お仕事ブログ

日々のライター稼業など。コメント欄に書きにくいことや仕事のお話はgotogen510@yahoo.co.jpまで

広告

※このエリアは、60日間投稿が無い場合に表示されます。記事を投稿すると、表示されなくなります。

将棋棋士の名言100【制作裏話などなど②】

2012年12月30日 | Weblog
こんにちは。ようやく積み残しの原稿、忘年会などのラッシュも終わって一息ついたので、そろそろブログの続きを書きます。

【7月初旬(つづき)】
打ち合わせの場所は、こちらの指定で千駄ヶ谷。鳩森神社前の五叉路にあるハンバーガーショップにしました。お会いする出版社の方は将棋や将棋界のことをほとんど知らないとのことだったので、打ち合わせが終わったあとに会館に案内しようかな、という含みもあります。
企画を立案して僕に連絡してきてくれたのは、大学卒業、就職してまだ日が浅いという若手編集者Kさん。メールの文面がしっかりしていたので、てっきりオッサンかと思っていました。まさか十歳近く下とは……。
Kさんの企画、プレゼンはだいたい以下のようなものでした。

(1)以前に羽生さんの著作を読み、感銘を受けた。いずれ将棋や囲碁の本を作ってみたいと思っていた。
(2)弊社(出版芸術社)から、サッカー選手の名言本が出ており、将棋でも作れないかと考えて企画した。
(3)今回の名言本は、名言を並べるだけではなく、ライターに多くの文章を書いてほしい。
(4)出版芸術社から将棋の本を出したことがないため、本や雑誌等を見て、依頼できそうなライターを探した。とある記事が目に止まり、そのライターに連絡した。

(4)の「とある記事」というのは、2012年の将棋講座7月号で自分が書かせてもらった、NHK杯戦の神谷広志七段-永瀬拓矢五段戦の観戦記。神谷先生とトラにゃん(猫)の話を盛り込んだ、一風変わったものでした。将棋の記事は符号と手の解説ばかりで堅苦しいものだと思っていたKさんは、こういうのもあるのかとビックリ。その後、ネット上でこのブログにたどり着き、過去のブログ記事なども読んだうえで連絡してくれたとのこと。

きっかけになった神谷-永瀬戦、実は自分が担当する予定じゃなかったんです。
NHK杯の観戦記者は、僕が誰に依頼するかを提案し、編集長(このときは先代の編集長でした)のOKが出てから連絡する流れになっています。そのときも僕が編集長に提案し、編集長もOK。じゃあ依頼という段階で認識ミス(互いに、相手が依頼すると思ってしまった)があって、当日に誰も来なかったんです。
いやぁ、慌てました。でも来ていないのは依頼できてなかったんだから当然ですね。ということで、NHK杯戦のページを担当している自分が観戦記を書くことになり、その観戦記が出版芸術社のKさんの目に止まった。そういう偶然が重なってスタートを切ったのが『将棋棋士の名言100』。

編集のKさんは「自分自身が後藤さんの文章をもっとたくさん読みたい。だから書いてください」と言う。最初は誰か別のライターを紹介するつもりだったけれど、一連の流れを考えると、どうやらそうはいかないか……というわけで自分で書くことにしたわけです。

次はいつになるかわかりませんが、将棋棋士の名言100【準備および執筆編】に続きます。
コメント (13)

第37期棋王戦▲高橋道雄九段-△中川大輔八段戦

2012年12月09日 | Weblog
【第1譜】
▽矢倉の力戦に
 高橋は特別対局室の床の間を背に、どっしりと構えている。半袖のシャツにノーネクタイ。しばらくして姿を見せた中川もノーネクタイ。どちらも涼しげな装いだ。
 スポーツドリンクと天然水を持参した中川は、記録係の伊藤和夫三段に「コップを持ってきて」と頼み、用意されると「サンキュー」と礼を言う。グラスと呼ぶ人、ありがとうと言う人などいろいろいるが、コップとサンキューの組み合わせは、いかにも山登りやサイクリングを趣味とする体育会系の中川らしい。
 振り駒の結果、先手は高橋に決まった。途中図の▲5六歩は高橋得意の矢倉への誘い。6六歩型でなく7七銀型を選んでいるのは、中川が好んで指す右四間飛車を警戒してのこと。この形は6五の地点で駒がぶつからないため、△6四歩からの右四間飛車は有効ではない。
 中川は相手の駒組みを見て、△5四歩から△5五歩と動いていった。コップにスポーツドリンクを注ぎ、それを天然水で割って飲み干す。
 中川の将棋は早め早めに駒をぶつけていくことが多い。まずは肌を合わせて相手の調子や気合いを確かめ、それから方針を決めていくタイプなのだ。
 指了図はすでに実戦例がなく、完全な力将棋となった。

(途中図は7手目▲5六歩まで。指了図は24手目△6四歩まで)

