お仕事ブログ

日々のライター稼業など。コメント欄に書きにくいことや仕事のお話はgotogen510@yahoo.co.jpまで

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お試し企画

2008年02月25日 | Weblog
ためしに前の週に行われた公式戦のなかで、自分が「これはいい将棋」と思った将棋を一言コメント付きで挙げていこうと思います。
長い前説は嫌われるので早速いきます。(結果が公表されていない対局は除きます)。

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・2月19日 王将戦 長沼洋七段-糸谷哲郎四段戦。
『NHK杯で見せた受けの強さ、手稼ぎがここでも炸裂』

・2月20日 新人王戦 村田顕弘四段-稲葉陽三段。
『稲葉三段のスケール大きな将棋と、村田顕四段の銀タダ捨ての勝負手』

・2月20日 竜王戦 村中秀史四段-伊藤真吾四段。
『かたや完封を目指す、かたやこじ開ける。最後はあまりにピッタリな収束』

・2月20日 王座戦 谷川浩司九段-山崎隆之七段。
『あの妙角を彷彿とさせる山崎の自陣角。そして長い終盤戦へ』

・2月21日 女流王位戦 中村真梨花女流初段-貞升南女流1級。
『どこまでも真っ直ぐな貞升将棋と、力任せな中村の荒捌き。次の世代はスタンバイ済み』
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…とまあ、こんな感じです。
あくまで自分の琴線に触れた将棋を選んでみました。このうち何局が日の目を見るかわかりませんが、もし見かけることがあったら、じっくり並べてみてください。
新聞観戦記か、将棋世界の名局セレクションか、次の将棋年鑑か。もう少し風通しが良くなればいいんですけどね。
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清水寺とか

2008年02月24日 | Weblog



(舞台の上から)

思い切ることの例えに「清水の舞台から飛び降りる気持ちで」っていうのがありますが、実際は思い切って飛び降りても8割5分は助かるらしいですね。
まあ出典がウィキペディアなので、信じるも信じないもアナタ次第。

ところで。
現在はwikiが信憑性のない情報の代名詞になっているみたいですが、以前「じゃあ正しい情報はどこにあるのか」と考えてみたことがあります。
これがよくわからないんですよね。情報なんて結局は誰かの記憶とか、昔の誰々が書いた文献とか。
自信を持って「正しい情報です」と胸を張れる状況には、どこまで調べたら辿り着けるのか。おそらく最も膨大な量の情報が存在するインターネット上で、どういったラインを越えれば信憑性が足るのか。ネームバリューなのか、単純に多数派が強いのか。よくわかりません。

公文書だから正しいわけではないし、大本営発表だから真実というわけでもない。だからライターは出来るだけ生の声を求めて右往左往するんだと思うんです。
「信憑性は?ソースは?」と聞かれたら、「この目で見て、この耳で聞いた」と答えることはできます。でもそれも自己満足でしかないかもしれない。聞き間違い、都合のいい思い込み…そうやって片付けられてしまうかもしれない。

真実を伝えるべきか、それとも説得力のある情報を提示するべきか。両者が両立しないことも多々あります。たぶん誰もが思い悩むところなんでしょうね。僕にはまだ経験が足りないので、明確なスタンスは打ち出せない。それがいいかどうかもわからないんです。
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今後の予定など

2008年02月22日 | Weblog
まずは金閣寺の写真を1枚。


金閣寺ならキラキラしたのとか水に映ったやつを撮るのが定跡かもしれませんが、こういうのも勇壮な感じがしていいかなと。空の広さを見ていると、室町時代もこんなだったのかなぁと思いを馳せたくなります。


続きまして。
これは局所的な話になってしまうかもしれませんが、2月から京都新聞の木曜夕刊にエッセーを書かせてもらっています。
だいたい将棋のことを書いているのですが、なぜか囲碁ファンに好評とのこと。どういうわけでしょうね(笑)
連載が終わってお許しが出れば、もしかしたらこちらに転載できるかもしれません。


