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アメリカのリスク 大統領選にみる変容と国際公序再構築【4】 海洋安全保障と自由貿易

2016-06-07 22:37:01 | 国際・政治
■海洋安全保障と自由貿易
北大路機関広報、来週6月14日、GOOブログサービスにおいて0000時から1200時までメンテナンスが実施され、Weblog北大路機関の閲覧やコメント投稿等が行えなくなります、ご了承ください。

最初にいつもと一風転じた写真から来週のメンテナンスを提示しましたが本題について。アメリカのリスク 大統領選にみる変容と国際公序再構築、ポピュリズムを基調とした政策を掲げ大統領選での発言を強めるトランプ氏を支持する多くのアメリカ与論、しかし、海洋安全保障と自由貿易の連関性を考慮すれば、アメリカ第一主義を掲げつつ安全保障分野からの撤収の示唆は逆効果と云わざるを得ません。

アジア地域の人口は30億を越え、全世界人口の半分に当たり、環太平洋地域は地球の海洋面積の半分を締めます、この地域の安定はアメリカが自由貿易を国際公序として定め世界との交易により繁栄するとの建国以来の指針を維持する限り、この地域の安定はアメリカにとり不可欠です。

今回、トランプ氏の掲げる政策を支持するアメリカ国民は、この国際公序に参画する事こそがアメリカの反映の基礎部分であることを完全に忘失しており、この支持層の教養からの逃避というものが問題の背景にあるともいえるでしょう。ここで大きな不確定要素は、トランプ氏の経済観とアジア観の総和です。

アジア地域での自由貿易の促進は、トランプ氏が経済に関する保護主義を掲げ、更に環太平洋包括自由貿易協定TPPの多国間合意を反故とする指針を示しています、これが公約となるかについては現段階では未知数ですが、少なくとも日本産自動車への関税の大幅引き上げを、アメリカ国内において流通する日本車は日本産の自動車ではなくアメリカ国内の日本メーカーが製造しているアメリカ製日本ブランド車が多く増大してきました。

これは日本メーカーが年々現地化を指針とした多国籍企業化を進めてきました所以でもあるのですが実施しており、加えてアメリカ製自動車の日本への輸入に際しては既に関税を全面撤廃しています、しかし、トランプ氏は農産物に我が国が関税を掛けている為、これを口実として農産物への関税と同程度の関税を日本車に対しかけるとの施策を提示している訳です。

しかし、自由貿易とは机上や電子商取引によってのみ独立して完成するものではなく、実際にモノを運ばなければなりません、特に農産物など一次産品はメール添付や3Dプリンターにより電送する事は出来ず、産地から太平洋を経て日本本土まで運ばなければならないのです。国際物流の円滑な維持に依存しています、残念ながら北米と日本本土を結ぶ橋梁やトンネルは現在の技術では不可能でしょう。

海上輸送、太平洋を越えての物流には海洋の航行自由確保が非常に重要となってくるわけです。ここでどうしても日米の安全保障協力と討議の軸が連関してくるのは自明といえるでしょう、何故ならば日本のシーレーンは石油輸送一つとって中東から日本本土へ11000km、環太平洋シーレーンは北方航路を経由したとしてもアリューシャン諸島まで3700kmの長距離となります。

そこで西太平洋全域とインド洋の制海権を自衛隊が担えるような、かの空母信濃と同程度の、つまりフォレスタル級空母と同規模のという事ですが、航空母艦、もしくは航空護衛艦を建造し常時インド洋と西太平洋南西海域へ一隻を遊弋させることが出来たならば、ローテーションを考えた場合5隻で対応出来る事となりますが。

しかし経済的政治的に、これは現実的な施策とは言い切れません、日本が制海権を保持する事は国際的な正当性と正統性を併せて勝ち得るのか、という視点、確実にアメリカ海軍の行動海域を別の国家アクターにより転換するという試みは日本以外の国への転換、その中には海洋自由原則を必ずしも共有しない国が含まれる可能性があり、高い確率で将来の戦争へ危険を及ぼす事となります。

この命題、例えば食糧自給率が三割程度の国が国運を掛けて海軍力を高く維持し戦争を乗り切った事例が過去にあります、イギリスが第二次世界大戦当時に食料自給率が30%程度しかなく、食糧輸入に海路を重視した為、緒戦におけるドイツ通商破壊、Uボートと通商破壊艦に磁気機雷敷設を海軍力で押し切り、維持しています。

こうした実例はあるにはあるのですが、戦後は国内の食料自給率を高めるべく農業政策を根本的に転換せざるを得なくなりました。このように海洋自由原則無しには自由貿易減速は確立し得ないものであり、アメリカがこの役割を放棄するならば、地域的であってもこの海洋自由原則を継続的に保持する海軍力を有する国が対応しなければなりません。

この現実性と実現性が両立できない場合、単純に例えば食糧自給一つとっても有事の際に輸入に依存し自国内の食糧生産が途絶し国民が餓死しないよう、国内に農業生産基盤を構築し生産、自給体制を確立することで持久体制に昇華させる必要が出てきます、これこそが重要要素であるといえましょう。

アメリカがこの事実を無視し、海洋航行原則を棚上げする形で自由貿易か保護主義か、という究極の選択肢を突き付けるならば、世界的な保護主義への回帰運動が発生する可能性を無視すべきではありません。また、日本が自国のシーレーンを維持できたとして、日本の防衛力は長大なシーレーン全てを守る事は出来ません。またアメリカも一国では出来ず日本をはじめ価値観を共有する諸国と協同し、維持してきました。

もちろん、海洋安全保障が自由貿易を担保しているという原則ですが、トランプ氏の政策は保護貿易の視点から、例えば関税引き上げやTPP枠組脱退等を示唆している現状を根拠に、視てとる事が出来るのですが、貿易政策は保護貿易を原点として、世界の海上交通の閉塞化を期待しているほどではない、と考えます。しかし現在の安全保障政策は保護貿易からアメリカ一国への経済的鎖国体制へ意図せざる場合を含め志向している実情があります。

冒頭に記した30億の人口を抱えるアジア諸国の多くは、海洋占有を掲げ公海上に人工島を構築し戦力投射を進めると共に周辺国の島々を武力制圧し自国へ割譲する状況を克服できません、すると、30億の人口を抱える地域での自由貿易が阻害される事となり、アメリカが仮に軍事力を撤退させ一方で自由貿易を進めようとした場合でも、購入を希望する国まで運ぶことが簡単に妨害される事となるでしょう。

北大路機関:はるな くらま
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