極東極楽 ごくとうごくらく

豊饒なセカンドライフを求め大還暦までの旅日記

縄すてまじ!Ⅳ

2016年08月07日 | 時事書評

 

     

          あのねー、悩むのはいいことなんですよ。マルクスの言葉じゃないけ
                  ど、『人間は自分が解決できることしか悩まない』っていいますから
                  ね。適当なところで切り上げないで、もっと悩んだ方がいいですよ。


                                        
                                 週刊文春 2008.10.30

                                               
                                                      Takaaki Yoshimoto 25 Nov, 1924 - 16 Mar, 2012 

 

【縄すてまじ!Ⅳ:ヘイトスピーチから集団殺人まで】

今年6月より「ヘイトスピーチ対策法」施行されたが、“ヘイトデモ”は10年ほど前から外国籍
住民の集住地域を中心に、各地で見られるようになったというから、丁度、東日本大震災・福島第
一原発事故からになる。そのことはまた、関東大震災の際に発生した朝鮮人虐殺――震災発生後、
混乱に乗じた朝鮮人による凶悪犯罪、暴動などの噂が行政機関や新聞、民衆を通して広まり、民衆、
警察、軍によって朝鮮人、またそれと間違われた中国人、日本人(聾唖者など)が殺傷される被害
が発生した。これらに対して第2
次山本内閣は、民衆に対し、もし朝鮮人に不穏な動きがあるのな
ら軍隊及び警察が取り締まるので、民間人に自重を求める「内閣告諭第二号」(鮮人ニ対スル迫害
ニ関シ告諭ノ件)を発した事件。これに対し、韓国の政府機関「対日抗争期強制動員被害調査およ
び国外強制動員犠牲者ら支援委員会」は「日本震災時被殺者名簿」にある286人を調べた結果、
28人が1923年の関東大震災当時に発生した朝鮮人虐殺事件の犠牲者だったことを確認したと
公表している
Wikipedia)―――のイメージを想起させる。


 へらへら笑いながら「おーい、売春婦」などと沿道の女性をからかう姿からは、右翼や保守と
 いった文脈は浮かんでこない。古参の民族派活動家は私の取材に対し「あれは日本の面汚し」
 だと吐き捨てるように言ったが、当然だろう。ヘイトスピーチをぶちまけ、外国人の排斥を訴
 えることでどうにか自我を保っていられる、単なる差別者集団だ。

                         安田浩一「沖縄ヘイトを考える(上) 」

                                                  沖縄タイムス 2016.08.03

このオンライン記事が目にとまる。安田は、外国籍住民へのヘイトスピーチと沖縄バッシングは地

続きだった。「愛国運動」などと称し地域を破壊し、分断し、人々の心を傷つけているだけで「沖
縄ヘイト」は、いま、社会の中でさらに勢いを増していると指摘した上で、そもそもヘイトスピー
チとは、乱暴な言葉、不快な言葉を意味するものではない。人種、民族、国籍、性などのマイノリ
ティーに対して向けられる差別的言動、それを用いた扇動や攻撃を指すものだ。ヘイトスピーチを
構成するうえで重要なファクトは言葉遣いではなく、抗弁不可能な属性、そして不均衡・不平等な
社会的力関係であるとし、「米軍基地への抗議は憲法で認められた政治的言論の一つ。同法の対象
であるわけがない」と彼の取材に西田昌司自民党議員が答えていると引用し、基地反対運動とヘイ
トスピーチを無理やりに結び付けようとする動きには、基地問題で政府を手こずらせる「わがまま
な沖縄」を叩きであると結ぶ(「沖縄ヘイトを考える(下) 」)


基地問題などの住民運動の関わり方の原則は、、まず、当該住民の生活を「共有」し、「ヘイトス
ピーチ側」の思念を対置し、そこから汲み揚げた思念を具体的に展開するほかない、というのが
わたし(たち)の金科玉条である。この記事から、ヘイトスピーチがやがて、わたしたちの生活か
ら乖離・浮遊し、独善と観念の世界と敵対者をつくり、逆立ちした閉じられた世界に支配されてい
く。その過程では、テロリズム、クーデターなどを経て、専制・独裁を形成し、より大きな集団殺
人行為を引き起こすリスクもある。それを防ぐのは当事者がそれぞれ悩み抜き克服するしか道はな
いことを再確認しておきたい(ブログ『縄すてまじ!』 2012.12.15、12.31/2014.12.20/2015.
02.20、02.27、10.19)。
 

 

 

【帝國のロングマーチ 19】       

       

● 折々の読書  『China 2049』39      

                                         秘密裏に遂行される「世界覇権100年戦略」  

ニクソン政権からオバマ政権にいたるまで、米国の対中政策の中心的な立場にいた著者マイケル・ピル
ズベリーが自分も今まで中国の巧みな情報戦略に騙されつづけてきたと認めたうえで、中国の知られざ
る秘密戦略「100年マラソン( The Hundred-Year Marathon )」の全貌を描いたもの。日本に関する言及
も随所にあり、これからの数十年先の世界情勢、日中関係そして、ビジネスや日常生活を見通すうえで、
職種や年齢を問わず興味をそそる内容となっている。 
     

 【目次】 

  序 章 希望的観測
 第1章 中国の夢
 第2章 争う国々
 第3章 アプローチしたのは中国
 第4章 ミスター・ホワイトとミズ・グリーン
 第5章 アメリカという巨大な悪魔
 第6章 中国のメッセージポリス
 第7章 殺手鍋(シャショウジィエン)
 第8章 資本主義者の欺瞞
 第9章 2049年の中国の世界秩序
 第10章 威嚇射撃
 第11章 戦国としてのアメリカ
 謝 辞
 解 説 ピルズベリー博士の警告を日本はどう受け止めるべきか

            森本敏(拓殖大学特任教授・元防衛大臣)   

 

   第8章 資本主義者の欺瞞    

                            順手牽羊――手に順いて羊を牽く

                               『兵法三十六計』第十二計
 

  別のいくつかの会合で中国は、GDPが2020年頃までにアメリカのGDPを上回るという、
 1990年代初期に国内で出された予測に関して、そのような成長の見
通しはないと述べた。なぜ
 中国は、30年にわたる好調な経済成長の戦略的要素を秘密
にするのだろうか。なぜ、自由市場への
 動きを誇張するのだろうか。答えは簡単だ。
北京の指導者は、古代中国の政治的f腕の土台となっ
 ている教えに従って、敵を安心
させるメッセージ送り、中国に下心があるのではないかと疑わせる
 ような危険な情報は隠して、相手を安心させようとしているのだ。もし2020年までにアメリカ
 を超えるという内部予測が、大々的かつ自慢げに公表されていたら、覇権国は戦々恐々とし、中国
 を封じ込めようとするだろう。そういうわけで、中国は外国人に、前途にどれほどの障害が待ち受
 けているかを語り、見通しは暗いと嘆いてみせたのだ。

  近年、中国の指導者が世界に信じさせてきたこの一般的な見方に対して、欧米の少数のアナリス
 トが異を唱えた(注16)。彼らはこう見ている,中国は、世界の石油・ガス生産がピークに達しよ
 うとしているという偏執的な思い込みから、外国のエネルギー資源を我がものにするため、基幹産
 業の支援と政府主導を軸とする重商主義的戦略を露骨なまでに追求している,数十年後には必ず天
 然資源を巡る争いが起きるので、中国は自国の乏しい資源を守りつつ、外国から資源を買って貯蔵
 しなければならないと考えているのだ(注17)。

  多くの中国の戦略家は、「石油ピーク説」、つまり石油の供給は近々ピークに達した後に下り坂
 となり、価格が急騰するという説を信じている。それが正しければ、世界を舞台とする「囲碁」で
 は、銅、石油、リチウムなどの資源を獲得し、ライバルに取られないようにしなければならない。
 中国社会科学院のあるアナリストは、「世界的にエネルギーが不足しはじめると、中国とアメリカ
 は(特に石油問題に関して)意見の衝突や紛争を避けられない」と述べ(注18)、中国人による地
 政学的な戦略分析の多くもそれを懸念する。ワン・シアーリンは、「中国は2015年に石油ピー
 クに直面すると、専門家は予測する。石油生産がピークに達し、減少しはじめると、中国では石油
 とガスが不足し、ますますそれらを輸入に頼ることになる」と書いている(注18)。

  こうした誤解を招きそうな中国のメッセージに対して、外からの警鐘はまだ鳴らされていない。
 それどころか、中国の嘘の大部分がそのまま信じられている。「スズメを一羽残らず殺せ」という
 毛沢東流の命令方式により、今では自由経済や、国際規定に沿う通商政策が容認されていると、西
 側の多くの人は考えている。だが中国の指導者は、かつて自分たちが大言を吐いたせいで、ソ連が
 中国を警戒し、遠ざかり、ついには支援を打ち切ったことを知っている。同じことをして欧米を怒
 らせたくはない。「スズメ駆除作戦」の愚を繰り返さないだけのことは学んできた。むしろ西側の
 指導者には、中国は欧米のようになりたがっていると思わせておいたほうがいい。そして、この見
 えすいた嘘を信じさせるのは、それほど難しいことではなかった。

  ネズミやハエや蚊に加え、スズメは四大「有害生物」の一つであり、毛沢東の考えでは、中国の
 衛生状態(および、経済の発展)にとって脅威になるものだった。大躍進政策の一部である195
 8年の「スズメ駆除作戦」は中国の農業経済を20
世紀にふさわしいものにするという強い願望か
 ら生まれた。スズメは何千トンもの穀物を食べているが、本来それらの穀物は、中国国民を養い、
 地域社会や大規模工業を活気づけ、ひいては中国経済を欧米と同等に引き上げる原動力になるはず
 のものだ、と毛沢東と彼の最高顧問は考えた。農民は田園地方の隅々まで散らばり、巣を破壊し、
 卵を割り、鍋やフライパンを持ってスズメの群れを追った。この作戦は大成功を収め、1959年
 までに中国のスズメはほぼ全滅した。

  中国当局が気づいていなかったのは、スズメは穀物だけでなく、昆虫も大量に食べていたことだ。
 その後数年で、捕食者のスズメがいなくなったために、イナゴが大発生し、作物は多大な害を被っ
 た。それに追い打ちをかけるように、深刻な干ばつが中国を襲った,1958年から1961年ま
 での問に、中国では3000万人以上が餓死した。欧米に比肩する経済力をつけようとした共産主
 義中国の初の大実験は、失敗に終わった。

※ 「大躍進」の失敗

  1978年に郵小平が事実上、中国の最高指導者になhへ毛沢東時代に中国経済が後れをとった
 ことに鑑み、それとは異なる経済路線を進むことを誓った(注20)。郵は、活気にあふれた民間部
 門がなければ、中国は競争力を備えた大国にはなりえないと考えていた。そして、大々的な改革に
 着手し、次第にマルクス・レーニン主義から離れていった。「四つの近代化」と呼ばれる彼の改革
 は、農業、工業、科学技術、国防に重点を置いた。なかでも最も重視したのは、「中国式社会主義
 のために市場のカと国家計画を統合することだった。

  今日、外部の人の大半は、中国では毛沢東流の命令方式は過去のものとなり、自由経済と国際規
 定に沿う通商政策が受け入れられたと信じている。国際的な銀行、研究者、シンクタンクの専門家
 といった、だまされやすいコミュニティのおかげで、中国は、欧米のようになりたいというメッセ
 ージでその場その場を切り抜けてきた。しかし中国経済を近くでよく昆てみると、まったく違うも
 のが見えてくる。

  2001年10月、わたしはアメリカ国防総省から副業を持つことを許され新しく設立された議
 会の米中委員会に上級研究顧問として加わった。この委員会は、中国の
世界貿易機関(WTO)加
 入を認める法案を米上院で通すための集票活動の一環とし
て作られた。わたしたちの任務は、中国
 の経済政策がアメリカの国家安全保障に及ぼ
す影響を調べることだ。特に民主党は、WTOへの加
 盟を求める中国の真意と、貿易
は中国に民t主義をもたらすという、自由市場でよく聞く主張に疑
 いを抱いていた,



  委員長とわたしがClAから受けた説明は、ニつの見通しを強調していたが、後にどちらも誤り
 だったことがわかった。一つは、中国は自由市場経済に向かっており、
大規模な国営企業をすべて
 売却するだろうということ,そしてもう一つは、中国が経
済的にアメリカに勝つ可能性はなく、た
 とえ勝ったとしても(たとえば2100年ま
でに)その頃の中国は、自由市場を擁し平和を愛する、
 民主主義の国になっていると
いう見通しだった。少なくともニューヨーク・タイムズのコラムニス
 ト、トーマス・
フリードマンが広め、当時流行した「黄金のM型アーチ理論(訳注*M型アーチは
 マクドナ
ルドのシンボルこによると、そうなるはずだった。フリードマンは著書「レクサスとオリ
 ーブの木」――『グローバリゼーションの正体』において「マクドナルドのある豊かな国は戦争を
 しない。国民は、戦争よりむしろマクドナルドの店頭に並ぶことを選ぶからだ」と述べている(注
 21)。

  そこでわたしたちは、中国の当局者の話を聞くために北京へ飛んだ。
  搭乗したボーイング747の座席はがらがらだったので、客室乗務員が緊張しているのが見てと
 れた。9・11同時多発テロから1カ月もたっていなかった。アメリカ人が心配するのは当然だが、
 心配する先が間違っていた,わたしたちが向かっている国のことをもっと心配すべきだったのだ。
  1950年代の中国は、財界の最貧国の一つだった。当時の国民1人あたりのGDPは、工業叱
 が始まったばかりの1820年代のヨーロッパやアメリカよりも低かった。1975年になっても、
 1人あたりの所得は世界の最低レベルだった(注22)。しかしその後数十年で、経済状況は劇的に
  向上し、経済成長率はアメリカの5倍にもなった。

  2001年の時点では一般に、中国経済の二桁の成長率は持続しない、と考えられていた。CI
 Aの機密報告書に記された評価も、そのようなエコノミストの見解を反映していた。中国経済に関
 するアメリカの予測は、ほぼすべてが悲観的だった。中国は貧しく、無教育の労働人口を抱えてい
 る。その膨大な人口に比べて天然資源があまりにも乏しい。時代錯誤のマルクス・レーニン主義の
 イデオロギーにまだ囚われている。何十年にもわたって、起業家がほとんどいない。現代のビジネ
 ス手法や健全な経済運営について何も知らない官僚が経済を仕切っている。したがって、10パー
 セント以上の成長率がこの先何十年も続くはずがない、と考えられていたのだ。

  欧米の主要国にも、それほどの成長率を記録した国はなかった。工業化の全盛期にあったアメリ
 カでさえ、そうだ。中国の経済成長ははるかにゆっくりで当然と考えられていた。だが、後にCI
 Aのあるエコノミストが申し訳なさそうに言ったように、「わたしたちのモデルは間違っていた」。
  現在、中国の成長に関する予測は逆転した。まともな金融機関で、中国経済が今後もずっとアメ
 リカより小規模なままだと信じるところはない。多くの書籍は、中国は「川底の石を探りながら川
 を渡る」ことで成功を実現したと評している。鄧小平が外国からの客を迎えた時に、しばしば引用
 した言葉だ(注23),中国に包括的な戦略はなく、たまたまやったことがうまくいっただけ、とい
 う意味だ。中国の指導者たちは、見たところ奇跡的な自国の経済発展を説明するために、格言をよ
 く使った(注24)。



  ところがこの「偶然うまくいった」という物語は、真実の一部にすぎない。実のところそれは、
 批判を和らげ、中国の発展戦略の本当の目的と起源を隠すために賢くデザインされたものだった。
  世界経済の覇権を握ることに関して、鄧小平は古代の老荘思想の根幹をなす「無為」を利用した。
 「無為」は、「作為なしに」「努力なしに」と訳されるが、この場合は「他人のカに頼って多くを
 成し遂げる」という意味だった。鄧小平は現実的な人間で、
1944年にブレトンウッズで策定さ
 れた第二次世界大戦後の世界の経済秩序におい
て、マルクス・レーニン主義に頼るだけでは不十分
 だと認識していた。アメリカやそ
の他の先進国に追いつくには、WTOに加わり、国際通貨基金や
 世界銀行(いずれも
欧米の政財界エリートが積極的に後押ししている)から融資を受ける必要があ
 るとわ
かっていたのだ。 

  共産主義中国に、WTOの加盟条件を満たす気が本当にあるのかということについては、当然な
 がらアメリカ政府内の多く人が懐疑的に見ていた。その結果、中国がW
T0一員となるまでには
 15年という歳月がかかり、加盟に際しては、これまでの他の
どの国とよりも詳細な協定が結ばれ
 た,例えばその数年前に加盟したインドに対し
て、要求ははるかに少なかった。中国は、WTOに
 加わればとてつもない利益を得る
ことがわかっていた。しかしアメリカ人がそれをさせるだろうか。
 2001年にWT
Oに加わったとき中国は、加盟国政府は直接的にであれ、問接的にであれ、国営
 企業
の商業的決定に関与してはならないという、WTOの条件を受け入れた(注25)。

  とこ
ろが中国はこの契約を守らなかった。中国のすべての国有企業は、依然として市場の力に反
 応してではなく、国の目標にかなうよう運営されており、また、個々の国有企
業の投資先は、相変
 わらず共産党が決めていた。中国の炭鉱会社が、国の政治的影響
力を広げるために、アフガニスタ
 ンやアンゴラで鉱山を開発するよう指示されれば、
多少は困惑したとしてもそうするだろう(注26)。


ここでは。中国共産党がロシアマルクス主義を遠ざけ、「中国式社会主義」(
新自由主義+地域限定開
発ケインズ主義政策)にはしり、驚異的な成長を遂げる経緯を解説されている。なぜ成功したのか?こ
のことを「中国における共産主義とは、国民の生活水準の一括的引き上げ」と吉本隆明は簡潔に表現し
予言する。その通り、韓国は中国より先行して成長(後に米国主導のグローバリズムにより手ひどい痛
手を負うことになるが)を、続いて、天安門事件以降、高度成長を遂げていく。しかし、その裏で、環
境破壊、汚職蔓延、格差拡大、過剰生産などを抱え、「体制矛盾」が進行していくのである。

                                       この項つづく

  ● 今夜のビデオ

【イチロ-2999本安打達成!】



Ichiro notches his 2,999th career hit, scheduled to start Sunday

マーリンズのイチロー外野手は、敵地でのロッキーズ戦に途中出場し、2打数1安打。8回に代打で三塁
内野安打を放ち、史上30人目のメジャー通算3000安打へついに王手をかけた。

 

 

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第5次産業革命のトラベリン・バス

2016年08月04日 | 時事書評

 

 

     