2月の予定は、日曜に大和証券杯のお仕事、火曜に教室があるくらい。抱えている原稿はいくつかありますが、外に出る仕事が少ないので自分のペースとしてはかなり楽な感じです。
時間ができたときに何をするか。「小人閑居にして不善をなす」とはならないように、気を引き締めなきゃいけません。
ちなみに今日は↑のgooブログランダムジャンプを使って遊んでいました。こちらのブログを見て奈良に行きたくなったり、こちらのブログで生きる希望が湧いてきたり。たまにこうやって視野を広げるのも悪くないかもしれません。

そうそう、朝日杯の観戦記が順調に更新されています。ふと思い立って数えてみたら、更新されてないものを含めると8局も書かせてもらってるんですね。他の媒体に比べて制約が少ないせいか、そんなにたくさん書いている実感はありませんでした。

観戦記というのは数をこなすとマンネリに陥りやすいというジレンマがありますが、時間は有限なので、ある程度は型にはめなければ量産できません。
僕も一応は似たものにならないよう工夫はしていますが、見る側としては様々な視点からの観戦記を読みたいという要望もあるでしょう。
せっかくネットという範囲、深さ、速度に融通が利く媒体でやっているのだから、今までとは違った形の(例えば読者応募型とか、掲示板方式にして対局者が質問に答えるとか)アプローチがあってもいいかもしれません。

【追記】
中原-井上戦の観戦記に図面を追加しました。
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徒然に色々と

2008年02月21日 | Weblog
(1)国立の子供教室を2月いっぱいで卒業する少年に「先生もテイルズウィーバーやってよ」と言われたので、やってみた。やりはじめたらすぐに数時間。これは危険だ。
リアルでは自分が先生だけど、オンラインでは少年が師匠ということになる。ともあれ繋がりが続いていくのはいいことだ。嬉しいことだ。

(2)先日京都に行ってきた。デジカメとは便利なもので、なんと撮った写真をそのまま人様にお見せできるのだ。


(カツ丼、おうどん、なべ焼きうどん)


(オムカレーライス)


(中華そば)

一番上は、京都駅近くのうどん屋さん。駅に近いせいか、だしのカツオが強すぎ&塩辛い感じ。カツ丼は肉が薄かったものの、僕は衣重視なので問題なし。美味しかったです。
真ん中は清水寺に向かう途中の喫茶店にて。中はちゃんとドライカレーでした。
下は龍安寺駅すぐのうどん屋さん「笑福亭」。ここは作家の井上靖さんが贔屓にしていた店だったみたいだ。トイレ借りるために偶然入っただけなんだけどね。驚いたね。




(ちょっと見にくいかも)


(寄せ書きノート)

もちろん、おうどんも頂きました。ああ、京都に来たんだなと実感できる味。うまいです。



(3)そんなこんなで寝る時間となりました。各種観光名所はいずれまた。

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そういえば

2008年02月18日 | Weblog
渡辺竜王のNHK将棋講座をまとめた渡辺明の居飛車対振り飛車(1)中飛車・三間飛車・向かい飛車渡辺明の居飛車対振り飛車(2)四間飛車編が発売されました。
この本は僕もお手伝いさせてもらっています。居飛車と振り飛車の対抗形について、過去から現代に至るまでの変遷が書かれており、(おそらくは)幅広い棋力の方々に楽しんでいただけるものだと思います。よろしくお願いします。

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長くなってしまったので

2008年02月15日 | Weblog
コメント欄に書いていただいた質問と、その答えをこちらに書きます。主に、朝日杯観戦記の▲佐藤二冠-△郷田九段戦についてです。

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(e.mu)

2008-02-14 08:57:37

以下は観戦記を読んで疑問に思ったことです。

郷田九段のエピソードとしては前期名人戦の
扇子の件も非常に影響しているように思うのですが、今回の観戦記では久保戦と日本シリーズにしか触れてないのはどうしてですか。敢えてなのでしょうか?

