■極超音速滑空兵器と異なる形状
極超音速滑空兵器と変速機動可能な弾道ミサイル、前者は最新兵器ですが後者ならばソ連が1960年代にR-27Kというミサイルを開発しています。

北朝鮮が2022年1月に入り相次ぎ実験している弾道ミサイルは極超音速滑空兵器なのか。曰く“マッハ10の飛翔速度でミサイル防衛システムを突破”、曰く“北朝鮮は中国やロシアに続く極超音速滑空兵器を実用化”、曰く“北朝鮮のミサイル技術は新時代を迎えた脅威だ”と報道等では専門家の見解として喧伝されるのですが、果たしてそうなのでしょうか。

マッハ10の飛翔速度、こうありますが実はマッハ10の速度というものはかなり前に北朝鮮は実用化しています、地球の重力圏を抜ける第二宇宙速度は秒速11.186kmといいますので、太陽系の別の惑星へ向けて運用する宇宙ロケットではマッハ10を超える速度を簡単に叩き出している訳です、日本が1998年に打ち上げた火星探査衛星のぞみ、も発揮しました。

弾道ミサイルと極超音速滑空兵器、それでは弾道ミサイルは極超音速で飛翔する為に極超音速滑空兵器に含まれるのか、と問われますと極超音速は発揮しますが弾道を描いて飛翔する為に滑空兵器には含まれません、そして極超音速滑空兵器とは弾道ミサイル防衛システムを突破する為に開発された装備ですので、基本的にこれは別装備体系となるのですね。

極超音速滑空兵器は名称の通り滑空するものです、が極超音速で飛翔するのですから通常のグライダーのような構造では空中分解してしまいます。そこで、既に実用化された極超音速滑空兵器はロシアのツィルコンミサイルや亜種といえるインドのブラモス2、中国の東風17型となっていますが、極超音速で滑空する為に形状はサーフボード状となっています。

サーフボード状とすることで複雑な軌道を極超音速で飛翔した場合でも空中分解しない構造となっているのですが、北朝鮮の弾道ミサイルは極超音速滑空兵器と称するには、どうみても通常の弾道ミサイルに誘導翼という、ミサイルを操行するための小さな翼が装着されているだけで、航空力学から、極超音速は出ても滑空は難しいようにみえるのですね。

ミサイルは上昇高度は50kmから60kmといい、これは1993年に北朝鮮が初めて実験を行ったノドンミサイルの上昇高度200kmに対してかなり低くなっています。この際ノドンは秒速3000mで落下していますので、音速は秒速340m、つまりマッハ8.8を発揮しています。つまり今回北朝鮮が実験したものは低伸した弾道をマッハ10発揮した、と云えます。

火星12型弾道ミサイル、北朝鮮がロフテッド軌道という非常に高い高度まで上昇して速度を稼ぐ方式の実験を行った事で知られるミサイルですが、こちらは射程1000kmに抑えてその分高度を稼いだ場合の速度は秒速4500mとなっていますので、これでマッハ13.23となります。そして迎撃技術として、イージス艦に搭載されるスタンダードSM-3について。

スタンダードSM-3は初期型のSM-3block1Aで秒速4000m、つまりマッハ11.76までを想定して開発されています、少し足りないと思われるかもしれませんがこれは2006年のミサイル、現在はblockⅡAという第四世代のものが開発され迎撃能力は強化されています、大量の予算を投入しているミサイル防衛技術は、脅威に応じて進化しているということです。

ツィルコンミサイルなど実用化された極超音速滑空兵器は、ここで之ノ字軌道といいますか、ジグザグにサーフボードが大波上を蛇行するような機動が可能で、これによりミサイル防衛システムの迎撃を回避して目標に到達する事が可能となりますが、単に弾道ミサイルへ安定翼を装着しただけのものでは、蛇行する際に速度を下げなければ分解してしまう。

対艦弾道ミサイル、誘導翼を装着した弾道ミサイルには中国が対艦弾道ミサイルとして開発している東風26型等が挙げられますが、問題は弾道ミサイルは落下する際に非常に高い速度を発揮するものの、その速度では誘導が出来ないという。これは新幹線が高速でカーブを曲がれないのと同じといえるでしょう、低速ならば豊川から浜松まで交差点を曲がる。

終末軌道、対艦弾道ミサイルが拘束を破棄して航空母艦などを狙う際に航空母艦は動いていますので大凡の位置に向けて発射された弾道ミサイルが命中に向けて最後の誘導を行う際、この終末誘導の際に減速するのが難点で、速度が低下するならばイージス艦に迎撃されてしまいます。故にロケット型を捨てサーフボード状となったのが極超音速滑空兵器だ。

