あおしろみどりくろ

楽園ニュージーランドで見た空の青、雪の白、森の緑、闇の黒の話である。

食文化論

2011-10-07 | 
ルートバーンの1日ハイキングの帰りなど、お客さんにこういう質問をよくされる。
「ガイドさん、クィーンズタウンで安くて美味しいお店を教えてください。」
「安くて美味しいお店?そんなのクィーンズタウンにはありません。ボクが教えて欲しいぐらいですよ。安くて不味いお店はあります。高くて美味しいお店もあります。高くて不味いお店もあります。だけど安くて美味しいお店はないんですねえ、これが。残念ながら。」
「じゃあ、お勧めのニュージーランド料理のお店などありますか?」
「ニュージーランド料理ときましたか。ではニュージーランド料理について一緒に考えてみましょう」
かくして、ガイドトークの食文化論が始まる。
アメリカ料理、カナダ料理、オーストラリア料理、ニュージーランド料理、イギリス料理、どれもあまり聞かない。イギリス料理などは不味くて有名だ。
これらは英語を話す白人、アングロサクソンの文化圏である。
アングロサクソン民族の特徴としては徹底した合理主義だ。
そしてまた民族的にみて味覚音痴でもある。
基本的に食べ物とは栄養を補給するためであり、味にうるさくない。合理的だ。
同じ白人でもラテン系の国ではフランス料理、イタリア料理、スペイン料理などと独自の食文化が発達した。
だがアングロサクソン系の国では食文化と呼ばれる物は発達しなかったのだ。
僻地への探検が秀でたというのも関係があるかもしれない。

イギリス系の男の特長として、出された物を不味そうにボソボソ食う、というものがある。
美味い物を作れば、ウマイウマイとガツガツ食うのだが、不味くても黙って食う。
「こんな味噌汁飲めるか!」とちゃぶ台をひっくり返すようなことはしない。
海原雄山のように、ちゃんとできるまで作り直させるようなこともしない。
奥さんが作ったスパゲティを食べて「やっぱりスパゲティはアルデンテでなけりゃダメだ」などとは口が裂けても言わない。
そんなことをしようものなら奥さんに「じゃあ、あなたが作りなさいよ」と言われてしまう。
それだけはヤツらにとってどんなことがあっても避けなければならない。
自分が作るぐらいだったら奥さんが作った不味い料理を黙って食べた方がましだ。
さらに出された料理の味もみないで塩コショウをバラバラと振ってしまう。
作る方としてはすごく楽だ。
ちょっと薄めに味付けをしておけば、勝手に塩コショウを振り、黙って食べてくれる。
和食の板前が真剣勝負、素材の味を最高に引き出すためにギリギリの塩加減で料理を作るのとは対極の位置にある。
そして彼らは食に対して保守的でもある。
進んで新しい物を取り入れようとしない。
時に度が過ぎ、他の民族が食っている物を批判することもある。大きなお世話だ。
保守的なので毎日同じようなものでも文句を言わずに食う。
作る方も楽でよろしい。合理的だ。
合理的だが、これでは食文化は発達しない。

白人の名誉にかけて言うが、全ての人がこうというわけではない。
個人のレベルで言えば腕のいいシェフはいるし、きっちりと味の分かる人はいる。
新しい味を作ろうとする人もいる。
友達のシェフはボクが漬け込んだイクラを味見して、自分だったらこれはこうやって使うというようなことを言っていた。
レストランで、うなるぐらい美味い物を食べたこともある。
ジェイミー・オリバーのように食を通して社会に働きかける人もいる。
逆に日本人でも食に無関心な人もいる。
だがそれはあくまで個人レベルの話で、民族的にみればやっぱり味音痴の人達だ。
その証拠にここでどういう和食の店が流行るのか見れば分かる。
最近は日本食がブームになっているが、韓国人経営や中国人経営の日本食の店もある。
そういうところはちゃんとダシをとらないで、どぎつく甘辛く味付けをしてしまう。
繊細な味がわからない人には、そういうどぎつい味がうける。
うけるからと言って日本人がやっている日本食レストランでも、べたべたに味付けをして素材の味を台無しにしてしまう所もある。
それを食べた人は日本食とはこういうものだと思い、繊細な日本食文化が崩れていく。嘆かわしいことだ。
人間の味覚というのは子供の時に何を食べたのかで決まると言う。
子供だからと手を抜かず、きっちりした物を食べさせるのが親の役目だ。
最近はアングロサクソンに限らず、中国人だろうが日本人だろうが味覚が失われつつある。
化学調味料に慣れきってしまうと、本物を食べた時に物足りなく感じてしまうのだ。
その結果べたべたした味の物へと進んでいく。