また、棋士全員が一歩後退すべきではないかという提言に関してです。
個人的にですけれども、二歩や成れないところに駒を置いたりとか些細なミスに関して厳正に臨むのに、時間切れについては記録係に一任というのがアンバランスな気がしました。そもそもですが、記録係は記録をつけるのが本業であって、時間はチェスクロックを使用すればいいのではないでしょうか。全棋士が一歩後退という提言は記録係が時間の読み上げなども行う前提で書かれているのだと思いますがなぜ、記録係の読み上げにこだわるのでしょうか。

次に、佐藤二冠のコメントですがどうも
郷田九段から指摘されたことのみならず、対局のマナー全般について気にされているようですが、指摘というのは時間ぎりぎりの着手だけではなかったのでしょうか。

最後に今回の観戦記の件ではなく棋王戦についてです。
棋王戦33期の昨日の対戦は、解説がリアルタイムでないにしてもブログなどで中継があればかなり良かったと思うのですが、棋王戦のブログは
12月の挑決以降は更新されないのでしょうか。



>e.muさん

(1)今回の件と名人戦の郷田九段の扇子の件は、個人的には別問題だと思っています。また無理に話を広げすぎてしまうと、焦点がぼやけてしまうだろうという懸念もありました。


(2)秒読みをチェスクロックにしたらいいという提案ですが、私はそうは思いません。理由は以下の通りです。

・チェスクロックは故障などのリスクが高く、万能ではない。また融通も利かない。

・チェスクロックを自分で押すことに対する慣れには差があり、一時的にでも不公平が生じる。

・ちょっとした操作(チェスクロックを倒してしまう、不正にボタンを押す)で状況が変わってしまうため、記録係が秒を読むよりトラブルが起こりやすいと思われる。結局は「やった、やってない」の水かけ論になってしまう。

・時間切れ負けが頻発しても、棋士、スポンサーは喜ばない。おそらくファンも面白くない。

他にもいくつかありますが、まずはすぐに思いついたところまでにしておきます。
現状を維持しつつ、棋士も努力して意識を高めていく。また同様のトラブルは起こるかもしれませんが、その都度問題提起して、もし必要なら罰則も作る。そういった感じでより良い方向を目指すのが理想ではないでしょうか。
重要なのは公正かどうかの機械的な線引きより、どうなっていくことが将棋界にとって良いことかだと私は思ってます。


(3)佐藤二冠のコメントについてですが、これを機会にマナー全般について考えたいという意味だと解釈しています。現場では秒読み以外の指摘はありませんでした。

(4)棋王戦の件ですが、挑戦者決定戦の中継は共同通信社さんが将棋連盟に委託したもの。第1局の中継は京都新聞社さんが自社で行ったものですので、管轄が違うのです。

私は現地で観戦していたのですが、公開対局や大盤解説会、指導対局など京都新聞の力の入れようはすごいものでした。足を運んでくれたファン(おそらく、多くは地元の方々)を大事にしたいというスタンスだったのだと思います。
それに比べてしまうとネット中継は必要最低限という感じでしたが、どこに力を入れるかは各社の個性。時間、予算、労力は有限なので、準備のなかで割り切らなければいけない場面も多々あったのではないでしょうか。
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第33期棋王戦本戦▲森下卓九段-△阿部隆八段戦

2008年02月12日 | Weblog
この観戦記は、事情により2つのパターンを書くことになりました。詳しい話は明日以降に譲るとして、まずは第1譜から。

【第1譜】
 森下はまず、置かれていた座布団を持って押入れに向かった。
 対局時に記録係が用意する座布団は、前日の対局で使われたものであることが多い。本来なら局後に片付けるべきなのだが、他の対局が続いている場合は、押入れの開閉が邪魔にならないよう部屋の隅に置いておくのが慣習になっているのだ。気にしない棋士も多いが、森下にとっては気持ち良く指すための儀式なのだろう。後から入室した阿部はそのまま下座へ。
 歩を一枚一枚、嬉しそうに並べる森下。5月まで務めた理事職を離れ、今は実戦感覚、勝負勘を取り戻すため研究会に明け暮れているという。
 阿部はゴキゲン中飛車を選択。後手番ならこれと決めていたそうだ。
 数あるゴキゲン対策のうち森下が選んだのは、早めの角交換で後手の駒組みを牽制する「丸山ワクチン」。

