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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

特集【第24回参議院選挙と安全保障】第四回・・・野党反安保法協力は可能か,社民党の防衛政策

2016-06-28 23:33:01 | 北大路機関特別企画
■社民党,集団安保機構国連重視
 集団的自衛権否定の民進党と共産党及び社民党は安全保障問題で意見集約と合意形成できるのか、非常に大きな関心事です。この上で今回は社民党の防衛政策を見てみましょう、今は政党要件で最小ですが、日本社会党を前身として非常に長い歴史を持つ政党です。

 社民党の安全保障政策について、そのHP参院選公約を見ますと、以下の通りのものが列挙されています。平和創造基本法、自国領周辺で侵略者の攻撃を退けることに徹する「専守防衛」、自衛隊員の安全を確保、非軍事のあらゆる手段、核兵器国による消極的安全保証を再確認、名護市の辺野古新基地建設に反対、駐沖縄海兵隊の全面撤退、日米地位協定の全面改正、自衛隊の「オスプレイ」導入にも反対、など、どれも具体的ですが単なる細分案の列挙に過ぎず、具体的な基盤となる防衛戦略がありません。

 社民党の防衛政策は、今回の参院選では政権公約に当たるものが示されていません。一方、社会党時代に幾度も引用した防衛政策が、坂本義和東大教授が助教授時代の1959年に発表した論文“中立日本の防衛構想”に記された国連警察軍の日本駐留、というものでした。自衛隊は違憲であり解体し国連警察軍の駐留を受ける、というもの。その後社会党は防衛政策を実際に担う機会が訪れたのは1994年の村山内閣で、この際に社会党は自衛隊の合憲を宣言していますが、それに合わせた国防政策は、前例踏襲を維持し、村山改造内閣時代には新たにゴラン高原PKOへ自衛隊を派遣しています。すると、改称し誕生した社民党も広義からは自衛隊PKO派遣を内閣の首班として推進した立場となります。

 国連警察軍、これに当たる組織は実現しませんでした。具体的には朝鮮戦争において朝鮮国連軍、として創設されたものがあります。ただ、常設軍を維持するには至っていません、司令部機構だけが維持されています。日本には国連軍指定設備があります。横田基地に朝鮮国連軍後方司令部が置かれていまして、元々キャンプ座間に駐屯していたものが移駐しました。更に、キャンプ座間、横須賀海軍基地、佐世保海軍基地、横田基地、嘉手納基地、普天間基地、沖縄ホワイトビーチ地区、以上の七カ所が国連軍指定設備となっています。

 一国安全保障という理念は国連加盟国としての責務と合致しません、義務を果たさず利益だけを得ようという施策はあたかもEU離脱のイギリスが経済的恩恵だけ得ようとして全欧州からの批判を集める構図と同じです。社民党は2013年の総選挙公約で“軍事同盟依存から多国間の安全保障体制構築へ転換”を呈示していますので、集団的自衛権を容認している事が受け取れます。その上で、国連軍に日本の防衛を充てる、という事は現段階では常設国連軍制度が無く、更に常備軍と共に安全保障理事会のもとに国連憲章47条が規定している軍事参謀委員会も設置されていません。仮に日本が軍事政策を国連に委ねるならば、安保理改革を行う必要が生じまして、また国連憲章には加盟国の協力義務が明記されていますので、経済力に応じた国連軍の派遣要請に対応できる海外派遣用緊急展開軍を日本が編成しなければなりません。

 2013年の公約では“国連中心の外交政策をすすめ、非軍事面の国際協力を推進”としていまして、非軍事面での協力を掲げていますが、推進するだけで限定とは明示していません、現在のところ平和維持任務は国連憲章上、軍事任務と非軍事任務を明確に分けていません、これは軍事と安全保障の日本語における定義と国内法における定義、国連憲章における定義の境界線が不明確となっており、軍事と非軍事を明確に分ける必要性が無かった故ではありますが、自衛隊が派遣する任務であっても非軍事任務である、と決議された場合、展開せざるを得ません。

 その上で結果として戦闘に巻き込まれた場合、集団自決という選択肢はありませんので、必要な措置を取る事となります。このように実は公約などに消極的に明示しない事で社民党の安全保障政策は非常に不透明な要素を有しているわけです。公約では“自衛隊を縮小・改編します”としています、ただ、国連警察軍という国連軍へ一部改編とも受け取れるでしょう。実際、社会党時代の代議士経験者の方に、平和とは長期視野で解決するとの施策は紛争地へスローガン以外の停戦措置を排除し静観した上で戦闘員が文民を巻き込む大規模戦闘の連続により死に絶えるまで介入しない事か、と問うてみますと、違う、と。

