■週報:世界の防衛,最新12論点
今年最初の防衛情報は陸軍関係の話題を中心に12論点を紹介しましょう。
アメリカ陸軍が開発を進めるPrSMプレシジョンストライクミサイルが五回連続の発射試験を完了しました。これはロッキードマーティン社が進めるアメリカ陸軍遠距離打撃戦力開発の一環で、トランプ政権時代に離脱した中距離核戦力全廃条約により、通常弾頭型のミサイルを含め地上発射型の550km以上の射程のミサイル開発か可能となった為です。
PrSMプレシジョンストライクミサイルの実験はHIRAMS高機動ロケット砲兵システムより実施、これはトラック方式のロケット砲システムとなっています。今回の実験では射程がどの程度まで延伸されたかは明示されていませんが、陸軍が保有する最大射程はATACMSの300kmが最も大きなもので、現代戦闘ではその射程不足が指摘されています。
中距離核戦力全廃条約は核兵器ではなく地上発射型の550kmから4500kmまでのミサイル保有を米ソ、冷戦後はアメリカとロシアの未規制していました、しかし、逆にこの射程の兵器の空白地帯を生むと共に中国の前進をゆるし、規制逃れ等の面で、実効性を有していないと判断した当時のトランプ政権が脱退、バイデン政権も復帰の意思を示していません。
■ブラッドレイIFV後継研究
ブラッドレイ装甲戦闘車も今日的に見れば80年代の防御力思想の限界に曝されています。
アメリカ陸軍はブラッドレイ装甲戦闘車後継選定用のリンクス装甲戦闘車試験車両を受領しました。ブラッドレイ装甲戦闘車後継装甲車には幾つかの車両が候補に挙げられていますが、アメリカ陸軍が重視するのは1970年代の防御力想定では全く不十分となっている2020年代の戦闘を前に防御力が高く、火力や通信でも将来拡張性に優れた戦闘車両です。
リンクス装甲戦闘車はドイツのラインメタル社がプライベートベンチャーにより開発した2010年代の設計で、同社が1990年代に開発しドイツ連邦軍へ採用されているプーマ装甲戦闘車の経験を反映させたものとなており、基本重量は42tですが戦闘重量は50tまで想定し、ロシア軍次期装甲車に搭載される57mm砲に耐える極めて重装甲の装甲戦闘車です。
■豪州リンクス生産体制
リンクス装甲戦闘車は取得費用は高いものの特筆できる防御力をもつ。
オーストラリアは陸軍が採用したリンクス装甲戦闘車をアメリカのブラッドレイ装甲戦闘車後継選定用に輸出しました。リンクス装甲戦闘車はドイツのラインメタル社が設計していますが、オーストラリア陸軍は厳しい選定の結果、次期装甲戦闘車としてリンクスを採用しています、この条件が車体性能とともにオーストラリアの防衛産業への貢献でした。
クイーンズランド州レッドバンクにはラインメタルオーストラリアランドシステムズ社の工場が置かれており、オーストラリア軍向けのリンクス装甲戦闘車が製造される施設です。ラインメタル社ではプーマ装甲戦闘車の量産と並行してリンクスを量産する製造ラインの圧迫を回避できると共に、合弁企業現地生産であっても利益は或る選択肢といえました。
■トルコのMAV装甲車
稼働率を考えず数を揃えるならば日本も検討したい装備ですが、結局のところ必要な数をしっかり量産するならば新興工業国にもできることという。
トルコのFNSS社はZAHA-MAV両用強襲車輛の試作車両をIDEF2021国際産業展に展示しました。ZAHA-MAV両用強襲車輛は装軌式の装甲車両で、アメリカ製AAV-7両用強襲車輛と比較し二回りほど小型、展示された車輛は全体を増加装甲で覆い、無人砲塔を搭載した状態でした。2019年より試作車が海上航行試験や陸上戦闘試験に供されています。
ZAHA-MAV両用強襲車輛は陸上最高速度70km/h、海上ではウォータージェットにより7ノットで航行可能であり、CAKA無人砲塔には12.7mm機銃と40mm擲弾銃を連装装備していて、FNSS社によればアメリカのAAV-7両用強襲車搭載砲塔と比較し、砲手の安全性が車内で確保されるとともに、目標捕捉能力や砲塔旋回速度などが向上しているという。