極超音速滑空兵器はもう一つ、弾道ミサイルとは別のものである為に弾道を描いて高高度まで上昇する必要はなく、これが攻撃を受ける側としては発見しにくい、という迎撃難易度を高める効果をもたらすのですが、今回も防衛省に探知されました、60kmまで上昇するのですから日本のレーダーサイトからも水平線上に飛翔したミサイルは探知出来た訳です。

岸防衛大臣は記者会見において、記者質問の北朝鮮が発射したものは弾道ミサイルではなく極超音速滑空兵器ではないのか、という問いに対して、極超音速滑空兵器の定義は明確ではなく弾道ミサイルであると認識している、こう答えました。要するに日本は日本、という格好いい応えにも映るのですが、大前提として低伸弾道の弾道弾ともいえるのですね。

低伸弾道の弾道弾、この利点はロフテッド軌道を用いた場合には落下速度は稼げるものの発射から命中まで火星12型で40分前後要していますので、迎撃を行う側としては準備の猶予時間を与える事となります、しかし、低伸弾道を執るならば50kmの上昇ならば1000kmまで上昇する火星12型よりは発見されにくく、対応の暇も与えない利点がある。

北朝鮮の弾道ミサイルは日本の視点から見れば脅威です、それは使用され得るミサイルと云う意味で脅威ですし、また北朝鮮は航空戦力や海軍戦力、勿論陸軍戦力でも日本海を超える事は出来ませんが弾道ミサイルは到達するという脅威がある、そしてその戦力を邦人拉致事案という厳然たる敵対行為を平時に、しかも日本領域内で行ったという背景がある。

極超音速滑空兵器、しかし、北朝鮮が極超音速滑空兵器を装備しているという認識は、なにしろロシアが完成させたツィルコンミサイルという洗練された性能、中国も先行して大量に軍事パレードに参加させている東風17型というものに対して、北朝鮮が実験したものは形状から及ばず、低伸弾道の弾道弾という認識を超えた認識は過大評価といえるもの。

脅威には違いありませんが、過度に脅威を喧伝する事は防衛力整備の根幹を見失う事となります、そして北朝鮮は凄い兵器を持っているので核兵器保有も認めざるを得ない、という誤った認識にも進みかねません。ですから、低伸弾道の弾道弾と極超音速滑空兵器の違いは明確としなければ、無知につけ込む脅威論の肥大化に繋がるのでは、と思うのですね。
北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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極超音速滑空兵器と変速機動可能な弾道ミサイル、前者は最新兵器ですが後者ならばソ連が1960年代にR-27Kというミサイルを開発しています。

北朝鮮が2022年1月に入り相次ぎ実験している弾道ミサイルは極超音速滑空兵器なのか。曰く“マッハ10の飛翔速度でミサイル防衛システムを突破”、曰く“北朝鮮は中国やロシアに続く極超音速滑空兵器を実用化”、曰く“北朝鮮のミサイル技術は新時代を迎えた脅威だ”と報道等では専門家の見解として喧伝されるのですが、果たしてそうなのでしょうか。

マッハ10の飛翔速度、こうありますが実はマッハ10の速度というものはかなり前に北朝鮮は実用化しています、地球の重力圏を抜ける第二宇宙速度は秒速11.186kmといいますので、太陽系の別の惑星へ向けて運用する宇宙ロケットではマッハ10を超える速度を簡単に叩き出している訳です、日本が1998年に打ち上げた火星探査衛星のぞみ、も発揮しました。

弾道ミサイルと極超音速滑空兵器、それでは弾道ミサイルは極超音速で飛翔する為に極超音速滑空兵器に含まれるのか、と問われますと極超音速は発揮しますが弾道を描いて飛翔する為に滑空兵器には含まれません、そして極超音速滑空兵器とは弾道ミサイル防衛システムを突破する為に開発された装備ですので、基本的にこれは別装備体系となるのですね。

極超音速滑空兵器は名称の通り滑空するものです、が極超音速で飛翔するのですから通常のグライダーのような構造では空中分解してしまいます。そこで、既に実用化された極超音速滑空兵器はロシアのツィルコンミサイルや亜種といえるインドのブラモス2、中国の東風17型となっていますが、極超音速で滑空する為に形状はサーフボード状となっています。

サーフボード状とすることで複雑な軌道を極超音速で飛翔した場合でも空中分解しない構造となっているのですが、北朝鮮の弾道ミサイルは極超音速滑空兵器と称するには、どうみても通常の弾道ミサイルに誘導翼という、ミサイルを操行するための小さな翼が装着されているだけで、航空力学から、極超音速は出ても滑空は難しいようにみえるのですね。