 即ち可能な選択肢を選び静観するだけではない、という声がありました。日米地位協定、という単語はよく使われるものですが、これを外国軍地位協定、と用いず日米地位協定と限定しているのは、地位協定が日米地位協定以外の諸国と結ばれている為です。もともと、地位協定は司法制度が異なる国へ外国軍が駐屯する際に結ばれるもので、各国間の国内法を共通化しない限り無くなりません、そして国際人権規約B規約に加入していない日本の司法制度は必ずしも先進国において先進的な地位を占めている訳ではありませんし、沖縄での在日米軍家族への基地ゲート付近での罵声などヘイトスピーチを取り締まれない様子がアメリカでも報じられています。現在日本国内には国連軍駐留を前提としたイギリス、フランス、オーストラリア、ニュージーランド、フィリピン、タイ、韓国、トルコ、以上の諸国との間で国連軍地位協定が締結されています。この法基盤を元に国連軍を配置させる、という方策は不可能では、ないかもしれません。しかし、これは余りに長期的な理論を考えたもので、全軍事力の世界同時放棄の夢のようで、実現は武器の定義を変えるか戦争の定義をかえない限り、相当先まで実現できません、しかし、夢を語るならば可能です、ですが夢は夢であり公約とはなり得ない。

 社会党が引用した時代は自衛隊発足草創期の論文、自衛隊の装備は第二次世界大戦中のアメリカ軍軽歩兵部隊を念頭とした編成でしたので派遣要請をそもそも受ける程経済成長を遂げる事は想定していませんでした。ただ、国連軍という制度そのものは日本において、国連軍在日大使館付駐在武官合同会議も定期的に実施されていまして、社民党が国連重視を掲げるならば、国連軍への協力推進により防衛政策の一端を担う事は出来るかもしれません、ただ、国連は集団安全保障機関ですので必然的に集団的自衛権を名目上否認したとしても実態的には容認している事となり、このあたりで合意形成が難しいでしょう。

 上記の理想論を実現するには非常に大きな時間を要しますが、冒頭の安全保障政策、具体的に可能か、と問われますと細部が公約に明示されていませんので一概にはいえませんが、不可能ではありません。平和創造基本法は名称だけですので安全保障関連法制を名称を変えると共に自衛隊の必要最小限度の規模は既に防衛計画の大綱に明示されていますので着々と整備する事で達成できるでしょう。自衛隊員の安全を確保、装備の充実のほかありません、国土戦を想定する以上、引くべき地積は全て同胞の居住地です、この為には重装備の充実と戦術火力の強化が挙げられるでしょう。

 自国領周辺で侵略者の攻撃を退けることに徹する「専守防衛」、これは冷戦時代の規模まで自衛隊を拡大改編する事により達成できます、自衛隊の規模を縮小しようにも脅威が増大して位ならば逆に拡大しなければ仮称となった防衛力が侵略する外国軍で満たされる事となりかねません。更に国土域外での抑止ではなく着上陸を待って防衛任務を展開すればそれを振り払うだけの必要な防衛力が増大する事は当然で、隣家の蝋燭が倒れた時点ならば窓をけ破り消火器にて消火可能ですが、自宅に燃え移ってから消火を開始すれば本格的な消防車が必要となる、防衛線を縮小する事で防衛力の最低量は増大、ということ。非軍事のあらゆる手段、社民党は非軍事による効果的な抑止力手段について真剣に討議してきませんでしたが、民間軍事会社による対処や電子偵察機による情報収集と海洋法執行機関による海上臨検強化や、準軍隊に定義される法執行機関執行部隊の増強など、選択肢は意外と広いのです。

 核兵器国による消極的安全保証を再確認、これは核抑止力を黙示的に認めた形です。名護市の辺野古新基地建設に反対、これは那覇空港拡張工事に合わせ拡張部分を米軍基地へ転用する事により実現します。駐沖縄海兵隊の全面撤退、これは現在の第3改編師団から、陸軍緊急展開部隊としてハワイの第25軽歩兵師団や本土の第101空中機動師団や第82空挺師団への交代を真剣に要請する事は可能です。日米地位協定の全面改正、これは基本的に同じ内容で国連と結ぶ国連軍地位協定に移管する事で対応は可能です。自衛隊のオスプレイ導入にも反対、総務省等に移管し政府専用機や防災用に用いると共にMV-22以外の空中機動手段を充分な数、MV-22を17機導入する費用でCH-47JAを34機取得可能ですので沖縄と九州と中部方面隊に空中機動部隊を創設する事で代替できるでしょう。

 重要なのは、防衛問題へ真剣に取り組み、調整し且つ現代戦闘を認識し、その上で国家経済維持と国民の人権、平和的生存権だけではなく財産権から幸福追求権までを蔑にしない防衛観を構築できていない、という事です。政治家を選定する選挙ですので、夢想家を選ぶ人気投票大会ではない、この、政治を志す、という命題に取り組まず、具体的政策を調整の上で実現し、段階を踏んで大きな政治目標の具現化を目指すという政治プロセスに向き合えないようでは、政党そのものの意義がなくなるのではないか、非常に危惧するところです。

北大路機関:はるな くらま
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コメント (2)
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