トルコ陸軍はZAHA-MAV両用強襲車輛を当面27両取得する計画で、23両が基本型、2両が指揮通信型、2両が操行改修型となります。外見は既存車輛の前部を凌波形状とした上でウォータージェット配管を装甲で覆ったもので、1990年代にイタリアがM-113装甲車を改造したアリゲーター両用装甲車よりも性能は優れているが、外見は過渡期のものといえる。
■イスラエルACE-N52新小銃
ブルパップ式はやはり使いにくいのでしょうか現在重視しているのはイスラエル軍と中国軍オーストラリアにオーストリアか。
イスラエルのIWIイスラエルウェポンインダストリーズは画期的なACE-N52突撃銃を発表しました。IWI社はUZI短機関銃やガリル突撃銃、現在のイスラエル軍制式小銃であるタボール突撃銃等を生産しており、確実な作動性で知られる軍用銃の設計で知られます。今回はタボール突撃銃の運用を踏まえ、ガリル突撃銃の設計を応用し開発されたもの。
ACE-N52突撃銃は5.56mm仕様と7.62mm仕様を銃身及び機関部一部の取換により実現しており、またレイルシステムを採用する事で各種光学機材や暗視装置の装備を設計に盛り込んでいます。形状はタボール突撃銃のブルパップ式から直床方式に回帰しており、全体に樹脂を多用し軽量化しつつ伸縮式銃床を採用し機械化部隊の携行にも配慮があります。
■ドイツ,空挺用新車両
自衛隊のパジェロにあたる車両さえ新規調達しなければならない弱体から復興へのドイツ軍の話題です。
ドイツ連邦軍は空挺部隊用エノク4.8航空機動車輛を受領したとのこと。エノクはメルセデスベンツGクラスの軍用仕様でメルセデスベンツ社が納入した車両をGmbHアーマードカーシステムズ社が連邦軍仕様へ改修を実施している。車両はエノクLAPVとして2008年より247両が採用されており装甲車両ではなく斥候や連絡車と軽輸送に用いられている。
エノク4.8航空機動車輛は空中機動部隊向けの車両であり、定員は4名、車体部分は極力軽量化されるとともに偵察任務に充てるべく車体後部にオートバイを装備し、車体上部には機関銃を搭載する。本車の派生型にはエノク5.4軽装甲車がある、こちらは重量が増大しているが小銃弾等へ耐弾性能があり、基地警備や飛行場警備と空港のテロ対策に用いられる。
■AU-220M自動兵器システム
57mm自動砲は高射砲を転用したもので初速もたかく射程がTOWミサイルよりも長いのですよね。
ロシアは57mm搭載AU-220M自動砲兵器システムをユーゴスラビアへ輸出している。これはユーゴスラビアのベオグラードで10月11日から四日間にわたり執り行われたユーゴインポートSDPR兵器見本市においてユーゴスラビア製ラザル3装甲戦闘車に搭載されたかたちで発表されている。ラザル3はユーゴスラビアが独自に開発した装輪装甲車だ。
AU-220M自動砲兵器システムはロシアがBMP-1/2装甲戦闘車後継車両用に開発した57mm自動砲で、アメリカの装甲戦闘車は25mmと欧州でも40mm機関砲を搭載する従来型装甲戦闘車を圧倒する新型機関砲で、毎分80発を射撃可能で射程は14km、砲安定装置と熱線暗視装置及びレーザー測距装置により極めて高い精度での射撃が可能となっている。
■57mm砲は陸戦を変えるか
自衛隊の少なすぎる89式装甲戦闘車と10式戦車については考え直さねばならない様に改めて痛感します、特に切迫度は増している。
ロシアの57mm砲AU-220M自動砲兵器システムは陸戦体系に新しい変革をもたらすのだろうか。AU-220M自動砲兵器システムは30mm機関砲や73mm低圧砲を搭載したBMP装甲戦闘車シリーズの後継車両に搭載されるものだ。射程は7kmと対戦車ミサイル並に大きく、地上戦闘への直接火力支援と対装甲戦闘を両立させ得ると共に原型は対空砲である。
AU-220M自動砲兵器システムはM-2ブラッドレイやフランスのVBCI装甲戦闘車を4km以遠より破壊でき、特にTOW対戦車ミサイルの射程外から攻撃が可能、欧州で広く採用されるCV-90装甲戦闘車もMk2までは正面装甲を貫徹される恐れがある。欧州にはプーマやリンクスといった57mm砲に耐える正面装甲を持つ装甲車も開発されているが多くはない。