               
僕らは、日本の近代史は終わったんだな、何かやんなきゃいけない、何か
                新しい
考え方を出せなければ生きてはいけないんだよ、と思いました。

                    「靖国論争にとらわれては日本は変わらない」

                                                          サンデー毎日 2006.9.3

                                             
                              Takaaki Yoshimoto 25 Nov, 1924 - 16 Mar, 2012 

 

 

    

【帝國のロングマーチ 18】          

      

● 折々の読書  『China 2049』38     

                                         秘密裏に遂行される「世界覇権100年戦略」  

ニクソン政権からオバマ政権にいたるまで、米国の対中政策の中心的な立場にいた著者マイケル・ピル
ズベリーが自分も今まで中国の巧みな情報戦略に騙されつづけてきたと認めたうえで、中国の知られざ
る秘密戦略「100年マラソン( The Hundred-Year Marathon )」の全貌を描いたもの。日本に関する言及
も随所にあり、これからの数十年先の世界情勢、日中関係そして、ビジネスや日常生活を見通すうえで、
職種や年齢を問わず興味をそそる内容となっている。 
     

 【目次】 

  序 章 希望的観測
 第1章 中国の夢
 第2章 争う国々
 第3章 アプローチしたのは中国
 第4章 ミスター・ホワイトとミズ・グリーン
 第5章 アメリカという巨大な悪魔
 第6章 中国のメッセージポリス
 第7章 殺手鍋(シャショウジィエン)
 第8章 資本主義者の欺瞞
 第9章 2049年の中国の世界秩序
 第10章 威嚇射撃
 第11章 戦国としてのアメリカ
 謝 辞
 解 説 ピルズベリー博士の警告を日本はどう受け止めるべきか

            森本敏(拓殖大学特任教授・元防衛大臣)   

 

順手牽羊とは、あたりにあるものを手当たり次第パクル行為(=侵略戦争)を意味する。三十六計では
敵の隙につけこみ戦果を得る策略をさし、この策略の肝は、あくまで本来目標の遂行にあり、目の前の
利益を優先して、目標を見失ったのでは本末転倒であり、そのようにならぬために得られる利益は容易
に手に入る状態でなければならないと諭す。

      顺手就牵了羊。比喻不费劲,乘机便得到的。现多指乘机拿走人家东西的偷窃行为。

  史例 

  春秋時代、呉の公子光が、楚を追われてきた伍子胥の協力を得て、呉王僚を倒して呉王闔閭(闔
 廬)になったとき、呉ははじめ漢人と異なる蛮夷の国とされていたが、紀元前六世紀の王、寿夢の
 ころから中原諸国と往来を始め、その子諸樊のころには次第に強国となり、越と対立した。諸樊(
 寿夢からかぞえて二代目の王)の跡の三代目ははっきりしないが、四代目の王は三弟の余昧であっ
 た。五代目は本来諸樊の子・光が継ぐべきであったが、余昧は自分の子・僚を王位につけた。怒っ
 た光は伍子胥と談らい僚から王位を奪おうとした。その奪い方が、順手牽羊の計、すなわちわずか
 な僚の隙に乗じて彼を倒したというもの。


         公子光、微隙を衝き呉王僚を斃す

  わずかな隙でも絶対に利用しなければならないし、小さな勝利でも絶対に得なければならない。
 わずかな隙を利用し、小さな勝利を得れば、全面的な勝利の機会と発端を手に入れることができる。

 

   第8章 資本主義者の欺瞞    

                            順手牽羊――手に順いて羊を牽く

                               『兵法三十六計』第十二計
         


  2005年にわたしたちは、中国からの亡命者(仮にミズ・タンと呼ぼう)の話を聞き、中国が
 マラソン戦略によって世界一の経済大国の座をアメリカから奪取しよう
としていることを確信した
 ミズ・タンによると、少なくとも次官級以上の共産党高
官は、北京中心部にある共産党中央党校で、
 極秘とされる戦略プログラムを学んでい
るそうだ。その一団には将来の将軍 も含まれ、プログラ
 ムの履修は昇進の条件となっ
ている。カリキュラムには古代史の研究も含まれている。さらに重要
 なこととして、
肢らは少なくとも6冊の翻訳書を教材として、アメリカが2世紀にわたる戦略を通
 し
て、いかにして世界最大の経済国になったか、さらには、どうすれば中国はアメリカの例に倣う
 ことができるか、それもアメリカ以上に速いペースで、ということもを学んでいた(注1)。

  教育の軸となっているのはダーウィンの進化論で、1840年から第一次世界大戦 勃発までの
 間に、ドイツや英国の企業に勝てるよう、アメリカ政府が自国の企業を支援したことに注目してい
 る。講座では、それこそがアメリカが覇権国になった主要な理由であり、中国がアメリカを超える
 のに必要なことだと教える。そして、異なる業種の約20件の実例を検討し、アメリカ政府が果た
 してきた戦略的役割から何を学び、その教訓をどう生かすかを見ていくそうだ。

  検討されるアメリカの戦略には、国内市場の保護、国内企業に対する経済的支援、輸出促進など
 が含まれる,市場競争を活性化するための独占禁止法についても深く掘り下げ、後に中国はそれを
 導入した。投資家にとって魅力的なアメリカの証券取引システムは、多くの資本を呼び込み、アメ
 リカを世界最大にして最も効率的な市場にした。何よりも重要な教えは、政府に育成された産業が
 アメリカ市場全体の規模を拡張したことだ、と彼女はつけ加えた。19世紀から20世紀初めにか
 けてアメリカ政府は、大企業の市場拡大を助成金によって後押しした。中国共産党幹部は、アメリ
 カ人は自動製粉機の技術をヨーロッパから盗んだと教えられる。小麦やオート麦を小麦粉やシリア
 ルに加工する機械である。この技術を最初に用いたのは、ピルズベリー社(ドゥボーイのキャラク
 ターで知られる、アメリカの老舗製粉会社)で、小麦粉を作るためだったとミズ・タンは笑いなが
 ら言い、わたしをじっと見つめた(注2)。

  アメリカ政府は、アンハイザー・ブッシュ(バドワイザーの製造元)などの醸造メーカー、コカ
 コーフなどの清涼飲料メーカー、その他のメーカーが海外に工場を建てるのを支援したと講座で学
 ぶ。そのいくつかは真実だとわたしは知っていた。
  またその講座では、アメリカは製紙業でも自国企業を支援し、1900年に新技術を持つドイツ
 企業を吸収合併させ、業界のトップに立った、と教わる。同様に鉄鋼業でも、アメリカ政府はアン
 ドリュー・カーネギーを支援し、1879年までに彼は鉄鋼王になった。次にアメリカは、ヨーロ
 ッパの技術を習得して鋼やアルミニウムの製造でも優位に立った。また、1880年代にはゴム産
 業と石油産業も支配するようになり(注3)、タイヤメーカーのB・F・グッドリッチは、政府の
 援助によって世界のトップになった。
  第一次大戦までにアメリカは、世界のリーダーとしての地位をヨーロッパから奪うという戦略上
 の目標をほぼ達成した。1890年代半ばに誕生したゼネラルエレクトリック社も、ドイツ企業の
 シーメンスやAEGをしのぐよう、アメリカ政府が支援したと教えられる。金融会社を作り、傘下
 の公益企業の主要な株主になるという手法もおそらくはシーメンスやAEGを真似たものだ。

 この話の第二段階、つまり彼女の言う「第二の波」は、1914年から50年までの間で、アメリ
 カは自動車、エレクトロニクス、製薬といった新たな産業を支配するようになった。アメリカ政府
 は特にゼネラルモーターズと強く結びつき、ディーゼル機関の開発を支援した。そのため、ヨーロ
 ッパで使われていた蒸気機関は時代遅れになった。また、アメリカ政府は自国の石油会社、5社を
 支援し、外国の油田の利用を巡って、ブリティッシュ・ペトロリアムとロイヤル・ダッチ・シェル
 を出し抜こうとした。いずれ中国共産党のリーダーになる人々は、ドイツの製薬技術が生み出した
 アスピリン、抗生物質、ノボカイン(訳注*局所麻酔薬の一種)の製造特許をアメリカ人がどうや
 って我がものにしたかも学んだ、と彼女は言った,

  第二次世界人戦後、アメリカ政府による巨大企業支援の「第三の波」は、航空宇宙産業や石油化
 学産業の支配に重点を置いた。デュポンは政府の後押しにより、イギリスのインペリアル・ケミカ
 ル・インダストリーズからポリマーの特許を買い取った(注4),ミズ・タンは、医薬品開発にお
 けるアメリカ政府の役割について語った。1942年にメルクが初めて工業で生産したペニシリン
 を市場に出したときのことなどだ。



 「マラソン」という言葉がこの講座で使われましたか、とわたしは尋ねた。「はい」と彼女は答え
 た。そして、中央党校の書店で(Innovation Marathon: Lessons from Hight-Technology Firms(革新の
  マラソン:ハイテク企業からの教訓)という翻訳書を探してください、と言った。その本は確かに
 そこにあった。著者はマリアン・グリメクとクローディア・バード・スクーノヴァで、1990年
 にオックスフオード大学出版局から出版された。マラソンの概念について書かれたもう1冊の本は、
 チャールズ・R・モリスとチャールズ・H・フアーガスンによる Computer Wars: How the West Can
    in a Post-IBM World
(コンピューター戦争:IBM後の世界で欧米はどうすれば勝てるのか
)である
  (注5)。

  

  わたしは、アメリカはソ連式の国有企業を救うためのモデルになったのですか、と尋ねた。「い
 いえ」と彼女。アメリカにはテネシー川流域開発公社(ニューディール政策の一環で設立された)
 を除けば、そのような公営企業はない。経済を建て直す方法はすべて、世界銀行から学んだと彼女
 は言う。彼女との話は、1時間以上に及んだ。わたしのノートはいっぱいになった。さらに深く知
 るには、北京にある巨界銀行のオフィスタワーのエコノミストを訪ねる必要がある。

  過去2世紀にわたって中国の指導者たちは、中国は個人の財産権や自由市場を伴う経済の自由化
 へ向かっていると、世界に信じさせてきた,タイムやニューズウィーク
の表紙は、中国は資本主義
 の道を進んでおり、そうなれば自ずと欧米流の民主主義が
実現される、と宣伝してきた。1978
 年以降、中国は世界銀行とその他の欧米の機
関の援助により、精力的に近代化を推し進め、目覚ま
 しい成功を収めた。そして30年
以上にわたって、その経済はコンスタントに成長しつづけている。
 小さな変動はあっ
たものの、中国経済は世界平均のおよそ3倍の速度で成長した。2001年以降、
 年
間成長率は平均で10.1パーセントに達する。1980年の名目上のGDPは約70O億ドルだ
 ったが、2011年までに7兆ドルを超えた(注6)。

  1980年には経済
発展の遅れた地域だったが、今やアメリカに次ぐ世界第二の経済大国となっ
 た。20
14年のフオーチュン・グローバル500には、中国企業が95社ランクインした(注7
 しかもそのうち5社は、上位50社に大っている(注8)。2000年はゼロだっ
た。中国は今や
 世界最大の自動車生産国であり、世界最大のエネルギー使用国であ
り、世界最大の二酸化炭素排出
 国である(注9)。依然として人口は世界最多で、増加
抑制に努めてきたにもかかわらず、13億
 5000万人を擁する(注10)。

注10. The Economist Pochet World in Figures, 2014 ed., 14,  1949年の中華人民共和国建国の直後から人
      口増加を抑制するための努力が払われてきたが、ほとんど成果はなく、1979年に全国的に「一
   人っ子」政策が命じられて初めて、人口増加にブレーキがかかった。毛沢東は、中国にふさわ
   しい人口は「約6億人」だと考えたと言われている。Susan Grccnhalgh,Just One Child: Science
            and Policy in Deng's China
Berkeley: University of Califomia Prcss, 2008),46-53. 1958年に毛沢東
      は、「過去にわたしは、8億人ならどうにかやっていけると討った。今は10億人以上でも心
   配はいらないと思っている」と言った(52)。


  これは経済の奇跡にほかならず、欧米には大いにその責任がある。マスコミや政治
評論家は、中
 国は資本主義、自由市場経済に向かっていると賞賛した。しかし、中国
にそんなつもりはまったく
 なかった。中国に資本主義が到来したという神話から数十
年もたっているというのに、2014年
 を迎えても中国経済のおおよそ半分はまだ政
府の手中にある。
  欧米の専門家の大半は、中国の躍進をもたらしたのは、控えめな革新と、人民元を安くして人件
 費や製造費を抑え、欧米より廉価で商品を提供したことだと見ている
(注11)。けれども、中国の
 成長を促進しているのは革新などではなく、いまだに中国
のGDPの40パーセントを占める国有
 企業(SOE)に国から政策的に与えている助
成金である(注12),これらのSOE、あるいは政
 府内で「ナショナル・チャンピオ
ン」と呼ばれる企業は、100年マラソンに不可欠な要素で、非
 効率的であるにもか
かわらず、商品を欧米の競争相手より安く売ることに成功し、国の経済発展の
 原動力
になった(注13)。

  このような遠慮会釈ない重商主義の歴史は古い。戦国時代、諸国は
戦争の延長として経済をコン
 トロールしていた。



  中国経済は今も誤解されたままだ。世界の一流エコノミストは、中国経済という怪物の動きには
 見えない部分があることを認めており、それもあって、経済の自由化に
向かっているという中国の
 主張は、精査や反論を受けることが少ない,ノーベル経済
学賞受賞者のロナルド・コースと王寧は
 2013年に、「中国の市場変化についてわた
したちが知らないことは多く、また、これまでに報
 告されたことの多くは、真実ではない」と警告した(注14)。彼らは中国の指導者たちが外国の指
 導者に戦略を秘密に
し、実際はそうでもないのに自分たちは民間資本による自由市場を目指してい
 ると告
げた事例を挙げる(注15)。他の学者たちも、中国が「資本主義に向かう」という戦略を語
  る時に、相手を油断させようと独特のひねりが加わることに気づいていた,

78年から中国プラント建設に入る前に、わたしなりに分析し、その体験をふまえ、「ロシアマルクス
主義に新自由主義を接木した経済」「アジア赤色官僚専制国家」と規定しブログ掲載してきているが、
国際的な専門家を欺き「相手を油断させようと独特のひねりが加わることに気づいていた」との著者の
感想に違和感はない。

  
                                                                          この項つづく

 

   ● 今夜の一曲

 

   ルイジアナテネシーシカゴ

   はるかロスアンジェルスまで

   きつい旅だぜお前に分るかい

   あのトラベリン・バスに揺られて暮らすのは

   若いお前はロックン・ロールに憧れ

   生まれた町を出ると言うけど

   その日ぐらしがどんなものなのか

   分っているのかい

   ルイジアナメンフィスジョージア

   遠くカンサス・シティーまで

   夜が更ければ又いつもと同じさ

   町に残した女想って

   黙りこくるあいつのそばで

   カードで遊ぶ寂しい笑顔

   たまらないぜあのトラベリン・バスに

   揺られて行くのは

   ルイジアナモンタナアうバマ

   逞か南のキャロライナ



                                      トラベリン バス

                                                  Music & Word : 矢沢永吉/西岡恭蔵
                        

作詞は西岡恭蔵、作曲は矢沢永吉。76年6月21日発売のアルバム『A Day』に収録。翌77年
のコンサート・ツアーのタイトル「TRAVELING BUS '77 PART-1」「TRAVELING BUS '77 PART-
2
」は、この曲名から取られている。同ツアーはチケットも長距離バスを模したデザイン。矢沢の
ソロ初のタイアップ曲であり、ソニーのラジカセ「リズムカプセル9000」のCMに使われた。矢沢は
広告にも出演し、とくにテレビCMは、矢沢がラジカセのリズムボックス機能を使い、同曲を弾き
語りする内容となっている。尚、『E.Y 70'S』は、97年に発売された矢沢永吉の70年代の楽曲
を収録されたベストアルバム。
 西岡恭蔵の「その日ぐらしがどんなものなのか」という歌詞が、
揺れ動く二十代の心情にシンクロナイズし記憶に残る一曲となる。70年代、80年代と時代は大
きく変化し、わたし(たち)は『第5次産業革命のトラベリン・バス』に乗り長い旅路に出て行く。
そして、演歌、フォークソング、ロック・ロールが融合する「JPOPs」時代を迎える。

  

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ファイアズ(炎)

2016年08月03日 | 時事書評

 

 

       

         今のグローバル化は、米国を主体に、財政力や軍事力の
         圧力が加わったもの。本物とはいえない。


                私の3作:評論家・吉本隆明さん/下 『悲劇の解読』

                              毎日新聞 2007.12.24

                                            
                             Takaaki Yoshimoto 25 Nov, 1924 - 16 Mar, 2012 

 



California solar homes final - PaulosAnalysis | Tableau Public

【カリフォルニア州 50の屋根用ソーラー飽和地区】 

このところの原油価格下落の影響を受け、シェールガスの採掘関連事業が景気が悪い。そのなか
カルフォルニア州の各地区での家庭用ソーラー住宅が不動産販売が好調。04年アーノルド・
シュワルツェネッガー州知事が18年までに家庭用ソーラー導入目標を百万戸に設定。現在57
万7千戸(家庭・学校・企業・農場)の導入達成状況にある。特に、サンディエゴ郡の50地区
(郵便番号)調査で21地区がソーラー集中地区であることが判明。サンディエゴ郡は今年4月
辞典で一戸建てのうち76,239戸がソーラー住宅であったと、今月1日、EcoWatch 社は報じ
ている(上下図写真をバブクリ参照)。

 

50 Most Solar-Saturated Zip Codes in California EcoWatch Aug 01, 2016

 ● 折々の読書:ファイアズ(炎)Ⅱ

  影響というのは力である。環境やパーソナリティー、それらは潮の満ち干のようにあらが
 いがたいものである。私には自分が影響を受けたかもしれない作品や作家について語ること
 はできない。そういった影響、つまり文学的影響というものは、私はこれこれこういう具合
 に影響を受けましたと明確に指摘できるものではないのだ。私にとって、これまでに読んだ
 あらゆる本から私は影響を受けましたというのは、私はどんな作家からもぜんぜん影響なん
 て受けていないと思うというのと同じくらい不正確であるだろう。具体的に名前をあげるな
 ら、私はアーネスト・ヘミングウェイの長篇と短篇の長年のファンである。そしてなおかつ、
 私はローレソス・ダレルの作品は、文体において特異にしてかつ卓越したものだと思ってい
 る。もちろん私はダレルのようには書かない。そういう点では私は彼に「影響」されていな
 い。ときどき私の文章はヘミングウェイの文章「みたいだ」と言われることがある。でも彼
 の文章が私の文章に影響を及ぼしたと言うことは私にはできない。ヘミングウェイも、ダレ
 ルと同じように、私が二十代にその作品を初めて読んで非常に感心した数多くの作家たちの
 一人ということなのだ。

  Lawrence Durre 27 Feb 1912 - 7 Nov 199

  そんなわけで、私は文学的影響力というものについては多くを知らない。でもそれ以外の
 種類の影響力についてならいささかの意見を持っている。私に覚えのある影響力というのは、
 最初はしばしばミステリアスな、ときには奇跡に近い姿をとって私のところに押しかけてく
 る。しかしこのような影響力というものは、私の仕事が進捗することによって、初めて明ら
 かになるのである。これらの影響力は容赦のないものであった(今でもそうなのだが)。こ
 れらの影響力こそが私をこの砂嘴のような地に押し流したのである。それは私を、一例をあ
 げるなら、湖のあっちの岸には押しやらなかった。しかしながら、もし私の人生と文章とが
 受けた主要な影響力がネガティヴなものであり、抑圧的で敵意に満ちたものであったとした
 ら(事実そうであったと思うのだが)、いったいどう考えればいいのだろう?

