北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

戦車三〇〇両時代の10式戦車【1】岸田内閣防衛力整備計画発表-戦車言及なし,戦車600両時代の設計戦車

2023-09-04 20:23:13 | 先端軍事テクノロジー
■機甲師団維持の整備計画
 岸田内閣は2022年末に防衛力整備計画という今後10年間の防衛政策を閣議決定しました。

 戦車300両時代、難しいのは防衛力整備計画という、中期防衛力整備計画に代わる、しかし防衛大綱ほど踏み込まない10年計画が示されたこととともに戦車の数が不明確なまま、となっている点についてです。ただ、戦車定数について、 防衛力整備計画では機甲師団、つまり第7師団の維持が明示された以外、増減について具体的な整備目標がありません。

 機甲師団は維持する、難しい視点なのですが10式戦車は戦車定数600両時代の運用を想定して、本州での広い運用を視野に開発されているものです。実際今津の第3戦車大隊などは戦車400両定数の時代でさえ、縮小編成ながら維持される方針があり、2016年度に本来ならば74式戦車に代えて10式戦車を導入すべく、演習場整備など進めていたのですから。

 300両時代に対応することが、10式戦車に可能なのか。こう懸念する背景には、日本以上に戦車を削減している欧州において戦車の発達が急方向で進んでおり、RWS遠隔操作銃塔の追加やアクティヴ防護装置による対戦車ミサイル迎撃能力追加、無人機母艦としての能力追加など、いわば打撃力の骨幹戦力として急成長しているという世界の趨勢があります。

 急成長、といいますとわかりにくいでしょうが、従来戦車は撃破されにくい点はもちろんですが、集団運用を念頭としていて、機動力をもって迅速な集合と分散を可能としていました。しかし近年、戦車の能力向上は、小隊単位でも分散運用を念頭に、一両一両の能力向上が進められているように思えるのですね、各国ともその分保有数が少ないのですがね。

 鶏が先か卵が先か議論ではないのですが、戦車が保有数が少なくなったために一両ごとの戦闘力が強化したのか、戦車の能力が高くなったために保有数が少なくなったのか。率直な印象では冷戦後、戦車が現在の保有数まで縮小しても安全保障を担保できるとしていたが、もっとも近年脅威が増大するも戦車を増やす産業基盤がないという背景がみえますが。

 ドイツ連邦軍は東西統一後4800両もあった戦車を225両まで削減していますし、フランスも1700両あった戦車を220両まで削減、オランダなどは1000両もあった最新型といえたレオパルド2を含めて戦車を全廃、イギリスはもともと800両程度の戦車を150両まで削減している。この施策は欧州では戦争が起きないという防衛戦略に基づくものとされる。

 戦車の能力向上は、しかし力を入れているものがあります。近年はCV-90装甲戦闘車にさえRWSを追加搭載している。いや逆に欧州の安全保障戦略は、欧州での戦争よりも欧州周辺地域での民族紛争が欧州へ難民やテロなどのかたちで波及しないようにNATO域外での安定化を志向しており、戦車が減った分、各国は地域紛争へ装甲戦闘車を増やしました。

 RWS遠隔操作銃塔などは、本来砲塔を備えていない装甲車が運用するものでしたので、砲塔に主砲と連装銃に加えて機関銃を備えている戦車にあえてRWSを追加する意図が読めなかったのですが、将来的にRWSに自律運用、もちろんAIによる対人自動攻撃には世論の批判などがあり表だっての動きはないが、将来要素として考えている可能性はあります。

 アクティヴ防護装置、ソ連がこの装備を開発した当時は対戦車ミサイルの時代は終わったとされ、ウクライナ侵攻前に演習に置ける誤作動の事故が発生していますので、実際に配備されているのか、と驚かされたものです。しかしウクライナ侵攻とともに、世界が驚いたのはアレナアクティヴ防護装置搭載のT-90戦車のミサイルによる全焼全損写真でした。

