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冷戦後最大規模!NATOアナコンダ2016演習、東からの圧力に対しポーランドにて展開中

2016-06-11 21:44:00 | 防衛・安全保障
■我が国が見習うべき軍事演習
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 アナコンダ2016演習はポーランドにおいて実施されるNATO北大西洋条約機構が在欧米軍を主力として実施する多国間演習で、演習では域内への大規模な部隊の展開及び防衛作戦の展開と作戦後方支援基盤維持能力を実証するとともに、この行動を通じ抑止力を誇示するものです。この演習へはアメリカおよびイギリス、トルコを筆頭にアルバニア、ブルガリア、カナダ、クロアチア、チェコ共和国、エストニア、フィンランド、ドイツ、ハンガリー、ラトビア、リトアニア、マケドニア、ポーランド、ルーマニア、スロバキア、スロベニア、スペイン、スウェーデンを含む24カ国以上から31000名が参加します。

 多国間演習の在り方については我が国も学ぶべき点が多く、今回この視点について少し考えてみましょう。アナコンダ2016演習はノルマンディー上陸記念日に当たる6月6日、ポーランドの首都ワルシャワの国防大学校において開会式を迎え、訓練統裁官にはポーランドのアントニマチワズ国防大臣、アメリカ陸軍マークミリー陸軍大将が当たると共に訓練参加部隊はアメリカ在欧米軍司令官ベンホッジス中将、ポーランド陸軍作戦総監マレクトマズゾチ中将と訓練参加国である24ヶ国の部隊指揮官が整列、冷戦後ウクライナ危機を契機として年々高まるロシアからの軍事圧力へ対抗するための欧州諸国が示す決意を示すべく、編制完結式及び観閲行進を実施しました。

 今回のアナコンダ2016は第六回目となるアナコンダ演習となりまる。我が国でも自衛隊が例年日米合同演習を実施しますが、こちらの方が規模が大きく、演習は6月17日まで実施予定です。最大の参加国はポーランド軍と米軍で、特に米軍は、第3歩兵師団第1機甲旅団戦闘団、第2騎兵連隊、第4歩兵師団司令部、第173空挺旅団、第10航空連隊、ミサイル防衛司令部、第12戦闘航空旅団、第19戦域戦闘支援群支隊、第66軍事情報旅団、第30衛生旅団、共同多国籍訓練コマンド、コロラド州兵、イリノイ州兵、などが参加し、加えてNATO加盟国、欧州連合加盟国、その他の諸国が参加しています。

 自衛隊が実施するものも含め軍事演習の役割には検証と予行という意味合いがあります、もちろんセレモニーのような形として多国間関係が良好だという実情を脅威対象の諸国に対し誇示するものや、親善訓練として信頼醸成や二国間の友好関係を強化するという目的で実施されるものも当然ありますが、平時訓練・仮想想定・実働実演・能力解釈・固定と維持、という一連の流れの中で実際の有事における作戦運用、作戦の画定とその遂行能力の検証、という要素がある事は理解すべきでしょう。

 平時訓練・仮想想定・実働実演・能力解釈・固定と維持、とは平時訓練として小規模な基礎訓練及び機能別訓練、仮想想定として脅威を実際に想定し求められる対処能力の数値画定及び必要な火力と機動力の検証、実働実演として実際の演習を行い兵站や集結と火力展開等への机上理論の実証、能力解釈として実動演習を通じ確認される諸問題の明確化と部隊編制や兵站計画への反映、固定と維持として平時訓練や基礎訓練体系への問題点の解決策反映、という流れがある。

 アナコンダ2016を含む、軍事演習は平時訓練・仮想想定・実働実演・能力解釈・固定と維持、の流れの中では仮想想定の正しさの確認と問題点の洗い出し、実働実演として計画通りに実際に動かす事が出来るかと動くことが出来るかの部隊における検証、能力解釈の要素を導き出す、というものがあります。平時訓練・仮想想定・実働実演・能力解釈・固定と維持、これらは循環しているものでして、仮想想定・実働実演・能力解釈、この部分から異なる状況の総和、これを戦闘能力として画定します。部分から異なる状況の総和とは一種数学の公式にあたるもので、この戦闘能力に則り、作戦を有事と平時に画定させる、ということ。

 作戦とは仮想想定・実働実演・能力解釈から異なる状況の総和を導き出すものですので、つまり、この能力を点検する事で今後、ポーランドにおけるNATOの共同作戦を展開する場合の様々な問題を洗い出し、次の訓練までに訓練参加部隊や機能別訓練の体系へ反映させ、新しい能力を付与させるという構図です。陸軍の実動演習は、国ごとに異なる道路法制、物資集積への各国制度の差異、通信規格から戦術体系、勿論文化的背景に基づく言語の相違に至るまで数多く、負担もそれなりに大きなものがあります、しかし、それを差し引いても実施すべき意味は大きいといえるでしょう。

 この種の演習ですが、図上演習だけでは得られない部分が多くあります。一方、我が国では憲法上の制約から多国間演習に参加する場合、多国間演習の機会を利用し日米合同演習を実施しているという非常に難し解釈を行い参画してきました。更に陸上での訓練には演習場や平時における弾薬輸送などの制約が数多くあり結果的に国土防衛に際しては同盟国の陸上防衛力における欠缺部分への検証も十分行われているとは言えません。

 また、軍事行動における協力関係と実際の法的制約の問題は大きく、実のところ、現段階では平時訓練・仮想想定・実働実演・能力解釈・固定と維持、という流れが法律上位留められていないという事で実施できないのです、これは演習を作戦能力の検証としてとしつつ、その作戦全般を法律が制限している為で、この問題は安全保障協力法整備により多少緩和されましたが、端緒であり充分ではありません。このままでは有事の際には教条主義に陥り軍事合理性の枠外での行動を強いられる可能性がある為、法整備の下での訓練ではなく、法整備へ繋げる検証実験としての研究、その手段としての演習という位置づけ、発想の転換を行うべきともいえるかもしれません。

北大路機関:はるな くらま
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