■ロシア軍の戦力投射能力
日本の防衛、南西方面ばかり見ていると北の現状を忘れがちになってしまうように危惧するところ。
カザフスタン情勢の急変をみまして。ロシア軍の緊急展開能力は今なお非常に高い水準に有り、オホーツク海を隔ててロシアと隣接する日本としても、勿論今日明日に着上陸と云う蓋然性は低いものではあるのですが、近年特に中国の脅威が強く認識される中にあって北方の防衛というものも忘れることなく一定以上の水準を維持する必要を再確認します。
カザフ、最大都市で衝突続く ロシア主導部隊が到着。こうした報道が在りましたのが7日、まだ一週間を経ていません。カザフスタンでの燃料高騰への抗議デモが大規模な暴動に発展し、カザフ政府がロシアへ軍事支援要請を行った事が報じられたものの、政府庁舎襲撃などの情報も、メディア規制が北朝鮮並に厳しい同国では情報が正確に伝わりません。
ロシア軍の軍事介入、カザフスタンは資源国であり中国の一帯一路政策による大規模な投資もあり、典型的な開発独裁国家がソ連崩壊後の旧ソ連構成国に出現した為の奇妙な安定という情勢があったのですが、ロシア軍の介入により1968年のプラハの春や1956年のハンガリー暴動、ソ連末期のバルト三国へのでも武力弾圧のような状況を危惧していました。
状況は全国で安定した。驚いたのはロシア軍第一陣到着からわずか二日後に、カザフスタンのトカエフ大統領が事態終息を宣言し始めた事です。それでは小規模な暴動であったのかと問われれば、“明確な攻撃計画、周到な連携、万全な戦闘準備”“2万人の無法者”“相当数の外国人を含む5800人が取り調べのため拘束”カザフスタン大統領府が発表している。
カザフスタン大統領府の発表は“100以上の企業や銀行が襲撃や略奪の被害を受け400台以上の車両が破壊”という、これも大統領府発表だけでありファクトチェックが難しいものですが、日本時間7日0709時カザフスタンアルマトイ発のAFP電として報道され、日本の西成暴動のような規模とは異なる、かなり大規模な武力鎮圧を含むものとわかります。
ロシア軍緊急展開。この素早い鎮圧にはロシア軍の緊急展開があったようなのですが、この展開速度が尋常ではない規模であったようなのです。ロシア連邦軍には陸軍に当る地上軍とは別に緊急展開部隊だけを集めた空挺軍というものがありまして、もともとソ連時代から空挺作戦を重視していた事もあり空輸による緊急展開能力は高い水準にあったのだが。
CSTO集団安全保障条約機構の一員として展開したロシア軍は2000名以上とロシア外務省が発表しています。2000名といいますと単純に考えればボーイング777では数機分、と思われるかもしれませんが、観光旅行に行くのではなく装甲車を含む部隊を、その装甲車両の整備基盤や補給基盤共々派遣するのですから、部隊として2000名を送るのは大事という。
第一波はIl-76戦域輸送機9機から構成され、アルマトイ飛行場に展開したのですが、ロシア航空宇宙軍はIl-76戦域輸送機が70機とAn-124戦略輸送機5機を動員し、最大20ソーティ、こうした保有する航空輸送力を総動員する形でロシア本土から隣国カザフスタンのアルマトイまで、2000名の部隊を装備や補給基盤共々に非常に短期間で空輸しました。
ウクライナ国境にロシア軍は10万規模の地上部隊を展開させ、軍事侵攻も辞さない圧力を加えていますが、今回のCSTO集団安全保障条約機構カザフスタン介入はウクライナ国境周辺のロシア軍を維持したままの介入となっており、これは二方面作戦と云い得るほどの軍事行動といえました。ただ、ロシア軍のカザフスタンでの行動は今のところ不明ですが。
撤収開始。ロシア外務省によればロシア軍は13日より撤収を開始し、各部隊は駐屯地への移動へ輸送機に搭乗を開始した、としており介入は一週間と経ずして任務を完了させています。そして今回の即応性の高さは冷戦時代の自動車化狙撃連隊などの重厚で強大だが鈍重である作戦単位から、大隊戦術群という小回りの利く作戦単位への転換を示しています。
