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観戦記について・その2

2008年06月14日 | Weblog
続きです。その1はこちら

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【▲6五歩】
封じ手は▲6五歩。予想では▲1六歩が本命、対抗は▲3七角。
衛星放送で解説をしている阿部八段、千葉女流王将は「一秒も考えませんでした」。予想外の封じ手に、控え室に戻ってきた立会いの有吉九段や報道陣も驚きを隠せない様子だった。

【△同歩】
この手で△1五角成は▲6四歩△同銀▲3七角△2五馬▲4五歩で先手相当。周囲の意表をついた▲6五歩だったが、佐藤はたいして時間を使わずに△6五同歩と応じた。

【▲同銀】
渡辺の指し手も早い。次に▲6四歩と押さえれば先手良くなるため、ここは△6四歩と打つだろう。
△6四歩には▲7六銀と引く一手。以下の狙いは▲3五歩からの桂頭攻め、▲7七金寄~▲5六銀~▲6八飛の転換あたりか。

【△6四歩】
▲5六銀は△5五歩でまずい。

【▲7六銀】
歩を手持ちにしたため、もう一枚歩があれば▲9五歩△同歩▲9三歩△同香▲9四歩の攻めが生じる。

【△1五角成】
馬を作るとともに、▲3五歩に△2五桂や△2五馬を用意している。

【▲7七角】
次に▲1六歩△2五馬▲4五歩の狙い。先に▲1六歩よりも含みが多い。
山崎七段は△2四歩と突いて「この瞬間は怖いですが、馬を3四あたりに持っていければ後手相当だと思います」。

【△2四歩】
控え室で有力とされているのは、▲2四同歩△2六歩▲4五歩△5三銀▲3五歩△2四馬▲2六飛の順。形勢自体は難しそうだ。

【▲1六歩】
検討が進んだ結果、「この手と▲2四同歩のどちらかしかなさそう。」(山崎七段)
なさそうというあたりに先手思わしくないというニュアンスが感じられた。

【△2五馬】
馬が3四に行ければ攻防に利いてくる。

【▲4五歩】
一本は筋。先手は角の利きを生かして3三桂を攻めなければしょうがない。
しかし5三に引いて二枚銀の好形が作れるため、後手も不満はないだろう。

【△5三銀】
△3四(1四)馬から△2五歩の筋が見えており、先手はかなり忙しい形。
4七銀を使えなければ勝ち目がないため、何か工夫したいところだ。

【▲5六銀】
思い切った銀上がり。多少危険でもこの駒を使わなければ勝負にならないとみた。次は▲3八飛~▲3五歩の桂頭攻めが狙いだろう。
昼食は、渡辺・ざるそば。佐藤・野菜天ざるそば。
先ほど控え室にやってきた田村康介六段は「(先手の囲いを)どうやって攻略すればいいんですか?攻め合いになったら振り飛車まずいので、2、3筋でよほど大差にしておかないといけません」
田村六段の予想は△3五歩。阿部八段は「打ちたくないですけど桂頭を守る△3四歩。理外の理ということもありますからね」。

※打ち上げの後の控え室。「△3五歩はいい手ですね。なるほど。」(佐藤)
「△3五歩は▲同歩△同馬▲3八飛△3六歩▲3四歩△同馬▲3六飛△3五歩▲4六飛△2五歩▲6五歩のつもりでした。▲6五歩に△同歩なら▲8六角で…2筋と6筋の勝負なんですが、あまり自信無かったです」(渡辺)

【△5五歩】
積極的な指し方。▲5五同角なら△5四銀直▲7七角△5一飛の要領で中央を制圧しにいく狙いだろうか。▲5五同銀にも△5一飛と転換し、そこで▲3七桂△3六馬▲2四飛といった順が検討されている。△5一飛のところでは△4五桂と跳ねる手も有力。
「いずれにしても押さえ込む将棋ではなく、捌きあう将棋でしょうね」(阿部八段)
ここで2日目の昼食休憩に入った。消費時間は渡辺5時間、佐藤5時間49分。

