おはようヘミングウェイ

インターネット時代の暗夜行路。一灯の前に道はない。足音の後に道ができる。

Caramels, bonbons et chocolats

2018-10-21 | Weblog

おきまりの日常の暮らしの中からちょっと脇道にそれて非日常の森に通じる小道を歩くことは、心地よい。それは新たな刺激をもたらし、いつもと違う感覚を覚えるから。日本語漬けの毎日から、異なった言葉の世界、つまり外国語に触れるだけでも非日常の小道に入ることが出来る。英語は学ぶべき必須言語として教育、広告、放送、出版という日常の世界にすっかり入り込んでいる。よって除外する。わたしにとっての小道は美しい音楽の調べのように感じるフランス語。吉永小百合にフランス語を教えたという大学教授から習ったというのが、フランス語を第2外国語に選んだわたしの唯一の自慢でもある。とは言うものの、わたしのフランス語力は、コマンタレヴ、ケスクセ、セレレガンス・ドロム・モデレ-ヌ程度の代物で、旧知のフランス人女性からなんでもっとフランス語を勉強しなかったのか、と日本語で甘く叱責されるほどである。

教授の授業での脱線話を今も想いだす。

僕がこうして教壇の机に座っているだろ。目の前の最前列の机に小百合ちゃんが座っているんだよ。他の学生たちは2列目以降に彼女を取り巻くように着席してるんだな。若くて麗しい小百合ちゃんがフランス語を聴きもらすまいとして僕を懸命に見つめるんだよ。授業が終わるとね、他の学生たちが話しかける間もなく、映画会社の人なのか知らないが、お付きの人が教室の外に待ち構えていて、さっさと連れだしていくんだよ。授業が始まる前も同じでね。小百合ちゃんは直前にお付きの人とやって来て最前列の席に座り、そこに僕が教室に入って来るということさ。

吉永小百合とフランス語。ボンジュール、サユリ! どんな感じでフランス語をしゃべるのかしらん。

よし、フランス語で日常を離れて頭の体操、脳みその血流をよくしようじゃないか。今さら生真面目にフランス語の教本なんか読む気もしないし、教科書然とした学習法は卒業だ。シャンソンを愉しみながらフランス語の粋を味わう。教材は甘い囁き(原題はParoles 、 paroles)。ダリダとアラン・ドロンが歌っている。なぜ、この歌を選んだかというと、男と女のやり取り、掛けあいが含み笑いしたくなるように面白いんだ。美男のドロンが美貌のダリダに言い寄り、口説く内容。上あご、下あごの歯があちこちで浮くような言葉―インプラントをしていれば、くるくるとネジが逆回転するようにしてせり上がってくる―をドロンが最初から最後まで掛けまくる。歌うというより合いの手だ。ただし思いは通じない。これに対してダリダは歌いながら、ドロンのすべての言葉をいなし、かわし、はたき落とす一方で、皮肉、拒否、往復びんたの直言を打ち返し、ドロンの面目をまる潰しにする。

女たらしの言葉を連発して焦り気味で攻め込むドロン。ダリダはちっとも慌てることなく、男なんてこんなものという余裕さえ感じさせる堂に入った態度であしらいつつ、つれない言葉でもっていたぶりまくる。下心を埋め込んだ甘ったるい囁きをしまくるドロンが自業自得の結末となる歌なのだ。女の扱いに対して自信満々で自惚れた男が、甘言という神通力を無くし、慌てふためき、焦って顔をこわばらせ、醜態をさらすのを見るのは、男性の立場からしても、なぜか清々しい気分だ。断然、ダリダを支持したくなる。ダリダよ、女たらしを言葉でもって、もっと、もっと張り倒して!

フランス語の学習というよりは、女性への口のきき方、上手な男あしらいの教本にしていいような歌でもあるし、恋愛の失敗、不成立とはこういうことなのかと訳知り顔になることもできる。

Paroles et paroles et paroles

言葉 言葉 言葉

Écoute-moi

聞いてくれ!

Paroles et paroles et paroles

言葉 言葉 言葉

Je t'en prie

お願いだ!

Paroles et paroles et paroles

言葉 言葉 言葉

Je te jure

誓うよ!

Paroles et paroles et paroles et paroles

言葉 言葉 言葉 言葉

Paroles et encore des paroles que tu sèmes au vent

風の中にまき散らされた言葉と言葉

 

ドロンの甘い言葉にダリダは駄目だしをする。 

 Encore des mots toujours des mots les mêmes mots

またなの? いつもそうね お決まりの口説き文句 

Des mots magiques des mots tactiques qui sonnent faux

手品みたいにお上手だけど嘘くさいわ

 

歌を聴きながら、わたしはダリダと同じ心境になって心中で呟く。

ドロンくん、もういいかげん口説くのをやめんか! 黙りなさい!

ダリダのパローレ、パローレもいい感じなのだが、お気に入りというか、いいなあというフレイズはここだ。

Caramels, bonbons et chocolats

キャラメルか砂糖菓子かチョコレートみたいな言葉だわ

キャラメ~ルという声、言わんとする意図、例え、それに個人的にどれも大好きだから、もう最高の表現だね。

 

 



 

 

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