北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

戦車三〇〇両時代の10式戦車【2】戦車は"最後の手段の最強戦力"か"即応の機械化機動打撃力骨幹戦力"か

2023-09-07 20:23:14 | 先端軍事テクノロジー
■超高級装備か普及か
 戦車は虎の子の奥の手たる最強装備であるのか、それとも近接戦闘における骨幹戦力であるのかという視点からアクティブ防護システムを考えてみたい。

 イスラエルなどは戦車戦闘よりもイスラム過激派からのイラン製対戦車ミサイル攻撃などに戦車がさらされるため、この開発が急務となり、現実にかなり高い精度で対戦車ミサイルを迎撃するトロフィアクティヴ防護システムを完成させています。この完成度ですが、実戦での評価というよりNATOの厳しい評価基準で実用性を有していると認められました。

 レオパルド2A7戦車へ、ドイツ連邦軍はトロフィアクティヴ防護システムの追加改修を決定、これはレオパルド2が重装甲を誇るものの、戦車砲弾と異なり飛来方向が予測できず戦車の装甲の薄い砲塔上部やエンジングリル部分をねらうという状況に、追加装甲で対応することはできないと現実的な判断を行い、新技術への評価試験を実施したためといえる。

 エイブラムスシリーズへの追加搭載、驚いたのはアメリカもトロフィアクティヴ防護システムを評価し、M-1A2シリーズへの追加搭載を決定しました。第三世代戦車は好都合といいますか、イージス艦の艦橋に似た形状となっていて、砲塔正面部分にアクティヴ防護装置用のAESAレーダーを装着できたという点も、近代化改修を行う上で好都合という。

 10式戦車、防衛装備庁はアクティヴ防護装置の開発は進めています、特殊なもので通常のアクティヴ防護装置は擲弾を投射して迎撃するものを、擲弾の場合は随伴歩兵が死傷する、装甲車に乗せていないためなのですが、この懸念から空中に膨張式クッション、つまりエアバッグを投射してミサイルの機動を阻害するという、もっとも、実験はまだなのですが。

 近代化改修に耐えるのか、ここが疑問です。いや10式戦車の性能はもの凄い、それでも2010年の戦車であり今はいよいよ2020年代の半ばにさしかかっているのです。RWS遠隔操作銃塔の追加は今からでも可能でしょう、しかし乗員は3名でありRWSを各国では4名の乗員のうち装填手が操作していますが、10式戦車は文字通り動かすにも人手が足りません。

 データリンク機能は2010年代当時もの凄い水準にありました、小隊の戦車1号車が照準したものの射撃した場合は発砲炎で位置が暴露する、この場合に陣地変換容易な場所に待機する2号車が、1号車の照準情報をリアルタイムで共有し見通し線外射撃を行う、これは2010年に制式化された当時には画期的といいますか、常識外の打撃力でした、けれど。

 2020年代に入りますと、10式戦車のデータリンクリアルタイム目標情報共有は、まず多目的双眼鏡、これはレーザー誘導爆弾のレーザー照射装置のような、目標指示能力を有する双眼鏡なのですが、フランスのタレスなどが開発しています、かなり高価な物なのですがこれで下車した砲手や斥候が目標を指示できるようになる、これ正に技術進歩の賜物です。

 2020年代はもう一つ、軍用ロボットの時代なのですが、バックポッドなど歩兵よりも前にでて索敵するロボットは2000年代からありました、2011年の東日本大震災ではアメリカ軍が福島第一原発の事故現場調査用に供与してくれました、速度は遅いが爆発物処理にも活用されるものでして、爆弾を一定水準まで解体できるマジックハンドも備えている。

 斥候が戦車よりも前にでるのは危険である、当然ですね砲兵に撃たれる懸念がありますし、敵対戦車兵の伏撃を受ける危険もある。そこでMUM運用という、有人無人協同のロボットと有人兵器が協力する運用が出番を迎える。具体的には戦車から目標照準能力を備えたロボットが出撃するという運用です、場合によってはロボットにLAM弾薬を一発積む。