 
 途中図▲7八銀の局面は、対局が行われた10月11日までで先手58勝、後手58勝と全くの互角となっている。一時期は図から△7二金の遠山流が流行したものの、最近は下火。最近では△6二玉や△7二銀の採用率の方が高い。
 森下は先手番を、阿部は後手番を持って9月に△6二玉の局面を経験し、森下は北浜七段を相手に苦しい将棋を逆転、阿部は畠山鎮七段に中押しの圧勝している。
 指了図△2四歩は森下-北浜戦と同一。どうやら本局のモデルはこちらだったようだ。


(途中図は11手目▲7八銀、第1譜指了図は24手目▲2四歩まで)

【第2譜】
 森下は今期11勝11敗。出だし3連敗だったが、最近10局は7勝2敗1千日手と調子を上げてきた。棋王戦で渡辺明竜王を、JT日本シリーズで現棋王の佐藤康光二冠を破った星が光っている。
 阿部は谷川九段、久保八段らとともに関西棋界を担うべきポジションにいる棋士なのだが、今期成績は8勝9敗と負け越し。順位戦の鈴木大介八段戦では勝っている局面で勘違いから投了してしまうハプニングもあり、いまいち波に乗り切れないでいる。
 指し始め図から▲2四同歩△同銀。▲森下-北浜戦は1時間以上考えて▲8八角と指したが、本局は16分の考慮で▲7七角を選択した。
 この局面の実戦例は▲中村大地四段-△佐藤天彦四段戦の一局のみ。たまたま同日に対局していた佐藤天四段は、▲7七角の局面を見て一瞬目を背け、すぐに立ち去った。対局に影響を与えてはまずいと思ったのか、それとも自分が負けた将棋が再現されているのが嫌だったのか。
 阿部の△3三角で対局再開。この手では形良く△3三桂と跳ねたいのだが、それには▲2五歩がありうまくいかない。
 △3三角からの手順も、▲中村大-△佐藤天戦と同じように進んでいく。▲2二角の打ち込みは、角銀交換の駒損ながら2筋を突破すれば優位に立てるという大局観に基づいたもの。
 指了図△5五歩は新手。この局面で、まだ閑散とした控え室に中村大地四段が姿を見せた。


(第2譜は38手目△5五歩まで)

【第3譜】
 指し始め図の△5五歩は、研究会で試したこともあり自信をもっての採用だった。△5五歩のところ△3三桂と跳ねたのが、▲中村大地四段-△佐藤天彦四段戦。中村四段は「ああ、あの将棋ですね」と微笑む。
 中村は今春に早稲田実業高校を卒業し、早稲田大学に入学。あのハンカチ王子、斉藤佑樹投手と同じだ。

 中村によると▲2二角の打ち込みは成立しており、自身が指した時点では先手有利と認識していたという。「△3三桂は手の流れからこう指したいところですが、▲3四銀で先手良し。△5五歩は新研究ですね。第一感は▲3二とですが…」

 森下の選択は▲2一とだった。▲3二とも読んでいたが、△同飛▲2一飛成△3一金▲2八竜△2二飛▲2三銀△2一飛の順は歩切れ。「そこで▲9五歩から歩を入手する順もあるのですが、指しきれませんでした」。
 先の△5五歩は銀を形良く5六に引かせない狙い。一昔前の関西将棋といえば形にこだわらない力戦のイメージが強かったが、阿部将棋の真髄は自陣を好形、相手陣に悪形を強いる点にある。美意識の高さ、大局観の確かさ。序中盤で部分的に読み負けすることは滅多になく、いつも効率よく空間を支配している。

 △4四歩に対する▲3六銀は疑問手。阿部新手△5五歩の可否は△4四歩に▲3四銀と出た局面で判断すべき。本譜は森下に見落としがあり形勢の秤が傾くことになる。


(第3譜は46手目▲4六角成まで)

【第4譜】
 森下の誤算は、指し始め図で▲5八金右が成立していなかったこと。
「▲5八金右と上がる手がにピッタリだと思ったので本譜を選んだのですが…△2七歩の筋があるんですね」(森下)
 図から▲5八金右△3五歩▲4七銀と引いて十分というのが読み。しかし▲4七銀の瞬間に△2七歩があった。取るしかないが、△4七馬から△3八角で飛車金両取りが決まってしまうのだ。

