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取り調べメモ等に係る証拠開示命令について

2007-12-26 22:06:06 | Weblog
時事ドットコム 取り調べメモ開示を命令=「手持ち証拠に限らず」-整理手続きで初判断・最高裁

 犯罪捜査規範第13条には「警察官は,捜査を行うに当り,当該事件の公判の審理に証人として出頭する場合を考慮し,および将来の捜査に資するため,その経過その他参考となるべき事項を明細に記録しておかなければならない。」とある。
本件は,検察官が現に保管していない上記規範に基づき作成された取調べメモ等が証拠開示の対象になるか争われたもの。

 原審である東京高裁は,検察官に対し,請求に係る取調べメモ等の存否及びその開示による弊害を具体的に主張するよう求めたところ,検察官は,証拠開示の対象となる証拠は検察官が現に保管する一件捜査記録中にある証拠に限られとし,その余の事項については釈明の必要なし,と回答していた。

さて,第三小法廷,取調べメモ等の開示を認めた原決定は広島高等裁判所平成18年(く)第90号同年8月25日決定並びに名古屋高等裁判所平成19年(く)第60号同年5月25日決定に反する判断をしたとする検察側の主張につき,次のように判示。

 確かに,所論引用の判例は,刑訴法316条の26第1項の証拠開示命令の対象は,検察官が現に保管している一件捜査記録や証拠物に限られる旨の判断を示したものと解され,したがって,検察官が現に保管している証拠以外の証拠も上記証拠開示命令の対象となるものとし,本件開示請求に係る取調べメモ等の開示を認めた原決定は,所論引用の判例と相反する判断をしたものというべきである。
 3(1) そこで検討すると,公判前整理手続及び期日間整理手続における証拠開示制度は,争点整理と証拠調べを有効かつ効率的に行うためのものであり,このような証拠開示制度の趣旨にかんがみれば,刑訴法316条の26第1項の証拠開示命令の対象となる証拠は,必ずしも検察官が現に保管している証拠に限られず,当該事件の捜査の過程で作成され,又は入手した書面等であって,公務員が職務上現に保管し,かつ,検察官において入手が容易なものを含むと解するのが相当である。
 (2) 公務員がその職務の過程で作成するメモについては,専ら自己が使用するために作成したもので,他に見せたり提出することを全く想定していないものがあることは所論のとおりであり,これを証拠開示命令の対象とするのが相当でないことも所論のとおりである。しかしながら,犯罪捜査規範13条は,「警察官は,捜査を行うに当り,当該事件の公判の審理に証人として出頭する場合を考慮し,および将来の捜査に資するため,その経過その他参考となるべき事項を明細に記録しておかなければならない。」と規定しており,警察官が被疑者の取調べを行った場合には,同条により備忘録を作成し,これを保管しておくべきものとしているのであるから,取調警察官が,同条に基づき作成した備忘録であって,取調べの経過その他参考となるべき事項が記録され,捜査機関において保管されている書面は,個人的メモの域を超え,捜査関係の公文書ということができる。これに該当する備忘録については,当該事件の公判審理において,当該取調べ状況に関する証拠調べが行われる場合には,証拠開示の対象となり得るものと解するのが相当である。


証拠開示制度の趣旨に鑑みれば,開示命令の対象となる証拠は「当該事件の捜査の過程で作成され,又は入手した書面等であって,公務員が職務上現に保管し,かつ,検察官において入手が容易なものを含む」 → 犯罪捜査規範に基づき作成された備忘録は個人的メモの域を超える「捜査関係の公文書」 → 証拠開示の対象になり得る,ということのようだ。
今後,この種のメモの開示を拒むには,開示による弊害等を具体的に主張しなければならない。

