白川漢字学といわれる。口の字源に、祝禱、盟誓を収める器の形をしていると、卜文、金文の解説をもってする。説文にある、人の言食する所以なり という説を退けた。その矛先は、漢字を字源から見る、ほかの説明に、この説文が引用されるを、厳しく批判することに向けられている。ここを読むたびに、文献批判の重きを知る。もうひとつに、漢字は国字であるということ、日本の漢字は日本の文字であるという考えである。むろん漢字は漢字としての中国語音韻を持つから、日本漢字を漢字と見る、つまり国字であるゆえんは、漢字の日本語発音にある。漢字を国字とする立場は漢字を入れた祖先の知恵である。ある時期からとりいれたものの、その前に、文字なく、日本語は漢字を入れてことばとしたのであるから、その文字の成り立ち、漢字の字源を正しく受けるべきである。三部作は、字源字書、古語辞典、漢和辞典と見られているが、いずれも国字国語辞典である。字通が包摂する。
>字書を作る
『字書を作る』は、字書三部作の製作に至る機縁と各字書の巻頭文、そして、『説文新義』第15巻「通論篇」の第5章「文字学の課題」を1冊にまとめたもの。平成14年(2002年)に刊行された
ウイキペディア 字統より
>字書を作るということが私にとって一の宿命であったのかも知れない。その最初の機縁となったものは、『言海』であった。」と白川はいう。白川が書物を読み始めたころ、古語辞典の類を求めたいと思い、まず『言海』を求めた。白川は『言海』について、「このわが国最初の古語辞典は、大槻氏が自ら親炙していた欧米の辞書の編纂法を範とし、ヨーロッパの辞書編纂の事業に触発されて行われたということが、私には一つの驚きであった。(趣意)
>口(コウ・ク・くち)、象形、口の形。『説文』二上に「人の言食する所以なり」という。卜文・金文にみえる字形のうち、口耳の口とみるべきものはほとんどなく、おおむね祝禱(しゅくとう)・盟誓を収める器の形である口-oracle.svg(さい)の形に作る。従来の説文学において、口耳の口に従うと解するために、字形の解釈を誤るものは極めて多く、(後略)
>口(さい)の提唱
「史・告・右・吉」などの字に含まれる「口」の形は、みな口から発する言葉を示すという字形解釈が行われていたために、文字が作られて3000年以上の永い間にわたってその本来的な意味が理解されることなく今日に及んだ、と白川は考えた。口という字は、甲骨文や金文には人の口とみるべき明確な使用例はなく、みな神への祈りの文である祝詞を入れる器の形の口(さい)である。これは白川が漢字研究のごく初期の段階で独自に提唱し、昭和30年(1955年)に発表した
>
古代中国における戦いはまず呪術による攻防として行われ、その呪術的な戦いは言葉によって展開した。そして、その言葉のもつ呪的な機能を定着し、永久化するために文字が作られた。呪術の攻撃と防禦は、文字の呪能を託された祝詞の器の口に対して加えられる。よって、口-には様々な武具が防禦のために用意された。口-に鉞を加えた「吉」(呪能を守ること。詰めるが原義)、口に盾を加えた「古」(呪能を長い間保持すること)、「古」をさらに厳重に守るために外囲を加えた「固」(呪能を守り固めること)などはその祝詞の呪能を保全するための防禦的方法である。一方、敵の防禦を攻撃して破るためには口を汚す文字が用いられる。「舎」(すてる)と「害」(そこなう)は、いずれも長い刃をもって口を突き通す形であり、そのような方法で呪能は失われると考えられた。また、「沓」(けがす)は、蓋が少し開いた口(曰(エツ))に水をかけて祝詞を汚すことで、これも呪能を奪う方法であった。
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字書を作る (平凡社ライブラリー) 単行本(ソフトカバー) – 2011/3/15
白川 静 (著)
内容紹介
文字学の系譜と字書のあり方、自らの文字学について綴った文章と、字書三部作(『字統』『字訓』『字通』)の概略と編集方針を記したそれぞれの巻頭文を収録。文字学入門に最適の一冊。
内容(「BOOK」データベースより)
辞書を作るという作業は、楽しいものである。苦労は多いが、苦労は苦痛ではない。辞書を作るものには、何かを意図し、目標とし、成就したいという願望がある。大きくいえば、理想がある。―文字学の系譜と辞書のあり方、自らの文字学について綴った文章と、字書三部作(『字統』『字訓』『字通』)の巻頭文を収録。文字学入門に最適の一冊。
目次
字書を作る
文字学の課題
三部の字書について(字統の編集について
字訓の編集について
字通の編集について
字通に寄せる)
上記内容は本書刊行時のものです。
字統の編集について
目次
本書の要旨、字源の研究について、字書の形式
六書について、本書における六書の扱いかた、会意と形声、字源と語源
声母と古紐、韻母と古韻、わが国の漢字音
文字学の資料、わが国の古代文字学、文字学の方法
字形の問題、字形の意味、文字の系列
本書の収録字、音と訓、解説について
字訓の編集について
目次
本書の趣旨
字訓と国語の問題、字義と語義、同訓異字、本書の方法
語源と字源
語の対応、字源と語源、系列語における対応
語源の研究
語源の意識、初期の語源学、益軒・白石・徂徠の語源研究、延約通略の説
特殊仮名以後
特殊仮名の発見、母音調和の法則、特殊仮名と語源説・系統論
最初の筆録者
古刀剣銘、中と之、孝徳・斉明紀の挽歌、儀礼の伝承と史
字訓の成立
字訓と訓読法、古代朝鮮における誓記体と吏読体、新羅の郷歌、日本漢文
万葉の表記
「記」「紀」の音訓表記、本の随に改めず、『人麻呂歌集』歌の表記法、
表記と表現
語源説と系統論
国語と系統論、朝鮮語との比較、比較言語論の前提、蒙古語との比較、
南方語系統論
字書と字訓研究
訓点と訓釈語、字書の編纂、点本の研究、『書紀』古訓の研究、
語源と字源対比の試み
系列語について
語の系列、字の系列、漢字の声と義、紐と韻、傍紐と通韻と系列語、
同源字説、語源学の究極にあるもの
音と義
『雅語音声考』、語基・語根の研究、「あき」について、「秋」について、
『音幻論』、「イ」の意味するもの、この書の意図について
字通の編集について
目次
本書の趣旨
従来の字書の編集法について
『漢和大字典』、『辞源』、『辞海』、『大漢和辞典』、
『中文大辞典』、『漢語大詞典』、漢字の字形学的解説と字義の展開
字訓について
わが国の字書、『篆隷万象名義』、『新撰字鏡』、『和名抄』、
『類聚名義抄』
声系と語系
声系について、訓詁学と語系、音韻学と語系、同源字説、
王力氏の『同源字典』、語源とオノマトペ
語彙と例文について
付録について