【▲同角】
渡辺は昼食休憩を挟み、1時間ほど考えて角で取った。

【△5四銀直】
歩を捨てた代償は中央からの盛り上がり。ここで▲6五歩△5五銀▲同銀のような強襲は、馬が質駒になっているとはいえ無理気味だろう。

【▲7七角】
普通に指すなら△5一飛から△5五歩。そこで▲6五歩と合わせてどうか。

※渡辺は△5五歩▲同銀△同銀▲同角△5一飛▲5六歩△5五飛▲同歩△4六角の筋を気にしていた。

【△5一飛】
△5五歩▲4七銀と引かされる形は辛すぎる。▲3七桂と跳ねて、△3六馬なら▲3四歩または▲2四飛という筋はあるが、後で桂が目標になる可能性も高い。

【▲6五歩】
△5五歩と打たれる前に一仕事しにいく。現在、先手の囲いは金銀4枚。後手は4二金が離れているため3枚。この差を生かすには玉頭戦に持ち込むのがベスト。

【△同銀】
アグレッシブに△6五同銀。こうなれば▲同銀右△同歩までは必然となる。

【▲同銀右】
先手は4二金の働きが弱いことと、2五馬の質駒がセールスポイント。

【△同歩】
放置すれば△4五桂や△6六銀から中央を狙う。

【▲8六角】
4二金に狙いを付ける。一回△6六歩にはどう応じるのだろう?
有吉九段と田村六段の検討では、△6六歩を決めるのは損になる可能性が高いため一回△5二金と寄せてどうかといわれている。

【△5二金】
先に△6六歩を決めるのは▲同金△5七飛成▲6七金引△5一竜▲7四歩△同銀▲6四歩で損得微妙のようだ。
いま検討されているのは、▲7四歩△同銀▲4二銀△6一飛▲5三銀成の順。
有吉九段「筋は悪いけど…田村さんどうですか?」
田村六段「ええ、嫌ですね」
有吉九段「こういう展開は引いてばかりで豪快じゃないですからねぇ。田村さんらしくないでしょう」

【▲7七桂】
じっと桂。5二金の瞬間は先手陣への脅威が薄れているため、こういった溜める手が有効になる。
現地で行われている大盤解説会で山崎七段は「△5五銀でしょう。間違いない」と断言。有吉九段は△3四馬を推奨している。
有吉九段「△5五銀は▲7四歩△同銀▲4二銀△6一飛▲5三銀成で山崎さんどうですか?」
山崎七段「うーん…確かに5五の銀がぼけているかもしれません」
有吉九段「さっきの検討では▲4二銀の筋でビチッと決まったんですよ。ねえ田村さん」
田村六段「いえ、ビチッとまではちょっと」
現在は△5五銀▲7四歩に△同歩の順が検討されている。

※有吉九段指摘の▲7四歩△同銀▲4二銀について。
佐藤「この手も考えました」
渡辺「いやー、上から攻める手が難しくなるので…いやいやわかりませんけど」

【△3四馬】
有吉九段は「私の感覚もまだぼけてない」とご満悦。山崎七段の表情には若干の陰りが見られた。
次に△4五馬と出れば、さっきまで質駒だった馬が主役になれそうだ。

【▲5五銀】
天王山に銀打ち。
有吉九段「5五に銀ですか。あれ?これはさっき山崎さんが言っていませんでした?」
山崎七段「僕の手は駒の向きが逆です…しかし5五が盤面の急所だということは証明できましたか」
有吉九段「そう、ここは急所ですねぇ」
田村六段「竜王良しは間違いなさそうです」
有吉九段「あぁ、そうですか」

