韓国、不動産“大混乱” 新築物件値崩れ…朴政権「市場活性化策」が裏目
2016.03.01
長期の経済停滞が続く韓国で、不動産市場が大混乱している。
景気刺激策として朴槿恵(パク・クネ)政権が融資緩和に踏み切ったところ、国民の借金が増大、慌てて引き締めに乗り出すことになった。
ところが、この融資緩和策を受けて着工されたマンションがこれから続々と完成する。
市場に新築分譲物件があふれることから値崩れが起き、不動産企業の顧客の奪い合いも始まっているという。
現地事情に詳しいノンフィクションライター、高月靖氏がリポートする。
韓国の大手不動産専門調査会社によると、韓国で3月に分譲されるマンションは約4万戸。
約2万6000戸だった前年同月に比べて54・5%増、調査が始まった2000年以来最大の数字だ。
一見すると好況のようだが、住宅の取引は大幅に縮小している。
今年1月の住宅売買取引件数は、前年同月比21・4%減。特にここ数カ月の減少が顕著であり、
首都圏では前月比31・4%減、高級マンションが集中するソウル「江南3区」では同45・7%もの急減となった。
これにともなって急増しているのが、分譲マンションの売れ残りだ。
昨年10月の約3万2000戸から同年12月には約6万1500戸とほぼ倍増した。
そうした状況下で、3月から過去最大規模の分譲が始まる。
「各デベロッパーとも大量に売れ残るのは覚悟の上。
だが市場が縮小するなかで少しでも他社のシェアを奪おうと、身を切ってがまん比べしている格好だ。
現地メディアはこの状況を『チキンゲーム』とも伝えている」(現地日本人ジャーナリスト)
韓国のマンション業界に何が起こっているのか。
発端は朴政権が打ち出した景気刺激策だ。
韓国政府は2014年8月、不動産市場活性化として住宅関連融資の大幅な規制緩和を行った。
融資のハードルが低くなったことで、多くの国民がローンを組んで住宅を購入。
こうしてマンション需要が一気に過熱し、建設ラッシュを引き起こした。
だが、同時に所得に占める家計負債の割合が拡大し、信用等級の低い層への融資も増加。
さらに昨年下半期の実質所得(物価上昇分を除く)の増加率は0%と低迷し、融資緩和は国民の借金を増やしただけとも批判された。
中国の成長鈍化などで経済の先行きが不透明化するなか、膨張する家計負債は金融危機につながる「時限爆弾」と化している。
そのため政府は方針を転換し、まず首都圏で今年2月から融資条件の引き締めを開始。4月の総選挙をはさんで、全国でも融資規制が強化される。
そこへ一昨年来の需要を見込んで作られた大量のマンションが供給されるわけだ。
すでに昨年からの供給過剰で、価格は2月中旬から2週連続で下落。下落は1年8カ月ぶりとなる。
家計資産の約7割を不動産が占める韓国で、物件の値崩れがもたらす影響は大きい。
「韓国では不動産投資が庶民の財テクとして定着している。
マンション転売時の収入は生活設計の土台であり、資産運用として複数のマンションを持っている人も多い。
一昨年来の融資規制緩和でも、投機需要の過熱から価格が高騰するケースが見られた」(同)
3月からの大量供給でマンション価格の下落が加速すれば、庶民の家計を直撃して家計負債問題がさらに悪化しかねない。
といって融資規制の引き締めを止めれば、また不動産市場のバブル化が進む。
景気刺激策として自らマンション市場に火を付けた朴政権だが、その収拾はますます困難になりつつある。
■高月靖(たかつき・やすし) ノンフィクションライター。1965年生まれ。兵庫県出身。
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