■ポーランドのペトリオット
ウクライナ情勢を隣国の緊張として受け止めるポーランドの緊張は高いものですが、ロシアは日本の隣国でもある。
ポーランド軍は2022年内に予定されるペトリオットミサイル受領の施設整備を進めており、現在ポーランド陸軍第3防空砲兵旅団では施設建設とアメリカオクラホマ州のフォートシルへの要員留学を通じ、訓練装置での教習が実施中で、ポーランド施設の建設に関しては2021年10月7日にマリウスブラシュザック国防大臣がその進捗状況を視察しました。
ポーランド軍が導入を計画しているのはAN/MPQ-65射撃指揮装置4基と4連装発射装置16基、及び指揮統制装置4基とペトリオットミサイルPAC-3-MSEの導入を計画しており、先行して2セットが納入されます。PAC-3-MSEは短距離弾道弾や准中距離弾道弾に対しての迎撃能力を有しており、より速度の速いミサイルへの迎撃能力整備も進められています。
■ギリシャ軍サウジ派遣
経済問題からの出稼ぎというようにも見えなくはないのですが応援を得られる構図が少し羨ましい。
ギリシャ軍防空砲兵部隊のサウジアラビア派遣が正式に開始されました。これは2021年4月に開始された試みで、内戦中のイエメンより反政府武装勢力フーシ派による自爆無人機攻撃や巡航ミサイル攻撃に曝されているサウイアラビア防空軍を補完するべく、NATO加盟国であり高い練度を有するギリシャ軍の地対空ミサイルをサウジアラビアに配備します。
サウジアラビア派遣部隊はギリシャ空軍のペトリオットミサイル2個中隊で、9月に派遣本体がサウジアラビアへ到着しています。サウジアラビア軍には多数のペトリオットミサイルを装備する防空軍と野戦防空を担う陸軍が編成されていますが、自爆無人機多数による飽和攻撃へはどれだけ多数のミサイルがあっても充分と言い切れない状況があるようです。
■マレーシア軍のLG-1榴弾砲
日本の場合は火砲を155mmに統合していますが空挺部隊や山岳戦闘を考えますと120mm迫撃砲のようなものよりも105mm砲の有用性は意外とあるようにも。
マレーシア陸軍はネクスターLG-1-Mk3/105mm榴弾砲の初度作戦能力獲得完了を発表しました。ネクスターLG-1は同社がジアッド社時代に開発した軽量榴弾砲で頑丈で信頼性のある牽引式榴弾砲です、Mk3は砲口制退器の改良や車輪部分の改良が施され、不整地での牽引に際しても破損の懸念が軽減、また泥濘踏破後での即座の射撃が可能となりました。
マレーシア陸軍は第10空挺旅団隷下の第1王立砲兵連隊へ旧式化した25ポンド砲とOTOメララ社製105mm空挺砲を置換える新型火砲としてネクスターLG-1-Mk3/105mm榴弾砲18門の採用を2018年に決定、ノックダウン生産方式でジョホール州ジェメンタにあるアドバンスドディフェンスシステムズ社に最初の6門を引渡し、試験に供されていました。
■タイのBTR-4両用装甲車
旧ソ連製装備の系譜は渡河能力を重視していますので水陸両用性能は意外な程に高いのですよね。
タイ海兵隊向けBTR-4装甲車指揮通信型がウクライナのキエフにて組立が完了しつつあります。BTR-4は水陸両用装甲車であるBTR-3の指揮通信車型です。水陸両用装甲車はアメリカ製AAV-7が有名ではありますが、欧州の大河を念頭に旧ソ連製装甲車の大半は浮航能力を有し、これらは改造するだけで外洋の波浪に在る程度対応する冗長性があります。
BTR-4は八輪方式、BTR-3では30mm機関砲を搭載していましたが指揮通信型のBTR-4は砲塔に代え車体後部の天井を高く車体を再設計しています。エンジン出力は500hpで、路上速度110km/hに水上浮航速度10km/hと優秀で、タイ海兵隊は水陸両用車輛として先行してBTR-3を採用しており、BTR-4とともにファミリー装備体系を構築するもようです。
北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
(第二北大路機関: http://harunakurama.blog10.fc2.com/記事補完-投稿応答-時事備忘録をあわせてお読みください)