【△6六銀】
やはり5筋、6筋が急所。ここの勢力争いを制した方が優位に立つことができそうだ。
佐藤「ここは好転したかと思ったんですが…」

【▲同金】
銀で取るのは△同歩が先手になる。ここは攻め合いを目指して▲同金。

【△同歩】
▲6四歩は見えているが、もう後戻りはできない。

【▲6四歩】
両者の指し手は早い。

【△4五桂】
控え室では△5七桂成が早いため後手乗りの見解が多かったが…。

※この手に対し▲6三歩成は「△同金左が幸便なので」(渡辺)。「ええ、勝ちそうですよね」(佐藤)

【▲6六銀】
歓声が上がった。有吉九段は「さすがタイトル戦ですねぇ」としみじみ。

【△6四銀】
出たてきたら攻める。引けば手を戻す。

【▲7四歩】
6六銀、7六銀、8六角の三枚の並びが絶品。控え室の見解は渡辺優勢。

【△6三金左】
飛車筋を通しつつ銀を守る一石二鳥の一手。とはいえ、ここで▲6五歩と打たれると△5七桂成しかなく、スピード勝負は避けられない。

【▲7三歩成】
控え室の形勢判断は行ったり来たり。ギリギリの大熱戦ということだろう。

【△同銀】
▲7九歩、△7一歩の底歩が利くため、どちらの玉もそう簡単には寄らないようだ。

【▲4二角成】
角が移動することで上部への逃げ道が広がる。衛星放送で山崎七段は△5七飛成▲同銀△同桂成の強襲を推奨。控え室に戻ってきて「後手が勝ちやすい将棋だと思うんですけど…」。

【△5四飛】
△5七飛成では足りないと判断。もう一回飛車を追わせてから決行するつもりなのかもしれない。

※この手に代えて△5七飛成は▲同銀△同桂成▲6一銀△7一金打▲7二銀成△同金で「あまり考えなかった。一手もわかりません」(渡辺)。「△5四飛浮いてからは自信ありません。△5七飛成もよくわからない」(佐藤)

【▲6一銀】
気付けば後手陣は矢倉。となれば矢倉崩しの銀打ちが有効になる。
▲7二銀成と金を取る手は、危険地帯に玉をおびき出す大きな手。できれば7二の地点で取らせたくない。

【△6二金打】
△7一歩も検討されていたが、▲8五桂が攻防手になるため損得微妙。一般的に金は守りと詰め、銀は敵玉に迫るときに活躍する。ここでの金銀交換が今後にどう影響してくるか。
ほぼ▲7二銀成の一手の局面で渡辺はなかなか指さない。▲7二銀成△同金の局面で考えると相手が楽になるため、3手後にノータイムで指す準備をしておこうという勝負術だろう。
検討が進み、山崎七段、田村六段は▲6五銀左で渡辺乗りとのこと。▲7二銀成を保留するのは▲6五銀左△5七飛成▲同銀△同桂成のときに▲6四歩が利くという意味。先に金を取っては△6二金引とされて大変だが、取ってなければ△6二金引がない。また、▲6五銀左△5七飛成以下、どこかで△6一金と取られることになっても▲3一飛で取り返せる。
「むしろ▲6五銀左が本線です」(山崎七段)

【▲6五銀左】
控え室では▲7二銀成△同金▲6七金打も有力視されており、「▲6七金打は大山先生みたいな手ですね」と有吉九段。たしかに金を打てば先手玉への攻めが完全にシャットアウトされる。
渡辺が力強い手つきで▲6五銀左としたのを見ると、一同で「大山先生の域には達してない」。

※▲7二銀成△同金▲6七金打は、「ひえー、こういう発想は無かったですよ。考えてないんじゃしょうがない」(渡辺)
佐藤「これは…△6四歩と打つつもりでした。傷を消しておいて、わりと自信ありました」(佐藤)
むしろ▲7二銀成△同金▲6五金が優ったようだ。以下△5七飛成▲同銀△同桂成▲7四歩で、「金を手放すと攻め駒不足になりそうなので指しにくかった。しかしこっちだったか」(渡辺)

