薄氷(うすらい)
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薄氷の解けて緋鯉の輪も広し
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薄氷を踏んでははしゃぐ
いたずら盛りの顔が
大きな顔と小さな顔が
見る見るうちに
昂揚してゆく
小さなきみは
大人になったら
タップダンスの貴公子に
陽が次第に高くなる
春はすぐそこ
小鳥も賑やかに歌う
・・・
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一歩一歩春に近づいている証
次第に春めいて
吹く風もやわらかくなり
もう氷も張ることがないだろうと
思っているころ また寒さがぶり返し
水溜りや池
田んぼの隅っこなどに
薄い氷が張ることがあります
ちょっと触ると
パリパリ割れてしまいそうな薄さで
池などの岸辺近くでは
萌え始めた草の緑が
氷の中に透けて見えたりします
薄氷の草を離るる汀(みぎわ)かな 高浜虚子
やがて日が高くなると
あっけなく解けてしまうのも
はかなくて「薄氷」は
春がすぐそこまで来ていることを
予感させる言葉です
(道行めぐ著「美しい日本語帳」より)