法律の周辺

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除斥期間の効果を制限する特段の事情の有無について

2008-02-01 08:09:21 | Weblog
asahi.com 教諭殺害「時効」,民事は認めず 高裁、男に賠償命令

 東京高裁の判決の詳細はわからないが,民法第724条後段の除斥期間の効果を制限する「特段の事情」に関する判例としては,予防接種禍に係る最判H10.6.12がある。
この最判,「民法七二四条後段の規定は,不法行為による損害賠償請求権の除斥期間を定めたものであり,不法行為による損害賠償を求める訴えが除斥期間の経過後に提起された場合には,裁判所は,当事者からの主張がなくても,除斥期間の経過により右請求権が消滅したものと判断すべきであるから,除斥期間の主張が信義則違反又は権利濫用であるという主張は,主張自体失当であると解すべきである。」とし,除斥期間経過による責任免脱には信義則違反や権利濫用の適用の余地はないとの原則論を維持した。
しかし,この後,「ところで,民法一五八条は・・・」と続ける。以下,その部分。太字は管理人によるもの。

2 ところで,民法一五八条は,時効の期間満了前六箇月内において未成年者又は禁治産者が法定代理人を有しなかったときは,その者が能力者となり又は法定代理人が就職した時から六箇月内は時効は完成しない旨を規定しているところ,その趣旨は,無能力者は法定代理人を有しない場合には時効中断の措置を執ることができないのであるから,無能力者が法定代理人を有しないにもかかわらず時効の完成を認めるのは無能力者に酷であるとして,これを保護するところにあると解される。
 これに対し,民法七二四条後段の規定の趣旨は,前記のとおりであるから,右規定を字義どおりに解すれば,不法行為の被害者が不法行為の時から二〇年を経過する前六箇月内において心神喪失の常況にあるのに後見人を有しない場合には,右二〇年が経過する前に右不法行為による損害賠償請求権を行使することができないまま,右請求権が消滅することとなる。
 しかし,これによれば,その心神喪失の常況が当該不法行為に起因する場合であっても,被害者は,およそ権利行使が不可能であるのに,単に二〇年が経過したということのみをもって一切の権利行使が許されないこととなる反面,心神喪失の原因を与えた加害者は,二〇年の経過によって損害賠償義務を免れる結果となり,著しく正義・公平の理念に反するものといわざるを得ない。そうすると,少なくとも右のような場合にあっては,当該被害者を保護する必要があることは,前記時効の場合と同様であり,その限度で民法七二四条後段の効果を制限することは条理にもかなうというべきである。
 したがって,不法行為の被害者が不法行為の時から二〇年を経過する前六箇月内において右不法行為を原因として心神喪失の常況にあるのに法定代理人を有しなかった場合において,その後当該被害者が禁治産宣告を受け,後見人に就職した者がその時から六箇月内に右損害賠償請求権を行使したなど特段の事情があるときは,民法一五八条の法意に照らし,同法七二四条後段の効果は生じないものと解するのが相当である。


他方,上記多数意見に対して河合裁判官が意見と反対意見を述べている。以下,そのくだり。

 多数意見は,民法七二四条後段の規定は除斥期間を定めたものであり,裁判所は当事者の主張がなくても期間の経過による権利の消滅を判断すべきであるから,除斥期間の主張が信義則違反又は権利濫用であるという主張はそれ自体失当であると判示している。私は,これに賛成することができない。その理由は,次のとおりである。
一 不法行為制度の究極の目的は損害の公平な分担を図ることにあり,公平が同制度の根本理念である(注)。この理念は,損害の分担の当否とその内容すなわち損害賠償請求権の成否とその数額を決する段階においてのみならず,分担の実現すなわち同請求権の実行の段階に至るまで,貫徹されなければならない。
 これを民法七二四条(以下「本条」という。)後段の規定についていうと,不法行為に基づく損害賠償請求権の権利者が右規定の定める期間内に権利を行使しなかったが,その権利の不行使について義務者の側に責むべき事由があり,当該不法行為の内容や結果,双方の社会的・経済的地位や能力,その他当該事案における諸般の事実関係を併せ考慮すると,右期間経過を理由に損害賠償請求権を消滅せしめることが前記公平の理念に反すると認めるべき特段の事情があると判断される場合には,なお同請求権の行使を許すべきである。けだし,右のような特段の事情(以下「前記特段の事情」という。)がある場合にまで,それを顧慮することなく,単に期間経過の一事をもって損害の分担の実現を遮断することは,その限りにおいて,前記不法行為制度の究極の目的を放棄することになるからである。そして,この理は,国家賠償法に基づく損害賠償請求についても,そのまま適用されるべきものである(同法四条)。
注 最高裁昭和三六年(オ)第四一三号同三九年六月二四日第三小法廷判決・民集一八巻五号八七四頁,最高裁昭和四七年(オ)第四五七号同五元年三月二五日第一小法廷判決・民集三〇巻二号一六〇頁,最高裁昭和四九年(オ)第一〇七三号同五一年七月八日第一小法廷判決・民集三〇巻七号六八九頁,最高裁昭和五九年(オ)第三三号同六三年四月二一日第一小法廷判決・民集四二巻四号二四三頁,最高裁昭和六三年(オ)第一三八三号平成三年一〇月二五日第二小法廷判決・民集四五巻七号一一七三頁,最高裁昭和六三年(オ)第一〇九四号平成四年六月二五日第一小法廷判決・民集四六巻四号四〇〇頁等参照


判決は殺害した日からの遅延損害金の支払いも命じている。支払額は1億円を超えるようだ。

判例検索システム 平成10年06月12日 損害賠償


民法の関連条文

(不法行為による損害賠償請求権の期間の制限)
第七百二十四条  不法行為による損害賠償の請求権は,被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないときは,時効によって消滅する。不法行為の時から二十年を経過したときも,同様とする。

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