おはようヘミングウェイ

インターネット時代の暗夜行路。一灯の前に道はない。足音の後に道ができる。

線状降水帯の下で  開門蟄居録 弐

2020-07-13 | Weblog

7月に入って雨雲が列をなして九州地方を襲っている。「50年に1度の大雨」という空恐ろしさを強調した雨雲が、北部や中部、南部とそれぞれの地域を西から東に抜けるようにして横断し本州へ流れていく。抜け去ってくれればいいのだが、次から次へと後続が押し寄せ、通り過ぎていく。途切れることなく大雨の時間に覆われる。忍び難きを忍び、耐え難きを耐え抜いた地面や河川は限界を超えて、雨水は地表を冠水で満たし、川を氾濫させて家々の床下、床上、一階天井に泥水を押し寄せ、山崩れを引き起こして土石流で家屋を押し流して家人ごと埋め尽くす。熊本をはじめ、九州の各地域の被害が連日のように報道され、現在も続いている。

雨雲が特定地域で次々と湧き起こり長時間にわたって豪雨が続く線状降水帯を経験した。日数にして2日間と半日。わが古民家は標高1000mに満たない山岳の麓付近に位置する。海に向かってなだらかに傾斜していく山腹の一角にある。海抜にして30mほどだろうか。海までは直線距離で少なくとも1Kmぐらいか。いわば高台の住まいとなり、周辺にある田んぼなどの水路は下流にある海に向かって急傾斜で流れ落ちる地形となっている。これまでの大雨や豪雨で危険を感じたことはないが、今回の線状降水帯による連続的な豪雨で不気味さを体感することになった。こんなに降って大丈夫なのか?

滝のように天空から地上に真っすぐに降るだけではない。風は逆巻き、雷は雄たけびを上げっぱなし。庭の地面や樹木、草花なども雨水を吸って、吸って、吸いまくるのだが追いつかない。地表に水が溢れ、水たまりは水位を上げ、庭に生息するカエルまでがコンクリート製のテラスに避難してくる始末。カエルなのに水たまりではしゃいでもいいのにとガラス窓越しに思ったりしたが、それどころじゃないというのがカエルの心境か。あまりにも尋常じゃない状況に生き物としての危機感を覚えたのかもしれない。まさに死んでまんがな。

窓辺で新聞を読んでも、読書をしても、パソコンでネットサーフィンをしても、窓の外の雨模様が気になって落ち着かない。スマホの天気予報で今後の雨模様をたびたび眺めるが、雨100%の表示が夕方になっても夜に入っても、翌朝になっても続いている。2階の部屋の窓から遠方を眺めても豪雨で煙ってホワイトアウトの状態。落ち着かないなら、胆を据えて落ち着くようにするしかない。酒だ。豪雨に赤ワインは軟弱すぎる。こんな最悪の天気の日に出番でもないし、上品過ぎて暴れ雨に対抗できない。ここは日本の酒、清酒でいこう。本当は薩摩の芋焼酎あたりで対抗したいところだが、あいにく在庫なしだ。冷蔵庫で冷やしていた越乃寒梅を取り出す。キャップの封を切る。お猪口なんて気分じゃないな。湯呑みだ。

越乃寒梅 普通酒 白ラベル 720ml。裏面に貼ってあるラベルを読んでいく。爽やかで、力強く後口に跳ねるような抜群のキレをお楽しみ頂ける「普通酒」。これだ、これだ。爽やかで、抜群のキレ。豪雨を気分的に打ち負かすには絶好の酒だ。窓の外の土砂降りの雨を眺めながら、「越乃でかんば~い」としゃれのめして杯を空ける。寒梅、乾杯、寒梅、乾杯で杯が進む。ラベルには注意書きもある。「お酒はおいしく適量を」。そうだよ、その通りだよ。適量を呑んでるよ。くだなんて巻いてないよ。豪雨? 呑み干してやるよ! 地表には雨水が溢れているというのに、わが身にはどんどん越乃寒梅が吸い込まれていく。呑み心地がいい酒だなと感心する。

豪雨の合間を縫って防災無線が地域に散らばる避難所の案内をしている。スマホには自治体からの緊急情報のメッセージが人を驚かすような警戒音を突如鳴らして何度も表示される。日が暮れて豪雨の最中に避難するのかえって危険。まずは住まいで待機してやり過ごすしかない。第一飲酒運転になっちゃうよ。深夜になっても豪雨は降り続いていたみたいだが、寝床に入ると越乃寒梅効果で熟睡、水害への不安感や恐怖感も夢の底にどっぷりと吸い込まれたみたいだ。

翌朝、目が覚めたとき、雨は小康状態となっていた。遅い朝食を取っていると、首都圏に住む知人から電話があった。九州各地の水害がメディアで大々的に報じられていたことを受けての安否確認を兼ねた電話だった。開口一番のセリフがこれ。「お~い、流されていなかったかあ?」。酔い覚め爽やかな頭で応答した。「大丈夫だ。酒に溺れてたぐらいだ」

 

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