 15時半過ぎ、森下は構想の破綻を認め、▲1一と~▲4七銀打と路線変更した。飛車の転換を許さない▲2一とも森下らしい辛抱なのだが、形勢ははっきり後手優勢になっている。「ここが難しいところでね…」の阿部の呟きは楽観癖のある己を戒めてのことだろう。 
 馬を攻防の要所に引き付け、△2五歩で飛車の成り込みを防いだ。ここまでは良かったのだが…△7五歩の桂頭攻めがやりすぎだった。正しくは△7五歩のところで△8四歩。銀冠に組み替え、4一の金を寄せていけば怖いところが無くなる。「こんなん銀冠にして終わっとる…こっからは感想戦いらんな」(阿部)

 数週間後、タイトル戦の控え室で鈴木大介八段に本局を見せ、件の銀冠組み替えの変化を示すと、鈴木は「後手良しだが勝負はこれから」。脇で眺めていた米長邦雄永世棋聖も目を細めて頷く。阿部が見れば終わっとる。鈴木から見ればまだこれから。次回の阿部-鈴木戦が楽しみになった。


(第4譜は68手目△6四歩まで)

【第5譜】
 指し始め図の駒割は、6五桂が取られると考えれば角と銀香の交換。先手は攻め手の少なさが気になるものの、ゆったりした展開になれば金銀の多さが生きそうだ。一方、大駒の働きは強いものの離れ駒が多い後手陣。形勢はどちらとも言えなくなっている。

 棋士は大まかに創作型と修正型に分かれる。創作型の代表が駅馬車定跡をはじめ数多くの新機軸を示し、「将棋に勝つ」指し方を重んじた升田幸三実力制第四代名人。修正型の代表は実戦的な指し方、いわゆる「相手に勝つ」手段を追求した大山康晴十五世名人。
 森下システムのイメージが強い森下だが、本来は駒がぶつかってから力を出すファイター型。序盤センスより押し引きに長けたタイプで、特にこういった場面での金銀の使い方は抜群にうまい。

 △4二金は遊び駒を活用する本筋の一手。場合によっては△5一飛から△2一飛の大転回を見せている。阿部は上着を脱いで席を立ち、数分後にお茶を2本抱えて戻ってきた。長期戦になると見たのだろう。
 森下は△4二金に対する▲6四歩を悔いた。「ともあれ▲5八金右でした。手順に△7二金と上がられて▲6四桂の筋が消えているし…とにかく金を使わなければ。勘が鈍ってる勝負勘が」。再び形勢が傾いた。
 18時過ぎ、阿部が△5六飛と決めに出た。森下の頬が赤みを帯びる。上着を羽織る阿部。上着を脱ぐ森下。


(第5譜は85手目▲6七銀上まで)

【第6譜】
 森下は14分考えて、7八の銀を6七へ。勝負にタラレバは禁物だが、4九の金が5八なら味良く▲6七金右とできた。しかしそのチャンスを逃したのは他ならぬ森下自身。局後に何度となく悔いたのは、この金の使い方だった。とはいえ▲6七銀上は現局面では最善の頑張りで、実際に阿部はここで間違えた。

 指し始め図の控え室の見解は△2九馬で後手良し。次に△1八馬から△6八角成があり、ピッタリした受けもない。阿部もその手順は読んでいたが「△2九馬は▲5七歩が気になって。しかし実戦の△5七銀は無筋だった」
 △5七銀に▲7七金。この2手で森下が息を吹き返した。さっきまで4六角に狙われていた6八の金だったが、本譜は7七に逃げているため△2九馬の厳しさが半減しているのだ。

 ▲7四桂で一枚はがし、△8五桂の金取りにグイッと▲7六金。△1八馬と飛車を取られても、わが道を行くとばかりに▲8五金。急所の桂を外しつつ、△同歩には▲8四桂が詰めろになって攻守ところを変える。
 阿部は変調を自覚したのか、顔に扇子を押し当てた。この日の阿部の扇子は、全日本プロ将棋トーナメントの歴代優勝者が揮毫したもの。阿部は1993年、森下も1990年に優勝している。ひしゃげた中骨が悲鳴をあげるように軋む。
 △6六銀不成。この時点で残り時間は森下6分、阿部10分。