  まず最初に断っておきたいのだが、私はこの文章をヤドーという場所で書いている。それ
 はニューヨーク州サラトガ・スプリングズのちょっと外れにある。八月の初めの、日曜日の
 午後である。しょっちゅう、だいたい二十五分に一回くらいの割合で、三万人以上の声がわ
 あっというひとつの巨大な叫びになってわき起こるのを私は耳にすることができる。この見
 事な雄叫びはサラトガ競馬場から聞こえてくるのだ。有名なレースが今開催されている。私
 は原稿を書いている。しかし二十五分おきに、私はアナウンサーがラウドスピーカーで馬の
 ポジションを放送する声を聞くことができる。人々の咆呼が大きくなってくる。その歓声は
 木立の上に作裂する。その雄大にして、かつまことにスリリングな音は、馬たちがゴールに
 駆け込むまで、あたりに響き渡っている。それが終わると私は、まるで私自身がそれに参加
 していたみたいに、どっと疲れてしまう。私は自分が入賞した馬や、またある場合には惜し
 いところで入賞を逸した馬の馬券を握りしめているところを想像する。もしそれが写真判定
 を仰がなくてはならないものであれば、一分か二分か経って写真が現像され公式判定が出た
 ときに、またあの歓声がどっとやって来るなと待ち受けることになる。

  何日か前に私はここにやってきて、ラウドスピーカーから流れてくるアナウンサーの声と
 興奮した観客たちの咆眸を初めて耳にしたわけだが、私はそれ以来ずっとエル・パソを舞台
 にした短篇小説を書いている。私はちょっと前のことだが、その町にしばらくのあいだ住ん
 だことがあった。それはエル・パソの郊外にある競馬場に出かけた人々の話だ。その物語は
 ずっと書かれるのを待っていた、というようなことを言うつもりはない。そんなことはなか
 ったし、もしそんな風に言ってしまったら話はちょっと違った色彩を帯びてくることになる 
 だろう。でもこの短篇を例にとって言うなら、私はこの作品に目の目を見せるためには、何
 かを必要としていたのだ。私がヤドーにやって来て、最初に観客の歓声やラウドスピーカー
 から聞こえるアナウンサーの声を耳にしたとき、あのもう過ぎ去ってしまったエル・パソで
 の生活のひとこまが私の脳裏に蘇ってきて、その物語のヒントを与えてくれたのだ。私は自
 分がその競馬場に行ったときのことや、そこで起こったことや、あるいは起こったかもしれ
 ないことや、ここから二千マイルも離れたところにあるその場所で(少なくとも私の小説の
 中で)これから起こるであろうこと。

  というわけで、私の小説は進行中である。「影響力」というのはこのような姿をとること
 もあるのだ。言うまでもないことだが、すべての作家はこのような種類の影響力の支配下に
 ある。これはもっともありふれた種類の影響力である。これがそれを示唆し、それは別の何
 かを示唆する。これは我々にとってはありふれたことであり、そしてまた雨降りのように自
 然なことである。

  しかし話の本題に入る前にもうひとつ、私はこの最初の例によく似た影響力の実例につい
 て語りたい。それほど前のことではないが、私がシラキュースの家で、小説を書いている真                         
 っ最中に電話のベルが鳴った。私は電話を取った。受話器の向こうから聞こえる声は間違い
 なく黒人のものだった。ネルソソを出してくれと彼は言った。それは間違い電話だったし、
 私は間違いですよと言って電話を切った。そして私は自分の小説に戻っていった。でも間も
 なく私は、自分が知らず知らずのうちにその小説の中に丁人の黒人を登場させていることに
 気づいた。それはネルソンという名の、不吉な影のある人物だった。そしてそれを契機にそ
 の小説は違った展開をみせることになった。でも今にして思えば(いやそのときにだってち
 ゃんとわかっていたのだが)有り難いことに、それは小説にとっては正しい展開であった。

  私がその短篇を書き始めたとぎには、ネルソンという登場人物をあらかじめ準備したり、
 その必要性を予知したりすることは不可能だった。でも今ではその小説は書き上げられ、間
 もなく全国詰に掲載されることになっている。そして私にはわかっている。ネルソソの存在
 が、そしてその不吉さの影の存在が、正しく、また当を得たものであり、審美的に見て間違
 いの ないものであるということが。もうひとつ私にとってよかったことは、この人物がい
 ねば出会いがしらにぴたっとうまく私の小説の中に入り込んできたことである。そして私は
 ちゃんとそれを受け入れたのである。

  私の記憶力は貧弱なものである。つまり私は、自分の人生に起こった多くの出来事を忘れ
 てしまっているということである。これはまことに有り難いことではあるのだが、しかし私
 には全然説明できなかったり、あるいは思い出すことのできないいくつかの長い期間がある。
 私の住んでいた町や都市のこと、知っていた人の名前、人々そのもの。それは大きな空白で
 ある。しかし私はいくつかの物事を記憶している。いくつかのささやかな物事――誰がどん
 な口調で何を言ったか、そしてまた、誰かの激しい、あるいは声をひそめた、神経質な笑い
 声。ある情景。誰かの顔に浮かんだ悲しみや当惑の表情。そして私はいくつかのドラマティ
 ックな出来事を思い出すことができる。誰かがナイフを手に持って、怒りに燃えた目で私の
 方に向き直ったこと。あるいは誰かをおどしつける私自身の声。誰かがドアを叩き破るのを
 見たこと。あるいは階段から転げ落ちるのを見たこと。そういうドラマティックないくつか
 の記憶を、私は必要に応じて思い出すことができる。でも私にはそのときの会話の全部をそ
 っくりそのまま、一言一句違わずにジェスチャーやニュアンスをも添えて、ここに呼び起こ
 せるような種類の記憶力は持ちあわせていない。あるいはまた、これまでに自分が暮らした
 どんな部屋でもいいけれど、そこにどのような家具があったかなんてまったく覚えてはいな
 い。ましてや家全体の家具となると、完全にお手上げである。あるいは競馬楊には具体的に
 どんなものがあったというようなことすら、私にはまるで思い出せない。

  私に思い出せるのは、そう、観客席とか、馬券窓口とか、場内中継テレビのスクリーンと
 か、人込みとか、その程度だ。そしてざわめき。私は小説の中の会話を自分で作り上げる。
 私は人々のまわりにある家具とか、物体とかを、必要があれば小説の中に差し入れる。たぶ
 んそのせいで、往々にして私の小説は飾りがなくて、寒々しいと言われ、あるいはまた「
 ニマリスト」的とまで言われてきたのかもしれない。でもそれはあるいは、ただ単に必要性
 と便宜性とが実際的な折り合いをつけたということに過ぎないのかもしれない。そしてその
 折り合いこそが、私が今書いているような種類の小説を、今書いているような方法で書くよ
 うにさせたものなのかもしれない。

  言うまでもないことだが、私の書いた小説はどれも本当に起こったことではない。私は自
 伝を書いているわけではないのだ。でもそれらの大抵のものには、それはほんのちょっとし
 たことかもしれないけれど、何かの実際の出来事やら状況やらへの類似性が認められる。し
 かし私がその物語の状況に関連して、そのまわりにあった物体なり家具なりのことを思い出
 そうとするとき(そこにはどんな花があったか、だいたい花なんかあったのか、それは匂い
 を放っていたのか、エトセトラ)、私はしばしば途方に暮れることになる。そんなわけで、
 私は話を進めるためにはその手のことを適当にでっちあげなくてはならない。その物語に出 
 てくる人々は、かくのごとき言葉が口にされたあと、どんなことを言いあうか、そのときに
 どんなことをするか。そしてそのあと彼らの身にどんなことが起こるのか。私は彼らがお互
 いに向かって言ったことを作り上げる。しかしそこには、その会話の中には、実際にそこで
 口にされた一言や、あるいはセンテンスのひとつやふたつは(それは私がいつか、何かの折
 りに耳にしたことのあるものだ)混じっているかもしれない。そのセンテンスこそが、ある
 いは私の小説の出発点であるということだってあるかもしれない。

  ヘソリー・ミラーは四十代のころに『北回帰線』(それはたまたま私の愛読書でもある)
 を執筆していたのだが、彼はそのときに他人の部屋で必死になってそれを書こうとしていた
 ときのことについて語っている。彼はそこではいつなんどき仕事を中断させられるか予測も
 つかなかった。というのは、彼が座っていた椅子は、次の瞬間にはお尻の下から持っていか
 れるかもしれなかったからだ。かなり最近になるまで、私の人生においてもそのような状況
 がずっと続いていた。私の記憶している限りにおいては、十代のころからずっと、私は常に、
 自分の座っている椅子が誰かに持っていかれやしないかといつもひやひやしながら暮らして
 いた。何年ものあいだ、私と私の妻とは、屋根の下に住み、テーブルの上にミルクとパンを
 並べるために、ほとんどすれちがい同然の忙しい生活を送らなくてはならなかった。私たち
 には金がなかったし、目に見えるような、つまりどこかに売り込めるような特別な職業的技
 能も持だなかった。

  そのおかげで、私たちはアルバイト同然の仕事をやりながら、やっとこさ生きていくしか
 道がなかったのだ。そして私たちには、私たちは二人ともそれを喉から手が出るほど求めて
 いたのだが、教育もなかった。教育は自分たちにチャンスを与えてくれるだろうと、私たち
 は信じていた。それは私たちにまともな職に就く機会を与えてくれるだろう、そしてそれは、
 我々が自分たちや子供たちのために求めているまっとうな種類の生活を与えてくれるかもし
 れないのだ。私と妻とは大きな夢を持っていた。自分たちは頭だって下げられる、懸命に働
 ける、やろうと心に決めたことならどんなことだってやれると我々は思っていた。でも我々
 は考え違いをしていた。

  私の人生と私の書くものを、直接的にであれ間接的にであれ、いちばん大きく左右した影
 響力といえば、それはやはり私の二人の子供であったと言わなくてはならない。彼らが生ま
 れたのは、私が二十歳になる前のことだった。そして一緒の屋根の下に暮らした期間を通じ
 て、その始めから終わりまで(それは全部で十九年間に及んだ)、彼らのずしりと重く、そ
 
して往々にして悪意に満ちた影響力が及ばない場所というのは、私の生活の中には一寸たり
 とも存在しなかった。

  Mary Flannery O'Connor (March 25, 1925 – August 3, 1964)

  あるエッセイの中でフラナリー・オコナーはこう書いている。作家は二十歳を過ぎてしま

 ったら、あとはその身に何が起ころうとたいして意味はない小説を作りだす材料の多くは
 それ以前に既に起こってしまっているのだ、十分すぎる以上に、と彼女は言っている。そこ
 にはその作家がI生かけても書ききれないくらいの十分な材料がつまっているのだ、と。こ
 れは私の場合にはあてはまらない。今私を執筆に駆り立てる「材料」の大半は、二十歳を過
 ぎてから私の身に起こったことである。私は子供が生まれる前の自分の人生について、本当
 にろくに覚えていないのだ。私は二十歳になり、結婚し、父親になる以前に、自分の人生に
 何かたいしたことが起こったとはどうしても思えないのだ。そのあとで、やっといろんなこ
 
とが起こり始めたのだ。

 ここで、翻訳者の村上春樹は「解題」で次のように解説しているので掲載する。

 John Gardner  (Jul 21, 1933 – Sep 14, 1982)


  1982年の秋に「アンティーアス」と「シラキュース・スコラー」という二冊の雑誌に
 掲載された。また
それと前後してハーバー・アンド・ロウから出版された『存続しつづける
 ものを讃えて』というアンソロジ
ーにも収録された。この題はカーヴァーの大学時代の先生
 であったジョン・ガードナーの言葉から
取っている。つまり炎とは、作家になるために必要
 な「創造の炎」のことである。これがなければ人は
作家になることはできない。しかし彼の
 中にあったその創造の炎は、二人の子供の面倒をみなくては
ならないという現実の重みに少
 しずつ押しつぶされ、吹き消されていく。彼にはじっくりと腰を据えて小説を書くだけの暇

 が与えられないのだ。「私はそのような飢えた年月を通じて、欲求不満のために徐々に正気
 をなくしつつあったように思う」と彼はここで書いている。そして彼は酒に溺れ、現実に子
 供たちのことを敵として憎みはじめるようになる。そして子供たちもまた彼を敵として憎み
 はじめるようになる。そのような子供だちとの深刻ないさかいは最後まで彼を苦しませるこ

 とになった。

  彼がここで言いたいのは、我々の書くものがどれほど強く現実の環境に支配されているか
 ということである。そのような現実的影響は(少なくとも彼の場合にはということだが)文 
 
学的影響なんかよりもずっと強いものであり、またあらがいがたいものである。彼が長篇小
 説というものを書けなくなってしまったのは、彼が子供たちに時間と精力を奪われ、仕事に 
 集中することがでぎなくなったからだ、と彼は言う。そのような生活が、彼の中から長篇小
 説を書くための炎を消してしまったのだ。彼はその悲痛な事実を混んだコイン・ランドリー
 の中で悟る。そしてそれ以降は長篇小説の執筆をあきらめて、短篇小説と詩にしがみついて
 書きつづけることになる。

  僕も彼の言わんとすることはよくわかる。僕には子供がいなかったけれど、最初の二冊の
 小説を書いたときには、自分で小さな店を経営していたから、文字通り朝から晩まで働かな
 くてはならなかった。夜中の一時に帰宅して、台所のテーブルに座って一時間か二時間の書
 く時間を絞り出すのがやっとだった。たしかにそういう風な書き方をしていると、長い小説
 は書けない。長い時間集中できないから、ストーリーも文章も分断されてしまう。とくにカ
 ーヴァーのような文章的な完璧さを目指す作家にとっては、それは本当に苦しいことだった
 と思う。

  カーヴァーは自伝的なエッセイをあまり残してはいない。そういう意味でもこの『ファイ
 アズ(炎)』というエッセイは、作家としてのカーヴァーの貴重な肉声であると言えよう。
 悲痛といえばたしかに悲痛な文章だが、自己憐惘に沈んでいかない率直な潔さのようなもの
 が文章をしっかり支えている。

                                   この項つづく

【男の野外料理レシピ:ベビーラムの炭火焼き】

焦げた皮は香ばしいので、野菜を巻いて食らう。通称バラ先と呼ばれる、あぱら骨の腹の部分。
あるいは、モモ肉の二度焼きはおすすめ。

● 材 料:ベピーラム(冷凍品)1頭(約5~6キロ)、香草(タイム。セージ、ローズマリー、
      オレガノ)、赤唐辛子、粉チーズ、ニンニク、オリーブオイル

● 作り方:①ベビーラムはあばら骨のつけ根を、ナタて切り離し、火が全体にまわるように
      開く(A)。股(モモ)の部分は骨に沿って、切れ目を入れて筋を切る(B)。②ボー
      ルにみじん切りにしたローズマリー、セージ、タイム、オレガノ、赤唐辛子、二
      ンニク、そして粉チーズ、オリーヴオイル、塩、コショウを入れてよく混ぜ合わ
      せる(C)。肉全体にすり込んで、10分位おき、なじませる。③はじめに羊の内
      側を炭火で焼き(D)、次に皮の方を焼く。

● この秘伝のたれは、どんな肉にもOK。鹿、兎、ジビエにもおいしい。いろいろな香草を
  入れ試そう。市販のタレは野外料理には似つかない。自分(たち)だけのタレを開拓した
  いもの。                 I

  ● 今夜のアラカルト

今じゃすっかりおなじみのカルフォルニアロール。

 

 

 

 

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帝國のロングマーチ17

2016年08月02日 | 時事書評

 

 

       
        

      親鸞が意識的に僧侶の戒律を破り、ふつうの人たちと同じ「非僧」の生活をした
      ことは、「僧的人間」から「ただの人間」に戻す親鸞の本懐だったと思います。
     

                                週刊仏教新発見 2007.12.23
 

                                            
                             Takaaki Yoshimoto 25 Nov, 1924 - 16 Mar, 2012 

 

    

【帝國のロングマーチ 17】          

      

● 折々の読書  『China 2049』37     

                                          秘密裏に遂行される「世界覇権100年戦略」  

ニクソン政権からオバマ政権にいたるまで、米国の対中政策の中心的な立場にいた著者マイケル・ピル
ズベリーが自分も今まで中国の巧みな情報戦略に騙されつづけてきたと認めたうえで、中国の知られざ
る秘密戦略「100年マラソン( The Hundred-Year Marathon )」の全貌を描いたもの。日本に関する言及
も随所にあり、これからの数十年先の世界情勢、日中関係そして、ビジネスや日常生活を見通すうえで、
職種や年齢を問わず興味をそそる内容となっている。 
     

 【目次】 

  序  章 希望的観測
 第1章 中国の夢
 第2章 争う国々
 第3章 アプローチしたのは中国
 第4章 ミスター・ホワイトとミズ・グリーン
 第5章 アメリカという巨大な悪魔
 第6章 中国のメッセージポリス
 第7章 殺手鍋(シャショウジィエン)
 第8章 資本主義者の欺瞞
 第9章 2049年の中国の世界秩序
 第10章 威嚇射撃
 第11章 戦国としてのアメリカ
 謝 辞
 解 説 ピルズベリー博士の警告を日本はどう受け止めるべきか

            森本敏(拓殖大学特任教授・元防衛大臣)   

 

   第7章 殺手鐗(シャショウジィエン)  