【第2譜】
▽昼食事情
 指し始め図から高橋が▲7九玉と寄り、中川が△8五歩と伸ばしたところで昼食休憩に。食事の注文は高橋がカレーライス、中川がカツ丼とざるそばのセット。
 夏場の、それも対局時ともなれば食欲のわかない棋士も多くなるが、ふたりはしっかりと栄養を補給するタイプだ。以前は某中華店の五目焼きそば大盛りを好んで頼んでいた中川。しかし先ごろ某店が閉まってしまい、今は新手を探し日々試行錯誤しているという。
 高橋は51歳、中川は42歳で、これを足すと93歳になる。今期挑戦者決定トーナメント1回戦の組み合わせでは最年長ながら、二人の姿勢と気迫は実に若々しい。
 さて盤上。高橋は局後に▲7九玉を悔いた。中川は代えて▲2五歩を予想していた。以下△8五歩▲2四歩から互いに飛車先の歩を交換して互角と見ていたという。
 高橋は本譜のように進めたときに、△7六飛(指了図)と歩を取ることはできないと考えていた。▲8七歩には△8二飛と引き、相手は玉形を、自分は攻撃の形を整える流れになるはず。そうなれば先攻する展開に持ち込みやすいのではないか。
 そんな高橋の構想は△7六飛によって乱された。飛車が狭く不安定だが、うまく逃げおおせれば歩得が残って後手有利になる。(後藤元気)

(指了図は32手目△7六飛まで)

【第3譜】
▽名騎手
 ここ数年の高橋は、効率的な戦い方により磨きがかかってきた。いつ見ても玉を相手より堅く囲い、主導権を握って攻めている。
 競馬にたとえれば、スタート直後に絶好の位置をキープし、一番良いタイミングで末脚を繰り出す感じ。高橋の棋力が実際に走る競走馬にあたるとすると、その鞍上には手綱を自由に操り、力を出しやすい展開に持ち込むが名騎手がいる。そんなイメージがあるのだ。
 指し始め図の先手陣は、金銀四枚が玉の近くに密集し、いかにも高橋らしい構えになっている。自分の城をしっかりと作り、それから余裕を持って攻撃する。
 そんな思惑を打ち砕いたのが中川の△7六飛だった。この手が成立していることで、玉を固めてから戦うという構想が破綻してしまった。
 局後に高橋は「△7六飛に対しては、飛車をいじめる順があると思っていた」と話す。具体的には▲5八飛のところで▲9七角と上がる手なのだが、「それには△9六飛があり、後手が指せそうです」と中川。名騎手の誤算を見逃さず、好ポジションを確保した。
 高橋は中央から手を作りに行ったものの、歩得の中川は余裕を持ってそれを受け止める。指了図でも落ち着いた対応を見せた。(後藤元気)

(指了図は49手目▲5四歩まで)

【第4譜】
▽稽古
 14時半頃、おだやかな昼下がり。中川がバッサバッサとあおぐ扇子の風圧に乗って、張り替えられたばかりの畳が香る。扇子の揮毫は「澄心」で、これは囲碁棋士の万波佳奈四段のものだ。
 高橋と中川の公式戦での対戦成績は、高橋4勝、中川9勝。練習将棋も以前から指しており、中川の言葉を借りれば「低段時代から稽古をつけていただいています」。
 高橋が先手なら、矢倉模様の出だしから後手の中川が変化し、だいたいはこの将棋のような流れになるそうだ。互いに玉を固めあう展開は、矢倉の大家として知られる高橋に一日の長がある。中川は早めに動いてペースを乱していくことで、力戦に強い自分の持ち味を生かしにいく。
 指し始め図の△5二歩の受けは陣形をへこまされて消極的なようだが、中川は歩を2枚得しているので十分と見た。
 そのあとの△2三金~△2二角もうまい活用で、上部に手厚く角も働く形になった。中川はこのあたりで、指しやすさが優勢に繋がりつつあると感じていたという。
 指了図の▲7七桂は、苦しいながらも崩れない高橋の底力。△6五歩から圧迫してくる筋を受けながら、△9五歩▲同歩△9三歩の逆襲を見せている。中川は容易ならざる場面と見て長考に沈んだ。(後藤元気)

(指了図は77手目▲7七桂まで)

【第5譜】
▽気の持ちよう
 ▲7七桂(指し始め図)を前に中川は考え込んでいた。歩を2枚得しているのが大きく形勢は後手優勢。この判断は両者一致していたが、心の持ちようには違いがあったようだ。高橋が「苦しいながらも最善を尽くしていくしかない」と割り切っていたのに対し、中川には「優勢なのだから、良さを具体化したい。出来るはず」と追い立てられるような感じがあった。
 10分、20分と時間が過ぎていき、記録係に残り2時間を告げられる。我に帰って「うおい」と返事したところで、その声が呼び水になったのか、表情から険しさが消えた。冷静に考えれば苦しいのは歩損している高橋。中川は焦らず、ゆっくりしていてもいいのだ。
 しばらくして指されたのは、△7二金と寄って端攻めを受ける渋い一手だった。中川は後日、「ここが本局で一番苦労したところ。△7二金は無理に動かず相手の攻めを消した手です。局面を止めて、△2五歩からの盛り上がりに期待しました」と語った。
 手を渡された高橋は、細かく駒を繰り替えて自玉のキズを消す。中川は予定通り2筋から盛り上がっていく。形勢は依然後手良し。
 しかし指了図の▲4五歩は何気ないようでいて、実は油断ならない手。対応を間違えれば、すぐに逆転してしまう。
(後藤元気)