航空宇宙軍の輸送機を効果的に動員しての迅速な展開は、初動の遅れが事態を悪化させるというアフガニスタン侵攻の際に反省の裏返しでもありますし、全く予期できない状況にも即応して戦力投射を行う能力は過去のチェチェン紛争介入よりもロシア軍の即応能力が向上していることの裏返しと云えます。しかしそれ以上に、この介入は陸軍改編の成果だ。
BTG大隊戦術群、ロシア地上軍は一部の例外的な師団を除き作戦単位の基本を旅団としています、そして旅団隷下の作戦単位を大隊戦術群と置換えていますが、これは1990年代にソ連崩壊を契機とする地域紛争の旧ソ連地域での続発を背景に自己完結型の整備補給基盤を有する大隊という作戦単位への転換が地域紛争の大規模化を抑止するとの認識が背景に。
旅団から分遣を念頭とする。BTG大隊戦術群は自己完結型の兵站基盤を有するという点について、これは師団から旅団への作戦単位の縮小という予算削減陸軍縮小の方便としての単純なコンパクト化ではなく、分遣隊の形で旅団支援からはるか離れた遠隔地への展開を想定している点が特色で、まさに今回のカザフスタン介入は想定した事態といえましょう。
NATOとロシアとの対立、このカザフスタン騒乱を背景にウクライナ国境での緊張を巡るロシアとNATOの緊張緩和への模索とロシアの強硬意見が対立状態となっていますが、NATOでは冷戦時代のワルシャワ条約機構加盟国のNATO新規加盟国を除き、例えばドイツなどは冷戦後、重戦力の縮小を徹底し行った為、現在防衛力の再編成に大わらわです。
日本の場合は、北日本の防衛についてそれ程縮小していませんが、陸上自衛隊の機械化装備は北朝鮮ミサイル脅威を受け予算をミサイル防衛に転換、この20年間、重装備やヘリコプターが深刻な縮小に見舞われています、そして人員も近年南西方面の防衛正面へ転用を続けており、空洞化が進んでいます。今一度日本はロシアを正面から見るべきでしょう。
北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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日本の防衛、南西方面ばかり見ていると北の現状を忘れがちになってしまうように危惧するところ。
カザフスタン情勢の急変をみまして。ロシア軍の緊急展開能力は今なお非常に高い水準に有り、オホーツク海を隔ててロシアと隣接する日本としても、勿論今日明日に着上陸と云う蓋然性は低いものではあるのですが、近年特に中国の脅威が強く認識される中にあって北方の防衛というものも忘れることなく一定以上の水準を維持する必要を再確認します。
カザフ、最大都市で衝突続く ロシア主導部隊が到着。こうした報道が在りましたのが7日、まだ一週間を経ていません。カザフスタンでの燃料高騰への抗議デモが大規模な暴動に発展し、カザフ政府がロシアへ軍事支援要請を行った事が報じられたものの、政府庁舎襲撃などの情報も、メディア規制が北朝鮮並に厳しい同国では情報が正確に伝わりません。
ロシア軍の軍事介入、カザフスタンは資源国であり中国の一帯一路政策による大規模な投資もあり、典型的な開発独裁国家がソ連崩壊後の旧ソ連構成国に出現した為の奇妙な安定という情勢があったのですが、ロシア軍の介入により1968年のプラハの春や1956年のハンガリー暴動、ソ連末期のバルト三国へのでも武力弾圧のような状況を危惧していました。
状況は全国で安定した。驚いたのはロシア軍第一陣到着からわずか二日後に、カザフスタンのトカエフ大統領が事態終息を宣言し始めた事です。それでは小規模な暴動であったのかと問われれば、“明確な攻撃計画、周到な連携、万全な戦闘準備”“2万人の無法者”“相当数の外国人を含む5800人が取り調べのため拘束”カザフスタン大統領府が発表している。
カザフスタン大統領府の発表は“100以上の企業や銀行が襲撃や略奪の被害を受け400台以上の車両が破壊”という、これも大統領府発表だけでありファクトチェックが難しいものですが、日本時間7日0709時カザフスタンアルマトイ発のAFP電として報道され、日本の西成暴動のような規模とは異なる、かなり大規模な武力鎮圧を含むものとわかります。