                   難知如陰、動如雷震
                   ――知り難きこと陰の如く、動くこと雷の震うが如し  

                                    『孫子』軍争篇 


  21世紀の最初の年、これらのスパイ部門(および、その他のサイバー戦士たち)は、そのとて
 つもない力を見せつけた。アメリカ国防総省のコンピューター・ネット
ワークから「中国が10~
 20テラバイトのデータをダウンロードしていた」ことに、米
空軍のウィリアム・ロード少将が気
 づいたのだ,少将は中国の行動を「国民国家の脅
威」と呼んだ(注55)。2013年、ワシントン・
 ポスト紙は、国防科学評議委員会に
よる機密扱いの調査により、サイバー侵入者が24以上のアメ
 リカの兵器システム設計
にアクセスしていたことが明らかになった、と報じたが、侵入されたシス
 テムには
「パトリオット・ミサイル・システム、イージスミサイル防衛システム、F/A‐18戦
 
闘機、V‐22オスブレイ、沿海域戦闘艦」が含まれていた(注56)。ワシントン・ポストは、次
 のようにつけ加えている。

  「事情に通じた米軍の高官や産業関係の役人は、侵入の大多数は、中国が幅広く繰り広げている
 アメリカの防衛関係の請負業者と政府機関に対するスパイ活動の一環だった、と語った(注57)」
 もっと大胆なサイバー攻撃の一つは2003年から2005年にかけて発生したもので、狙われた
 のはアメリカの軍、政府、政府と取引のある企業のウェブサイトだった。「タイタン・レイン」と
 総称されるその侵入は、数百にのぼる政府のコンピューターを攻撃した。タイム誌は、その侵入を
 遡ると、広東省の三つのルーターに接続するローカル・ネットワークに至ると報じたが、この攻撃
 に関する報道についてアメリカ政府の当局者は、差し障りのないコメントしか述べていない(注58)。
 タイタン・レイン以降、ウォーツェルによれば、人民解放軍のある部隊(61398部隊)が「企
 業、国際組織、外国政府を含む、少なくとも141の組織のネットワークに侵入している(注59)」。
 
  さらに、中国を本拠地とするハッカー集団、「ヒドゥン・リンクス(訳注*隠れた山猫という意
 味)」は、中国発の最も悪名高いサイバー攻撃のいくつかに関わっている。ヒドゥン・リンクスは、
 グーグルやアドビなどのテクノロジー企業、金融サーピスプロバイダー、防衛請負事業者、政府機
 関を攻撃している(注60)。アメリカのサイバー警備会社は、ハッカーは「機密情報を狙うハンタ
 ーの粘り強さ、辛抱強さ」を持ち、「『水飲み場型攻撃』技術のパイオニア」だという。「水飲み
 場聖攻撃」とは、「攻撃対象のユーザーが利用する事業者のコンピューターを感染させ、感染した
 ソフトウェアが攻撃対象にインストールされるのを待つ」というものだ(注61)。さらに、アメリ
 カの情報セキュリティーの上級担当者だったポール・ストラスマンによれば、73万超のアメリカの
 コンピューターが中国の悪質なソフトウェア「ゾンビ」に寄生されているそうだ。ハッカーはゾン
 ビを利用してコンピューターを奴隷にし、その奴隷を使って、ネットワークやウェプサイトに圧倒
 的な量のデータを送りつけ停・比させる(注62)。

  中国軍事科学院のスン・バイリン少将は、アメリカはあまりにも「情報スーパーハイウェイ」に
 頼りすぎているため、「電気無力化システム」による攻撃に対して脆弱で、電カシステム、民間航
 空システム、輸送ネットワーク、海港、テレピ放送局気通信システム、コンピューターセンター、
 工場、ビジネスが妨害あるいは破壊される恐れが高いと書いている(注63),北京系統行程研究所
 の元エンジニア、チャン・メンションは、「21世紀の兵器」と題した論文において、「宇宙衛星
 への攻撃と防御に際しては、早期警戒管制機、電子戦機{訳注*一子戦を眼擬して設計された航空
 機)地上の指令地点が重要になるだろう」と記した(注64)。
 
  殺手鐗の開発は、監視システム、地上配備の電子インフラ、あるいは合衆国の航空母艦を無力化
 する兵器の開発から始まる。それらの中には電磁パルス(EMP)兵器が含まれるが、それは核爆
 発で生じる電磁パルスを増幅させることによって、広範囲のあらゆる電子装置を動作不能にする。
 近年、中国はマウス、ラット、ウサギ、イヌ、サルでEMP兵器の威力を調べている。また、高出
 力マイクロ波兵器の研究も行っており、それはチャン・メンションによれば、「敵の電子機器を破
 壊する」ためのものだ(注65)。仮に第三次世界大戦が起きれば、コンピューターウイルスとEM
  Pとマイクロ波を放つ兵器が、アメリカ本土でコンピューター、携帯電話、航空交通管制センター
 を無力化し、戦場では兵士に対する指揮統制メカニズムとスマート爆弾を無力化するだろう。そう
 なった時、アメリカはどんな戦いを強いられるだろうか。

  Jan 13, 2013 The Korea Herralo

  人民解放軍機関紙の以下の主張について考えてみよう。
 「真珠湾事件一のようなものは情報化時代には起こり得ないと考える人もいるだろう。しかし、敵
 の重要な指揮と統制のための情報システムが急襲されたら、それは21世紀の「玖珠湾事件」にな
 るだろう。{中略)例えば電磁パルスなどは、そのような急襲を可能にする。核ミサイルや強力な
 軍隊を持つアメリカのような超大国でさえ、それを免れるという保証はない。(中略)アメリカ人
 自身、高度にコンピューター化された聞かれた自国の社会は、あらゆる角度からの電子攻撃に対し
 てあまりにも脆弱だと認めている。これはアメリカ経済が、銀行から電話システム、発電所、鉄工
 所にいたるまで、完全にコンピューター・ネットワークに依存しているからだ。{中略)ある国は、
 経済的、技術的に強くなるにつれて、近代的な情報システムにますます依存するようになる。(中
 略)したがってアメリカは世界のどの国よりも電子攻撃に対して脆弱なのだ(注66)。

  中国人は、アメリカのもう一つの深刻な弱点は、宇宙衛星への依存だと考えている。人工衛星は、
 敵の位置を撮影し、無線電信と通話を監視し、情報を集める。また、無人のドローン、巡航ミサイ
 ル、そのほかの誘導兵Sにも利用される。それら衛星のおかげで、アメリカ中央軍はフロリダ州タ
 ンパの司令部から、中東における自軍の活動を統括でき、アメリカ太平洋軍はホノルルの司令部か
 ら、1万500平方マイルの領域にわたって艦隊やその他の軍と交信できる。2004年、アメリ
 カは12隻の空母のうちの7隻を中国周辺の海域に送り、その圧倒的な力を見せつけたが、それら
 ははるか上空の宇宙を飛ぷ通信・情報衛星がなければ、通信不能になるだろう。

  20年にわたって中国は、それらの衛星を破壊したり、無力化したりするための殺手鐗兵器をい
 くつか作ってきた。そこには、アメリカの人工衛星を機能不全にしたり吹き飛ばしたりする地上配
 備レーザーも含まれる。また中国は、「寄生型マイクロ衛星」を作りはじめている,その名が示す
 ように、これらの超小型装置は、アメリカの人工衛星にくっついて、それを使えなくしたり、収集
 した情報を乗っ取ったりする。別の中国の超小型人工衛星は、電子妨害、EMP生成、あるいは軌
 道の外へ押し出すことによって、アメリカの人工衛星を無力化できる(注67)。

  中国はさらに、地上配備の対衛星ミサイルも開発した。人工衛星に打ち込んで爆破するためのも
 のだ。2007年の実験では、役に立たなくなった自国の気象衛星をみごとに爆破した。アメリカ
 国防総省の報告によると、「多くの国に懸念を引き起こし、結果として生じた残骸は、宇宙開発を
 進めるすべての国の資産を危険にさらし、人類の宇宙飛行にも危険をもたらした(注68)」。アメ
  リカのネイバル・ウオー大学のジョアン・ジョンソンフリーズの観察によれば、この実験は「無責
  任にも、3000片を超える破片を作り出し、それは今後何十年にもわたって低い軌道上を密集し
  た状態で周回するだろう(注69)」。

  中国の人工衛星破壊実験の最も厄介な点は、透明性の欠如である。「中国はこの実験の意図を説
 明していない」と、アメリカ国家安全保障会議のスポークスマンは述べ、「将来の実験計画の有無
 についても明言しない」と批判した。さらに、その実験が「宇宙空間の軍事化に反対する中国の公
 的な立場に矛盾しないものであったか」について何の説明もしていない、と断じた(注70)。

  おそらく、この実験に関してアメリカの当局者が最も困惑したのは、アメジカの情報コミュニテ
 ィがそれを予測できなかったことだ。国防総省が議会に提出する、中国の軍事力に関する三つの年
 次報告において、国防長官は、中国は「核兵器によってのみ」人工衛星を破壊できる、と報告して
 いた(注71)。ワシントン・タイムズは、この実験は、「戦略上の重大な脆弱性」を露わにするこ
 とによって「警鐘を鳴らした」と報じ、アメリカの防衛担当官の言葉を紹介した。日く、「アメリ
 カの人工衛星はあらゆる軍の通信のおよそ90パーセントを統御し、情報とミサイル誘導について
 も同様であるが、それを無力化あるいは使用不可能にする宇宙兵器や能力を、中国がどのくらい持
 っているか、あるいは開発中かについて、アメリカの情報には、事実との大きな隔たりがある(注
 72)]。

  2007年の実験の後も、中国はいくつか実験を行った。2013年の地上発射式の対人工衛星
 ミサイル実験もその一つだ。アメリカの当局者によると、この実験は、宇宙探査用ロケットの打ち
 上げと称して行われたそうだ(注73)。同じ年の後半、中国軍はアメリカの人工衛星を攻撃する能
 力を持つ三つの人工衛星を打ち上げたが、アメリカの当局者はそれを「中国の「スター・ウォーズ
 計画』の一部」と呼び、「アメリカの国防上、重大な関心事」と見なしている(注74)。人民解放
 軍は、人工衛星からの通信を乱したり消したりする他の兵器や妨害器の開発も進めており、おそら
 くレーザー、マイクロ波兵器、粒子ビーム兵器、EMP兵器が含まれる(注75)。

   人工衛星への依存度の高さに加えて、米軍のもう一つの弱点は、戦争をするために必要な弾薬、
  燃料、その他の資源を、長距離の供給ラインに頼っていることだ。第一次湾岸戦争で、アメリカ海
 軍は1日あたり1900万ガロンの石油と、朝鮮戦争時の20倍以上の弾薬を使用した。いずれも
 聞かれたシーレーンがなければ調達は不可能だが、シーレーンは潜水艦、機雷、魚雷、対艦巡航ミ
 サイルといった非対称攻撃に対して脆弱であり、そのすべてを中国はすでに武器庫に備えている。
 潜水艦はアメリカのシーレーンにとって脅威になるということもあって、中国海軍研究所はそれを
 21世紀で最も重要な船と見なしている。(中略)

  Nove 16, 2015 White Hourse

  つまりアメリカ国防総省が報告するように、中国の「作戦の本質」は、陸・海・空どの戦いにお
 いても、「敵の指揮システムを破壊し、敵の情報システムを無力化し、敵の最新の兵器システムを
 破壊し、敵の兵箔システムを無力化し、敵の技術的優位性から生じる相乗効果を否定すること」な
 のだ(注80)。中国流の隠喩で言えば、中国政府の戦略は、人体の構造に関する知識を利用して、
 自分より大きい敵をノックアウトするボクサーのようだ。アメリカ人にとっては、ギリシャ神話の
 英雄の話が馴染み深いだろう。すなわち、この20年にわたって中国は、敵の唯一の弱点、すなわち
 アメリカのアキレス腱を射るための矢を作ってきたのだ。

  北京の数名のタカ派が2013年にわたしに話したところによると、オバマ大統領の「リバラン
 ス政策」(世界政策の重心をアジア太平洋地域に移す)や「ピボット政策」(軍事外交の軸足をア
 ジア太平洋地域に移す)に関して、アメリカがどこまで真剣なのかを、彼らは測りかねたそうだ(
 注81)。彼らは、中国が誤った考えに陥っているではないか、アメリカが殺手綱計画に過剰反応し
 て、中国を標的とするより強力な軍隊を作るのではないか、と心配しているようだった。もしアメ
 リカが現在の計画どおり、今後10年で防衛費を1兆ドル削減するのであれば、「リバランス」に
 使う資金はないだろう、とその中国人は言った,わたしは正直に答えることにした。アメリカが中
 国への対応のために防衛費を増やすかどうか、予測は難しい、と。


できるだけ詳細に読み込んできたつもりだったが、「軍事戦術論」の展開となり、これ以上は無駄と判
断。つまり、果てしない疑心暗鬼・過剰連鎖の「合わせ鏡」のハレーション――写真の像で、特に強い
光の当たった部分の周りが白くぼやける現象――をいくら論じて無駄であり、思惑通り「アメリカにリ
バランスを担保する資金ショート」しても、中国の「帝國のロングマーチ」は止まらないとわたし(た
ち)は考える。奇しくも、マイケル・ピルズベリーは「アメリカが中国への対応のために防衛費を増や
すかどうか、予測は難しい」と中国政府のタカ派にこう返事し、この章は結ばれる。さて、次回は第8
章の「資本主義者の欺瞞」。


                                       この項つづく

 



【男の野外料理レシピ:パスタ入りカキのクリームスープ

プリッとした身には、ビタミンB1、B2、ミネラルが豊富。とろみのあるスープには、ショートタイプ
のパスタの方かソースのからみかいい。もし、これがスパゲッティなら、モソモソしこうはいかない。

● 材料(4人分):カキ(生食用)300グラム、玉ねぎ30グラム、ベーコン15グラム、牛乳70
          0ミリリットル、生クリーム100ミリリットル、バター大さじ3、小麦粉30
          グラム、パスタ(フジィリ)少々、パセリ少々

● 作り方:①小さな鍋に牛乳と塩少々を入れて、人肌程度に温めておく。②鍋にバターを入れ、溶け
      はじめたらみじん切りの玉ねぎを入れて、中火で焦がさないぶうに十分炒め、甘みを出す
      みじん切りのベーコンを加え、さらに炒め香りを出す。この中に小麦粉を加えて(A)、ル
      ーを作る要領で、3分間位炒める。③この中に温めておいた牛乳を入れてよく混ぜる(B)。
      中火を保ちながら煮ていると、自然にとろみが出てくる。④苑でておいたパスタを入れ(C)、
      生クリームを足し、昧をみて最後にカキを加え(D)、ふたをして2分間位蒸し、みじん切
      りのパセリをふる。 



● アウトドアークッキングの思い出

建てたばかりの南堀江の三階はまだ借り手のつかぬ部屋が2つあり、そこで、ビニール製のテントを膨
らませて、京町堀の従兄弟と二人でキャンプごっこを楽しんだ。彼の家は駄菓子屋をやっていたので、
持ち込まれたお菓子やインスタント食品は豊富にあった。コーラー(粉末のコーラー)や渡辺のジュー
ス素(色素が有害に指定され後に廃品)、日清食品のチキンラーメン、あるいは登山用の干し米やスー
ぷー、コーン・ビーフなどなど中学生にしてはリッチな食べ物を試食。バーナー、ランプなどのキャン
プ備品も一揃え準備し、一夜を明かし(火事になりかけたこともあったが)楽しんだものだ。面白い体
験を1つ話そう。当時、大日本製薬の『オールP』の眠気覚ましを飲み、寝ることを惜しんだのだが、
実は、このドリンク剤に含まれる覚醒剤が問題となり販売禁止になっている。安全や健康意識は低調な
高度成長期の最中で「知らぬが仏」状態だった。また、クラブは地学部に所属、化石採取などの野外活
動はお手のもので、一人で飯ごう炊飯していたから、登山やBQなどの野外活動はなれている。しかし、
本格的な野外料理の経験はない。だから、百名山踏破、トレッキング、カヤッキングでそれを実現しよ
うというのだ。ブログ掲載してきた『イタリアン・アウトドアクッキング』。教本は、45年前の本格
シェフの手になるもの(旧旭屋梅田店で購入)。ここでも夢を一つ叶えることになる。長生きはするも
んだ。

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滑落する世界

2016年07月23日 | 時事書評

 

 

   

 
            インターネット、携帯電話と、コミュニケーション手段が発達していくのが
            最近の世の趨勢で、これに逆行することはできないんですが、コミュニケ
            ーション自体が自己目的化したら、それはちょっと病気です。

 

                                                                                           
                              Takaaki Yoshimoto 25 Nov, 1924 - 16 Mar, 2012 
 

 

  

MailOnline July 22, 2016

【滑落する世界:ミュンヘン無差別銃撃事件】

22日、ミュンヘンに起きた銃乱射事件。子供たちにも容赦なく発砲したという凶行は、25人の

死傷者を出し、平和な日常を一瞬にして奪い去ったと報じた(毎日新聞 2016.07.23 11:30)。そ
れによると、ミュンヘン北部の大型商業施設向かいのマクドナルドで起きた。地元警察によると、
容疑者の18歳の男はマクドナルド店内で発砲してから、路上に移動して乱射を続けた。事件発生
後に現場から1キロの地点で、自殺したという実行犯の遺体が見つかったが、当局は市民に外出自
粛を呼びかけ、公共交通機関を停止するなど、混乱と緊張が続いたという。

地元警察によると、事件の動機や男の詳細な人物像は不明だが、ドイツとイランの二重国籍である
ことが判明している。第二次大戦後、多くのイラン人が独国内の大学で医学などを習得。1979
年にイラン革命が起きると、多くの医師や学生が家族と共にドイツに移り住んだ独国内には約12
万人のイラン系住民がいるとされる。トルコ系などに比べ、比較的裕福で高学歴な人が多いイラン
系国民が起こした犯行は、独国内の移民政策のあり方に議論を起こすことは必至だという。

 

2016 Munich shootings/Wikipedia

18日、独南部ビュルツブルクでアフガニスタン出身の少年(17)が刺傷事件を起こした際に、
CSUのゼーホーファー党首は「国と州の治安機関は難民の監視を厳格化すべきだ」と言及。「
らゆる法的手段を導入すべきだ」とし、移民・難民への厳しい対応に慎重なメルケル政権に圧力

かけた。バイエルン州は昨年秋の難民問題で、難民の約9割が入国経路として利用したドイツの窓
口」になった。元々カトリック系が強い地元では、イスラム教徒の流入に反発が広がった。難民へ
の銃使用を容認する新興右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」に、CSUの支持が流れる
など党内には不満がくすぶっていると、同新聞社は伝えている。


