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第37期棋王戦五番勝負第1局▲郷田真隆九段-△久保利明棋王

2013年09月03日 | Weblog
【第1譜】
▽新潟対局
 東京から新潟に向かう新幹線の車中、気持ち良さそうに眠っていた郷田が、越後湯沢駅のあたりで目を覚ました。確かめるように少しずつブラインドを上げ、一面に広がる銀世界を、目を細めて眺めている。
 棋王三連覇中の久保に郷田が挑む五番勝負。第1局は新潟県新潟市「新潟グランドホテル」で行われた。
 郷田は14年ぶりに棋王戦五番勝負の舞台に立った。両者の対戦成績は久保16勝、郷田15勝と拮抗している。
 振り駒を行ったのは第1局の開催に協賛した和田商会の和田晋弥取締役社長。記録係の坂井信哉三段の補助もあり、無事に大役を務め上げた。
 後手番となった久保は得意のゴキゲン中飛車。注目された郷田の対策は、早めに右銀を繰り出し主導権を握りにいく超速3七銀戦法だった。
 途中図は序盤作戦の岐路で、玉の囲いを急ぐ△6二玉もよく指されている。本譜の△4二銀は4筋で銀を向き合い、先手からの仕掛けを封じる考え方。郷田も呼応して玉の整備を進め、第1局はじっくりと組み合う持久戦となった。
 △9二香は雪舞う新潟らしく、穴熊に組んでの冬支度。どちらも予定通りなのだろう、時間の消費がないまま指了図まで来ている。

【第2譜】
▽用意の作戦
 大阪に住む久保は空路で新潟へ。雪の影響で若干の遅れが出ていたが、前日検分の予定時刻には間に合った。空の上から雪景色を見て「きれいだけど、大雪で苦労されている人もいるのだろうな」と思ったという。
 検分では地元の愛棋家が所蔵する盛上駒が2組用意された。ひとつは先代の竹風師作で木地は柾目。もうひとつは現・竹風師作で木地は虎斑。どちらも素晴らしいが、久保が選んだのは柾目のほう。郷田もうなずいた。おそらく久保がどちらを選んでも異論はなかっただろう。検分は10分ほどで終了した。
 開始からのノータイム指しは、久保が△7一金に5分使ったところで途切れた。ここからは読みのぶつかり合いだ。
 後手は穴熊へ。先手は美濃囲いから銀冠を目指す。急いで穴熊にする実戦例が多いが、郷田は「用意の作戦」と語る。9筋の位も取って、堂々たる布陣を敷いた。
 郷田が手堅く▲6六歩と打ち、時計の針が午前10時半を回ったところで、久保に和菓子とお茶。郷田にオレンジジュース、コーヒー、ミカン3個が出された。
 久保が△4二角と引いて玉頭ににらみを利かせたところが指了図。攻めの形を作るか、玉形の整備を続けるか。方針を決めるべき局面を迎えた。

【第3譜】
▽前夜祭
 対局に先駆けて行われた前夜祭には、100人ほどの将棋ファンが集まった。東京駅からの交通の便が良いためか関東から来た方も多く、また女性の姿が目立った。
 恒例のお楽しみ抽選会には、新潟日報70周年を記念して竹風師作の盛上駒が出された。これが対局に使用してもおかしくないほどの逸品で、目の肥えた棋士たちからも「自分が欲しい」の声が出たほど。当選した地元の男性は仲間を集め祝杯を上げたそうだ。
 久保の直筆色紙が当たった女性は、この日が盤寿(九九=八十一で将棋盤のマス目になぞらえている)の誕生日。会場には、ひときわ大きな拍手が響き渡った。
 指し始め図の局面で昼食休憩に入った。久保はビーフハンバーグステーキ、郷田は牛フィレステーキ。再開後に指された▲3八飛は、3筋から動く順を見せる積極的な一手。しかし郷田は局後にこの手を悔やんだ。本譜のように▲9八香から穴熊を目指すのであれば▲3八飛は必要なく、実際に後で▲2八飛(図)と戻しているのだから、明らかな手損である。
 また、▲3八飛と指したからには△7四歩に▲3五歩と突きたかった。以下△同歩▲同銀△3一飛▲3四銀△4五銀▲3三歩の展開でどうか。本譜は攻守に一貫性を欠いた。