判例検索システム 平成19年12月25日 証拠開示命令請求棄却決定に対する即時抗告決定に対する特別抗告事件


刑事訴訟法の関連条文

第三百十六条の二十  検察官は,第三百十六条の十四及び第三百十六条の十五第一項の規定による開示をした証拠以外の証拠であつて,第三百十六条の十七第一項の主張に関連すると認められるものについて,被告人又は弁護人から開示の請求があつた場合において,その関連性の程度その他の被告人の防御の準備のために当該開示をすることの必要性の程度並びに当該開示によつて生じるおそれのある弊害の内容及び程度を考慮し,相当と認めるときは,速やかに,第三百十六条の十四第一号に定める方法による開示をしなければならない。この場合において,検察官は,必要と認めるときは,開示の時期若しくは方法を指定し,又は条件を付することができる。
2  被告人又は弁護人は,前項の開示の請求をするときは,次に掲げる事項を明らかにしなければならない。
一  開示の請求に係る証拠を識別するに足りる事項
二  第三百十六条の十七第一項の主張と開示の請求に係る証拠との関連性その他の被告人の防御の準備のために当該開示が必要である理由

第三百十六条の二十六  裁判所は,検察官が第三百十六条の十四若しくは第三百十六条の十五第一項(第三百十六条の二十一第四項においてこれらの規定を準用する場合を含む。)若しくは第三百十六条の二十第一項(第三百十六条の二十二第五項において準用する場合を含む。)の規定による開示をすべき証拠を開示していないと認めるとき,又は被告人若しくは弁護人が第三百十六条の十八(第三百十六条の二十二第四項において準用する場合を含む。)の規定による開示をすべき証拠を開示していないと認めるときは,相手方の請求により,決定で,当該証拠の開示を命じなければならない。この場合において,裁判所は,開示の時期若しくは方法を指定し,又は条件を付することができる。
2  裁判所は,前項の請求について決定をするときは,相手方の意見を聴かなければならない。
3  第一項の請求についてした決定に対しては,即時抗告をすることができる。

第三百十六条の二十八  裁判所は,審理の経過にかんがみ必要と認めるときは,検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴いて,第一回公判期日後に,決定で,事件の争点及び証拠を整理するための公判準備として,事件を期日間整理手続に付することができる。
2  期日間整理手続については,前款(第三百十六条の二第一項及び第三百十六条の九第三項を除く。)の規定を準用する。この場合において,検察官,被告人又は弁護人が前項の決定前に取調べを請求している証拠については,期日間整理手続において取調べを請求した証拠とみなし,第三百十六条の六から第三百十六条の十まで及び第三百十六条の十二中「公判前整理手続期日」とあるのは「期日間整理手続期日」と,同条第二項中「公判前整理手続調書」とあるのは「期日間整理手続調書」と読み替えるものとする。

犯罪捜査規範の関連条文

(この規則の目的)
第一条  この規則は,警察官が犯罪の捜査を行うに当つて守るべき心構え,捜査の方法,手続その他捜査に関し必要な事項を定めることを目的とする。

(捜査の基本)
第二条  捜査は,事案の真相を明らかにして事件を解決するとの強固な信念をもつて迅速適確に行わなければならない。
2  捜査を行うに当つては,個人の基本的人権を尊重し,かつ,公正誠実に捜査の権限を行使しなければならない。

(法令等の厳守)
第三条  捜査を行うに当たつては,警察法 (昭和二十九年法律第百六十二号),刑事訴訟法 (昭和二十三年法律第百三十一号。以下「刑訴法」という。)その他の法令および規則を厳守し,個人の自由及び権利を不当に侵害することのないように注意しなければならない。

(合理捜査)
第四条  捜査を行うに当たつては,証拠によつて事案を明らかにしなければならない。
2  捜査を行うに当たつては,先入観にとらわれず,根拠に基づかない推測を排除し,被疑者その他の関係者の供述を過信することなく,基礎的捜査を徹底し,物的証拠を始めとするあらゆる証拠の発見収集に努めるとともに,鑑識施設及び資料を十分に活用して,捜査を合理的に進めるようにしなければならない。