【△5七飛成】
佐藤は残り2分まで考えて突進した。

【▲同銀】
△5七同桂成のときに何を指すかが問題。残り時間の少ない佐藤は60秒ギリギリで着手するだろう。

【△同桂成】
ここで▲6四歩に△6二金引と出来ないのが93手目▲6五銀左の効果。

【▲6四歩】
控え室の予想通り進む。有吉九段は「まだどっちがどうなってるかわかりません」

【△6一金】
▲6三歩成△同金▲4一飛が馬と金の両取りだが、その瞬間に△7八馬がある。

【▲6三歩成】
▲7二銀成を決めなかったことで後手陣を乱すことができた。先手玉は底歩が利くため、そう簡単には寄らなそうだ。

【△同金】
盤面の最急所は3四の馬。

【▲7九歩】
「ここで受けに回るのでは変調かもしれません」(有吉九段)

【△7二銀】
この銀打ちで再び中盤に戻ったような印象。長引けば持ち歩の差が出てくるとの大局観だろう。

【▲3一飛】
最急所である3四馬の動向を聞く。

【△4四馬】
攻防の好位置へ。先手は歩が無いため、△6六歩や△6七歩が厳しくなっている。

【▲2四飛】
歩を補充しつつ、4四の馬を質駒に。4四馬がいなくなれば鉄壁の後手陣にも寄せが見えてくる。

【△6六歩】
この手が一番早い。▲6八歩なら△6七歩成~△6六歩~△6七歩がある。

【▲6八歩】
やはり6七にと金を作らせるわけにはいかない。△6七歩成▲同歩△6六歩▲同歩△6七歩は、馬の筋が止まる。その瞬間が勝負。

【△6七歩成】
先手が6、7筋に歩を打っているため、後手玉への攻めが制限されている。

【▲同歩】
ここ数手は佐藤の言いなりになるしかない。再度の△6七歩の瞬間までは。

【△6六歩】
時間の無い佐藤は50秒を読まれてから着手。必然手の場合も最大限時間を活用する。

【▲同歩】
渡辺は相手に時間を与えないため、早めに着手する。

【△6七歩】
さあ勝負どころ。

【▲5二金】
着実だが、後手に駒を渡すためやや危険か。しかし代わる手も難しい。

【△6八歩成】
強く攻め合いに。△5一歩の受けは▲6一金△同銀▲5一馬でスピードアップする可能性がある。

【▲6一金】
急所に迫っているが、金が質駒という側面もある。

【△7八と】
かなり迫られているが、4二の馬が受けに利いているため案外しっかりしているようだ。

【▲同歩】
佐藤はここで一分将棋に。

【△6七成桂】
次に△6六馬が厳しいが、先に▲4四飛がある。

【▲4四飛】
決断。もう双方の玉は補修が利かない形になる。

【△同歩】
▲7一角と打っても後手玉に詰みはない。しかし▲7五馬など攻防に利かす手があるか。

※大盤解説会から戻ってきた山崎七段は「▲7一角ではなく▲7一金でわかりやすい勝ちだと思います。」ところがしばらくすると「いや、いやいや、危ないのか。金を渡すと危ないんですね」。
しかし終局後に「やはり▲7一金△6一歩▲7二金で勝ちでしょうね」と山崎七段。以下△同玉に▲3四角が攻防手。これは渡辺も認めていた。

