ある旅人の〇〇な日々

折々関心のあることや読書備忘を記録する

読書録「沖縄軽便鉄道は死せず」

2006年04月28日 | Weblog
辻真先著の「沖縄軽便鉄道は死せず」(徳間書店、2005年)を偶然見つけて読む。2段組で330ページあり、読みでがする。ミステリ小説かと思って読み始めたがアドベンチャー小説だった。最後のほうに少し密室殺人の謎解きがあるが。
時代は沖縄本島に米軍が上陸するころで、沖縄刑務所から解放された受刑者を中心に、ズタズタにされた軽便鉄道を利用して那覇から嘉手納まで行き、やんばるのタナガーグムイへ逃れる活劇である。途中、様々なユニークな人物が加わって面白いが、沖縄戦というものの悲惨さを伝えてくれる作品に仕上がっている。
辻真先は、アニメに関わってきた作家なのでユーモアのある作品が多い。沖縄関連の小説としては、「紺碧は殺しの色」、「沖縄県営鉄道殺人事件」、「西郷の沖縄独立大戦略」がある。

登場人物をまとめておく。

○北城尚純(きたぐすくなおずみ):主人公であり、尚家の血を継ぎ、母親がノロで彼には予兆能力がある。一高中退で英国留学歴があり、沖縄独立論を居酒屋で訴えていて密告され思想犯として沖縄刑務所へ
○朝里歩香(あさとあゆか):父親の酒造業が思わしくなく、自ら辻遊郭に身売りしジュリとなる美女。尚純と恋仲になる
○矢住大尉:軍医。石垣島で部下を殺害した罪で受刑者になる。濡れ衣であった。北行きの指揮者になる
○赤星:窃盗の常習犯の受刑者で小男
○川平大一:村相撲の三役だった。巨漢で怪力。人がいいので無実の罪で受刑者になる
○加瀬:鉄道の仕事で来沖しているが、実は陸軍中野学校出身の残地諜者。機関車に詳しい。彼のおかげでケービン(軽便)を利用することになる
○国場薫:県立第二高女の白梅隊だが、はぐれて一緒に北行きとなる。皇国教育の申し子のような少女。脚を負傷。途中、ご真影を運ぶ役を仰せつかる
○上原忠也:鉄血勤皇隊の気弱な少年
○仲宗根達也:沖縄新報の従軍記者。脚を負傷
○ゴールドウィン少佐:捕虜にした米軍の新聞記者
○フィン:ゴールドウィン少佐の従者
○ハチ:柴犬のはぐれ子犬

本島の北に行くいちばんの理由は、歩香の父親が守ってきた250年物の古酒が入った甕を安全な場所に運ぶためである。尚純の家族も北にいたことでもあるし。中部の読谷に米軍が上陸したのがわかっているのに、北に行くのは無謀だと思われるが。まあ、しょうがない。ケービンが主要な役割をする小説なのだから。著者は、加田芳英著の「図説・沖縄の鉄道」(ボーダーインク発行)を参考文献の最初にあげて1ページも紹介している。大いに参考にしたようだ。機関車の型式など詳しい。
生き残るのは、尚純、歩香、仲宗根達也、ゴールドウィン少佐で、悲惨な結果となるがユーモア作家の作品なので後味は悪くない。
古酒の甕はマングローブの林で割れて、古酒は失われた。尚純と歩香は、やんばるの森に入って行方はわからない。
「アフィー!アフィー!」

追加:
読んでいて納得できない点があった。線路がズタズタになっているので、機関車が立ち往生したら行き先のほうへ使えそうな機関車を探しに行くのである。大謝名駅を通過して土砂崩れの痕で立ち往生。尚純と加瀬が手動トロッコに乗って偵察に行き、大山駅でエイボンサイド社製の機関車を見つけ、元の場所に戻って仲間に知らせて機関車まで歩かせる。ところが、先に行ったトロッコに大山駅でエイボンの機関車が追いついてしまう。これは時間的にも空間的にも不連続で矛盾している。エイボンの機関車は大山駅に存在していたのだから。なんで著者は単純なミスをしてしまい気が付かなかったのは不思議だ。(4月29日)