 アレナアクティヴ防護装置については、実際にはジャベリン対戦車ミサイルに対応できなかった、もしくは開戦から300日を受けての戦況分析により、ウクライナ戦争での首都キエフ防衛について、この中でもっとも大きな威力があったのはウクライナ軍に2個が編成されていた砲兵旅団の全量射撃であったといい、曳火射撃の効果の可能性もあるのですが。

 砲兵旅団の全量射撃、ウクライナ軍はソ連軍時代の編成影響を受けていますので、その火力重視は欧州NATO諸国の砲兵全量射撃よりも遙かに大きなものがあります、この曳火射撃がたとえば戦車を全損させないにしても、精密機械が露呈しているアレナアクティヴ防護システムのみでも破壊した可能性は、あるのですね。まだ推測の範疇ではあるのですが。

 トロフィアクティヴ防護システム、しかし、技術上可能であるという見通しを、少なくともソ連がアクティヴ防護装置を実用化したので我々も、という技術研究が進んだことは事実です。1990年代はじめにイギリスのヴィッカース社、いまのBAE社、7.62mm多連装機銃によりミサイルの迎撃技術研究を実施、日本でさえ構成要素研究が進められています。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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ウクライナ情勢-黒海北部ウクライナ海軍ロシア空軍戦闘発生とロシア国威発揚演習”ザーパト”の中止

2023-09-04 07:00:15 | 防衛・安全保障
■防衛情報-ウクライナ戦争
 ウクライナ海軍人命を重視しつつ無人艇を中心というささやかな戦力ながら頑張っているなあと考えるところです。

 黒海北部においてウクライナ海軍とロシア空軍との間で散発的な戦闘が発生している、8月27日付イギリス国防省ウクライナ戦況報告がその概要をまとめています。これによれば、2014年にロシア軍が占領した旧ウクライナ天然ガス掘削プラットフォーム付近でウクライナ海軍の無人水上艇が航行しており、ロシア航空宇宙軍がこれに攻撃を加えたもの。

 クリミア半島とオデッサの中間海域には海底天然ガスが埋蔵されており、ウクライナのチョルノモルネフテガス社が掘削などを実施してきましたが、これが2014年のロシア軍クリミア侵攻によるクリミア併合によりロシア軍に占拠され、ロシアの管理下に置かれています。そして同時に緒戦の激戦地となったスネーク島のような戦略的要衝ともなり得る。

 チョルノモルネフテガス社のプラットフォームは化石燃料の代替とされる天然ガス、自然放出された場合の温室効果の高さから燃焼した方が温室効果係数が低くなるという欧米の主張、この埋蔵と同時にここを長距離ミサイル基地として用いられる利点がある故です。
■ザーパド23演習中止
 ボストーク演習などの極東地域での軍事演習に対しては我が国も相手が演習を装った侵攻準備に備えて対抗演習をおこなうものです。

 ロシア国防省はザーパド23演習の中止を発表しました、イギリス国防省ウクライナ戦況報告28日付の情報です。冷戦時代のソ連軍からロシア連邦に至るまで定例となっているロシア軍最大規模の演習であり、OSCE全欧安全保障協力機構信頼醸成措置により報告が求められる大規模演習となっており、2年に一度実施されるもの、前回は2021年です。

 ザーパド21演習は多数の戦車が同時に行進間射撃し地平線は砲兵の全量射撃の爆炎に包まれるという冷戦時代のソ連軍を普仏とさせる演習となっていましたが、ウクライナ侵攻の際に戦術と戦略両面での不手際を露呈し、各国識者にロシア軍は信仰直前までやっていた演習は何を演習していたのかと逆に呆れさせ、イギリス国防省は見世物と実情を分析した。

 ザーパド23演習が中止された理由は発表されていませんがイギリス国防省は、毎回10万以上の部隊を参加させているために今回集められる兵力が少なすぎたとの視点と、見世物という実態の贅沢な装備を集めた演習をウクライナでの苦戦が報じられる中で行う事への国内世論の反発にロシア指導部でさえも敏感になっている可能性を指摘しています。

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