今年最初の防衛情報は陸軍関係の話題を中心に12論点を紹介しましょう。
アメリカ陸軍が開発を進めるPrSMプレシジョンストライクミサイルが五回連続の発射試験を完了しました。これはロッキードマーティン社が進めるアメリカ陸軍遠距離打撃戦力開発の一環で、トランプ政権時代に離脱した中距離核戦力全廃条約により、通常弾頭型のミサイルを含め地上発射型の550km以上の射程のミサイル開発か可能となった為です。
PrSMプレシジョンストライクミサイルの実験はHIRAMS高機動ロケット砲兵システムより実施、これはトラック方式のロケット砲システムとなっています。今回の実験では射程がどの程度まで延伸されたかは明示されていませんが、陸軍が保有する最大射程はATACMSの300kmが最も大きなもので、現代戦闘ではその射程不足が指摘されています。
中距離核戦力全廃条約は核兵器ではなく地上発射型の550kmから4500kmまでのミサイル保有を米ソ、冷戦後はアメリカとロシアの未規制していました、しかし、逆にこの射程の兵器の空白地帯を生むと共に中国の前進をゆるし、規制逃れ等の面で、実効性を有していないと判断した当時のトランプ政権が脱退、バイデン政権も復帰の意思を示していません。
■ブラッドレイIFV後継研究
ブラッドレイ装甲戦闘車も今日的に見れば80年代の防御力思想の限界に曝されています。
アメリカ陸軍はブラッドレイ装甲戦闘車後継選定用のリンクス装甲戦闘車試験車両を受領しました。ブラッドレイ装甲戦闘車後継装甲車には幾つかの車両が候補に挙げられていますが、アメリカ陸軍が重視するのは1970年代の防御力想定では全く不十分となっている2020年代の戦闘を前に防御力が高く、火力や通信でも将来拡張性に優れた戦闘車両です。
リンクス装甲戦闘車はドイツのラインメタル社がプライベートベンチャーにより開発した2010年代の設計で、同社が1990年代に開発しドイツ連邦軍へ採用されているプーマ装甲戦闘車の経験を反映させたものとなており、基本重量は42tですが戦闘重量は50tまで想定し、ロシア軍次期装甲車に搭載される57mm砲に耐える極めて重装甲の装甲戦闘車です。
■豪州リンクス生産体制
リンクス装甲戦闘車は取得費用は高いものの特筆できる防御力をもつ。
オーストラリアは陸軍が採用したリンクス装甲戦闘車をアメリカのブラッドレイ装甲戦闘車後継選定用に輸出しました。リンクス装甲戦闘車はドイツのラインメタル社が設計していますが、オーストラリア陸軍は厳しい選定の結果、次期装甲戦闘車としてリンクスを採用しています、この条件が車体性能とともにオーストラリアの防衛産業への貢献でした。
クイーンズランド州レッドバンクにはラインメタルオーストラリアランドシステムズ社の工場が置かれており、オーストラリア軍向けのリンクス装甲戦闘車が製造される施設です。ラインメタル社ではプーマ装甲戦闘車の量産と並行してリンクスを量産する製造ラインの圧迫を回避できると共に、合弁企業現地生産であっても利益は或る選択肢といえました。
■トルコのMAV装甲車
稼働率を考えず数を揃えるならば日本も検討したい装備ですが、結局のところ必要な数をしっかり量産するならば新興工業国にもできることという。
トルコのFNSS社はZAHA-MAV両用強襲車輛の試作車両をIDEF2021国際産業展に展示しました。ZAHA-MAV両用強襲車輛は装軌式の装甲車両で、アメリカ製AAV-7両用強襲車輛と比較し二回りほど小型、展示された車輛は全体を増加装甲で覆い、無人砲塔を搭載した状態でした。2019年より試作車が海上航行試験や陸上戦闘試験に供されています。
ZAHA-MAV両用強襲車輛は陸上最高速度70km/h、海上ではウォータージェットにより7ノットで航行可能であり、CAKA無人砲塔には12.7mm機銃と40mm擲弾銃を連装装備していて、FNSS社によればアメリカのAAV-7両用強襲車搭載砲塔と比較し、砲手の安全性が車内で確保されるとともに、目標捕捉能力や砲塔旋回速度などが向上しているという。