(第6譜は98手目△6六銀不成まで)

【第7譜】
 急所の香を取った△6六銀不成に対する応手もまた難しい。
 指し始め図は複数の駒が当たりになっており、「歩が三枚ぶつかったら初段」の格言を借用するならば、馬、銀、金が火花を散らすこの局面は何段の認定を受けられるのだろう。
 △6六銀不成に▲同銀直や▲同銀引は、いずれも△6九飛が厳しく支えきれない。▲8四銀は後手玉が詰めろにならないため△6七銀成で勝てない。もちろん▲1八香と馬を取る手も間に合わない。
 森下の次の一手は、何も取らない▲7三歩成。うまさを感じさせる切り返し。常にこの筋を狙っていたのだ。
 この成り捨てに△同金は▲7四桂、△同玉は▲8四金から▲7四桂。阿部は小さく二度舌打ちしてから、むしるように△同桂と取った。森下はすかさず、歩がいた場所に▲7四桂。これが▲7三歩成の効果だ。
 阿部はすぐに△7一玉。ここ以外に逃げるのは▲8四金が詰めろになり一手一手の寄り。森下もノータイムで▲5一飛と王手し、一礼して手洗いに立つ。残された阿部が呟いた。「こんなん詰むんでしょ?こんなん…」。前傾姿勢、扇子をせわしなくいじっていた阿部の動きが止まった。そしてそのまま10秒ほど静止。残り4分まで考えて、背筋をピンと正した。6一に打つ合駒は香車、桂馬、飛車の三択。次の一手が本局の決め手となった。


(第7譜は103手目▲5一飛まで)

【第8譜】
 ▲5一飛と打ち込んだ森下は、読み切れないながら手応えを掴んでいた。「△6一桂と受けさせて▲8四金。取られそうな金を手順に逃げて…」
 体を前後に揺する阿部。残り4分になったところで大きく息を吐き、姿勢を正して駒台の駒をそろえる。手にしたのは桂ではなく飛車。これが本局の決め手となった。
 森下は△6一飛の合い駒を全く見落としていた。すぐには状況を把握できないのか、首を二度三度と振って6一の地点を見つめている。何度見ても飛車。桂じゃない。
残りは3分、2分と減り、そして一分将棋に。58秒まで読まれたところで、お辞儀をするように頭を低くして、▲8二銀と打ち込んだ。この手を見た阿部は、網にかかった魚を愛でるように、チョンと銀に触れた。もう切羽詰ったムードはない。
 投了図から▲8六玉は△6八角成。▲6五同銀や▲6七玉は、いずれも2九馬の利きが強く即詰みとなる。
 森下にとっては後悔が多い将棋だったのだろう、何度も自身を戒める言葉を吐いた。負けたら感想戦で大暴れ、勝ったら借りてきた猫のようにおとなしくなる阿部も、納得できない部分があったのか「こんなん、こんなん」を連発する。
 阿部は後日「最近はおとなしい感想戦を心掛けています」と話していた。筆者が、どうせなら全部「こんなん」で統一したほうが楽しいのにと思ったのはもちろん秘密だ。

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こっそり…でもないけれど

2008年02月11日 | Weblog
これまで掲載した観戦記に図面を付けてみました。
gooは図面にリンクを貼ると枠が出来る仕様なんですね。なるほど。

第33期棋王戦本戦▲森内俊之名人-△三浦弘行八段
第33期棋王戦本戦▲山崎隆之七段-△堀口一史座七段
第33期棋王戦予選▲田中寅彦九段-△矢内理絵子女流名人
第32期棋王戦敗者復活戦決勝▲佐藤康光棋聖-△羽生善治三冠(肩書きは当時)

第32期棋王戦▲中原誠永世十段-△井上慶太八段(肩書きは当時)は、別のパソコンにデータが入っているので、もうしばらくお待ち下さい。



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本日は

2008年02月09日 | Weblog
朝日杯の準決勝、決勝のお仕事。僕は行方-阿久津戦と、決勝戦を担当します。
ただいま設営中なので、また後ほど。
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仕事中ですが