【第4譜】
▽盛況の解説会
 午後2時半頃。大盤解説会場では、立会人の木村一基八段と、縁あって駆けつけた飯島栄治七段が熱弁をふるっていた。さらに聞き手の本田小百合女流二段や、日本将棋連盟常務理事として訪れていた田中寅彦九段も交互に登壇し、ユーモアを交えつつ対局の進行を伝えた。後で聞くと、用意された250席が埋まる大盛況だったそうだ。
 飯島七段の奥様は県支部連合会副会長のご息女。前夜祭ではサプライズゲストとして紹介されたが、訳知りの新潟のファンには「飯島先生、また来たね」と声を掛けられていた。周囲を気構えさせない温和な性格で、普及にも熱心な棋士だ。
 指し始め図の▲2八飛は、3八に寄った飛車を戻したもの。すなわち手損である。また6七金の位置が悪く、郷田は「序盤がまずく、このあたりは苦労した」と振り返った。他の棋士がすぐに穴熊に向かうところで、美濃囲いから銀冠へ。そして9筋の位も取ってから穴熊を目指した欲張りな作戦が裏目に出た。
 雪道を歩くときには、多くの人が通って踏み固められた場所を選び、滑らないように気を付けてさえいれば危険が少ない。誰も踏んでない道を歩けば、滑らないし進みも速いが足元は見えない。
 郷田は人と違う道を選び、結果として溝に足をとられてしまった。

【第5譜】
▽久保リード
 午後3時半になり、午後のおやつが対局室に運ばれた。久保はレアチーズケーキとコーヒー、郷田は和菓子とお茶。郷田が午前に頼んだミカン3個は手付かずのまま。
 図の▲5七歩は、形勢が思わしくないと判断しての我慢。田中寅彦九段は「らしくないね。筋は▲6四歩だけどなぁ」と首をかしげる。なけなしの歩を受けに使うのは、攻めの強さで鳴らす郷田らしくないという。しかしすぐに▲6四歩だと、△6六歩の軽妙手で先手が困る。以下▲同角は△5九飛成、▲6八飛も△6四金とされて飛車成りが残ってしまう。
 辛抱の▲5七歩に、久保は△5二飛と浮く。手を渡して、攻めて来いと誘っているのだ。郷田の残りが1時間を切った。玉の堅さを生かして攻める展開に持ち込みたい。
 ▲6八飛と回ったあたりで木村八段が控室に戻ってきた。初めての立会人に和服で臨み、解説会では落語家さながらの話術で将棋ファンを沸かせる。胸を張って歩く姿もりりしいが、後で「袴の後ろが乱れちゃって。前夜祭でお会いした盤寿の女性に直してもらいました」と恥ずかしそうに話してくれた。お茶目な木村八段である。
 指了図の△6二飛は思い切った受け。控室では△6三歩が安全といわれていたが……。

【第6譜】
▽無言の圧力
 体を前傾させて読みふけっていた久保は、△6二飛と指して席を立つ。控室では△6三歩が検討されていたが、局後に「せっかく切ったの歩なので」とバッサリ。
 これが決着がつく最終局ならば、わずかなリードを守りに行く△6三歩を選んだかもしれない。しかし第1局から大事に指しすぎては自らの調子が上がらないし、なにより相手の状態が見えてこない。力押しで来るのか、攻めてきたらどこまで破られるのか。読みの裏付けから互角以上と判断していても、相手の読みが更に上回っているかもしれない。番勝負ではそういった見極めが重要になってくるのだ。
 しばらくして「いやいや、そうかぁ」と郷田。久保が戻ってもまだ、ぼやきは止まらない。強い意志を感じさせる△6二飛の迎撃に、無言の圧力を感じたのだろうか。
 図からは▲6四歩と突く攻めがあり、△同飛なら▲同飛△同金▲2二飛で。△同金も▲4四角△同歩▲5三銀で先手優勢。したがって▲6四歩には△5五歩と角切りを防ぐが、▲5五銀の進出が残り後手も嫌な形だ。
 郷田はその順を知りつつ▲3七桂と力をため、△3三桂に▲6四歩(指了図)と突き出した。これでも△5五歩なら▲3五歩△同歩▲5五銀の攻めがあり、後手の3三桂が負担になってくる。