● 強欲と野蛮な社会からの決別

世界中を震撼させる、あるいは不安を煽る事件が連続し発生している。裏返せば、世界の差別と収
奪に苦しむ声なき声のすべての民衆の「強欲と野蛮な社会」からの決別を求める叫びのように、わ
たし(たち)には聴こえる。ここは細かい分析は避け「因果応報」(あるいは因果律)として、経済
的合
理性を押さえても安全を優先する時限的な交通・流通・通信・観光・交流・移動・取引に関わ
る国
際監視の厳重化(あるいは減速化)の反復を提案したい。あとは、米国・ロシア・中国・EU

などの大国の他国への侵略的干渉あるいは軍事行動を徹底して禁止(国際ルール違反による国連決
議による懲罰行動はこの限りでない)。そして「共生と贈与」による経済格差の国際的是正目標の
設定の、以上3つの項目について行動を起こすべきだと考えるが、これは"Listen to What the Men
Said
" ではなかろうか。ここでの"the Men "は「神々」でも「被抑圧民」と解してもよいが、何と
しても豆が坂を転げ落ちるように世界動乱に落ち込まぬようにと祈りたい。
 

 


    幸 運

   僕は九歳だった。

   僕は生まれてこのかたずっと酒と

   縁が切れなかった。友達連中も酒は飲んだが、

   彼らは酒に溺れたりはしなかった。

   僕らは煙草とビール、それに

   女の子を二人ばかり連れて

   砦(フォート)まで行った。

   僕らは馬鹿なことばかりした。

   たとえば酔っ払って気を失ったふりして

   女の子に自分の体を

   触らせてやったりしてね。

   女の子たちがズボンの中に

   手を入れてくるときにじっと横になって

   笑い出さないようにするのに

   苦労したものだ。あるいは彼女たち

   ごろんと仰向けになって

   目を閉じて、そして

   体じゅうを触らせてくれた。

   一度パーティーの最中に

   親父が小便しに裏のポーチに出てきた。

   レコード・プレイヤーの音楽に重なるように

   人々の声が聞こえた。

   彼らはみんな立ったまま

   飲んだり笑ったりしていた。

   親父は小便し終わると

   ジッパーを上げて、しばらく

   星でいっぱいの空を見上げた。夏の夜には

   空はいつも星だらけだった。

   それから家の中に戻っていった。

   女の子たちは家に戻らなくてはならなかった。

   僕は砦で仲良しの友達と

   一晩を過ごした。

   僕らは唇を重ね合わせ

   互いの体を触りあった。

   明け方になって星が光を

   失っていくのが見えた。

   家の芝生の上で女がひとり

   寝転んでいた。

   僕は女の服の中をのぞき、

   それからビールを飲み

   煙草を吸った。

   うんうん、こういうのが人生ってもの。

   家の中では誰かがマスタードの瓶に

   煙草を突っ込んで消してあった。

   僕はボトルからぐいと

   ストレートで口飲みし、それから

   生温くなったコリンズ・ミックスを飲んで

   またウィスキー。

   とまあ部屋から部屋をまわったのだが

   家には誰もいなかった。

   なんという幸運、と僕は思った。

   何年もたったあとでも

   そんな家のためなら僕は

   何だって投げ出しちやうぞと思っていた。

   友達だろうが愛だろうが夜空の星だろうが。

   中に誰もいなくて、誰も

   帰ってくる見込みがなくて、それでもって

   酒が飲み放題って家のためならば。


                                                   Luck

   I was nine years old.
   I had been around liquor
   all my life. My friends
   drank too, but they could handle it.
   We'd take cigarettes, beer,
   a couple of girls
   and go out to the fort.
   We'd act silly.
   Sometimes you'd pretend
   to pass out so the girls
   could examine you.
   They'd put their hands
   down your pants while
   you lay there trying
   not to laugh, or else
   they would lean back,
   close their eyes, and
   let you feel them all over.
   Once at a party my dad
   came to the back porch
   to take a leak.
   We could hear voices
   over the record player
   see people standing around
   laughing and drinking.
   When my dad finished
   he zipped up, stared a while
   at the starry sky--it was
   always starry then
   on summer nights--
   and went back inside.
   The girls had to go home.
   I slept all night in the fort
   with my best friend.
   We kissed on the lips
   and touched each other.
   I saw the stars fade
   toward morning.
   I saw a woman sleeping
   on our lawn.
   I looked up her dress,
   then I had a beer
   and a cigarette.
   Friends, I though this
   was living.
   Indoors, someone
   had put out a cigarette
   in a jar of mustard.
   I had a straight shot
   from the bottle, then
   a drink of warm collins mix,
   then another whisky.
   And though I went from room
   to room, no one was home.
   What luck, I thought.
   Years later,
   I still wanted to give up
   friends, love, starry skies,
   for a house where no one
   was home, no one coming back,
   and all I could drink.

【我が家の焚書顛末記 Ⅵ】 

レイモンド・カーヴァー全集第4巻『ファイアズ』でいよいよレイとはお別れだ。といっても、何
回かに渡り記載することになる。前回と同じような感想になるが、焚書の進捗が極端にスローダウ
ンしているため、ペースを上げる必要がある背景にある。
ところで、レイが生きていれば78歳だ
が、この詩篇を読む限り、アル中の疾病の中で苦闘する
する35歳前後に当たるが、エタノールと
煙草は突然変異誘起性嗜好品のトップとセンカダリー
で、しかも酒と煙草を一緒に経口・吸引する
ことの相乗効果を考えると彼の早折は宿命的であったのだろう。

さて、残片的で、時間に追われる作業を長時間――会社勤めより自由度はあるものの結局のところ
朝昼・休祭日なしで続けることを比較すると2倍ほどになっているとだと思うが、最近は夕食後の
作業はめっきり減っている。ホームページ更新1つ、調査研究作業1つ、ブログ更新2つ、そこに、
1、2のテーマをこなせば(これもいまは中断)、焚書作業が滞るのは必定。それでも、レイ(村
上春樹)の文書を読んで思索することで、普段の断面的な思索とは異なり、心静かに頭の中が整頓
されていくのがわかる。思索に疲れた旅人を、砂漠のオアシスで疲れを癒やし、
渇いた喉を潤して
くれる。

     解 題 
                                   村上 春樹

  この『ファイアズ(炎)』という本について個人的な思い出がある。これは僕がアメリカ
 に行ってレイ・カーヴァーに会ったときに、彼から直接貰った本なのだ。それは1984年
 の夏のことで、この本はその一年前に出版されたばかりだった。だから僕のこの本には、彼
 の例によってちまちまとした可愛らしい字でサインがしてある。彼が本にサイソする字の大
 きさは、僕が本にサインする字のだいたい四分の一くらいの大きさしかない。体のサイズは
 彼の方が圧倒的に大きいのだけれど。

  この本はもともとはキャプラ・プレスというカリフォルニアの小さな出版社から1983
 年の四月にソフト・カヴァーで出されたのだが、一年後にヴィソテージからやはりソフト・                                             
 カヴァーの版が出ている。そして1989年にヴィンテージ・コンテンポラリーズ・シリー 
 ズとして再出版されている。今回の訳出はすべて1989年のヴィンテージ版によった。作
 品に手を入れるのが何より好きなカーヴァーのことだから、版によっては多少の細かい違い
 がある。ここに収められたいくつかの作品を僕は以前に訳出したことがあるけれど、そのと 
 きのテキストは最初のキャプラ・プレス版によったものであった。

  ただし最初と二番目の版に含まれていた作者自身による「あとがき」の文章は、1989
 年の版では削られている。この全集では、少しでも多くの彼の文章を拾い上げるという趣旨
 から、このあとがきをとくに付け加えることにした。このあとがきのテキストはキャプラ版
 による。僕はキャプラ版を二種類持っているが(ときどきあまりにも版が多くて何が何だか
 わからなくなってしまう)、そのうちの二百部限定版ハード・カヴァーをテキストにした。

  この『ファイアズ(炎)』の特徴は、エッセイと詩と小説とがひとつの本に収まっている
 という点にある。詳しい経緯はカーヴァー自身の手によるあとがきに触れられているが、い
 わゆる落ち穂拾い的な内容と言ってもいいだろう。彼が比較的有名になってから書いた四篇
 のエッセイをまず巻頭に並べ、それから60年代後半から70年代に発表した詩を収めてい
 る。そのほとんどは、既に絶版になってしまった何冊かの彼の詩集から拾い上げたものであ
 る。そして最後には七篇の短篇小説が収められている。そのうちの三篇は『愛について語る
 とぎに我々の語ること』に収められたもののヴァージョソ違いであり(別の作品と言っても
 いいくらいに、かなり大幅に違っている)、『ハリーの死』と「雄子』の二篇はそれまでに
 どの短編集にも収録されていなかったものである。

  もちろん落ち穂拾いとは言っても、凝り性のカーヴァーのことだから、決して手は抜いて
 いない。読んでいただければわかるように、他の本に収め損ねたものを適当に集めて一冊の
 本にしましたというようなお手軽なものでは決してない。むしろ「この一冊でわかるポータ
 ブル・カーヴァー」というコピーをつけてもいいくらいの濃密な内容になっていると思う。
 僕自身も当時この本を読んで、そうかカーヴァーというのはこういう人だったのかと納得し
 た覚えがある。エッセイはどれも見事な出来だし(エッセイとはこういうものだという手本
 のようなエッセイである)、本書における詩の選択と配列はカーヴァーの詩の世界への格好
 の招待状のような役割を果たしている。短篇の内容に関してはあとで個々に述べるが、それ
 ぞれに興味深い小品が揃っている。カーヴァーの書く短篇はどんなものでも面白いと言って
 しまうと身も蓋もないけれど、とくにヴァージョン違いの三編については、『愛について語
 るときに我々の語ること』に収められたヴァージョンと読み比べると尽きない興味がある。

  何より大事なことは、この本に収められたヴァージョンの方がより新しい――つまりより
 成熟した――ヴァージョンであるということである。たとえばここに収められた『足もとに
 流れる深い川』(ロング・ヴァージョン)は『愛について……』に収められたショート・ヴ
 ァージョンよりずっと出来がいいと僕は考えている。未亡人のテス・ギャラガーの証言によ
 れば、これらの作品は編集者であるゴードン・リッシュの指示によって短組版に変えられた
 のだが、カーヴァー自身はオリジナルの長いヴァージョンに愛着をもっていて、それをもと
 により素晴らしい作品をしあげたということになるわけだ。(後略)
                           

  ● 今夜の一曲

 Listen to What the Man Said

「あの娘におせっかい」(Listen to What the Man Said)は、75年にポール・マッカートニー&ウ
イングス(Paul McCartney & Wings
が発表した楽曲、及び同曲を収録したシングル。タイトルを
直訳すると「あの男の言
う事に耳を傾けよう」。後年、酒井美羽が邦題と同名の漫画を出している。
この曲では、ギターにデイ
ヴ・メイソン、サックスにトム・スコットをゲストとして起用している。

 

Any time, any day
You can hear the people say,
But he wont mind, well, I don’t know
But I say love is kind
Soldier boy kisses girl
Leaves behind a tragic world
But he wont mind, he’s in love
And he says love is fine

Oh -- yes, indeed we know
That people will find a way to go
No matter what the man said
And love is fine for all we know
For all we know, our love will grow
-- that’s what the man said
So won’t you listen to what the man said

そう、実は皆も分かってるだろ
人は、皆、それぞれ行くべき道を見つけるのさ
何があろうともねって、神様が言うんだ
皆が知ってる通り、愛って素晴らしいだろ
そんで、育んで行くのさってね
そう、耳を傾けてごらん、神様の言う事に
どう?そう言ってるだろ

He said . . . . .

 

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大海無門の国際仲裁

2016年07月13日 | 時事書評

 

 

                       

                 現状のように「体制-反体制」の対立や左翼性が消滅した時代が続き、その都度の
            「イエス・ノー」が時代を動かすことになるんじゃないでしょうか。


                                            
                             Takaaki Yoshimoto 25 Nov, 1924 - 16 Mar, 2012 

 

Tribunal Rejects Beijing’s Claims in South China Sea July 12, 2016 The New York Times

【国際仲裁裁判:中国の南シナ海支配を認めず】

12日、南シナ海を巡り、フィリピンが申し立てた国際的な仲裁裁判で、裁判所は中国が主張する南シナ
海のほぼ全域に
わたる管轄権について、「中国が歴史的な権利を主張する法的な根拠はない」などと判断
し、中国の管轄権を全
面的否定。中国が南シナ海のほぼ全域の管轄権を主張しているのに対し、フィリピ
ンは「国際法に違反している」などとして33前、仲裁裁判を申し立て、国際法に基づく判断を求めてい
た。

オランダのハーグで審理を行った仲裁裁判所は、この中で、裁判所は、南シナ海に中国が独自に設定した
「九段線」と呼ばれる境界線の内側に「主権」や「管轄権」、それに「歴史的権利」があると主張してい
ることについて、(1)中国が、この海域や資源に対して歴史的に排他的な支配をしてきたという証拠は
ない
と指摘し、(2)九段線の内側の資源に対し中国が歴史的な権利を主張する法的な根拠はないと中国
側の主張を退け、(3)さらに、中国が最近行った大規模な埋め立てや人工島の造成は、仲裁手続き中に
紛争を悪化させたり、拡大させたりしないという義務に反すると判定し、南シナ海の問題を巡り、国際法
に基づく判断が初めてしまされた。仲裁裁判では原則として上訴することはできず、今回の判断が最終的
な結論となる。

中国政府は日本時間の12日夜、「南シナ海の領土主権と海洋権益に関する声明」で、中国人は南シナ海
で2000年以上の活動の歴史がある。中国は南シナ海の島々と周辺海域を最も早く発見して命名し、開
発していて、最も早く、持続的、平和的、かつ有効に主権と管轄権を行使し南シナ海の領土の主権と関連
する権益を確立したとし裁定を拒否。これに対し、
フィリピンのペルフェクト・ヤサイ外相は、「この画期的な判
断が南シナ海を巡る問題の解決に向けて重要な役割を果たすと確信していると述べた上、現在、判断の詳細につ
いて検討をしているが、関係者には、抑制的に、かつ落ち着いて対応するよう呼びかけているし、判断を歓迎する
一方で、中国に対する配慮もにじませる。

また、台湾の総統府は、12日夜、声明を発表し、今回の裁判の過程で、台湾が実効支配する太平島が「島」では
ないとして排他的経済水域を認めない判断意見は求められなかったとして手続きに不満を示し、絶対に受け入れ
られず、法的な拘束力はない」として、強く反発する一方、平等な協議を基礎に、関係国と共同で南シナ海の平和
と安定を促進することを願うとして、対話を通じて平和的に問題を解決すべきだとの立場も示した。

この裁定に岸田外務大臣は、日本は、海洋を巡る紛争の解決には法の支配と力や威圧ではなく平和的な手
段を用いることの重要性を一貫して主張してきた。当事国は、今回の仲裁判断に従う必要があり、日本と
しては、当事国がこの判断に従うことで、今後、南シナ海における紛争の平和的解決につながっていくこ
とを強く期待するとし裁定を歓迎した。

フィリピンと同様と中国と対立するベトナム外務省のレ・ハイ・ビン報道官のコメントを発表。裁判所が
最終的な判断を示したことを歓迎する」と述べベトナム政府として国際法に基づく判断が示されたことを
評価した上で、地域の平和と安定のため、南シナ海の問題が武力や脅迫ではなく、外交プロセスや法律な
ど平和的な手段で解決されることを強く支持することを表明している。

さらに、シンガポールの外務省は、小さな都市国家であるシンガポールとしては、法に基づいて秩序が維
持され、すべての国の権利が守られることを求めるとして慎重な表現をしながらも中国を念頭に今回の判
断を尊重するよう求め田植えで。すべての関係国に対し、法と外交的な手続きを尊重し域内での緊張を高
める行動を控えるよう求めると述べ、各国に、挑発的な行動を取らないよう呼びかけた。

一方、韓国は、公式の見解は発表せず静観。韓国としてはこれ以上、中国との関係が冷え込むことを避け
たい考えで、裁判所の判断にどのような立場を示すのか難しい判断を迫られている。

米政府は12日、仲裁判断は最終的かつ紛争当事国を法的に拘束するものと見なすべきであり、緊張を高
める理由にしてはならないとの見解を示す。アーネスト米大統領報道官は、判断を挑発行為に関与する機
会として用いないよう、すべての当事者に求めると呼びかけ、またこれに先立ち、国務省のカービー報道
官は、南シナ海における紛争の平和的解決という共通目標に大きく貢献するものとした上で、「米国はす
べての当事者がそれぞれの責務を順守するよう希望すると述べている。

アメリカの有力紙「ニューヨーク・タイムズ」の電子版は、今回の裁判は国際的な影響力を強める中国に
とって重要な岐路になる。周辺の国々は、中国との交渉のしかたについてモデルが示されるだろうと期待
していた。裁判所は中国の南シナ海での活動を非難する決断を下した。インドネシアなどの国々は、この
判断が中国の主張に疑問を投げかけ、自国の経済水域の保護につながることを望んでいると伝えた。

また、イギリスの公共放送BBCはオランダのハーグ、フィリピンのマニラ、それに中国の北京からそれ
ぞれ記者が中継を行い、関心の高さをうかがわせ、このうち、マニラの記者はフィリピンのヤサイ外相の
記者会見について、フィリピン政府の反応は控えめなものだった。ドゥテルテ大統領は裁判所の判断に対
する控えめな反応の見返りに、中国から投資の約束を取り付けようとしているという見方も出ていること
を指摘している。(NHK NEWS WEB 2016.07.15 18:16 など参考

以上、関係国の報道を俯瞰してみた。国際法を無視した国家行動により、中国政府は窮地に追い込まれ、
どのような反撃に出るのか要注視(主要注意Zhǔyào zhùyì)。



Beijing rejects tribunal's ruling in South China Sea case | World news | The Guardian July 12, 2016


----------------------------------------------------------------------------------------------
【参考:南シナ海仲裁判断、なぜ重要か】  ロイター 
2016.07.12 (抜粋)

2013年、フィリピンは、中国が国連海洋法条約(UNCLOS)に違反し、同条約で認められた200カイリの排他的
経済水域(EEZ)に含まれる南シナ海で開発を行う自国の権利が制限されているとして、仲裁裁判所に提訴した。 
中国は、フィリピンの提訴によって審理を進められることに対して繰り返し警告し、聴聞会への参加も拒否してきた。
裁判官を任命する権利も無視している。仲裁裁判所には権限がなく、南シナ海における中国の歴史的権利と主権
は、UNCLOSが定められるより以前から存在していると同国は主張。

UNCLOSは主権に関する問題は扱わないが、海上における行動のみならず、さまざまな地理的特徴から国が主
張できることを規定している。同条約は島嶼(しょ)や岩礁から12カイリを領海とし、ヒトが持続して居住可能な島か
ら200カイリをEEZと定めている。EEZは主権のある領海ではないが、同水域内において漁業や、石油、ガスなど
の海底資源を採取する権利は与えられる。

