あおしろみどりくろ

楽園ニュージーランドで見た空の青、雪の白、森の緑、闇の黒の話である。

フォークス日記 11

2011-07-14 | 
トンネルトラックの感動の余韻に浸ったまま町へ戻る。
町はボクの想いなぞ知らんというぐらいに、普通のたたずまいだった。
車に戻り帰り支度をする。
時計の針は4時を回っている。
NZの夏の日は長く、太陽に付き合って遊んでいるとついつい遅くなってしまう。危険だ。
明日はルートバーンの1日ハイキングが入っている。いつまでも遊んでもいられない。
ここから5時間のドライブが待っている。まあ暗くなるころには着くだろう。
タイとマー君に短い別れを告げる。
男の別れはさっぱりしたものだ。
たとえ遠くに住んでいようと、お互いにやるべきことを分かっていれば多くの言葉は必要ない。
体は離れていても、僕らは心の奥深くで繋がっている。

フランツジョセフから峠を越えてフォックスの町まで30分ほど。
ここで念のため給油をしておこう。
この先数百キロ、ワナカまでは町らしい町はない。
給油を済ませ車へ戻ろうとしたら美女に声をかけられた。
仕事を終えたキミがガソリンスタンドへ来ていたのだ。
「やあやあ、キミ。やっぱり会えたね」
「こんにちは。ちょうどひっぢさんの事を考えていたんですよ」
「俺もね、もう一回お礼を言いたいなと思っていたんだよ。やっぱり会うべく人には会えるようになっているんだな」
「今日は今まで遊んでいたんですか?」
「ああ、朝オカリトに行って、昼からはトンネルトラック。いやあ良かったよ。またこの国にやっつけられちゃったね」
「それはよかったですね。今からクィーンズタウンですか、気をつけてドライブしてくださいね」
「うん。今回はいろいろありがとう。またどこかで会おう。それまで、アディオス」
最近はこういう出会いにも驚かなくなった。お互いに良い状態でいるとこういう出会いは頻繁に起こる。シンクロニシティーというやつだ。
出会いに驚かないが嬉しいものである。
人との繋がりは大切なものだし、自分も相手も良い状態でいる証でもある。
素直に喜ぶべきことだ。

車を南に走らせる。
クィーンズタウンまで5時間ほどかかるが、僕はこのドライブは嫌いではない。
車の交通量は少なく、変化に富んだ道は飽きることがない。
同じ距離を走るにしてもずーっと牧場の中だったりすると単調で飽きる。
この道は海岸線あり、原生林あり、峠あり、氷河あり、氷河の侵食でできた湖あり、盛りだくさんだ。
フォックスからハーストまではポトカーフの原生林の中を走る。
ある場所では樹齢数百年の大木が道路ギリギリまで立っている。
路肩の反射板も木に直接つけられている。
ここを走るときはいつも窓を全開。森の空気を感じながら走るのは気持ち良い。
ハーストから川沿いに内陸に入っていく。
リムの木は徐々に数を減らし、見慣れたブナの森へ変わっていく。
この変化もボクは好きだ。
車を走らせながら、道端に立つリムたちに向かってつぶやく。
「リムたちよ、今回も又やっつけられちゃいました。ありがとな。又来るからね」
今回の旅日記のしめくくりはこんな感じかな、などと思いながら車を快調に飛ばす。
だがそこは西海岸。
簡単には旅を終わらせてくれない。



ハーストからしばらく走ると、峠に差し掛かる所で車が道の真ん中で止まっていた。
国道は100km制限、日本でいえば高速道路だ。
その国道で車が道の真ん中に止まるということは、何かがある。
車を止めて降りてみると、雨の影響で土砂崩れがあったようだ。
木が何本も倒れ、道路をふさいでいた。
これが原因か。
僕の前には車が2台。ということは崩れてまだそんなに時間も経っていない。そこにいる人はみんな途方にくれている。
ニュージーランドで最もへんぴな場所だ。携帯電話はもちろん使えない。
助けを呼ぶにしても一番近い民家はハースト、そこまで30分ぐらいかかる。反対側も同じで一番近い民家まで30分以上かかる。
そこに行けば斧かチェーンソーはあるだろうが、助けが来るまで最低1時間はかかるだろう。
なんとかならんものか、ボクは倒木をまじまじと眺めた。
アスファルトで舗装してあるところは木の幹が太く折れそうもないが、舗装をはずれた所は枝も細く人間の力でも折れそうだ。
倒木のところは水が流れているのでサンダルに履き替え、枝を掻き分け反対側まで抜けてみた。
倒木が邪魔している場所は10mぐらいか。その間の枝を取り払えば車1台分ぐらいのスペースはできる。
やってみるか。
ボクは枝をボキボキと折り始めた。
周りの人が遠巻きにボクの作業を眺めている。
それもよかろう。最初から他人に期待をしていない。自分一人でもできると思いこれを始めたのだ。
時計を見ながら作業をする。5分、10分。始めは自信もなくダメで元々などと思っていたのだが、時間が経ち道が切り開かれていくに連れ、できるという強い自信に変わっていった。
自信ができると迷いは消える。作業のペースも上がる。
そこに道ができて自分が通れるビジョンがはっきりと見えた。
「私も手伝いましょうか?」
若い男の人が声をかけてきた。
「おお、ありがとう。頼むよ」
こうなると不思議なもので、次から次へと作業に加わる人が増える。
ポケットナイフについてる小さなのこぎりで枝を切る人もでてきた。
見も知らぬ人が集まり、一つの目標に向かい各自ができることをする。
愚痴を言う人は一人もいない。ネガティブな想いを持つ人は、この輪がまぶしすぎて近寄れない。
時にはジョークと笑いが飛び交い、和やかな雰囲気で作業は進む。
誰かに強制されるのではなく、全て自発的な行動だ。やっていて気持ちが良い。
40分ほどで車1台分のスペースができた。
ボクはみんなに言った。
「さあ、もういいだろう。みんなよくやってくれた。ありがとう。ここを通るときは気をつけて通ってくれ」
車に戻り、エンジンをかける。
ボクが最初に通る権利がある。
みんなが見守る中、地面を荒らさないよう、そろそろと通る。
これなら乗用車ならば問題はなかろう。大きな車は通れないが、それは仕方ない。道具もないし全ての人を助けることはできない。
倒木を抜けて、反対側の人にも声をかける。
「手伝ってくれてありがとう。みんな気をつけてな。良い旅を。」



かなりの時間、道がふさがっていたのでボクの前には車はいない。
誰もいない道を快調に飛ばす。
途中で4駆のトラックとすれ違った。
工事車両らしいし、彼らが何かの道具を持っているだろう。
とんだ旅の終わり方だが、これも経験。経験は財産である。この財産は目に見えないが自分を豊かにする。
又一つ、西海岸の思い出が増えた。
次にこの場所を通る時に、今日のことを思い出すだろう。
こうしてボクの西海岸への想いは膨らんでいく。
今年の夏休みが終わった。





コメント (2)
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