2008年02月06日 | Weblog
中田功七段-伊藤真吾四段戦の観戦記のお仕事中@控え室です。

さて朝日杯web観戦記の▲佐藤二冠-△郷田九段戦が更新されました。よろしくお願いします。
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2月上旬

2008年02月04日 | Weblog
【1日】
A級8回戦一斉対局。僕は▲木村-△羽生戦のネット中継担当でした。
先手番の木村さんは、自然な手を続けていたら苦しくなったという印象。将棋は一手ずつ指すゲームだから、一手あたりのポイントが高い手を指す工夫が重要になる。
▲1.1対△1.0を十回繰り返せば、先手が一手分得をする。局面によっては▲0.5対△0.4になることも、▲0.5対△1.0→▲2.0対△1.0の進展が必然になることもある。って、これってコンピュータ将棋のゲーム木ですか。

この日は関西に2人の新人さん候補が見学に来た。好感触だったようなので、このまま無事にスタッフになってくれると嬉しい。
僕は銀杏記者が入ってきたことで刺激を受けたし、何かしら向上した部分もあった。年齢を重ねたら出来なくなることは、無理してでも今のうちにやっておいたほうがいいと思う。
終了後、毎日新聞牧野さん、青葉記者、桜木記者と代々木で打ち上げ。青葉記者は「5時間後に高輪で座禅しなければ」と面白いことを言いながら帰っていった。解散は午前5時。
名人戦棋譜速報に不具合があった件については、現場スタッフではどうしようもない種類のものでした。何かわかったら、可能な範囲で公開しようと思っています。

【2日】
夕方まで睡眠。夜は片上・北尾夫妻の家に行き、ご飯をご馳走になった。家であれだけ美味しいピザを焼けるのはすごい。おかげでビールを飲みすぎてしまった。あとワインもご馳走さまでした。

【3日】
夕方まで原稿書き、およびゴロゴロ。夜は大和証券杯のお仕事。この日は遠山さんがチャットを自分で打ってくれたので、僕は観戦室担当。二転三転、いやはや大熱戦でした。終了後、雪が残っていたので遠山さんが「火曜日対局だし、雪で転んでケガしたらかなわん」と言い出したので、矢内さんとともにタクシーで新宿まで。千葉さんも一緒にということで少し事務室で待っていたけれど、感想戦が終わってすぐに帰ってしまったようだ。
遠山、矢内、千葉、僕は平成5年奨励会入会の同期で、4人とも特に有望とは言えないグループだったから、例会で対局することも多かった。そんなだから、立場は違えど活躍してくれれば嬉しくなる。

【4日】
オフ。原稿の整理、調べものなど。晩ご飯に何を作ろうか思案中。

【5日】
ここからは予定。
国立の教室。たぶん子供たちと楽しく戯れちゃうはず。

【6日】
観戦記のお仕事。中田功七段-伊藤真四段戦。
伊藤さんも平成5年入会の同期。やはりどちらかというと有望ではないグループだったと思う。フリークラス脱出の目があり、今期の残り数局は非常に大きい。ひとつ負ければ相当苦しくなるため、この将棋も鬼勝負になる。

【7日】
マイナビの中継。矢内女流名人-鈴木女流初段戦。
観戦記は片上さん。東西で別れているけれど、同じ平成5年入会。奇遇ですな。

【8日】
オフにさせてもらう予定。おそらく家で原稿の準備など。

【9日】
朝日杯の準決勝、決勝の中継。準決勝の行方八段-阿久津六段戦は観戦記も書きます。決勝の観戦記は大御所登場の噂もあり、非常に楽しみにしています。

【10日】
この日は競馬の共同通信杯。おそれ多くも昨年に続いて貴族席に誘っていただいたけれど、夜は大和証券杯のお仕事。貴族席でビールが飲めないのは悲しいので、残念だけど他の方に行ってもらうことに。

【11日】
いまのところはオフ。原稿書きなど。

【12日】
国立の教室。

【13日】
棋王戦観戦のため京都へ。仕事ではなく観光ですね。

【14日】
一日京都を散策。最終あたりの新幹線で帰ってくる予定。

【15日】
未定。仕事の可能性もあり。
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