中国とフィリピンを含む167カ国がUNCLOSに署名している。米国はそのなかに含まれていないが、南シナ海に
おける海上パトロールなどにおいて、同条約を国際的な慣例法として認識している。

※  国連海洋法条約 Wikipedia
※  大洋に面した主な国連海洋法条約の非締結国としてアメリカ合衆国、トルコ、ペルー、ベネズエラが
  ある。

----------------------------------------------------------------------------------------------

 

    

【帝國のロングマーチ 16】     

      

● 折々の読書  『China 2049』36     

                                          秘密裏に遂行される「世界覇権100年戦略」 

 

ニクソン政権からオバマ政権にいたるまで、米国の対中政策の中心的な立場にいた著者マイケル・ピル
ズベリーが自分も今まで中国の巧みな情報戦略に騙されつづけてきたと認めたうえで、中国の知られざ
る秘密戦略「100年マラソン( The Hundred-Year Marathon )」の全貌を描いたもの。日本に関する言及
も随所にあり、これからの数十年先の世界情勢、日中関係そして、ビジネスや日常生活を見通すうえで、
職種や年齢を問わず興味をそそる内容となっている。 
     

 【目次】 

   序  章  希望的観測
 第1章 中国の夢
 第2章 争う国々
 第3章 アプローチしたのは中国
 第4章 ミスター・ホワイトとミズ・グリーン
 第5章 アメリカという巨大な悪魔
 第6章 中国のメッセージポリス
 第7章 殺手鍋(シャショウジィエン)
 第8章 資本主義者の欺瞞
 第9章 2049年の中国の世界秩序
 第10章 威嚇射撃
 第11章 戦国としてのアメリカ
 謝 辞
 解 説 ピルズベリー博士の警告を日本はどう受け止めるべきか

            森本敏(拓殖大学特任教授・元防衛大臣)   

 Chinese Killer Spear

   第7章 殺手鐗(シャショウジィエン)  

                   難知如陰、動如雷震
                   ――知り難きこと陰の如く、動くこと雷の震うが如し  

                                    『孫子』軍争篇 

  わたしが人民解放軍の資料や文書で見つけた、もう一つの重要な誤解は、中国が勢と時流を自国
 に有利な方向に傾けるために、「打撃増勢一を実行しようとしていること
だ。「打撃増勢」という
 言葉はしばしば中国軍の教科書に登場し、軍内部で議論されて
いるが、「力強く叩き、勢を高めよ」
 という意味である。近年の歴史で中国が武力を行
使したのは、領土を広げるためではなく、むしろ
 政治的な理由から、すなわち、心理
的ショックを与える、危機的状況をひっくり返す、あるいは既
 成事実を作り上げるた
めだった(注40),1950年の朝鮮戦争への介入(注41)、インド(19
 62年)、ソ
ビエト連邦(1969年)、ベトナム(1979年)への驚くべき攻撃に見られるよ
 う
に、中国の指導者は、軍事衝突では先制攻撃が結果を左右し、それによってより幅広い政治的討
 論(領土紛争など)の土台を築くことができると信じている。特に195
0年というアメリカの軍
 事力がはるかに勝っていた(核を独占し、鴨緑江を越えて北
へ進軍可能な10万の部隊、射程距離
 に迫る航空母艦を持っていた)時代に、朝鮮戦争
に介入し、英米を敵に回したことは正気の沙汰で
 はなかった。1950年当時の、中
国の指導者の計算は、軍事バランスの正当な評価に基づくもの
 ではなかったのだ。そ
して現在、米中間で軍嘔衝突が起きるとしたら、最も可能性が高いのは、中
 国の指導者の誤解と、「打撃増勢」をしても大規模な戦争に拡大することはないという計算による
 ものだろう。

     Thomas C. Schelling

  公に述べられることはめったにないが、中国を扱うアメリカの政策立案者と防衛専門家は揃って、
 中国の指導者に深く根づく疑念は米中のどちらも望まない戦争をもたらす、と考えている。199
 7年から2000年まで東アジア・太平洋問題担当の国務次官補代理を務めたスーザン・シャーク
 は、「台頭する中国との避けがたい衝突は、非常に現実味を帯ぴてきている」と警告する。それは、
 「発展し経済的に成功すればするほど、中国は不安と恐怖を募らせていく」からだ(注42)。台頭
  する中国へのアメリカのアプローチの仕方によって、「その責任感を強化することもできるが、逆
 に感情的な性質に火をつけることにもなる」と論じる(注43)。他の中国の専門家もこの見方を繰
 り返している。CIA分析官として長い経験をもつロバート・シュティンガーは中国上層部の政治
 的意思決定システムは「不透明で、風通しが悪く、信用できず、頑なに官僚的で、指導者の意向に
 おもねる傾向があり、その戦略思考は教条的である」と見る(注44)。



 「打撃増勢」を実行するために、人民解放軍は殺手蹟を必要としている。中国の官僚は軍部が殺手
  胴を開発していることについて、アメリカ人に話すのをひどく嫌がる。わたしが高位の軍事戦略家
 にそれについて尋ねたとき、彼は、そんな言葉が使われるはずがない、と言った。しかしわたしは、
 3冊の軍の本と、中国の現代の軍事戦略家による20扁以上の論文に目を通し、その断片的な記述
 をつなぎ合わせて、中国人が議諭し、すでに作っている殺手鐗の兵器の概要を描くことができた。

  殺手鐗は、それが破壊する兵器よりはるかに安価である。そして可能なかぎり秘密裏に開発され
 ている。戦時においては、敵が準備を整える前の、決定的瞬間に使用される。それが敵に与える影
 響は、混乱、衝撃、恐れ、そして圧倒されたという感覚だ。2002年に国防総省が議会に提出し
 た中国の軍事力に関する報告書にあるように、中国の戦略は「敵の軍事行動を指揮するハイテク能
 力を混乱させることにより、敵の軍事行動をスタートから妨害し遅延させる作戦と、大いなる脅威
 である敵のハイテク兵器の種類と場所を特定する作戦を含む」と強調する(注45)。

   昔話に語られる殺手鐗は一つの武器だったが、現代の殺手鐗は、非対称兵器全体を指す。中国空
 軍の上級大佐、ヤン・ジボは記す。「殺手鐗を作るには、中国はまず、開発プログラムを完成させ
 なければならない。それは困難な組織的プロセスであり、開発する新兵器は一つや二つではない。
 それはあらゆる軍務が利用するものだ。全軍で、あらゆる場所で使用される、陸、海、空混合シス
 テムである( 注46
)」

  Civil-Military Change in China

  中国の元首席、江沢民は、殺手綱の強力な推奨者で、中国がその計画に着手したのは、1990
 年代の彼の指示によるものだった。1999年、江沢民は軍の指導者に、「国の主権と安全を守る
 ために必要な殺手鐗を、可能な限り迅速に手に入れる必要がある」と語った(注47)。その年の後
 半に、江は、中国は「主権と安全を守るために、できるだけ速く、いくつかの新しい殺手鐗に習熟
 しなければならない」と繰り返したる」と語った(注48)。その年の後半に、江は、中国は「主権
 と安全を守るために、できるだけ速く、いくつかの新しい殺手鐗に習熟しなければならない」と繰
 り返した(注49)。また2002年には、「中国は大国として世界の覇者と戦うために、いくつか
 の殺手鐗兵器を作るべきだ」と述べた(注49)。そして、同じ年、台湾との紛争の可能性について
 論じる時に、「いくつかの殺手謂兵器を精力的に開発し、装備することが必要である」と言った
 (注50
)。その翌年、江は再び、「新しい殺手鐗は、われわれの国家の主権と安全を守るために必
 要だ」と強調した(注51)。あるアメリカ人の専門家は、北京にこの任務を遂行するための公式な
 オフィスがあると断言する。

  となると、疑問が浮かび上がる。江沢民はだれに対抗して中国の主権を守る必要があると考えて
 いたのだろうか。答えは、「世界の覇者と戦う」という言葉が示す通り、アメリカである。現代の
 軍事状況では、殺手鐗の構想はすべて、アメリカの弱点を突いて、アメリカを無力にする方法を見
 つけることに注がれている。中国の国防大学の外国軍事研究部門の長であるリ・ジユン少将が、ア
 メリカの軍事的弱点を詳述した64名の軍の著者による論文をまとめた書籍を出版したのはそのた
 めだ(注52)。その本の主題は、殺手鐗戦略をもってすればアメリカを敗ることができる、という
 ものだった。



  よく知られるアメリカの弱点の一つは、ハイテク情報システムに頼りすぎていることだ。そして
 世界において中国ほど、アメリカの軍、経済、情報、インフラに関わるコンピューター・システム
 の防御態勢と脆弱性の探究に熱心な国はない。米中経済・安全保障再検討委員会の委員を務めたラ
 リー・ウオーツェルによれば、「中国政府がアメリカに対して大規模なサイバー諜報活動を指示し、
 実行していることを示す強力な証拠があがっている(注53)」。中国は常に、そのような攻撃を否
 定するが、人民解放軍には16のスパイ活動部門があり、「サイバー・ペネトレーション(コンピ
 ューターの弱点の発見)、サイバー諜報活動、電子戦に専念している(注54)」。

12日、ワシントン・ポストは、オバマ政権が核兵器なき世界を目指す新たな核政策の検討に着手し、
択肢の中に核兵器の先制不使用を宣言することも含まれていると報じたが、これは勇気ある行動であ
る。
先回(「帝國のロングマーチ 15」)の反植民地主義(=ロシアマルクス主義遺制)
の過度な軍事戦略
の特徴を見てきたが、今回は米国の過剰な軍事行動のミラー(写像)的側面から考えてみた。そこに、オ
バマ大統領の「核兵器の先制不使用構想」と国際仲裁裁判の「中国の南シナ海支配を認めず」の情報が入
ってくる。仮に、後者の主張が米国議会で承認されれば、押し進めれている中国の「開発独裁」と「軍事
的覇権」の2つの政策は国際的に窮地に立たたされる。それでも強引に「ロングマーチ」をつづけるだろ
うが、それは、ロシアと同様に、巨大なドラゴンの後進性を世界に露わにするだけなのだが、どうする?



                                        この項つづく

  

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帝國のロングマーチ 15

2016年07月09日 | 時事書評

 

                       

          日本を含む先進資本主義国の今の課題は、いかにして、自国の民
                 衆や他国の民衆に対して国家を開いていくか、ということにある。                

   

                                            
                             Takaaki Yoshimoto 25 Nov, 1924 - 16 Mar, 2012 

 

 

 

    

【帝國のロングマーチ 15】     

      

● 折々の読書  『China 2049』35     

                                          秘密裏に遂行される「世界覇権100年戦略」      

ニクソン政権からオバマ政権にいたるまで、米国の対中政策の中心的な立場にいた著者マイケル・ピル
ズベリーが自分も今まで中国の巧みな情報戦略に騙されつづけてきたと認めたうえで、中国の知られざ
る秘密戦略「100年マラソン( The Hundred-Year Marathon )」の全貌を描いたもの。日本に関する言及
も随所にあり、これからの数十年先の世界情勢、日中関係そして、ビジネスや日常生活を見通すうえで、
職種や年齢を問わず興味をそそる内容となっている。 
    

 【目次】

   序  章  希望的観測
 第1章 中国の夢
 第2章 争う国々
 第3章 アプローチしたのは中国
 第4章 ミスター・ホワイトとミズ・グリーン
 第5章 アメリカという巨大な悪魔
 第6章 中国のメッセージポリス
 第7章 殺手鍋(シャショウジィエン)
 第8章 資本主義者の欺瞞
 第9章 2049年の中国の世界秩序
 第10章 威嚇射撃
 第11章 戦国としてのアメリカ
 謝 辞
 解 説 ピルズベリー博士の警告を日本はどう受け止めるべきか
     森本敏(拓殖大学特任教授・元防衛大臣)     

  

   第7章 殺手鐗(シャショウジィエン) 

                   難知如陰、動如雷震
                   ――知り難きこと陰の如く、動くこと雷の震うが如し 

                                    『孫子』軍争篇

  中国の殺手鐗計画は、アメリカでの諜報活動に支えられて進展してきた。2005年、FBIが
 嫌疑をかけていたタイ・ワンマクという男とその妻が、キャセイパシフ
ィック航空のロサンゼルス
 から香港へ向かう便に搭乗しようとした,しかしその9日
前に、FBI捜査官はタイが中国にいる
 諜報部員にかけた電話を録音していた。その
電話で彼は、「北米のレッド・フラワーが一緒だ」と
 言った。中国の諜報機関のコ
ード・ネームだ,FBI捜査官は、タイの弟が出したゴミの中から、
 びりびりに破い
た書類を発見した。タイの弟、チ・マクがレッド・フラワーだったのだ。チは、潜
 水
艦の無音推進システム、船内通信システム、最新の駆逐艦の能力など、米海軍の最新技術に関す
 る情報収集を命じられていた(注12),もしチがそれに成功していたら、大
いに殺手鐗計画の助け
 となったことだろう。

  Chi Mak Wikipedia

  アメリカはまた、中国の軍事力増強のパートナーを喜んで引き受けてもいた。わた
しが1980
 年代にアメリカ政府に承認を急がせた中国への武器輸出と技術譲渡は、
冷戦下では間違いなく意味
 があったが、その多くは今も続いている。
覇権国アメリカの自己満足を誘い、刺激するのを避ける
 ことのほかに、中国の戦略
が意図するのは、指導者層が恐れる、アメリカが仕掛ける脅威に応じる
 ことだ。多く
のアメリカ当局者は(わたしも含め)中国の指導者がどれほど深刻に、アメリカを
 脅威」と見なしているかを理解するのが遅かった。その影響を示す証拠が集まるにつ
れ、全員では
 ないものの多くの人が、中国に対してこれまでとは別の見方をするよう
になった。中国は従来型の
 戦力投射を増強するより、アメリカの脅威に対抗すること
にはるかに大きな関心を寄せていた。殺
 手鐗はこのアプローチの重要な構成要素である。

  
わたしは国防総省から、中国が脅威をどのように認識しているかを調査するよう命じられた。わ
 たしが発見したことの多くは、すぐには信じてもらえなかった。しか
し、わたしが中国の文書の中
 に発見し、「七つの恐怖]と名づけたものは、軍部と政府
の指導者の姿勢を反映したものと言える。
 というのも、「七つの恐怖{が記されていた
のは、もっぱら中国軍部の内部資料であり、それらの
 恐怖について文書に綴った者
は、民意を動かすつもりでそうしたわけではないからだ,それは、幅
 広く民意を動か
すために書かれたプロパガンダではなかった。

  確かに、中国の指導者が考えるように、アメリカは少なくともアブラハム・リンカーンの時代に
 は中国を支配しようとした。しかし、現在、中国の指導者は何を根拠に
アメリカが自国を狙ってい
 ると考えているのだろう。わたしは中国の有力な知人たち
に、このようなアメリカの大いなる陰謀
 の証拠と見なされているものを集めてほしい
と依頼した。彼らは軍部と民間の研究者数名から、一
 連の書籍と論文を入手した。こ
れらの資料と、2001年から2012年までの6回の訪中で自分
 が行ったインタビ
ューから、中国の指導者はアメリカが戦国時代の覇権国のような行動をとると考
 えて
いる、とわたしは結論づけた。それを知った当初はわたしも非論理的で奇妙だと思ったのだが、
  中国の指導者は、「ジョン・タイラーからビル・クリントンまでのアメリカ
大統領は戦国時代の格
  言を学び、それらの深遠な教えに従って中国の成長を邪魔しよ
うとしている」と主張していた。こ
  れは事実とは正反対だ。アメリカは長く中国の統
治を支援し、その経済の発展と、国際社会におけ
  る地位の確立を後押ししてきた(
13), 

  驚いたことに、わたしがまとめた報告書は信じがたい事実を裏づけていた。それは、かつてわた
 しや他の人が、たとえ中国で最高位にいた亡命者から聞かされても信
じようとしなかった事実だっ
 た。中国外務省出身の亡命者、陳優脆は中国政府の意思
決定に見られるいくつかの病的傾向を特定
 した。敵の行動に最悪の意図を読み取る
頑ななイデオロギーに縛られている、現実を見ようとしな
 い、である(注14)。そして
奇妙なことに、中国政府は、アメリカの戦略計画は中国を中心に据え
 ている、と考え
ていた。

 

  中国の七つの恐怖は、以下の通りだ

 【恐怖●】アメリカの戦争計画は中国を封鎖することだ

  戦略的な「行為者」の行動は、感情、文化、恐れといったその人の精神的な特性に左右される。
 中国はその長い海岸線が封鎖されることを恐れている。海岸に沿って一
連の島々が並んでいるせい
 で、より攻撃を受けやすいと感じるようだ(注15)。中国の
軍人の多くが恐れているのは、海岸線
 に沿って並ぶ日本からフィリピンまでの島々
に、外国軍が要塞を築き、やすやすと中国を封鎖する
 ことである(注16)。また、その
島々は、中国の船や潜水艦が外洋へ出るのを妨害する、天然の障
 害物のようにも見え
る(注17)。実際、かつて日本の海上幕僚長は、中国の潜水艦は日米の対潜水
  艦システ
ムに検知されることなく琉球諸島、台湾の北あるは南、あるいはバシー(ルソン)海峡を
 通って太平洋の深海へ潜入することはできないだろう、と豪語した(注18
)。中国の軍事書の作者
 はしばしば、この島々による封鎖を突破するための軍事演習や作戦策
定が必要だと説く(注19)。
 あるオペレーションズ・リサーチ分析は、封鎖を破るため
に中国の潜水艦が乗り越えなければなら
 ないむつの防御システムについて説明してい
る(注20)。その七つとは、アメリカが構築した対潜
 水艦ネット、水中音波システム、
機雷、水上戦闘艦、対潜機、潜水艦、偵察衛星からなる封鎖シス
 テムである(注21)。

The Sixteen Fears:China's Strategic Psychology Michael Pillsbury Oct 4, 2012



 【恐怖●】アメリカは他国による中国の海洋資源の強奪を支援している

  中国の軍事書の作者は、中国海軍が弱いせいで、領海内の貴重な資源が外国軍によって強奪され
 ており、中国の海洋開発の可能性を脅かしている、と主張する。その状況を改善するためにさまざ
 まな提案がなされている。国家安全部のシンクタンクの元研究員、張文木は、次のように述べる。
 「海軍は中国のシーパワーに、そしてシーパワ
ーは中国の将来の発展に関わりがある。わたしの見
 るところ、シーパワーが欠けてい
たら、国の発展は期待できない(注22)」。中国軍の雑誌『軍事
 経済研究』の2005
年の論文は、「中国の対外経済、外国との貿笥、海外市場はすべて、強力な
 軍隊という
後ろ盾を必要とする」と述べている(注23)。



