ある旅人の〇〇な日々

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読書録「沖縄はゴジラか」

2006年12月12日 | Weblog
花田俊典著の「沖縄はゴジラかー<反>・オリエンタリズム/南島/ヤポネシアー」(06.5 花書院)を読む。
先週の日曜日、県立図書館の新着本コーナーで偶然目に入った本であった。書名もカバーの写真も変だったので、あまり期待せずページを繰ってみたが興味をそそられて借りた。

本土の沖縄文化に関心をもった人たちのオリエンタリズム批判、沖縄方言論争、沖縄文学評論など書かれている。読んでいる途中にネットで知ったのだが今年の沖縄タイムス出版文化賞に選ばれた本らしい。
書名の意味は長くなるが次のようになる。「映画別冊宝島2 怪獣学・入門」に長山靖生氏の「なぜゴジラは南から来るのか」という評論が載っている。そこには近代日本の南洋志向について書かれ、もともと南国に理想郷を夢見る文化的伝統があって、我々が忘れてしまった素朴な人間本来の自然な生活があるにちがいないという幻想が深まってしまったというのだ。ゴジラは近代人が喪失した原初的人間の姿のメタファなのだ。ゴジラは近代文明の歪を指弾するためにやってきたのである。いわばゴジラは近代文化の補完的な存在である。
沖縄=前近代=温かい社会というように本土が沖縄に補完装置として要請していることがそっくりだというのである。

まずオリエンタリズムの持ち主として池澤夏樹が槍玉に上げられる。池澤夏樹は自らオリエンタリズムを「自分たちにないものを他の土地に仮にあるように幻想して、それに憧れる勝手なエキゾシズム」と解説している。著者は、古くは柳宗悦、谷川健一、池澤夏樹をオリエンタリストと見なしているが、はっきり言ってないが柳田國男と島尾敏雄にも言及している。島尾敏雄は昭和36年に初めてヤポネシアという概念を使い始める。日本という国は画一的でいやだったが、よくみると東北と沖縄に多様性があるので、日本をヤポネシアと呼んではどうだろうかというものだ。
本来のオリエンタリズムの意味は上のようなものではない。
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(ウイキペディア抜粋)
パレスチナ出身のアメリカの批評家、エドワード・サイードが著書『オリエンタリズム』Orientalism(1978年)において今日的な意味を確立した概念。
東洋を不気味なもの、異質なものとして規定する西洋の姿勢をオリエンタリズムと呼び、批判した。
オリエンタル(東洋、東洋的、東洋性)は、西洋によって作られたイメージであり、文学、歴史学、人類学等、広範な文化活動の中に見られる。それはしばしば優越感や傲慢さ、偏見とも結びついているばかりではなく、サイードによれば西洋の帝国主義の基盤ともなったとされる。
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とするならば、幻想してから憧れるというのではない。
沖縄が方言や伝統祭祀や心の温かさを失っているのにそういったものに憧れるとするなら、それは幻想だ。柳宗悦、谷川健一、池澤夏樹、柳田國男、島尾敏雄が見た沖縄には、実際に憧れるべき実体があったのではないか。
小生、沖縄のサンゴ礁の海には憧れる。しかし、サンゴが死滅して幻想になってしまっているのかな。

昭和15年に始まった沖縄方言論争についても多面的な分析がされている。沖縄固有の文化の保存を主張する柳らの日本民芸協会と、皇民化政策と軍国主義下の国家精神総動員運動の一翼として、標準語励行運動を推進する沖縄県当局の主張との対立のほかにもうひとつ。差別から脱却するために性急に近代化を急ぐ沖縄自身の主体性もあった。おそらく、この主体性は、本土復帰前の標準語励行運動として亡霊のように再現したのだろうか。
島尾敏雄が沖縄方言論争について「ある日、民芸品をあつかう目付きで沖縄が見直された。大和の人は物ほしそうに沖縄を見物に出かけて行った。そしてそこで、野放しにされている、感情の豊かな藝術品と、島の人々がおしげもなく使う典雅な古脈を伝えたとおぼしい言葉を見出した。旅行者は、それらが保護されずに滅び行くにまかせられていることをなげいた・・・」と言及している。

この著作、読み応えがあり、沖縄文学評論もじっくり読んでみたいので手元に置いておきたい。沖縄タイムス出版文化賞に選ばれたんだ。タイムスの講評を読んでみたい。授賞式は今月20日か。著者は2年前に若くして亡くなられている。家族の方が出席されるのだろうか。

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3 コメント

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私も手にいれました (すばる)
2006-12-26 00:19:23
私には読みにくくて難渋して読んでおります。
池澤夏樹は以前知念ウシに噛みつかれていましたが、こうして見るとほんとうにしょうもないオリエンタリストですね。
この本で見て崎山多美の本を注文しました。
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ゴジラ (えいちゃん)
2006-12-26 10:30:08
すばるさんへ
雑誌に掲載された花田さんの評論の集まりだから分かりにくい面もあります。
池澤氏は南洋の国籍不明の島を舞台にした小説をいくつか書いてます。「マシアス・ギリの失脚」などもそうかな。
もともとゴジラ志向の強い作家だったんですね。
素朴な人間本来の姿を南方に求めていた彼がそれを沖縄に見出したのでしょうか。幻想を実際に見つけた。沖縄の自然や文化を本土に紹介することで、それらが商品化されてしまったことを後悔していたんでしょうね。結局、沖縄に住みながら彼は沖縄を舞台にした小説は書かなかった。
崎山多美さんは、複数回、芥川賞候補になってます。目取真さんや又吉さんよりも文章は上手いと思いますが、何か足らないものがあったんでしょうね。
花田さんが触発された「映画別冊宝島2 怪獣学・入門」を偶然、昨日、街の古書店で見つけ読んでます。面白いです。
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Unknown (くま)
2006-12-29 00:29:59
お久しぶりです。
この本、先日訪沖した際にパレットのリブロでみかけました。不思議なタイトルの本で、沖縄でたまにみかける右系の自費出版っぽいものかと思いながら序章のあたりを読んでみると、さにあらず、なかなか面白そうな本でした。
迷ったあげく買わなかったのですが、今度みかけたら買ってみようかと思います。
なお、崎山多美さんについては、彼女のことを研究している若手の研究者がいます。イギリスから留学していた女性も彼女の研究をしていました。まだ読んだことはないのですが、こちらも読んでみたいと思っています。

そうそう、「かどや」いきました。いたって普通のそばでしたが、だからこそかえっておいしく思いました。味、雰囲気、値段のバランスのとれた、いいお店ですね。
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