ある旅人の〇〇な日々

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「沈黙の官能」「秘祭」

2005年10月10日 | Weblog
新星堂などのCDショップに行くと、ビデオテープはほとんど置かれていない。DVDに取って代わられている状況だ。でもレンタルショップに行くと新作もビデオテープのほうが多い。これはどうしてだろうか。おそらく購入する人はDVDが多く、借りる人はまだテープでもいいというのが多いのだろうか。
ミュージックのほうがレコード盤→カセットテープ→CDへと移ったように、映像のほうもビデオテープからDVDへ移る過渡期にあるのだろう。しばらくはテープも使われるだろうが、次第に過去の遺物になる運命だろう。

つい最近、DVDを二枚購入した。両方ともネット通販を利用した。
ひとつは「沈黙の官能」という1976年制作のイタリア映画である。主演はフランスの女優ドミニク・サンダで日本では上映されていない作品だが、カンヌ映画祭に出品され、主演女優賞を受賞している。70年代の後半、彼女の出演作品を映画館で何点か観て、存在感のあるきれいな女優であると記憶してきた。先月の岡山での古本まつりで彼女のシネアルバムを手に入れてから、また彼女の作品を観たいものだと思ってDVDを注文したのだ。題名から想像されるように彼女のヌードシーンも多い。最近のテンポが速くCG合成の多い映画に比べ、昔の艶っぽいのも趣があって佳い。

もうひとつは「秘祭」という石原慎太郎原作・脚本で1996年の作品である。数年前に、レンタルビデオを観てから小説も読んだので、両方が一緒になって記憶されている。
もう一度映画を観たくなり、ネットで探したがビデオテープもDVDも市販されていないのである。検索していたら偶然、映画製作会社のページにあたり、DVDを直接販売しているのを知り、急いで注文した。東京の新城卓事務所である。
主演は大鶴義丹と倍賞美津子である。舞台は八重山諸島のある島だが、アカマタ・クロマタの神や人魚の墓から新城島がモデルになったことがわかる。石原慎太郎の作品としては異色作である。彼もある時期、沖縄に関心を持ったようである。確か、「まだらの紐」という短篇も書いているが。

東京のディベロッパーが島のリゾート開発を進めるため地上げに社員を長期派遣するのである。その社員高峯を大鶴が演じるのであるが前任者が不慮の事故で亡くなっている。その島は7世帯17人の人口しかいない島ちゃびの孤島である。その島のノロであるタカ子を倍賞が演じ、大鶴との濡れ場シーンも激しい。その当時、倍賞は50歳に近い年齢なので、すでに熟女である。もう少し若い女優が適役であったかと思う。でもそれなりに趣があって佳い。高峯は、島の長から島の人になれと言われ、農作業、漁、屋根修理と利用される。島民はしたたかである。高峯は島の秘密の因習をすっかり知ってしまい、売買契約の段階で毒を飲まされ意識を失い、ガマの中で縛られて目覚め、島民に殴り殺される。おそらく前任者も同様に殺されたのであろう。島長の「島は島さ~」というフレーズは、よそ者に対する拒絶のことばである。
今回、嘉手苅林昌さんも出演していることを知る。音楽は知名定男が担当。個性的な俳優の田村高広と梅津栄がいい味だしている。とぼけ役の三木のり平もいい。
エピローグのシーンでは高峯の後任がやって来たところで、人魚の墓が新しく一つ増えているのは何かを暗示させる。
時々、東京の会社のシーンが出てくるのであるが、島の風景との対比がなんともいえない程いいのである。都会は無機質で薄っぺらい感じ、島は濃密な生活感がある。島の人は普段は無気力だが、祭りになったり、仮面を被ると生命力があふれるのである。まるで別人になる。たしか、民俗学の谷川健一が書いていた。昔から人頭税で収奪されてきた彼らにとって、祭りは、アイデンティティそのものであると。だから秘祭にしなければならない。

これは民俗学的サスペンス映画のジャンルに入るとも言われているらしい。
ロケは八重山の島で行われたとなっているが、慶良間の阿嘉島で行われたとも一緒に送られてきた資料に書かれている。映画が完成して会社が倒産したそうで、上映まで3年を要したとなっているが、撮影から7年間もかかったとも書かれている。このへんはテーゲーでいいか。
監督の新城卓は「オキナワの少年」という映画も撮っている。そのビデオも欲しいとついでにメールに書いたら、もう廃版になっているといわれ、ダビングテープを一緒に送ってきてくれた。ありがたかった。

なお、DVD「秘祭」については新城卓事務所の下記ページに詳しく紹介されている。
http://www.shinjo-office.com/page010.html

追記:
石原慎太郎は、この作品について、沖縄を借りて文明批判するメタファ(隠喩)であると言っているが、それは成功していない。
偶然知ってしまった。新城・石原コンビで『俺は、君のためにこそ死ににいく』という映画を制作し、東映から配給されるそうだ。

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