ある時女房がこう言った。
「前にイギリス人の男の人に、日本人は集まるとすぐに食べ物の話になる、と言われたわ」
確かにその通りである。
日本人が集まると、どこの店が美味いとか、どの食材がいいとか、日本のあの味が懐かしいとか、とかく食べ物の話には事欠かない。
ボクがガイドトークをしていても一番盛り上がるのは食べ物の話だ。
それぐらい食というものは日本人にとって大切なものなのだ。
だから食の文化が発達した。
食べ物に関心の薄いイギリス男からすれば、そんなことにエネルギーを費やすのは馬鹿馬鹿しいことで合理的ではないのだろう。
バケツを逆さから見れば、底が無くフタが開かない入れ物だ。

食文化が発達するのに好奇心はなくてはならないものだ。
これをこうしたらどういう味になるのだろう、と思わなければ何も生まれない。
例をあげてみるとイチゴ大福なんてものはどうだ。
大福とイチゴという食感も甘さの種類も全く違うようなものを一つのお菓子として作り上げてしまう。
好奇心あればこそ、食に対する関心あればこそのものだ。
さらに保守的でないということは、他の民族の文化への関心や興味もある。
そして自分流にアレンジして独自のものも作ってしまう。カレーはインドが起源だが今や立派な日本食である。
ボクはインド人が作ったインドカレーも好きだし日本のカレーも好きだ。
日本でアレンジされてそのまま定着した食べ物はいくらでもある。
カツ丼、カツカレー、アンパン、カレーパン、餃子、ラーメン、タラコスパゲッティなどなど。
世界中で日本ほど食のバラエティに富んだ国はないと思う。
そして見知らぬ土地へ行けば、そこの名物料理を食べたいと思うのも食に関心があるからこそだ。
名物に旨い物なし、という皮肉な言葉があるが、これは商業ベースに乗ったものは名物でも不味くなるという意味合いを含んでいる。
その土地で出来たものでそこに住む人が知恵と技法をこらして作ったものはやはり旨い。
日本という国は南北に長く地形に富んでいる。
九州と北海道では採れる物も違えば味付けだって違う。
新潟ではコンビニで売っている地元のおばちゃんが作ったおむすびが感動的に美味かったし、広島のあのお好み焼きも美味かった。実際に食べたことはないが京都では伝統を重んじた食もある。
島ではそこで取れた魚と島の焼酎が絶妙だったし、山へ行けば山菜やきのこが絶品だ。
地酒なんてものもある。
そういった地域性による違いが大切なのだ。
文化というものは狭い地域から生まれる。グローバルと名を打った均一化では文化は廃れる。
伝統もあり、他所の文化を取り入れる柔軟性もあり、新しい味を作り出す創造性もある。
日本人ってやっぱりすごいな。
そしてニュージーランドへ来れば、そこの土地の旨い物を食べたいという好奇心。
そういったこと全てを含めて日本の食文化なのだ。

ボクはお客さんに言う。
「そういったわけでニュージーランド料理とはこれ、というようなものはないんですよ。」
「そう、残念ね」
「でも美味しいものはありますよ。この国は野菜でもお肉でも素材の味が美味しいんです。だから腕のいいシェフのお店に行けば、何を食べても美味しいです。逆に下手なシェフのお店に行くと素材の味台無し、何食べても美味しくない、ということです。」
そしてクィーンズタウンでも自分が時々行くお店を紹介する。
ボクは自分が美味いと思った店、プライベートでも行く店しか人に勧めない。
物でもそうだ。自分が美味いと思った物だけを人に勧める。
最近は友達ゴーティーが作った味噌をクライストチャーチで売っていて味噌屋の手先のようなことをしているが、もし不味かったらいくら友達が作るものでも人には紹介しないだろう。いや逆だ。ボクの友達は不味い物を作らない。
ブログで何回も書いているが、この味噌は旨いぞ。
ボクがこれを人に勧める理由はいくつかあるが、まず美味いこと。これは食べれば分かる話だ。
そしてその地で取れた物を使っていること。
中国で取れた大豆を日本へ運んで製品にしてニュージーランドへ持ってくる。もしくはカナダで作ったオーガニックの味噌をニュージーランドへ持ってくる。
どちらにしてもエネルギーの無駄遣いだ。地産地消のモットーに反する。
この味噌はネルソンでとれた大豆とブレナムで取れた塩で作っている。それをクライストチャーチとかクィーンズタウンで消費する。移動エネルギーは少ない。無駄を省くということは気持ちが良い。
そして生産者が昔ながらの伝統的なやり方で味噌をつくっていること。
ゴーティーいわく、大量生産の味噌を寝かせる期間は2週間ぐらいだそうな。それに対してゴーティー味噌は6ヶ月寝かせる。
じっくり時間をかけて寝かせる間に、生きている麹菌が味噌を熟成させる。さらに時間をおくほどに旨みは増す。発酵のために味噌は冷蔵庫でなく常温で保存する。
日本の祖先たちが試行錯誤しながら作り上げてきた食文化をニュージーランドで取れる物で再現する。
そこにある物で最高の物を出す、というのは茶のこころだ。
日本の文化は奥が深い、そして全てが繋がる。
たかが味噌、されど味噌である。
崩壊しかかっている日本の食文化を守る大事な仕事をゴーティーはしている。
こういう人をみると無条件で応援したくなってしまう。全力で応援する。我武者羅に応援する。押忍。
天と地の理にかなったシステムというのは全てがうまく回るようにできている。
エネルギーの無駄がなく、健全な食材で、日本の文化を守りながら、健康にもよく、そして旨い、みんなハッピー。言うことなしだ。
これがなければ、これはできない、というのは何か違う。
たとえ日本にいなくても、ここにあるもので日本の文化は感じることができる。
それは心の奥にある光を見つめることによって成り立つのだ。
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7 コメント