ミサイルは上昇高度は50kmから60kmといい、これは1993年に北朝鮮が初めて実験を行ったノドンミサイルの上昇高度200kmに対してかなり低くなっています。この際ノドンは秒速3000mで落下していますので、音速は秒速340m、つまりマッハ8.8を発揮しています。つまり今回北朝鮮が実験したものは低伸した弾道をマッハ10発揮した、と云えます。

火星12型弾道ミサイル、北朝鮮がロフテッド軌道という非常に高い高度まで上昇して速度を稼ぐ方式の実験を行った事で知られるミサイルですが、こちらは射程1000kmに抑えてその分高度を稼いだ場合の速度は秒速4500mとなっていますので、これでマッハ13.23となります。そして迎撃技術として、イージス艦に搭載されるスタンダードSM-3について。

スタンダードSM-3は初期型のSM-3block1Aで秒速4000m、つまりマッハ11.76までを想定して開発されています、少し足りないと思われるかもしれませんがこれは2006年のミサイル、現在はblockⅡAという第四世代のものが開発され迎撃能力は強化されています、大量の予算を投入しているミサイル防衛技術は、脅威に応じて進化しているということです。

ツィルコンミサイルなど実用化された極超音速滑空兵器は、ここで之ノ字軌道といいますか、ジグザグにサーフボードが大波上を蛇行するような機動が可能で、これによりミサイル防衛システムの迎撃を回避して目標に到達する事が可能となりますが、単に弾道ミサイルへ安定翼を装着しただけのものでは、蛇行する際に速度を下げなければ分解してしまう。

対艦弾道ミサイル、誘導翼を装着した弾道ミサイルには中国が対艦弾道ミサイルとして開発している東風26型等が挙げられますが、問題は弾道ミサイルは落下する際に非常に高い速度を発揮するものの、その速度では誘導が出来ないという。これは新幹線が高速でカーブを曲がれないのと同じといえるでしょう、低速ならば豊川から浜松まで交差点を曲がる。

終末軌道、対艦弾道ミサイルが拘束を破棄して航空母艦などを狙う際に航空母艦は動いていますので大凡の位置に向けて発射された弾道ミサイルが命中に向けて最後の誘導を行う際、この終末誘導の際に減速するのが難点で、速度が低下するならばイージス艦に迎撃されてしまいます。故にロケット型を捨てサーフボード状となったのが極超音速滑空兵器だ。

極超音速滑空兵器はもう一つ、弾道ミサイルとは別のものである為に弾道を描いて高高度まで上昇する必要はなく、これが攻撃を受ける側としては発見しにくい、という迎撃難易度を高める効果をもたらすのですが、今回も防衛省に探知されました、60kmまで上昇するのですから日本のレーダーサイトからも水平線上に飛翔したミサイルは探知出来た訳です。

岸防衛大臣は記者会見において、記者質問の北朝鮮が発射したものは弾道ミサイルではなく極超音速滑空兵器ではないのか、という問いに対して、極超音速滑空兵器の定義は明確ではなく弾道ミサイルであると認識している、こう答えました。要するに日本は日本、という格好いい応えにも映るのですが、大前提として低伸弾道の弾道弾ともいえるのですね。

低伸弾道の弾道弾、この利点はロフテッド軌道を用いた場合には落下速度は稼げるものの発射から命中まで火星12型で40分前後要していますので、迎撃を行う側としては準備の猶予時間を与える事となります、しかし、低伸弾道を執るならば50kmの上昇ならば1000kmまで上昇する火星12型よりは発見されにくく、対応の暇も与えない利点がある。

北朝鮮の弾道ミサイルは日本の視点から見れば脅威です、それは使用され得るミサイルと云う意味で脅威ですし、また北朝鮮は航空戦力や海軍戦力、勿論陸軍戦力でも日本海を超える事は出来ませんが弾道ミサイルは到達するという脅威がある、そしてその戦力を邦人拉致事案という厳然たる敵対行為を平時に、しかも日本領域内で行ったという背景がある。

極超音速滑空兵器、しかし、北朝鮮が極超音速滑空兵器を装備しているという認識は、なにしろロシアが完成させたツィルコンミサイルという洗練された性能、中国も先行して大量に軍事パレードに参加させている東風17型というものに対して、北朝鮮が実験したものは形状から及ばず、低伸弾道の弾道弾という認識を超えた認識は過大評価といえるもの。

脅威には違いありませんが、過度に脅威を喧伝する事は防衛力整備の根幹を見失う事となります、そして北朝鮮は凄い兵器を持っているので核兵器保有も認めざるを得ない、という誤った認識にも進みかねません。ですから、低伸弾道の弾道弾と極超音速滑空兵器の違いは明確としなければ、無知につけ込む脅威論の肥大化に繋がるのでは、と思うのですね。
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