ロシア軍緊急展開。この素早い鎮圧にはロシア軍の緊急展開があったようなのですが、この展開速度が尋常ではない規模であったようなのです。ロシア連邦軍には陸軍に当る地上軍とは別に緊急展開部隊だけを集めた空挺軍というものがありまして、もともとソ連時代から空挺作戦を重視していた事もあり空輸による緊急展開能力は高い水準にあったのだが。
CSTO集団安全保障条約機構の一員として展開したロシア軍は2000名以上とロシア外務省が発表しています。2000名といいますと単純に考えればボーイング777では数機分、と思われるかもしれませんが、観光旅行に行くのではなく装甲車を含む部隊を、その装甲車両の整備基盤や補給基盤共々派遣するのですから、部隊として2000名を送るのは大事という。
第一波はIl-76戦域輸送機9機から構成され、アルマトイ飛行場に展開したのですが、ロシア航空宇宙軍はIl-76戦域輸送機が70機とAn-124戦略輸送機5機を動員し、最大20ソーティ、こうした保有する航空輸送力を総動員する形でロシア本土から隣国カザフスタンのアルマトイまで、2000名の部隊を装備や補給基盤共々に非常に短期間で空輸しました。
ウクライナ国境にロシア軍は10万規模の地上部隊を展開させ、軍事侵攻も辞さない圧力を加えていますが、今回のCSTO集団安全保障条約機構カザフスタン介入はウクライナ国境周辺のロシア軍を維持したままの介入となっており、これは二方面作戦と云い得るほどの軍事行動といえました。ただ、ロシア軍のカザフスタンでの行動は今のところ不明ですが。
撤収開始。ロシア外務省によればロシア軍は13日より撤収を開始し、各部隊は駐屯地への移動へ輸送機に搭乗を開始した、としており介入は一週間と経ずして任務を完了させています。そして今回の即応性の高さは冷戦時代の自動車化狙撃連隊などの重厚で強大だが鈍重である作戦単位から、大隊戦術群という小回りの利く作戦単位への転換を示しています。
航空宇宙軍の輸送機を効果的に動員しての迅速な展開は、初動の遅れが事態を悪化させるというアフガニスタン侵攻の際に反省の裏返しでもありますし、全く予期できない状況にも即応して戦力投射を行う能力は過去のチェチェン紛争介入よりもロシア軍の即応能力が向上していることの裏返しと云えます。しかしそれ以上に、この介入は陸軍改編の成果だ。
BTG大隊戦術群、ロシア地上軍は一部の例外的な師団を除き作戦単位の基本を旅団としています、そして旅団隷下の作戦単位を大隊戦術群と置換えていますが、これは1990年代にソ連崩壊を契機とする地域紛争の旧ソ連地域での続発を背景に自己完結型の整備補給基盤を有する大隊という作戦単位への転換が地域紛争の大規模化を抑止するとの認識が背景に。
旅団から分遣を念頭とする。BTG大隊戦術群は自己完結型の兵站基盤を有するという点について、これは師団から旅団への作戦単位の縮小という予算削減陸軍縮小の方便としての単純なコンパクト化ではなく、分遣隊の形で旅団支援からはるか離れた遠隔地への展開を想定している点が特色で、まさに今回のカザフスタン介入は想定した事態といえましょう。
NATOとロシアとの対立、このカザフスタン騒乱を背景にウクライナ国境での緊張を巡るロシアとNATOの緊張緩和への模索とロシアの強硬意見が対立状態となっていますが、NATOでは冷戦時代のワルシャワ条約機構加盟国のNATO新規加盟国を除き、例えばドイツなどは冷戦後、重戦力の縮小を徹底し行った為、現在防衛力の再編成に大わらわです。
日本の場合は、北日本の防衛についてそれ程縮小していませんが、陸上自衛隊の機械化装備は北朝鮮ミサイル脅威を受け予算をミサイル防衛に転換、この20年間、重装備やヘリコプターが深刻な縮小に見舞われています、そして人員も近年南西方面の防衛正面へ転用を続けており、空洞化が進んでいます。今一度日本はロシアを正面から見るべきでしょう。
北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
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