【第7譜】
▽雰囲気一変
 郷田が▲3七桂△3三桂の交換を入れたあとに▲6四歩としたのが指し始め図。戦いの始まりを予感した記者は対局室を出た。
 控室までは、窓辺に沿った長い廊下を通っていく。対局場の「新潟グランドホテル」は雄大な信濃川に面しており、目と鼻の先に萬代橋がある。午後4時を過ぎ、残雪による照り返しもだいぶ弱まってきたようだ。
 控室では木村八段と飯島七段が継ぎ盤を挟んでいた。この二人が検討すると、ほとんど木村側が優勢になる。飯島はいつも自信なさげで心配になるが、公式戦ではよく勝っている。相手の狙いにはまる検討も芸のうちなのかもしれない。
 木村八段は「▲6四歩には、プロなら絶対に指したいという手がある」と、小気味良い駒音を立てた。しばらくしてモニターに久保の左手が映り△5三銀が指される。銀を主戦場に向かわせる味の良さは、プロならずとも実感できる。
 そもそも▲3七桂△3三桂の交換を入れずに▲6四歩としていれば、△5三銀のときに▲1一角成があった。郷田は自分の意思で桂を跳ね合い、久保の好手を呼び込んでしまった。検討陣は後手良しのムードだ。
 しかし将棋は面白い。そんな雰囲気を一変する手が出たのである。▲9六銀(図)。「なんだ、これは」と驚きの声が上がった。

【第8譜】
▽柏崎の風
 久保ペースと見ていた検討陣が、郷田の▲9六銀を見てざわめいた。
 解説会場の田中寅九段は「▲9六銀には△7三金と飛車交換を挑む手がピッタリです。▲6二飛成△同銀となって、後手陣が手順に引き締まります」と話していた。
 控室の飯島七段は、しばらく盤面を見つめたあとに「そうか、誘っているのか」とつぶやく。すなわち図から△7三金と寄ると、▲6二飛成△同銀▲2二飛△6九飛▲2三飛成で先手十分なのだ。後手は角の処置に困る。
 また先手は一歩持てば▲2五歩の狙いがあり、その歩を▲8五歩から取りに行く。それが▲9六銀の意味だった。木村八段は「▲9六銀を見られただけで、新潟に来てよかったと思えます」と感心することしきり。
 久保は26分考えて、▲9六銀を最大限に認める手を盤上に示した。歩交換を防ぐためだけに穴熊を崩す△7三桂。ビュワッと吹いた強い風が窓ガラスを揺らす。
 誰かが「柏崎を思い出しますね」と言った。強風の柏崎で行われた前期五番勝負第3局で、久保は穴熊の桂を跳ねて渡辺明竜王に勝っている。
 郷田はノータイムで銀を引き戻して陣形を整える。控室では少しも検討されなかった▲9六銀と△7三桂。盤を挟んでいる者にしかわからない世界が、そこにはあった。