トルコ陸軍はZAHA-MAV両用強襲車輛を当面27両取得する計画で、23両が基本型、2両が指揮通信型、2両が操行改修型となります。外見は既存車輛の前部を凌波形状とした上でウォータージェット配管を装甲で覆ったもので、1990年代にイタリアがM-113装甲車を改造したアリゲーター両用装甲車よりも性能は優れているが、外見は過渡期のものといえる。
■イスラエルACE-N52新小銃
ブルパップ式はやはり使いにくいのでしょうか現在重視しているのはイスラエル軍と中国軍オーストラリアにオーストリアか。
イスラエルのIWIイスラエルウェポンインダストリーズは画期的なACE-N52突撃銃を発表しました。IWI社はUZI短機関銃やガリル突撃銃、現在のイスラエル軍制式小銃であるタボール突撃銃等を生産しており、確実な作動性で知られる軍用銃の設計で知られます。今回はタボール突撃銃の運用を踏まえ、ガリル突撃銃の設計を応用し開発されたもの。
ACE-N52突撃銃は5.56mm仕様と7.62mm仕様を銃身及び機関部一部の取換により実現しており、またレイルシステムを採用する事で各種光学機材や暗視装置の装備を設計に盛り込んでいます。形状はタボール突撃銃のブルパップ式から直床方式に回帰しており、全体に樹脂を多用し軽量化しつつ伸縮式銃床を採用し機械化部隊の携行にも配慮があります。
■ドイツ,空挺用新車両
自衛隊のパジェロにあたる車両さえ新規調達しなければならない弱体から復興へのドイツ軍の話題です。
ドイツ連邦軍は空挺部隊用エノク4.8航空機動車輛を受領したとのこと。エノクはメルセデスベンツGクラスの軍用仕様でメルセデスベンツ社が納入した車両をGmbHアーマードカーシステムズ社が連邦軍仕様へ改修を実施している。車両はエノクLAPVとして2008年より247両が採用されており装甲車両ではなく斥候や連絡車と軽輸送に用いられている。
エノク4.8航空機動車輛は空中機動部隊向けの車両であり、定員は4名、車体部分は極力軽量化されるとともに偵察任務に充てるべく車体後部にオートバイを装備し、車体上部には機関銃を搭載する。本車の派生型にはエノク5.4軽装甲車がある、こちらは重量が増大しているが小銃弾等へ耐弾性能があり、基地警備や飛行場警備と空港のテロ対策に用いられる。
■AU-220M自動兵器システム
57mm自動砲は高射砲を転用したもので初速もたかく射程がTOWミサイルよりも長いのですよね。
ロシアは57mm搭載AU-220M自動砲兵器システムをユーゴスラビアへ輸出している。これはユーゴスラビアのベオグラードで10月11日から四日間にわたり執り行われたユーゴインポートSDPR兵器見本市においてユーゴスラビア製ラザル3装甲戦闘車に搭載されたかたちで発表されている。ラザル3はユーゴスラビアが独自に開発した装輪装甲車だ。
AU-220M自動砲兵器システムはロシアがBMP-1/2装甲戦闘車後継車両用に開発した57mm自動砲で、アメリカの装甲戦闘車は25mmと欧州でも40mm機関砲を搭載する従来型装甲戦闘車を圧倒する新型機関砲で、毎分80発を射撃可能で射程は14km、砲安定装置と熱線暗視装置及びレーザー測距装置により極めて高い精度での射撃が可能となっている。
■57mm砲は陸戦を変えるか
自衛隊の少なすぎる89式装甲戦闘車と10式戦車については考え直さねばならない様に改めて痛感します、特に切迫度は増している。
ロシアの57mm砲AU-220M自動砲兵器システムは陸戦体系に新しい変革をもたらすのだろうか。AU-220M自動砲兵器システムは30mm機関砲や73mm低圧砲を搭載したBMP装甲戦闘車シリーズの後継車両に搭載されるものだ。射程は7kmと対戦車ミサイル並に大きく、地上戦闘への直接火力支援と対装甲戦闘を両立させ得ると共に原型は対空砲である。
AU-220M自動砲兵器システムはM-2ブラッドレイやフランスのVBCI装甲戦闘車を4km以遠より破壊でき、特にTOW対戦車ミサイルの射程外から攻撃が可能、欧州で広く採用されるCV-90装甲戦闘車もMk2までは正面装甲を貫徹される恐れがある。欧州にはプーマやリンクスといった57mm砲に耐える正面装甲を持つ装甲車も開発されているが多くはない。
