読書など徒然に

歴史、宗教、言語などの随筆を読み、そのなかで発見した事を書き留めておく自分流の読書メモ。

奇跡の脳  ジル・ボルト テイラー著 新潮社

2011-04-12 09:05:01 | 読書
作者、ジルは神経解剖学者である。
彼女が脳に興味を抱いたのは、兄が分裂症になった事が契機だった。
同じ母から生まれたのに。不思議に思ったジルは、まだ新しい分
野だった、脳の研究に没頭していた。

この本は、脳の専門家であるジル・ボルト・テイラー博士自身が脳卒
中をになり、回復するまでのノンフィクションである。

卒中になった瞬間から、その回復の過程までを、専門家らしい冷
静な筆致で記し、自分を客観的に観察している。

午前七時。目覚めたジルは目の裏側がきーんと痛むのに気づいた。
かき氷を食べた時のように。次に、何かから切り離されてゆく
感覚を覚えた。心と体がばらばらになる感じ。

シャワーを浴びようとして、水道の蛇口をひねると耳を
つんざくような騒音が聞こえた。いつも聞いている水の音とは
違うのだ。

ここで入ってくる音(聴覚情報)を処理する機能が、脳の中
で失われていることに気づいた。重大な異変が起きているとわ
かった。

彼女はこの後、助けを呼ぼうとするが、それが簡単にできなかっ
た。「たすけをよぶ」、このことはわかる。だが思考が安定せず、
集中できない。

左脳に出血があったせいだ。言語や、数字、記憶を並べる機能が
失われていた。「情報が入ったファイルの前に並んでいる。だが
そのファイルを開けるやり方を、すべて失ってしまった」ような
感覚があったと言う。

「でんわ」と浮かぶが、それがどんなものだったかわからない。
「しょくば」に電話をかけようと思うが、電話番号が思い出せな
い。やっとつながっても、内線の番号を答えられない。

普段何気なくしていることでも、脳がどれだけ働いているかが
判る。複雑なことを、脳はやり遂げているのだ。

しかし卒中になった朝は、奇妙な安らぎにも満たされていたとも
言う。言語中枢が没したので、時間の概念、数字も失われ、感
覚だけの世界に漂うことができた。涅槃の世界、と彼女表現している。


卒中の患者は「馬鹿なけもの」ではなく「傷ついた人間」である。
わかっているから、優しく話しかけてほしい。

また、脳は回復すると断言できる。彼女自身、周りの助けを借り
ながら、本書が執筆できるまでに回復した。その間八年である。
我々の脳は、「中で小さい子供がいくつかのグループに分かれ
て、めいめいに遊んでいる状態」なのだという。

一箇所が損なわれても「そこにいた子供たちが、別の健康な場所
に移り、また目一杯活動を始めようとする」。損なわれた働きを、
代替する動きが行われるということのようだ。

脳って神秘的。平々凡々の自分ではあるけど、立って歩いて会話
をして、本を読んで料理を作って、それだけのことが大変立派に
思える。
北野たけしも言っている。「人は生きているだけでたいしたものだ。」



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