【▲7一角】
普通は美濃囲いに▲7一角と打ち込んだら寄り筋としたものだが…。

【△9二玉】
7三銀型は大山十五世名人が好んで指した美濃囲い。そう簡単には寄らない形だ。

【▲7五馬】
後手玉に詰めろをかけつつ、先手玉の上部を厚くする。

※渡辺「そうか、馬引きが悪手だったか。本譜は忙しくなって最悪だった」。
この手では先に▲8五桂と跳ね、△8二銀打▲7五馬△8四金▲9五歩で勝ちと感想戦で言われていた。感想戦が終わり、部屋で着替えてから控え室に来た渡辺は「あれ?▲9五歩に△7五金ってどう勝つんだっけ?」。
▲9五歩以下△7五金▲9四歩△7七角▲同歩△5八飛▲9七玉△9六歩▲同玉△9五歩▲9七玉△8五金の順は後手勝ち。渡辺は首をひねりながら打ち上げの席に向かった。
数時間後、控え室に戻った佐藤は「▲8五桂に△8二銀打は▲7五馬△8四金▲6二金△同金▲9三金△同桂▲同桂成△同玉▲8五桂△9二玉▲8四馬で勝ちなので、途中の▲7五馬には△8四銀打とするしかない。しかしそれも▲6二金と引かれてはっきり負けです」。
週将の記者にそれを聞いた渡辺は「なるほど、変化の余地ないですね」。

【△8四銀打】
▲8五桂がまた詰めろ。銀を使ったため、△7七金~△7八飛のトン死筋も消えた。

【▲同馬】
逃げては駄目と見た。控え室は△同歩でどうするのかわからない。

※「切る手は全く読んでませんでした。慌てましたね」(佐藤)

【△同歩】
渡辺もここで一分将棋に突入。

【▲9五歩】
ここで△6一銀なら勝ち。△8三玉は「負けたら敗着でした」(佐藤)
△6一銀に▲同飛成は△7九角▲同玉△6九飛▲8八玉△7八成桂▲同玉△6七金▲8八玉△7八金打以下詰み。
△6一銀に▲9四歩も、△8九金から即詰みがある。

【△8三玉】
控え室では佐藤勝ちの声が出ているが…

【▲6二金】
※▲8二金以下の詰めろ。この手が利くなら渡辺勝ちかと思われたが、そう簡単にはいかなかった。

【△9五歩】
もう検討が追いつかない。

※この手が自玉の詰めろを消しながら先手玉に詰めろを掛ける必殺手。仮に▲7二金なら△7九角▲同玉△6八金以下6三の金がよく利いて詰む。

【▲8二金】
この手に代えて、▲6三金が詰めろ逃れの詰めろ逃れの詰めろだった。
先手玉は△7九角▲同玉△6八金▲8八玉△7八金▲9八玉△8八飛▲9七玉△9六歩▲8六玉△8七飛成▲同玉△7七成桂▲8六玉△8五歩▲7五玉△7四歩▲同銀△同銀▲6四玉△6三銀上▲5三玉で逃れ。6三の金を取っておけば詰みがなく先手勝ち筋。

【△9四玉】
※ここで▲9五香△同玉▲8六銀△9六玉▲9七銀△9五玉▲9六歩△9四玉▲7二金右があった。先手玉に詰みが無いため△7七成桂▲同玉△8五桂と迫るが、▲8八玉と引いて難解な将棋。
(その後の検討では△8五桂に代えて△9九角で後手勝ちが確認された)。
△9四玉のときに▲6三金と取るのは、△8九金▲同玉△6九飛と打たれて金合いしかなくトン死。
打ち上げの席で渡辺と山崎が▲7二金左を検討していたが、△7九角▲同玉△6八金▲8八玉△7八金▲9八玉△9六飛▲9七歩△7七成桂▲6七角△7六桂で後手の勝ちと結論付けた。「僕は酔っていたので怪しいです」(渡辺)。ちなみに山崎は素面だった。

【▲7二金右】【△7九角】
※佐藤は即詰みだと思って王手を掛けたという。

【▲同玉】
先手玉に詰みはないが、△8二銀と手を戻す筋がある。

【△6九飛】
控え室は△6八金▲8八玉△7八金▲9八玉△8八飛▲9七玉△8七飛成▲同玉△7七成桂▲9七玉に△8二銀で勝ちと見ていた。

※「ええ、△6八金で駄目だと思ってました」(渡辺)