■ポーランドのペトリオット
ウクライナ情勢を隣国の緊張として受け止めるポーランドの緊張は高いものですが、ロシアは日本の隣国でもある。
ポーランド軍は2022年内に予定されるペトリオットミサイル受領の施設整備を進めており、現在ポーランド陸軍第3防空砲兵旅団では施設建設とアメリカオクラホマ州のフォートシルへの要員留学を通じ、訓練装置での教習が実施中で、ポーランド施設の建設に関しては2021年10月7日にマリウスブラシュザック国防大臣がその進捗状況を視察しました。
ポーランド軍が導入を計画しているのはAN/MPQ-65射撃指揮装置4基と4連装発射装置16基、及び指揮統制装置4基とペトリオットミサイルPAC-3-MSEの導入を計画しており、先行して2セットが納入されます。PAC-3-MSEは短距離弾道弾や准中距離弾道弾に対しての迎撃能力を有しており、より速度の速いミサイルへの迎撃能力整備も進められています。
■ギリシャ軍サウジ派遣
経済問題からの出稼ぎというようにも見えなくはないのですが応援を得られる構図が少し羨ましい。
ギリシャ軍防空砲兵部隊のサウジアラビア派遣が正式に開始されました。これは2021年4月に開始された試みで、内戦中のイエメンより反政府武装勢力フーシ派による自爆無人機攻撃や巡航ミサイル攻撃に曝されているサウイアラビア防空軍を補完するべく、NATO加盟国であり高い練度を有するギリシャ軍の地対空ミサイルをサウジアラビアに配備します。
サウジアラビア派遣部隊はギリシャ空軍のペトリオットミサイル2個中隊で、9月に派遣本体がサウジアラビアへ到着しています。サウジアラビア軍には多数のペトリオットミサイルを装備する防空軍と野戦防空を担う陸軍が編成されていますが、自爆無人機多数による飽和攻撃へはどれだけ多数のミサイルがあっても充分と言い切れない状況があるようです。
■マレーシア軍のLG-1榴弾砲
日本の場合は火砲を155mmに統合していますが空挺部隊や山岳戦闘を考えますと120mm迫撃砲のようなものよりも105mm砲の有用性は意外とあるようにも。
マレーシア陸軍はネクスターLG-1-Mk3/105mm榴弾砲の初度作戦能力獲得完了を発表しました。ネクスターLG-1は同社がジアッド社時代に開発した軽量榴弾砲で頑丈で信頼性のある牽引式榴弾砲です、Mk3は砲口制退器の改良や車輪部分の改良が施され、不整地での牽引に際しても破損の懸念が軽減、また泥濘踏破後での即座の射撃が可能となりました。
マレーシア陸軍は第10空挺旅団隷下の第1王立砲兵連隊へ旧式化した25ポンド砲とOTOメララ社製105mm空挺砲を置換える新型火砲としてネクスターLG-1-Mk3/105mm榴弾砲18門の採用を2018年に決定、ノックダウン生産方式でジョホール州ジェメンタにあるアドバンスドディフェンスシステムズ社に最初の6門を引渡し、試験に供されていました。
■タイのBTR-4両用装甲車
旧ソ連製装備の系譜は渡河能力を重視していますので水陸両用性能は意外な程に高いのですよね。
タイ海兵隊向けBTR-4装甲車指揮通信型がウクライナのキエフにて組立が完了しつつあります。BTR-4は水陸両用装甲車であるBTR-3の指揮通信車型です。水陸両用装甲車はアメリカ製AAV-7が有名ではありますが、欧州の大河を念頭に旧ソ連製装甲車の大半は浮航能力を有し、これらは改造するだけで外洋の波浪に在る程度対応する冗長性があります。
BTR-4は八輪方式、BTR-3では30mm機関砲を搭載していましたが指揮通信型のBTR-4は砲塔に代え車体後部の天井を高く車体を再設計しています。エンジン出力は500hpで、路上速度110km/hに水上浮航速度10km/hと優秀で、タイ海兵隊は水陸両用車輛として先行してBTR-3を採用しており、BTR-4とともにファミリー装備体系を構築するもようです。
北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
(第二北大路機関: http://harunakurama.blog10.fc2.com/記事補完-投稿応答-時事備忘録をあわせてお読みください)