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えぇ~ (かな)
2011-10-07 11:07:24
アオテアで働いていた時、
クイーンズタウンで一番美味しい所を教えてくださいと
それなりにお金を持っているお客様に訊かれたことがあってね

だから、正直に答えたの。

値段の張る美味しいレストランには、行ったことありませんが、
ファーグバーガーなら、自分、胸張ってお勧めできますと(笑)。

バーガーとしては、高いかもしれないけれど
あれは、わたしにとって、この町で安くて美味しいものの一つなんだ^^。
返信する
過去形 ()
2011-10-10 03:18:54
かなちゃん

ファーグバーガーは美味しかった。
特にあの狭い路地でやっていた時は、僕もよく行った。
だがそれはすでに過去の話。
店の場所も移り、経営も代わり、パンの仕入先の状況なども変わった。もちろん味も落ちた。
今のファーグバーガーは不味いわけではないが、行列をしてまで買う味ではないと思う。
過去の遺産の名物としてはアロータウンベイカリーのパイもそうだね。
返信する
Unknown (kk)
2011-10-11 05:56:16
ブログをずっと読ませていただいていて、いつかこのお味噌が食べてみたい!
と思っていたら、
出会う事ができました。ありがとうございました。

ダシ入り味噌をあたり前に使っていた私でしたが、味噌って味噌自体にこんなにうまみがあるんですね。びっくりしました。

作っている人の気持ちも味の中にギュッとはいっているんでしょうね。

みそと野菜スティック、食べ過ぎてしまいましたよ笑

これからもブログたのしみにしています。
返信する
うんうん・・・ (Naoko)
2011-10-11 07:40:37
聖さんこんにちは!
記事を読んで、ああ~って頷いていました。

食べ物に対して保守的っていうところで、特に同意!!

いつも食べなれたもの以外は挑戦しない人が私のまわりにも多くて、たまには韓国料理でも行こうよ~と誘っても、「いや、韓国料理は食べたことないから、カフェがいいかな(マフィンとかあるから)」とか言われたり…

逆に子どもの頃から各国の料理も積極的に食べていた家庭育ちの人は、とりあえず新しい食べ物を試してみたがってたり…

返信する
Unknown ()
2011-10-12 18:47:02
kkさん

こうなればいいなと思ったことは実現する。
人間は思った事を現実化する力を持っているのです。
あとはタイミング。その時が来れば自然とそうなる。
人との出会い、物との出会い、全てタイミングです。

味噌は美味かったでしょう。
これが本物の味です。
作った人の気持ちももちろん詰まっていますよ。
ゴーティーもこれを読んで喜んでいるはずです。
幸せのバイブレーションはみんなでどんどん大きくしていくもの。
それに関わった人が全てハッピー。これはシステムが健全な証拠。
まだまだこれからも回っていきますよ。
ちなみに今、味噌ドレッシングも開発中だそうです。
乞うご期待。

ブログも読んでいただきありがとうございます。
不定期発信ですがこれからもよろしく。
返信する
Unknown ()
2011-10-12 19:13:53
Naokoさん

頷いていただきましたか。ありがとう。
民族の持つ特性と、その個人が育った環境による性質は違うものなんですよね。
几帳面なブラジル人とか、時間にルーズな日本人とか、グルメなイギリス人、女に興味の無いイタリア男(ゲイではなくて)、大ざっぱなドイツ人、陰気なオージー、勤勉なパシフィックアイランダーなどなど。

まあ、みんな違うから良しというところでしょうか。
人との違いを認めることは自分を認めること。
自分も認め、相手も認めれば、ほら、みんなハッピーでしょ?
返信する
フランスひいき (恭子)
2019-10-17 16:01:45
私はフランスひいき&フランス文化が好きです。緊張感のある男女関係って素敵だと思います。言ったもの勝ちですよ。高校生の時から白人=FRANCEって思っていました。
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