり橋のウラを覗くわけだが驚くなかれ。そこは海鳥のねぐらである。よく目を凝らすと鳩のような鳥たちが暗闇に肩を潜めてかたまっている。あたりは充分暗いので船頭さんに教えてもらわなければ全く気付かなかった。あっちも鳥目だから動けない。毎日タグボートがここを通過するんだから海鳥も落ち着かないだろうと思うが、それでもここから居なくならないでいるのは住環境として安全なのだろう。
 タグボートはそのまま水門へ向かう。ひときわモーター音が高くなる。
 ちょうど西の空の夕焼けが少しずつ暗闇へとうつろう時刻で、金色、茜色、藍色、かすかな空色、そして包み込むように濃い紺色が周囲から寄せてくる。
 光と闇の入れ替わりというのは、こんなにもドラマチックだったのだ。
 地球を多層的に包む大気が光を複雑に反射させることで生まれる魔法の瞬間。ただし天候や季節、そしてこの瞬間をのんびり見れる心持ちであるかが条件にはなるだろうけど・・・。
 磯の香りが少し強くなった。ボートは港から出て外洋を横切る。水面をすべるスピードと頬をかすめる海風が気持ちいい。

 海上から見える小樽の街にはすっかり灯がともり、港も運河も不夜城の賑わいを纏う。その運河へと吸い込まれるようにボートは戻ってゆく。
 小樽運河は陸を掘削してできたのではなく、海岸を埋め立てて造成されている。だから海岸線そのまんまの曲線をなぞる形をしている。運河は後に一部拡幅され、ニシン漁や物資運搬の比較的大きな船で賑わった。しかし小樽港の埠頭建設によりさらに大型船が接岸できるようになると、運河はその役割を終えた。やがてヘドロで悪臭漂う水場となり、埋め立ててしまおうという計画が持ち上がった。しかし埋め立て計画を一大転換して運河を歴史遺産として残そうという住民運動が盛り上がり、観光資源として活用することになった。その結果は推して知るとおり。日本で唯一無二の観光スポットの誕生である。住民の英断と言ってよいだろう。
 岸壁は盛土とはいえ堅牢な花崗岩の石組みが並び、その上にはこれまた歴史的建造物である大正時代以降の石組み倉庫が並ぶ。なかには「澁澤倉庫」と書かれているものもあり、かの渋沢栄一が関わった取引も盛んであったことが知れる。

 あたりはすっかり日が暮れて、ガス燈の光が墨汁のような水面にゆらぐ。タグボートは舳先に小さな波を立てながら水面を左右に切り裂いてゆく。岸壁の上にひしめく石組みの倉庫。夜空はすっかり冷え込んだ。もうジャケットなしでは舟に乗っていられない。北の夏は、斯くも儚い。
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