(指了図は99手目▲4五歩まで)

【第6譜】
▽棋士人生
 中川は以前、こんなことを話していた。「若いころの好調時は悩まずに勝てる。年かさがいっての好調時は、苦しまなくてもいいところで苦しむ。しかし、その慎重さが成績に繋がっていく。何を指しても勝つ時期は短く、棋士人生のなかで限られた瞬間しかない。それが終わってから、本当の棋士人生が始まる」。
 優勢でも苦しい、劣勢でももちろん苦しい。将棋を勝つ意欲を持ち続けるのは本当に大変なことだ。寡黙な高橋は多くを語らないが、本局で見せている辛抱強さ、相手の焦りを誘う老獪な指し回しは、苦しさに立ち向かう日々の積み重ね、年輪を感じさせる。
 指し始め図の▲4五歩に△同歩は▲6四銀の大技がある。以下△6六角▲同歩△6四銀▲2三角の展開は後手まずい。
 ▲4五歩を放置すれば▲4四歩から▲5三歩成△同銀▲4三歩成が来る。ひたひたと迫る歩の攻めに対しては適当な受けもない。中川は33分の考慮で、△7五歩と玉頭をこじあけに行った。
「怖いところだが、6三銀や7二金を使わなければ勝ち切れない」と中川。▲同角と呼び込んでの△7四銀~△6三金は、中川の将棋に対する姿勢が表れている。
 高橋も強く応じて迎えた指了図。先手の持ち駒は金銀と歩。後手玉は詰めろになっているのかどうか。(後藤元気)

(指了図は115手目▲5五桂まで)

【第7譜】
▽勝つのは大変
 指し始め図の▲5五桂は攻防手だが、後手玉は詰めろになっていない。中川は自らの後頭部をゲンコツでゴンゴンとたたき、気合いをこめて△8五銀を着手した。
 △8五銀に▲同金は、△同飛▲8七歩△5五飛▲同銀△同角で、以下変化は多く手数もかかるが先手玉は詰んでいる。
 △8五銀に▲4三銀は△3三玉で不詰め。本譜は▲4三金△3一玉▲2三銀としたが、△7六桂打で捕まっている。投了図からは▲5六玉△4六金▲6五玉△7四金と上部から押せば詰む。
 終局直後、高橋は「序盤がひどかったね」と、ほとんどそこだけで将棋が終わってしまったというようにつぶやいた。中川は額に汗を光らせ、肩で息をしている。将棋としてはそこで差がついたのかもしれないが、勝ち負けはまた別。目の前の一局を勝ち切るのは本当に大変なのである。
 後日、中川から棋王戦の読者に向けたメッセージが届いた。「仙台出身の自分がこの棋王戦でひと暴れすることで、同じ東北人の皆様を勇気づけられればこんな嬉しい事はない。とにかく精一杯頑張って行きますので見ていて下さい」。
 中川の次戦は、十七世名人資格保持者の谷川浩司九段。タイトル獲得は棋王3期を含めて計27期の強豪を相手に、どういった戦いを見せてくれるだろう。(後藤元気)

(投了図は130手目△7九角まで)
コメント (2)

将棋棋士の名言100【制作裏話などなど】

2012年12月06日 | Weblog
すっかり寒くなりましたね。
我が家もこたつを導入しましたが、すぐさま猫のカームさんに占領されて、僕は部屋の隅で体育座りのの字です。

さてさて、今回は11月22日に発売となった将棋棋士の名言100の制作裏話です。時系列のほうが書きやすい気がするので、その感じで。


【7月初旬】
出版芸術社の編集者Kさんから最初の連絡が来る。
実は数年前から本のお仕事を依頼してもらう機会が増えていて、昨年と今年はその回数が特に多かったです。
自分のスタンスは【よほどの事がない限り、一度は会って打ち合わせをする】→【将棋界全体にとってプラスになる本かどうかを見極める】→【その仕事に適した人を紹介する】というもの。
よく「自分でやればいいのに」と言われるけれど、出来上がりをイメージしたときに他のライターがやったほうが良くなると思ったら、もう自分では出来ないですよね。紹介することによる金銭的な得は何もないけれど、そのときに付き合った人たちとの関係や、先々の選択肢は残っていきます。
自分でやる仕事は、他の誰がやるよりも質が高くなるはずという判断。自分で自分を紹介するという感じで、そうやって自らにプレッシャーをかける意味もあります。
出版芸術社の編集Kさんの企画は「棋士の名言を」というもので、選んで並べるだけなら自分がやる必要はないかなというのが第一感でした。でもよく文面を読んでみると、「棋士の方々の言葉を一般の方々へ還元できる著者の方が必要」とのこと。
はて、どういう事だろう? この時点で興味がわいてきて、なんにせよ楽しいことになりそうだと思いながら打ち合わせに向かったわけです。


書いているうちに眠くなってきたので、今日はここまで。こたつは魔物ですな。ということでまた近いうちに。
コメント