 LAM対戦車弾薬、戦車が危険にさらされる状況ならばロボットを使い捨てる覚悟でLAMを発射し、戦車が部隊として集団での火力を投射した方が部隊が任務遂行できる、または生存できる場合にはロボットは情報収集をおこなう、こうした方式という。要するに戦車はロボット母艦となり、また砲塔後部に無人機を積み空からも斥候を行うという運用です。

 300両時代、戦車が300両しか装備できないならば、戦車同士の協同だけでは対応できない部分が増えてゆきますし、何より近接戦闘部隊の宿命として損耗はある程度覚悟しなければならないにしても、若干数の損耗により部隊が機能不随となる可能性や、損傷した戦車も戦車300両を念頭とした生産基盤では防衛産業が直ぐ修理できない可能性もあります。

 防衛産業の面から考えますと、戦車1000両時代ならば、年産50両という量産体制が可能となるのです、月産4両強でこれならば生産ラインを組めるのです。生産ラインは必要ならば増産にも対応できるのですが、現状の年産8両では、そもそも300両を量産するのに37年かかるののだ、急な予備部品で損耗に対応する方式は不可能となり、対策が必要です。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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ウクライナ情勢-ノヴォダニリフカ・ノヴォポクロピフカ間の防衛線突破とウクライナ無人機によるロシア本土への反撃

2023-09-07 07:00:55 | 防衛・安全保障
■防衛情報-ウクライナ戦争
 空軍と戦闘爆撃機の意義は精密爆撃に移行しており象徴的な攻撃だけならば自爆用無人機で事足りるということでしょうか。

 ウクライナ軍はロシアに対し5波にわたる最大規模の自爆用無人機攻撃を加えた、イギリス国防省ウクライナ戦況報告8月31日付発表において概況が示されました。攻撃が行われたのは8月29日夜から8月30日にかけてであり、モスクワ、ブリャンスク、リャザン、プスコフなどが攻撃目標となりました。中でもプスコフへの攻撃は特筆すべきです。

 プスコフはエストニア国境付近でありロシアウクライナ国境からは650㎞を隔てています、自爆用無人機は大半が目標まで到達しており、ロシア国防省は撃墜したとして反論していますが、プスコフではIl-76戦域間輸送機などが炎上する概況がSNS投稿などにより広がっており、ロシアの防空システムは実際問題として都市防空に機能していません。

 ロシア軍基地への無人機攻撃は既に散発的に発生しており、ロシア航空宇宙軍は航空機をウクライナとの国境から離れた地域へ分散させることで対応していましたが、エストニア国境付近まで攻撃される状況では分散してはウクライナが戦闘行動半径外になりかねず、ロシア軍は無人機対策用防空システムを前線から基地防空へ移す必要に迫られている。
■ロシア軍主陣地防衛線
 非常に大きな分水嶺を超えつつあるのか。

 ウクライナ軍は南部戦線ノヴォダニリフカ-ノヴォポクロピフカ付近でロシア軍主陣地防衛線を突破した可能性が高い、ロシアの前線報道ではウロジャイネ南西5kmにあるヴォロダイン地区でロシア軍が複数の防御陣地を放棄して撤退を開始したという情報があり、またウクライナ軍参謀本部もオリヒフの南方と南西で攻撃に成功したと発表しています。

 ノヴォダニリフカ-ノヴォポクロピフカ付近は濃密な地雷原により守られ6月末から地雷原突破へ激戦が繰り広げられていた地域であり、この地雷原は前哨陣地であるとされていました、しかし8月21日頃からこの前哨陣地を突破したとの報道や分析が流れ始め、ウクライナ軍がロシア軍主陣地へ到達し接敵するのは時間の問題ともされていました。

 主陣地が突破された可能性について、裏付けるのは既にISWアメリカ戦争研究所の分析として、半年以上防衛線に張り付けられ後退できない部隊が疲弊していることと、ロシア軍が砲兵戦闘でウクライナ軍に対し劣勢となり火砲多数を毎日撃破されていること、戦闘加入した第76親衛空挺師団が分散配置され各個撃破される点などが要因となっています。

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