 【恐怖●】アメリカは中国のシーレーンを妨害しようとしている

  多くの中国の著作物は中国のシーレーンの脆弱さに触れており、特に、石油輸送の生命線である
 マラッカ海峡に言及している,外洋海軍の増強を訴える人々は、中国の
エネルギー輸入が無防備で
 あることをその理由として挙げる(注24)。ある中国の研究
者は、アメリカ、日本、インドの艦隊
 は「中国の石油供給に、圧倒的なプレッシャ
ーをかけている」と述べるが(注25)、別の研究は「
  中国の石油輸送ルートを封鎖する
力と度胸があるのはアメリカだけだ」と結論づけている(注26)。
 同様に、中国人民解
放軍国防大学の教授が2002年に著した教科書、『戦役理論学習指南(戦闘
 理論研究
の手引き)』は、シーレーンヘの攻撃と防衛についていくつかのシナリオを挙げている
 注27)。同大学から出版されたこちらも重要な教科書、「戦役学(戦闘の科学)』の2
006年版
 も、シーレーンの防衛について論じている(注28)。緊急性を説く研究者も
いて、次のように述べ
 る。「海ヒ通商や石油輸送のルートが切断されるという問題につ
いて……中国は『雨が降る前に屋
 根を修理しなくてはならない(注29)』」。これらの主
張は、潜水艦中心の海軍から航空機を主軸
 とする海軍への移行を望んでいるようだ。



 【恐怖●】アメリカは中国の分断を狙っている

  中国は、軍内部だけで使用する訓練マニュアルにおいて、さまざまな侵略に対抗す
る戦闘計画を
 概説している(注30)。2005年に、中国人民解放軍国防大学、軍事科
学院、その他トップレベ
 ルの戦略シンクタンクの研究者が集結して行った影響力のあ
る研究は、中国のむつの軍区の脆弱性
 を評定し、さまざまな侵攻ルートについて検討
した(注31)。彼らはそれぞれの軍区の地形とこれ
 までの外国軍による侵略の頻度か
ら、陸からの侵略に対する脆弱性を予測し、さらには隣国を未来
 の侵略者と見なして
さえいる。最近の人民解放軍の再編は、陸上攻撃への対抗力を高めるのが目的
 のよう
だ(注32)。



 【恐怖●】アメリカは中国国内の反逆者を援助する

  ロシアとの国境沿いの三つの軍区には北京軍区も含まれるが、2005年の研究、「中国戦区軍
 事地理(中国の戦域の軍用地理学)」で言及されている通り、その3軍区
は装甲車での攻撃と空挺
 着陸(訳注*パラシュートでの着陸)に対して脆弱と見られている
注33)。2005年に内モン
  ゴル自治区で行われた軍事演習「北剣」は、戦車や装甲躯など2800台以上の軍用車輛を役人し
 た最大規模の機動演習だった。外国軍の支援を受けたテロリストヘの攻撃をシミュレートする装甲
 部隊も参加し、2000キロメートル超の空輸も行っている。中国政府のスポークスマンは、その
 演習は、外国の支援を受けた国内のテロリストを想定したものだと発表したが、その外国がアメリ
 カだとは明言しなかった(注34)。



 【恐怖●】アメリカは中国国内の暴動、内乱、テロを助長する

  台湾、チベット、新疆の「分裂分子」を外国が支援することに対して中国が声高に抗議するのは、
 お得意の誇張表現と見なされているが、そこには領土の完全性に関する根深い懸念が反映されてい
 る(注35)。党中央対外連絡部のある研究者は、分裂分子と法輪功学習者の活動による脅威 を、
 覇権国アメリカによる脅威に並ぶものと見なしている(注36)。



 【恐怖●】アメリカは航空母艦で攻撃を仕掛けてくる

  少なくとも10年にわたって、中国の軍事書の作者はアメリカの航空母艦による脅威を評定し、そ
 れらを阻止する最善の方法を探ってきた(注37)。オペレーションズーリサーチ分析は、中国軍は
 どうすればアメリカの航空母艦の脆弱さを突くことができるかを示唆しており(注38)、他の研究
  は中国が開発すべき特殊な兵器システムについて言及している(注39)。中国の地対空ミサイルは、
  この空母による攻撃への恐れの表れである。



「中国7つの恐怖」が掲載され、ロシアマルクス主義の強烈な「反植民地主義」の――例えば、「シー
ンを守れ」というスローガンは、戦後日本の保守政治委員(タカ派)が主張されたが、中国のそれは、
反植民地主義の裏返し考えれば極めて強固なもではないかと起想させる。そして、この過剰な思い込み
を解く作業の喫緊性、つまり、大規模な国家間戦争の「露呈」を意味する。戦後70年にして、戦争の
当事者として日本が開戦する事態が我々当時国家国民に迫る。戦争とという過剰過程に突入すれば後戻
りできなくなり、そして、大きな禍根を残すことになる。ここは、戦争を煽ることなく冷静に対処する
しかない。「いでよ!墨子」である。

  

                                                                              この項つづく

 

 

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東方賢者の選択 Ⅱ

2016年07月06日 | 時事書評

 

 

                       知ることは、超えることの前提である。

                      

                                            
                             Takaaki Yoshimoto 25 Nov, 1924 - 16 Mar, 2012 

 

● 愛犬に抗鬱剤を投与するって?!

愛犬のシェルが亡くなり5年が過ぎる。今でも抱き上げた感触は消えていない。不思議な存在だったん
だとksくにんする。ところが、ペットなどの小動物医薬品市場が、先進国の主要都市を中心として成長
――世界の動物用医薬品市場は、約 約2兆円($1=¥89:2010年)と推 計され、その中で日本市場は
約894
億円(世界の4.8%)を占める。因みに、世界の医薬品市場は、およそ 約77兆円、その中
で日本市場は約7兆円で、世界の8.8%――してきているが、精神が不安定な愛犬などに抗鬱薬を投与
することはいまや常識らしい。そんなことして問題ないのか?と、「彼女と彼女」の写真立てを眺め、
ふと素人の老婆心(下図ダブクリ参照)。
 

● 世界初、3次元物体表面に多層カーボンナノチューブを成長

5日、産業技術総合研究所の研究グループは、世界で初めて、大気中での簡単な表面処理により、カー
ボンナノチューブ成長に必要な触媒の担持層を成膜させ、複雑
な形状で大型の3次元物体の表面に、多
層カーボンナノチューブを成長させることに成功する。次世代光学機器用の遮光材
の開発や放射温度計
校正用の標準光源の高度化へ応用できると期待されている(下図参照)。図1を見ると、粒子ブラスト
処理後のタングステン基板に、多層カーボンナノチューブ成長させ、粒子ブラスト処理後、基板を加熱
炉に設置し、基板付近に置いた有機鉄化合物(フェロセン)の粉末が昇華して発生した鉄蒸気に曝して
触媒を担持。その後、アセチレンと窒素の雰囲気下に基板を置き加熱し、基板表面に多層カーボンナノ
チューブを成長させている。



 

上図の特許のように、高い放射率を有する光学部材は、例えば、望遠鏡、カメラ、測定機器、放熱部品、
黒体炉標準反射板、ヒーター等の幅広い用途に必要とされ、カーボンナノチューブ(CNT)やカーボン
ナノファイバー(CNF)のような繊維状かつ微細な構造を有する炭素物質膜を金属や炭素材料の表面に
成長させることで表面の放射率(吸収率)を1に近づける表面処理技術として、光学機器内部の乱反射
防止コーティング、放熱部材、黒体炉等の性能向上に大きく貢献できる技術である。これは面白い。

 

   

【帝國のロングマーチ 14】    

     

● 折々の読書  『China 2049』34    

                                          秘密裏に遂行される「世界覇権100年戦略」     

                                          マイケル・ピルズベリー 著
                                               野中香方子 訳     

ニクソン政権からオバマ政権にいたるまで、米国の対中政策の中心的な立場にいた著者マイケル・ピル
ズベリーが自分も今まで中国の巧みな情報戦略に騙されつづけてきたと認めたうえで、中国の知られざ
る秘密戦略「100年マラソン( The Hundred-Year Marathon )」の全貌を描いたもの。日本に関する言及
も随所にあり、これからの数十年先の世界情勢、日中関係そして、ビジネスや日常生活を見通すうえで、
職種や年齢を問わず興味をそそる内容となっている。 
     

 【目次】

   序  章  希望的観測
 第1章 中国の夢
 第2章 争う国々
 第3章 アプローチしたのは中国
 第4章 ミスター・ホワイトとミズ・グリーン
 第5章 アメリカという巨大な悪魔
 第6章 中国のメッセージポリス
 第7章 殺手鍋(シャショウジィエン)
 第8章 資本主義者の欺瞞
 第9章 2049年の中国の世界秩序
 第10章 威嚇射撃
 第11章 戦国としてのアメリカ
 謝 辞
 解 説 ピルズベリー博士の警告を日本はどう受け止めるべきか
     森本敏(拓殖大学特任教授・元防衛大臣)    

      

   第7章 殺手鐗(シャショウジィエン)

                   難知如陰、動如雷震
                   ――知り難きこと陰の如く、動くこと雷の震うが如し

                                    『孫子』軍争篇

  さらに調査を進めるうちに見えてきたのは、軍事に関わる文脈において殺手は、自国より強
 い国の急所をついて勝つための非対称兵器を指しているということだ。そ
の訪葉は何度も現れた
 が、最初のうちわたしはそれを、中国が夢想する技術や目標な
のだろうと考えていた。殺手鐗と
 いう言葉は曖昧なので、単に「進歩した」あるいは
「未来型の」兵器、という意味だろうと思っ
 ていた。わたしはさらに調査を進め、アメ
リカの情報アナリストにも殺手鐗の意味を尋ねた。殺
 手鐗は確かにさまざまな文献に
何度も登場していた。

  アメリカは戦争を軍事的手段という方向からしか見ていないが、孫子のような古代中国の思想
 家が説く、より幅広い戦略では情報、経済、法律が強調される。「明らか
に、戦争の概念を拡張
 しているのは、その手段の多様性だ」と、喬良と王湘穂は、議
論を招いた1999年の著書『超
 限戦』で述べている。

 「戦場はあなたのすぐ隣にあり、敵はあなたが使うネットワーク上にいる。火薬のにおいも血の
 においもしないが(中略)明らかに戦争は、兵士、軍隊、軍事的衝突を超越
しつつあり、次第に
 政治、科学、そして金融の問題になりつつある」
  
9・11テロ事件の2日後、このふたりの大佐は中国共産党の機関紙によるインタビューを受
 け、その攻撃は「中国にとって好都合一であり、アメリカが非従来型の攻撃に対して脆弱である
 ことが露呈した、と述べた(注6)。



  2000年、わたしはCIAのために殺手鐗に関する報告を書いた。1年後、CIA本部から
 電話がかかってきた。ディック・チェイニー副大統領と側近は、CIAの分析官から大統領と国
 家安全保障会議(NSC)に送られた最新の報告書に、殺手鐗という言葉が何度も出てくるのを
 見て、その背景と意味を知るために、わたしに連絡してきたのだ。側近は、わたしの報告を聞い
 て驚いた。しかしわたしは、中国による危険な武器輸出は今後減るだろうと予測し、殺手洞は願
 望にすぎず、現在、中国はそれを稼働できるわけではないし、積極的に開発しているわけでもな
 い、と言い添えた,チェイニーは、中国が衛星攻撃プログラム、対ステルスプログラム、あるい
 は空母キラーミサイルを持っているのかどうかを極秘衷に調べさせた。答えはすぐ見つかった。

  現在わたしは、殺手鐗が100年マラソンにおける軍事戦略の重要な要素だということを知っ
 ている。殺手鐗は、中国の軍事指導者がいつか作りたい、あるいは、作るだけの力を備えたいと
 夢想する、奇矯な兵器などではない。彼らはすでに数十億ドルを投じてそれを進めており、一世
 代のうちに西洋列強の従来型の軍備を圧倒する軍事力を備えようとしている。それも西洋に気づ
 かれないようじわじわとである。



  しかし、国力を高めようとする中国の指導者が追求するのは、ハイテクの兵器システムだけで
 はない。1986年3月に始まった中国の「高技術研究発展計画」(「863計画」とも呼ばれ
 る)は、科学と技術によって国防の遅れを埋め合わせようとする大きな試みだった。進行中の8
 63計画には、民間・軍事両用の技術(バイオ術、レーザー技術、新素材など)が含まれる。8
 63計画は、「自主創新」戦略の基盤ともなり、2006年に、「国家中長期科学技術発展計画
 (MLP、2005~2020年)」に組み込まれた,自主創新戦略は、外国のR&D資本、技
 術譲渡、外国の企業や研究機関での中国人エンジニアと科学者の育成を通して、軍事・民事の両
 方で活用できる技術力を高めようとするものだ

  近年、中国の指導者は863計画に投入する資金を大幅に増やし、その領域を広げている,M
 LPは、それまで中国が進めてきたなかで最も野心的な科学技術計画になった。電気通信、航空
 宇宙科学などの16の「国家的メガプロジェクト」が「最優先中の最優先事項]として発表された
 が、そのうちの三つは機密扱いになっている,MLPと863計画が民間・軍事両用を掲げてい
 ることは、中国の長期的軍事計画と民間の科学技術開発が、土台部分で結びつきつつあることを
 反映している(注7)。

 Michael Raska for The Diplomat Sep 03, 2013

  アメリカの中国強硬論者の多くは、外洋海軍の拡大、新型のステルス戦闘機、弾道ミサイルの
 増強などからなる中国軍の増強を大声で喧伝してきた。米中の戦争がすぐ間近に迫っているよう
 な口ぶりで、それは空と開かれた海で戦われる、と彼らは言う(注8)。しかし中国の行動は往
 々にして、このような主張と矛盾する。中国が(ヒトラーやスターリンに倣って)近隣諸国やよ
 り遠い国を、積極的に攻撃し、支配するために、大きな軍隊を作ろうとしているという予想を裏
 づける証拠は今のところ見つかっていない



  アメリカの戦力投射システムの要素には、前線に配備された大陸間弾道ミサイル(ICBM)
 と基地、戦闘機への燃料補給能力、核爆弾、長距離の軍隊輸送能力が含まれる。ソビエトはこの
 アメリカ流の戦力投射を真似ようとしたが、中国はそうしないことを決めた。なぜなら、早まっ
 てそのようなことをすれば、覇権国の怒りを買い、戦国時代の教えに背くことになるからだ。中
 国の指導者は知っていた。かつてソ連の軍拡がアメジカを警戒させ、第二次大戦中にスターリン
 が結んだ米ソの協力体制は打ち切られ、ソ連への投資や貿易は禁止され、ついには冷戦が始まっ
 ことを。中国政府はモスクワの轍を踏むまいと誓った。そんなことをすれば、マラソンはゴー
 ルに行き着かずに終わる。

  中国は、アメリカと競うために軍備を増強するどころか、長距離爆弾、陸上部隊、核を搭載し
 たICBMといった従来型の戦力投射手段への投資を、ほとんどかまったく増やしてしていない。
 むしろ大幅に削減している。一方で先進兵器への支出は、過去10年間で劇的に増えた。200
 2年にアメリカ国防総省が議会に提出した、「中国の軍事力に関する年次報告書」には大胆な主
 張が記されている。中国の防衛予算は、中国政府が公表している金額の2倍だったのだ。
 
  なぜ中国は軍事支出をそれほど大幅に偽ったのだろう。間違いなく、中国の指導者には戦略的
 意図があり、その着想は、古代の歴史に得たものだ。「中国は平和衷に隆盛しつつある」という
 イメージを維持するには、軍事支出や先進的な戦力への投資を秘密にしなければならない。近隣
 の国々や西洋諸国(とりわけ、覇権国アメリカ)に警戒心を抱かせ、軍拡競争が始まったりする
 ことは絶対に避ける必要がある。



Modernizing China's Military: Opportunities and Constraints Jun 1, 2005

  国防総省からの委託でランド研究所が行った研究によれば、2030年までの間に、中国は海
 軍、空軍の新兵器に1兆ドル以上を投入できるようになる(注9)。アメリカの状況はこれとは
 逆の方向に進んでいる。たとえば、米海軍の艦船は2050年までに250隻以下となり、その
 大半は沿岸地域での戦闘用の小型船だ。また米空軍はいまだに1970年代に開発された技術に
 頼っている。それを考慮すると、今世紀半ばまでに、中国の軍事力はアメリカに勝るか、少なく
 とも同等になると予測できる。未来の軍事カバランスは少しずつシフトしており、10対1のア
 メリカ優位から5対5になり、そして最終的には、中国が優位に立つ。2013年12月の米議
 会の証言で、今後30年間、斬たな軍艦の価格は上昇するが、米海軍の造船予算は毎年150億ド
 ル削減されるという見通しが報告された(注10)。アメリカが優位を保つ唯一のチャンスは、よ
 り優れた技術と、国防総省のエア・シー・バトル構想のような、殺手鐗
計画に対抗する手段を開
 発することだろう。エア・シー・バトルは、空軍と海軍の長所を生かして、航行の自由に異を唱
 える敵対国に対抗するものだ(注11)。
 

 
The China Fallacy: How the U.S. Can Benefit from China's Rise and Avoid Another Cold War:
Donald Gross: Bloomsbury Academic

今回は中国の覇権過程の再確認作業。

                                                           この項つづく

● 東方賢者の選択 Ⅱ

3年半で62カ国・地域──安倍晋三首相が外遊した数は、それを大きく引き離す。外交の活発さは第
2次以降
の安倍政権の特徴だ。なぜ安倍政権は外交に力を入れてきたのか。アメリカが「世界の警察官」
をやめる一方、
ロシア、中国は「力による現状変更」を打ち出していく。揺れる世界の中で、安倍外交
の1300日の成果が問われているが、いま、さまざまな、評価、予測、提言がなされているが「グラ
ンド・ストラテジー構築」には、精緻な解析の上、これまでの「常識を覆す大胆な発想」をもった練り
上げが必要とされる。非暴力(=いかなる集団による自由な意思の圧殺を認めない)による積極的平和
主義とこれ以上の経済格差拡大を認めず是正する積極的福祉主義社会の実現のためには、「共生と贈与」
の政策推進は不可欠であることをまず確認しておこう。「一人は世界のために/世界は一人のために」
(歌謡曲歌詞に似たような言葉があったけな?!)。

