放菴日記抄(ブログ)

これまでの放菴特集・日記抄から「日記」を独立。
流動的な日常のあれこれを書き綴ります。

寒空の救出

2011年12月25日 01時49分38秒 | Weblog
 天皇誕生日の金曜日。

 クリスマス寒波が襲来していた。
 日差しはあるものの、風は身を切るように冷たい。気温も一向に上がらないような一日だった。

 その電話は、僕とBELAちゃんが車で買出しにいっているときに入ってきた。

 「あのぉ、僕だけど。」
 「うん? Mクン(我が家の次男坊)どーしたの?」
 電話で応対するBELAちゃん、だんだん声のトーンに驚きや呆れた感じがでてきて、最後にため息ついて「わかった、そのまま待ってて」と言った。
 僕はハンドルを握っている最中だったので、電話には加わることができず、ひたすらBELAちゃんの報告を待つだけだった。

 「Mクンねぇ、公園でブランコにはさまっちゃったんだって。」
 「・・・? はぁ?」
 「ジャンパーのすそがブランコにはさまってって動けないんだって。」
 「はぁ・・・。」
 さきほどのBELAちゃんの呆れたトーンの意味がやっと判った。
 「・・・この寒空じゃあなぁ。急いで向かいますか。」ハンドルを切って交差点に向かった。


 公園に到着したのはそれから10分以上経った頃。

 なるほど、公園のブランコにたった一人、小さな男の子がいた。
 冬枯れの芝生。だれもいない公園。その真ん中にぽつんと一人。ブランコにまたがって背中を丸めている。

 こういう情景を見ると、やっぱり人様の親たるもの、自然と駆け足になってしまう。
 「Mクン! 待たせてゴメンね。寒かった?」
 「うん・・・」
 そりゃ寒かったろう。一緒に遊んでいたお友達も先に帰ってしまって、たった一人で冷たい風にさらされていたのだ。

 Mクンのジャンパーはブランコの鎖の輪っかにがっちり噛んでいた。
 「いま外してやるからな。」
 ところがこれがハンパじゃなく奥まで噛んでいてびくともしない。
 ジャンパーには鎖のサビがこびりつきあちこち茶色くなっている。
 「切っちゃおうか」
 「ええー!」
 切っちゃったら、この寒空に着るものがなくなっちゃう。Mクンは自転車で来ているから、どうしても帰りは防寒対策の整った条件にしなくちゃいけない。
 「だって、こままじゃあどんどん身体が冷えていくよ!」
 そりゃ大変だ。
 ぐいぐい裾をひっぱる。角度を変えて引っ張ってみる。BELAちゃんはMクンを背中から抱きしめて、僕は地面にヒザをついていろいろ試している。遠くから見たら、何をしているように見えるのだろう?

 努力の甲斐も空しく変化はなかった。ジャンパーは鎖にがっちり噛んだまま。

 「やっぱり切ろう。」
 BELAちゃんは近くのママ友に電話。しかし留守電・・・。
 「私、交番に行って万能はさみでも借りてくる。」
 BELAちゃんは駆け出した。
 わぁ・・・、やっぱり切るのスか?
 それよりMクン、そろそろ限界だよなぁ。

 「Mクン、ジャンパー脱ごう。そんでもって車まで走ろう。車の中なら日光であったかいから、ここよりいいよ。」
 この寒い中でジャンパーを脱がすのはかわいそうだけど、このままにしておくのは、もっとかわいそうなこと。僕は思い切ってジャンパーを脱がせた。そしてMクンを横抱きにして車へ走った。
 「急いで中入って! あ、ブランケット二つあるでしょ? 肩と膝にかけるの!
 そうそう。暖かいでしょ。うん、じっとしててね。ドア閉めるぞ。」

 僕は車のドアを閉めると、またブランコに戻った。
 不思議と生身の人間がぶら下がっているジャンパーだと引っ張る力にも遠慮があったかもしれない。その証拠に、人間が着ていない状態のジャンパーだと引っ張る力にも割り増しパワーが掛かり、裾は鎖からブチっとぬけた。

 ふう

 ジャンパーの裾はすっかり茶色く汚れ、生地は変によれていて元に戻らない。でも無いよりはましなのだ。

 僕はジャンパーをぶら下げて車に向かった。
 そのとき、通りの向こうからパトカーが滑り込んできた。
 
 あれ、あれ。おまわりさん3人も乗っているよ。
 パトカーに向かってジャンパーを差し出す。パトカーからBELAちゃんも出てきた。

 「ええー取れたのー!!」
 「うん、なんとか。」

 おまわりさんは笑ってパトカーは走り去った。
 すっかりお騒がせをしてしまった呈だ。
 あとで訊いたら、BELAちゃんが交番で「なんか刃物かしてください!」と言ったので心配になって三人も乗って来たのではないかという。

 挨拶にいかなきゃね・・・。
 さっきスーパーで買ったばかりのみかんをより分けて、お詫びのつもりで6個ばかり交番へ届けた。
 BELAちゃんはMクンの自転車を押して帰ってくれて、Mクンは車で放菴へ帰った。

 いやぁ、とんだ救出劇だったね。

 放菴のカウンターにホットミルクが湯気をだしながら並んだ。
 
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1 コメント

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Unknown (BELA)
2011-12-28 13:13:26
イヤ~。
おまわりさんって大変だな。
あんなこと、日常茶飯事だろうね。
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