【第9譜】
▽水墨画の世界
 郷田が1日制タイトル戦に登場したのは2002年の棋聖戦以来10年ぶり。本局はここまで攻め急いでいる印象はない。相手どうこうよりも、まず自分の波長をこの舞台に合わせようとしているようだ。
 しかし久保の腰もなかなかに重く、局面は動かない。先手陣は飽和状態になっている。
 郷田は図から▲7五歩と突いた。飯島七段は「決断の手ですが、感触がふんわりとして、郷田さんらしい」と評した。
 強気な攻め合いで知られる郷田だが、それは戦う姿勢の話。個々の手は輪郭がぼんやりとしていて、柔らかな印象さえ受ける。郷田は越後湯沢で見た雪景色を「水墨画のようだった」と語った。郷田の将棋も水墨画のような、力強さと柔らかさを合わせ持っている。
 ▲7五歩は、歩を持っての▲3五歩が狙い。▲7五歩に△同歩▲同角△7七歩の攻め合いは、▲5三角成△7八歩成▲同飛で先手有利になる。
 しかし久保は冷静だった。まず△5四歩と打って銀を引かせてから、△7五歩と手を戻す。▲同角なら、銀を追い返した効果で△6四銀が成立する。先手の銀を4六に釘付けにして、自分の銀は玉に近い場所に使う。玉の堅さが違うのだから、攻め合いよりも駒の効率で押し込んだほうがいいのだ。形勢は少しずつ久保に傾いてきている。

【第10譜】
▽久保優勢
 4年前に第34期の棋王となった久保は、その翌年に王将も得て二冠に輝いた。棋王戦五番勝負は2月から3月、王将戦七番勝負は1月から3月と時期が重なるため、ここ数年のこの時期は、対局と移動に忙殺される。
 最初の1、2年は疲れを隠し切れない様子だったが、今年は「もう慣れました。冬は相性がいいのかもしれません」と余裕を見せている。経験を積み、番勝負のなかで調子を上げていく術が身についてきたのだろう。
 時刻は午後6時を回った。指し始め図は、6七と5七にと金の種を作った後手の模様が良い。
 郷田が残り10分を告げられたが、慌てる様子もなく、外れてしまった羽織のひもを直している。これを落ち着いていると見るか、盤面に集中しきれていないと見るか。
 残り9分を告げられたところで▲7四歩が指された。△同金なら▲2四飛▲同歩△6三角の両取り。逃げれば大きな拠点になる。なおここでは単に▲2四飛もあった。
 以下△同歩▲3三角成△6八歩成▲同金△5八歩成▲4三馬△6八と▲5四馬と進んだときに、7三金型のほうが▲4五角や▲1一飛の攻めが厳しくなる。しかし▲4三馬には△5一飛と逃げる手が冷静で、やはり後手に分のある形勢だ。
 本譜は△5八歩成が実現して好調。郷田は忙しくなった。

【第11譜】
▽さばきの質
 華麗な駒使いから「さばきのアーティスト」と呼ばれる久保だが、その「さばき」も昔と今とで質が違ってきている。
 若手のころは、誰も届かないと思うような高い木になった「さばき」の果実を、何度でも取ってみせた。周囲はその跳躍力をたたえたが、それだけではない。実際はこっそりと、木のうろに足を掛けるように、さばきの準備をしていた。
 当時の久保は、さばきの前にいかにも甘く見える手を指した。しかしその緩手風の手が、あとでさばきの役に立つ。相手がそれに気付かず呼吸を合わせるように緩手を指せば、駒たちは見事に舞うことができる。

 しかし上位に行くと、木のうろをふさぎ、巧みに果実を隠すような相手が多くなった。さばきを封じられれば、緩手風の手は本当の緩手になる。自らさばきを作りにいく組み立てでは、通用しづらくなってきた。 また、当時は低い構えの美濃囲いを好み、全体で押してくるような将棋は少なかった。
 雌伏のときを経て、タイトルに手が届くころには、久保のさばきが大きく変わっていた。駒を無理なく効率良く配置し、ある程度は相手に体を預け、攻めと守りを一体化させる。さばきを作るのではなく、自然にさばきが生じるのを待つ。
 本局の久保は、まさに自然体でさばきを得た。指了図は後手勝勢になっている。