【▲8八玉】
※佐藤の読み筋は△7七成桂▲同玉△8五桂で詰みというもの。しかし△8五桂に▲7六玉と逃げ△7五歩▲8六玉△6六飛成▲7六銀打で不詰め。「ひどいですね」(佐藤)。「最初は詰みかと思って観念したが、詰まないことに気付いて、やってきてくれないかなと期待しました(笑)」(渡辺)

【△8九金】
これは「△6九飛は佐藤さんポカじゃないですか?もっと安全に勝てそうだったのに」と田村六段。

※田村六段の見立ては正解だったようだ。

【▲9七玉】【△8二銀】
※寄せ間違えた佐藤だったが、この手でギリギリ残っていた。

【▲7六角】
後手は△8五歩の一手。

【△8五歩】
※これで逃れている。以下変化はあるものの後手勝ちは動かない。

【▲同角】
控え室は△8四玉で佐藤勝ちと結論を出した。

【△8四玉】【▲7五銀】【△同玉】【▲7六銀打】
控え室は検討が打ち切られ、モニターの前でフィナーレを見守っている。

【△6六玉】【▲4四角成】
△5七玉なら▲8六玉で上部開拓を目指す。渡辺はまだ諦めていない。

【△5五歩】【▲8六玉】【△8四金】【▲5五馬】
△同玉は▲3五飛成△4五歩▲6三角成で勝負する。

【△同玉】【▲3五飛成】
△4五歩▲6三角成には、△7五銀から詰みがある。渡辺万事休す。

【△4五歩】【▲6三角成】【△7五銀】【▲同銀】
△同金▲同玉△5七角▲7四玉△8三銀打▲8五玉△8四銀▲7四玉△7五角成までの詰み。変化はあるが全て詰んでいる。

【△同金】【▲同玉】【△5七角】【投了】
この手を見て渡辺投了。▲7四玉は△8三銀打、▲8六玉は△7五銀以下即詰みとなる。162手、双方一分将棋。控え室で何度「名局だ…」の呟きが聞かれたかわからない。

※感想戦が終わり両者が一礼したあと、渡辺は大きく首をひねり、それから2度3度とうなずき、やはり納得がいかないのか再び首をひねっていた。
佐藤は検討の最中、何度か渡辺を見やって楽しそうに微笑んでいた。あくまで主観なのだが、その表情からは仲の良い遊び相手を見ているような親密さが感じられた。語弊を恐れずに書くと、佐藤は本局で渡辺の力を本当に認めたような気がした。少なくとも、これまでの渡辺-佐藤戦のベストマッチであることは間違いないだろう。
打ち上げの後、控え室の奥は佐藤が記者を相手に解説。渡辺は手前でインターネットを見ていた。対局者が同じ空間に長時間いるのは珍しい。
佐藤は0時過ぎに自室に帰っていった。渡辺の退室は1時49分。渡辺は佐藤がいるときも帰ったあとにも、「今日の負けは熱い!もう一番!」とおどけた調子で繰り返していた。

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重くてすみません。どんな方面からの見解でも、思ったことなどコメントしていただければ幸いです。よろしくお願いします。

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4 コメント

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実況と観戦記 (enjoy)
2008-06-14 21:41:42
私はネット中継の棋譜コメントは「実況」であって「観戦記」とは異なると思います。

その理由として、ネット中継の棋譜コメントの大部分が控え室の検討を元とした指し手の解説や対局者のしぐさなどの事実を伝えるものであるからです。役割的にはスポーツ中継の実況アナウンサーに似ていると思います。

それに対して、今回の梅田さんが掲載したような観戦記は、文章の大部分が対局を見た自身が感じたことから成る「観戦記」と呼ぶにふさわしいものだと思います。映画の批評のようなものでしょうか。(ただ観戦記でも指し手の解説が羅列されただけのものもありますが…)