(総合捜査)
第五条  捜査を行うに当つては,すべての情報資料を総合して判断するとともに,広く知識技能を活用し,かつ,常に組織の力により,捜査を総合的に進めるようにしなければならない。

(着実な捜査)
第六条  捜査は,安易に成果を求めることなく,犯罪の規模,方法その他諸般の状況を冷静周密に判断し,着実に行わなければならない。

(公訴,公判への配慮)
第七条  捜査は,それが刑事手続の一環であることにかんがみ,公訴の実行及び公判の審理を念頭に置いて,行わなければならない。特に,裁判員の参加する刑事裁判に関する法律(平成十六年法律第六十三号)第二条第一項に規定する事件に該当する事件の捜査を行う場合は,国民の中から選任された裁判員に分かりやすい立証が可能となるよう,配慮しなければならない。

(規律と協力)
第八条  捜査を行うに当たつては,自己の能力を過信して独断に陥ることなく,上司から命ぜられた事項を忠実に実行し,常に警察規律を正しくし,協力一致して事案に臨まなければならない。

(秘密の保持等)
第九条  捜査を行うに当たつては,秘密を厳守し,捜査の遂行に支障を及ぼさないように注意するとともに,被疑者,被害者(犯罪により害を被つた者をいう。以下同じ。)その他事件の関係者の名誉を害することのないように注意しなければならない。
2  捜査を行うに当たつては,前項の規定により秘密を厳守するほか,告訴,告発,犯罪に関する申告その他犯罪捜査の端緒又は犯罪捜査の資料を提供した者(第十一条(被害者等の保護等)第二項において「資料提供者」という。)の名誉又は信用を害することのないように注意しなければならない。

(関係者に対する配慮)
第十条  捜査を行うに当つては,常に言動を慎み,関係者の利便を考慮し,必要な限度をこえて迷惑を及ぼさないように注意しなければならない。

(被害者等に対する配慮)
第十条の二  捜査を行うに当たつては,被害者又はその親族(以下この節において「被害者等」という。)の心情を理解し,その人格を尊重しなければならない。
2  捜査を行うに当たつては,被害者等の取調べにふさわしい場所の利用その他の被害者等にできる限り不安又は迷惑を覚えさせないようにするための措置を講じなければならない。

(被害者等に対する通知)
第十条の三  捜査を行うに当たつては,被害者等に対し,刑事手続の概要を説明するとともに,当該事件の捜査の経過その他被害者等の救済又は不安の解消に資すると認められる事項を通知しなければならない。ただし,捜査その他の警察の事務若しくは公判に支障を及ぼし,又は関係者の名誉その他の権利を不当に侵害するおそれのある場合は,この限りでない。

(被害者等の保護等)
第十一条  警察官は,犯罪の手口,動機及び組織的背景,被疑者と被害者等との関係,被疑者の言動その他の状況から被害者等に後難が及ぶおそれがあると認められるときは,被疑者その他の関係者に,当該被害者等の氏名又はこれらを推知させるような事項を告げないようにするほか,必要に応じ,当該被害者等の保護のための措置を講じなければならない。
2  前項の規定は,資料提供者に後難が及ぶおそれがあると認められる場合について準用する。

(研究と工夫)
第十二条  警察官は,捜査専従員であると否とを問わず,常に捜査関係法令の研究および捜査に関する知識技能の習得に努め,捜査方法の工夫改善に意を用いなければならない。

(備忘録)
第十三条  警察官は,捜査を行うに当り,当該事件の公判の審理に証人として出頭する場合を考慮し,および将来の捜査に資するため,その経過その他参考となるべき事項を明細に記録しておかなければならない。

(捜査の回避)
第十四条  警察官は,被疑者,被害者その他事件の関係者と親族その他特別の関係にあるため,その捜査について疑念をいだかれるおそれのあるときは,上司の許可を得て,その捜査を回避しなければならない。

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