法律の周辺

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外国政府を提訴できるケースを明確にするための法案提出について

2008-07-19 22:00:51 | Weblog
日本で提訴可能事例を明確化 外国政府相手の裁判 - さきがけ on the Web

 法案提出を後押ししているもののひとつに最判H18.7.21があると思われる。
この訴訟,日本の企業がパキスタン国を相手に準消費貸借契約に係る貸金元本等の支払いを求めたもの。第二小法廷は,昭和3年の古い大審院判例を引いて訴えを却下した原審を破棄。次のように判示し,絶対免除主義ではなく,制限免除主義を採ることを明らかにした。

3 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1) 外国国家に対する民事裁判権免除に関しては,かつては,外国国家は,法廷地国内に所在する不動産に関する訴訟など特別の理由がある場合や,自ら進んで法廷地国の民事裁判権に服する場合を除き,原則として,法廷地国の民事裁判権に服することを免除されるという考え方(いわゆる絶対免除主義)が広く受け入れられ,この考え方を内容とする国際慣習法が存在していたものと解される。しかしながら,国家の活動範囲の拡大等に伴い,国家の行為を主権的行為とそれ以外の私法的ないし業務管理的な行為とに区分し,外国国家の私法的ないし業務管理的な行為についてまで法廷地国の民事裁判権を免除するのは相当でないという考え方(いわゆる制限免除主義)が徐々に広がり,現在では多くの国において,この考え方に基づいて,外国国家に対する民事裁判権免除の範囲が制限されるようになってきている。これに加えて,平成16年12月2日に国際連合第59回総会において採択された「国家及び国家財産の裁判権免除に関する国際連合条約」も,制限免除主義を採用している。このような事情を考慮すると,今日においては,外国国家は主権的行為について法廷地国の民事裁判権に服することを免除される旨の国際慣習法の存在については,これを引き続き肯認することができるものの(最高裁平成11年(オ)第887号,同年(受)第741号同14年4月12日第二小法廷判決・民集56巻4号729頁参照),外国国家は私法的ないし業務管理的な行為についても法廷地国の民事裁判権から免除される旨の国際慣習法はもはや存在しないものというべきである。 そこで,外国国家の私法的ないし業務管理的な行為に対する我が国の民事裁判権の行使について考えるに,外国国家に対する民事裁判権の免除は,国家がそれぞれ独立した主権を有し,互いに平等であることから,相互に主権を尊重するために認められたものであるところ,外国国家の私法的ないし業務管理的な行為については,我が国が民事裁判権を行使したとしても,通常,当該外国国家の主権を侵害するおそれはないものと解されるから,外国国家に対する民事裁判権の免除を認めるべき合理的な理由はないといわなければならない。外国国家の主権を侵害するおそれのない場合にまで外国国家に対する民事裁判権免除を認めることは,外国国家の私法的ないし業務管理的な行為の相手方となった私人に対して,合理的な理由のないまま,司法的救済を一方的に否定するという不公平な結果を招くこととなる。したがって,外国国家は,その私法的ないし業務管理的な行為については,我が国による民事裁判権の行使が当該外国国家の主権を侵害するおそれがあるなど特段の事情がない限り,我が国の民事裁判権から免除されないと解するのが相当である。


記事には,概略,外国政府を相手取った訴訟は主権侵害に当たらない場合に限り認める方針,とあるが,主権的行為か,私法的ないし業務管理的な行為かを区別する基準をいかにするかも論点としてある。この点については,上記最判,行為目的基準説ではなく,行為性質基準説を採用している。
提訴可能事例を明確化ということだが,上記最判は事案の解決に必要な限りで判断を示したもの。提訴可能な「私法的ないし業務管理的な行為」,どのようなものがあげられるか注目される。

なお,記事には,政府は国会に対し国連裁判権免除条約の批准の承認を求める方針とあるが,署名については昨年1月に了している。

判例検索システム 平成18年07月21日 貸金請求事件

外務省 国及びその財産の裁判権からの免除に関する国際連合条約

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