実況と観戦記、文章の質は異なりますが、両者とも違った価値を持つものだと思います。控え室の見解などを伝えてくださる「実況」はアマがプロの将棋を楽しむ上で大いに助けになるものだと思います。梅田さんが掲載したような観戦記はプロの対局を違った視点から見ることができ、新たな将棋の楽しみ方を教えてくれます。
指さない将棋ファンから (シアトル)
2008-06-15 01:31:55
実況コメントは、私のような「指さない」「棋力が万年6級止り」の将棋ファンにとって、実況を楽しむための命綱です。
特に竜王戦での実況は、コメントの多さ、コメントの的確さ、その場にいる多くの棋士のコメントを拾い上げている、という点で私が一番楽しみにしている実況です。 名人戦は見ませんが(会員ではありません)、竜王戦は必ず見ます。

しかしながら、実況に欠けている事は、「対局者達の読み」です。 もちろん後から入力される、対局者のコメントも見ていますが、圧倒的に情報量が少ないと思います。

これは、対局者がどこまで開示してくれるか、に掛かっていると思いますが、「対局者同士の読みの食い違いとその背景にあるもの」、をもっと深く知る事が出来れば、これに勝る興奮はありません。

特に、超一流の対局者によるタイトル戦では、それを特に感じます。

そして「対局者同士の読みの食い違いとその背景にあるもの」を真に楽しむには、「戦型別棋譜の系譜」を知らないと、対局者が言っている事が分からない事もあると思います。 しかし残念ながら、記者の方も、そこから読者に説明する余裕のない事がほとんどではないでしょうか? 

つまり、対局者からの開示が必要な事、それに、読者にも「戦型別棋譜の系譜」のような知識が必要である事、により、「対局者同士の読みの食い違いとその背景にあるもの」が深く書かれている観戦記を見ないのではないか、と思っています。

ここのところが将棋の果実の一番おいしい所ではないかと想像していますが、これは「万年6級」の「指さない将棋ファン」の勝手な戯言かもしれません。
遅くなりました (紅葉)
2008-06-24 10:09:12
色々頭悩ませていたら、完全に出遅れてしまいました。
なぜにそういう質問をされるの?というのは置いといて、結局「中継コメント」は中継と観戦記を兼ね備えていて欲しい、というワガママな結論に落ち着きました(笑)
中継コメントには大変お世話になっております。これが無いと全く指し手の意図が理解できない、そして長い将棋の間が持てない(笑)
でも、中継を生で見ている人ばかりじゃないんですよね。平日対局だから後日見る人もかなりの数になると思うんです。で、その人たちにとっては中継コメント=観戦記なんですよね。
ですから、リアルタイムを盛り上げるのはもちろん、後日見る人を意識してコメント記入していただくと大変ありがたいです。
棋譜コメントに【感想戦のポイント】※が追加されていたり、名人戦順位戦速報で後日一手ごとの消費時間が記入されているのは感謝感激です。再現アプレットの問題もございましょうが他の中継でもお願いしたいくらいです。

じゃ、観戦記の立場はどうなるの?と聞かれると困ってしまいますが・・・感想というより勝手でワガママな要望になってしまいました(笑)
観戦記と棋譜コメント (ごとげん)
2008-06-25 00:28:59
>enjoy さん
>シアトル さん
>紅葉 さん

コメントありがとうございます。
「観戦記」という言葉の定義が曖昧なことが気になっていたので、こういう投げかけをさせていただきました。
関係者の中でも色々な考え方があるようで「新聞観戦記だけが観戦記」、「将棋のことを個人の言葉で書けば観戦記」など、各人各様のようです。

話は少しずれますが、こうしてブログを読んでくれた方が将棋やその周辺のことを考えてくださるのは、表面で見える以上にすごいことなのかもしれませんね。うん、すごいことです。
やる気が出てきました。今後ともよろしくお願いします。

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