【第12譜】
▽久保勝勢
あれだけ堅かった先手の穴熊が、見る影もなく崩されている。むしろ不安のあった後手玉のほうが金銀4枚でしっかりと守られている。
 図は6五の桂で5七の金を取った局面。もともとこの桂は玉の脇を固めていたもの。「左桂(2一桂)のさばきは振り飛車の命」という言葉があるが、久保にかかれば右桂までも自由自在だ。
 先手は飛び込んできた桂の処置に困っている。本来なら▲5七同飛と取って飛車を逃がしたいのだが、△6五銀▲7五角△5六歩と馬の利きを止められると、粘りようがない。本譜の▲5七同角は△5八竜と飛車を取らてしまうものの、陣形の乱れを最小限にとどめようとした応手だ。
 時計の針が午後6時50分を指している。▲7九角と銀を取り、郷田はグラスに手を伸ばす。しかし水は入っていない。続いて湯飲みに目をやったが、こちらも空になっている。水も茶も、飲みたいならば注げばいい。しかし郷田はそうはせず、視線を盤上に戻した。
 ▲9六桂は狙いの反撃筋。▲8四桂と跳ねた形は、駒が入れば後手玉に詰みが生じるのだ。しかし▲8四桂とのときに受けが利くため、脅威はそれほどでもない。
 久保は冷静に馬の利きをさえぎって先手陣を弱体化していく。そして指了図で実に味の良い一手を放った。

【第13譜】
▽良い手は良い手
 久保はその感触を味わうように、しっとりとした手つきで△7六歩と突き出した。攻めの拠点を作りながら、▲8四桂に△6六角を用意して、まさに一石二鳥だ。
 △7六歩のような厳しくも柔らかい手は、いかにも郷田が好みそうだ。窮地に追い込まれたのは自分なのに、郷田はうなずいてしまっていた。勝敗とは別の次元で、そして指したのが自分でなくても、良い手はやはり良い手なのだ。
 残り5分から3分使って郷田は▲8八銀と埋める。とにかく最善を尽くして頑張るしかない。
 対する△7五角は、▲8四桂の筋に対する細心の気配り。攻めだけ考えれば△6六角と打ちたくなるが、▲6七歩と催促されて逆に忙しくなってしまう。7五に打っておけば、角を取られたあとに△同銀と取り返して、8四の地点に利く。
 久保が一歩ずつ、着実に勝利に近づいている。角を成り込まれ、△6七金と張り付かれたところで、郷田は羽織のひもに手をやった。さっきから何度か外れてしまっていて、そのたびに丁寧につけ直している。しかしこのとき、ひもは外れていなかった。指が何かをつかむように空を泳いだ。
 指了図の▲7三桂は形作り。飛車か金が入れば後手玉は詰むが、郷田も久保も、そんな場面が訪れないことはわかっている。

【第14譜】
▽新潟の夜
 △7七香成から△6九竜が、鮮やかな寄せだった。先手に飛車を渡すと後手玉が詰むが、一瞬早く△7三金と桂を払う手がピッタリだ。
 もう郷田に手段は残されていない。▲7三同歩成と指して、ポケットに手を突っ込むように両手を袴の中に入れた。目元は不思議なくらいに涼しげで、どこか不敵な光を帯びていた。
 すぐに△8七桂が指され、郷田は袴に入れた手を出し、鼻をクンと鳴らしてから、駒を投じた。投了図からは▲8八玉△7九馬▲8七玉△7八角以下の詰みがある。
 両者は戦いを見守った将棋ファンの元へと向かった。大きな拍手が解説会場を包みこむと、並んで深々と礼を返した。
 打ち上げ後に、久保と郷田は別々に飲みに出かけた。記者は郷田に同行して古町の寿司屋へ。
 新潟の酒をしこたま飲み、郷田はよくしゃべった。東日本大震災で死を間近に感じたことや、阪神・淡路大震災で奨励会在籍中に亡くなった船越隆文さんと将棋を指した思い出など。仲間が死ぬのは耐えられないと言ったあと、テーブルに突っ伏して静かになった。
 帰り道、足元がおぼつかない郷田を脇から支えながら、「雪で滑らないように」と声をかけた。郷田は体を預けるようにして「転ぶときは、みんな一緒だ」と笑った。
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