  ● 今夜の一曲

J・J・ジョンソン(James Louis Johnson, (Jan 22, 1924 – Feb 4, 2001)は、スウィングジャズ期末期からモ
ダン・ジャズ時代にかけて活躍したトロンボーンプレイヤー。モダンジャズのトロンボーン演奏といえ
ば彼を指すほどに著名な存在。スウィング・ジャズ時代の花形楽器トロンボーン、モダン・ジャズ時代
になるとあまり省みられなくなるその理由のひとつにトロンボーンの持つ構造的特徴にある。トロンボ
ンはトランペットやサックスのようにバルブやキーを操作することで音階を変化させるのではなく、
スライドを伸縮
させることによってそれを行うが、中間音(ハーフトーンやクォータートーン)を容易
に出せ、スライドトーンといった
表現できる。アンサンブルを重視するビッグバンド・ジャズにおいて
バンドや曲自体の性格を決定する「核」
の役割を担う。

しかしその後に訪れたビバップ時代は、スピード感あふれる素早い音の切り替えや高音域をカバーする
幅広い音
階を多用したアドリブプレイ重視となり、逆に欠点となって、ジャズ楽器の主流のから落ちて
いく。
J・J・ジョンソンは「トロンボーンのディジー・ガレスピー」の超絶的技巧で、この欠点を克服
し、モダン・ジャズのトップ・プレイヤーの地位を確立。同時に、以降の時代におけるトロンボーンの
ジャズ楽器としての可能性を示し、多くの後進たちに多大な影響を与えた。その高速フレージングは、
わざわざアルバムジャケットに「バルブトロンボーンに非ず」との注記まで付け加えられるほどであった。

 

 ● 今宵のカクテル

 Dirty Martini

                                               

 

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ニューヨークのバーチャル・パワープラント

2016年07月01日 | 時事書評

 

              市民社会のほうが国家や公よりも概念としては大きいんだ。

   

                                          
                              Takaaki Yoshimoto 25 Nov, 1924 - 16 Mar, 2012 

 

  

【住宅太陽光と蓄電池で「仮想発電所」構築】

● ニューヨークの大手電力が「クリーンで災害に強い」新サービス

米ニューヨーク州の大手電力会社 Consolidated Edison社は、1500万米ドルを投じ「仮想発電所(バーチャ
ルパワープラント:VPP)」のパイロットプログラムを開始すると発表。米SunPower社と米SunVerge
とのパートナーシップのもとで実施する(『3百軒分の住宅太陽光と蓄電池で「仮想発電所」を構築』日
経テクノロジー 2016.07.01)。同プログラムでは、ニューヨーク州の「エネルギービジョンの改革(REV
)」の一部で、同州ブルックリン市とクイーンズ市の家庭約3百戸に高効率太陽光発電システムと定置型
リチウムイオン蓄電池を設置し、Con Ed(Consolidated Edison社が「仮想発電所」として制御する。



Nation’s Largest Residential Solar Storage Project to Launch This Summer
 

ところで、「仮想発電所」とは、送配電系統の需給に合わせ、太陽光や蓄電池などの分散電源をあたかも
一つの発電所のように群制御することで、需給バランスを最適化する次世代型の電力ビジネスモデル。住
宅用の屋根置き太陽光発電は、米国、豪州など先進国を中心に普及が進む、一方で送配電系統への負担増、
電力料金負担の不均衡、煩雑な需給調整などの問題が生じる。こうした課題に対し電力会社や送配電系統
運用者、電力小売事業者などに向け、住宅用太陽光に蓄電システムを併設し、ソフトウェアによりて蓄電
池と太陽光発電を「群」として統合制御するサービスシステムを意味する。



Clean Virtual Power Plant

ニューヨークでは14年の1年間で過去の累計設置容量を上回る勢いで屋根置きの太陽光が設置。太陽光
の導入拡大は温室効果ガスの削減と大気質の改善に大きく貢献を目的とする。ただ、Con Ed社のサービス
管轄内は、太陽光発電による電力供給のピーク時間帯と電力需要のピークが異なり、夕方から夜にかけ、
化石燃料を燃やす火力発電に依存する。太陽光によるクリーンな電力を送配電網の貴重な資産として最大
かつ最適化するため、同社は、太陽光発電と蓄電池を「ペアリング」で、変動する太陽光の電力供給を平
滑化、さらに、需要に応じて供給(放電)させる。
このプログラムは今夏、スタートする予定。各家庭に
は、7~9キロワットのSunPower社製屋根置き太陽光発電システムと出力6キロワット・容量19.4キ
ロワット時の蓄電池が、同社を通じ導入される計画である。同社は太陽光発電システムの供給に加え、プ
ロジェクトのEPC(設計・調達・施工)事業者とし、顧客獲得、システム設置、運営、メインテナンスサ
ービスも受け持つ。



New York’s Con Ed Is Building a Virtual Power Plant From Sunverge Energy Storage and SunPower PV

さて、蓄電池の設置にあたり、参加者は頭金などの必要は一切なく、各家庭に設置導入される全ての蓄電
池はCon Ed社が購入・所有し、出力1.8メガワット・容量4メガワット時の蓄電池を一つにまとめた「ク
リーン仮想発電所」を構築。このことで、(1)電力会社が蓄電池の所有で、現時点で高額な蓄電池をよ
り早く市場導入できる。(2)さらに将来、「第3者所有モデル」(電力会社以外の民間企業による所有)
に展開する際の貴重なデータを収集できるという2つのメリットが見込まれる。つまり、パイロットプロ
グラムの最終ゴールは、(1)電力需要家が災害時でも使用できるクリーンなエネルギー源にどれだけの
価値を見出すのか、(2)一方で電力会社が「災害に強い」電力サービスを「いくら」で消費者に提供で
きるかを導出することにあり、これらがうまく噛み合うことで事業的に発展前提になるという。



Con Edison "Virtual Power Plant" Program Combines Solar and Storage to Improve Grid Resiliency

 

   

【帝國のロングマーチ 11】    

     

● 折々の読書  『China 2049』32    

                              秘密裏に遂行される「世界覇権100年戦略」     


                                           マイケル・ピルズベリー 著
                                                野中香方子 訳     

ニクソン政権からオバマ政権にいたるまで、米国の対中政策の中心的な立場にいた著者マイケル・ピル
ズベリーが自分も今まで中国の巧みな情報戦略に騙されつづけてきたと認めたうえで、中国の知られざ
る秘密戦略「100年マラソン( The Hundred-Year Marathon )」の全貌を描いたもの。日本に関する言及
も随所にあり、これからの数十年先の世界情勢、日中関係そして、ビジネスや日常生活を見通すうえで、
職種や年齢を問わず興味をそそる内容となっている。 
     

 【目次】

  序 章 希望的観測
 第1章 中国の夢
 第2章 争う国々
 第3章 アプローチしたのは中国
 第4章 ミスター・ホワイトとミズ・グリーン
 第5章 アメリカという巨大な悪魔
 第6章 中国のメッセージポリス
 第7章 殺手鍋(シャショウジィエン)
 第8章 資本主義者の欺瞞
 第9章 2049年の中国の世界秩序
 第10章 威嚇射撃
 第11章 戦国としてのアメリカ
 謝 辞
 解 説 ピルズベリー博士の警告を日本はどう受け止めるべきか
     森本敏(拓殖大学特任教授・元防衛大臣) 
   

      

    第6章 中国のメッセージポリス     

                                 樹上開花-樹上に花を開す

                                『兵法三十六計』第二十九計     

     中国批判者の処罰

  中国在住の外国人記者の多くは、発言、執筆、電話、Eメールのすべてが中国当局
に監脱されてい
 ることを察している(※中国に限らず、これは帝國主義的行動の基本特性である)。ニューヨーク・
 タイムズ、ウォール・ストリ
ート・ジャーナル、CNNは、中国政府にとって不快な情報を報じた後、
 中国政府に
よるサイバー攻撃の標的になった。2013年2月、ツイッターの発表によれば、その登
 録者のおよそ25万アカウントが、ニューヨーク・タイムズと 同じような形で、中
国からのサイバ
 ー攻撃の標的となった(注50)。

  2013年、中国にいる外国特派員の10パーセントが、彼らやその前任者のレポートのせいで、
 取材許可証の取得が難しくなったと報告した(注51)。中国は2009
年以降、ワシントン・ポスト
 北京支局長アンドルー・ヒギンズヘのビザを許可してい
ない。1991年、ヒギンズは中国の反体制
 者に関するレポートが賞賛された後、国
外追放に処せられ、以来、中国国内からの報道を許されてい
 ない(注52)。オンライン
新聞のクリスチャン・サイエンス・モニターは、ジャスミン革命と呼ばれ
 る2011
年の暴動の取材が厳しく取り締まられたことについて、次のように報じている。

   中国政府は外国人記者に接触し、その動乱について取材しないよう命じていた。
  いくつかの事例では、警察が記者の自宅を訪れて警告した。もし動乱の取材をすれば、その記者
  のビザは即刻取り消されるだろう。(記者のポールー)ムーニィが、あ
る出来事について報道し
  ないという、かつてない決断を下したのは、中国での自分
の地位に影響が及ぶと考えたからだった
  (注53)。

  ポール・ムーニィは18年にわたって中国を取材してきた記者だが、現在、彼もまた中国への入国
 を拒否されている。汚職、公害、中国のがん村やエイズ村といった問
題に焦点を絞った彼の報道が、
 中国当局を激怒させているのは間違いない(注54)。
ーニィ、それにアンドルー・ヒギンズやメリ
 ッサ・チャンを含む数名の外国の特派員
は、中国政府にとって不都合な報道をしたために、中国を強
 制退去させられるか、入
国を禁止されている(注55)。アルジャジーラ・イングリッシュの記者であ
  るチャン
は、2012年に国外追放の憂き目にあった。ワシントン・ポストが記したように、その他
  の多くの記者は「追放に脅えており、またビザの認可が大幅に遅れている者も
いる(注56)。



  ブルームバーグ・ニュースの複数の記者は、中国の反撃を恐れて記事を差し止めた上司たちを非難
 する(注57)。記者たちは、その状況を「ナチス配下のドイツ」に例え
た。その時代のドイツでは、
 外国の報道機関はドイツ国内での取材を続けるために自
己検閲を行っていた(注58)。中国でのイン
 ターネットの取り締まりはよく知られてお
り、また広範囲に及ぶ。ある意味それは、通信社のアジャ
 ンス・フランス・プレスが
記したように、「中国共産党は、世界最大級のデジタル帝国を運営してい
 る」と言える
(注59)。そのネットワーク、中国電信(チャイナ・テレコム)、中国聯合通信(チ
 イナ・ユニコム)、中国移動通信(チャイナ・モバイル)からなり、すべて国が運営
している。イン
 ターネットを監視するためにツールをインストールしようとする政府
の試みは、「中国のグレート・
 ファイアウオール」と総称される(注60)。中国当局は
国民の暗号化したコミュニケーションも、同
 様にブロックできる。「監視はソーシャ
ル・ネットワーク、チャットサービス、VoIPにも入り込んで
  いる(注61)」とされる。
 



Syria, China worst for online spying, RSF reports  March 12, 2013 

  政府の怒りを買ったブロガーは日常的に攻撃され、投獄されることさえある。この
ようにして、西
 側の記者が情報やメッセージを得る機会は奪われている。

  中国は西側の企業に、検閲への協力を強制している。2006年、優良ブランド保護委員会(QBP
  C
)トヨタ、アップル、ノキアなどの中国で操業する200以上の
多国籍企業を代表する委員会)か
 らそのメンバーに届いたEメールは、各社の従業員
がグレート・ファイアウオールを迂回して、国外
 の支社と連絡を取っていることを中
国当局が懸念しており、それを続ければ警察の捜査が入るかもし
 れない、と警告して
いた(注62)。

  アップルは、中国政府の要求を飲み、反中国的な内容を扱うテレビ局や海外の書店とユーザーをつ
 なぐアプリケーションを削除した。それまで数年にわたって交渉して
きた、中国移動通信でのiPhon
  売を実現するためだ。フランスの衛星通信事
業社、ユーテルサットはその衛星で、反中国のテレピ局、
 新唐入電視台の放送電波を
中継していたが、2005年にその接続を絶った。政府絡みの顧客を獲得
 するためだ
(注63)。電子証券取引所ナスダックも中国の圧力に屈している。次のレポートが明ら
 にしているとおりだ。

   2007年1月、中国での同社の代表(アメリカ人)は、国家秘密情報局より出頭を命じられ、
  ニューヨークのナスダックの本部オフィスから報道している新唐人
電睨台のスタッフについて、
  尋問を受けた。彼は同日に釈放されたが、圧力に屈し
て、ナスダック本部からの新唐入電視台の
  報道を「今後は許可しないと、中国当局
に誓約したらしい」。
   2007年2月、新唐入電視台の特派員は突然その建物から閉め出された。それまで1年以上、
  毎日のようにそこから報道していたのだが。予期せぬ心変わりの背
景には、中国政府の圧力が疑
  われたが、実際何が起きたのかは、2012年に機密
情報が漏洩するまでわからなかった。新唐
  入電撹台を追放した直後、ナスダックは
中国の正式な認可を受け、中国初の代理店をオープンし
  た(注64)。

  「アップル社とフォルクスワーゲンが最近中国で経験したトラブルは、世界企業にと
ってリスクが
 増大しつつあることを示している。急成長する中国経済に依存する彼ら
は、中国政府の頻繁に変わる
 規制に黙って従うしかない。外国企業の中には、国営メ
ディアから激しい攻撃を受けるようになった
 ものもある。別のケースでは、あからさ
まな贈賄を制限する贈賄防止策など、政府の規制や政策と衝
 突している(注65)」と
ウォール・ストリート・ジャーナルは2013年に報じた,
 「アメリカの大企業は、北京にオフィスを持っていたとしても、わたしたち(博訊)と関わりたくは
 ないだろう。中国は、(好ましくない海外の放送局やサイトヘの)出資
者を突き止めている,彼らに
 は電話がかかってくるだろう(注65)」と、中国のニュ
ースサイト博訊の創始者、孟維參は言う。博
 訊は人権侵害について定期的に報道し
ヨーロッパ連合に支持されている。
 
  世論の操作、好ましいメッセージを発信する者への報酬、耳障りな発言者への処罰
といった戦法は
 すべて、戦国時代の前例に基づいている。軍師が提言する、数十年に
わたって覇権国を傾かせていく
 戦略には、覇権国のタカ派とハト派の扱いが含まれ
る。もちろん、何にでも使える普遍的な方法はな
 いが、目的は常に、ライバル(覇権
国)の計画を打ち砕くことにある。本当の地政学的な状況をわか
 らなくするのが狙い
だ。もしライバルが先に勢を理解すれば、碁盤に石を置くことすらできなくなっ
 てし
まう(注67)。

                                       この項つづく
 

 

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HEY BULLDOG

2016年06月26日 | 時事書評

 

  
 

 

                                     少年院送りにすべきは親と学校の先生だ("酒鬼薔薇事件"をめぐって)

                                                                     『超「20世紀論」上 』  2000.09  アスキ-
                         

                                           
                              Takaaki Yoshimoto 25 Nov, 1924 - 16 Mar, 2012 

                 

 


スーパープレミアム   ザ・ビートルズ フェス!

【ビートルズ来日50周年】

NHKのBSプレミアム「来日50周年、ビートルズの軌跡をたどる」を録画し再生する。戦後、世界中の音楽・
カルチャーシーンに影響を与えた「ザ・ビートルズ」(あるいは、ジョージ・マーチン、ブライアン・エプスタ
イン)は、リバプールからロンドンを結ぶ英国に神が遣わした"天使"でもある。それほどまで彼らが奏でる音楽
の数々に世界中の若者達を熱狂させたカルチャーインパクトの"質量"を超えることはないと確信させる。細かな
ことを言えば、現在のメデイアテクノロジー(伝播手段)が格段に進化しても、いや正確に言えば、それを考慮
し、モーツァルトを代表する
クラッシック音楽などは社会構造を考慮し補正した上(蓄音機などのメディアなし
の口コミと)や人口などを含め補正した上で、62年から70年の8年間の"インパク質量"は最高水準だと考え
たが、そんことはどうでも良いこと。墨子にとっては「非楽」で不純でしかない。関係ないか、話は逸れた。



 

 Sheepdog, standing in the rain
  Bullfrog, doing it again
  Some kind of happiness is
  Measured out in miles
  What makes you think you're
  Something special when you smile

 Childlike no one understands
  Jackknife in your sweaty hands
  Some kind of innocence is
  Measured out in years
  You don't know what it's like
  To listen to your fears

 You can talk to ....   

 雨の中の 牧羊犬
 雨の中の 牛蛙
 幸福をマイルで量り
 そこで思うこと
 笑顔でいられる特別なこと

 だれもわからない子供のように
 汗まみれの手にジャックナイフ
 無知を時間で量り
 何ものかわからずに
 不安に苛まれる

 ※ リフレイン

 話してごらん...

 ヘイ、ブルドッグ...


                                           
Hey Bulldog” 
                                   Music&Word: Lennon-McCartneu 
                                         Produce:George Martin
 

この曲はレノン=マッカートニーの作品、69年1月に発表された英国盤公式オリジナル・アルバム『イエロー・
サブマリン』(ビートルズのアニメーション映画のサウンドトラックアルバム)に収録され、レコーディング中、
ポール・マッカートニーの即興的な犬が吠声を挿入されている。
もともと「Hey Bullfrog」と書かれていた歌詞が
曲の途中で「Hey Bulldog」へと変わりそのまま曲名になる。
この曲はレディ・マドンナ――レノン=マッカート
ニーの作品だが実質的にはマッカートニーの作った楽曲である。リードヴォーカルはポール・マッカートニー。
エルヴィス・プレスリーばりのバリトンで歌う。イントロのピアノは、56年の英国産ジャズの曲「Bad Penny
Blues
」(ハンフリー・リッテルトン(Humphrey Lyttelton)作曲・演奏)を引用されている――のプロモーションフ
ィルムを撮る最中に録音、しかし、ギターリフは『ラヴ』に収録されている「レディ・マドンナ」にも使われて
いるが、ポールが時間を節約のためにスタジオで曲作りもやるべきと提案し、既に構想中の2、3個のフレーズ
を曲に挿入した曲だとジョンレノンが話すほど即興性の強い曲である。ビートルズのエンジニア、ジェフ・エメ
リックがこの曲はメンバー全体が熱意を持って取り組んだ最後の曲だと述懐するように、メンバーの解散の遠縁
の作品として位置付ける。尚、楽曲の演奏構成は、ジョン・レノンが、リード・ヴォーカル, ピアノ、ポール・
マッカートニーが、ベース, バッキング(ハーモニー)・ヴォーカル, タンバリン、ジョージ・ハリスンは、 リ
ード・ギター、リンゴ・スターは、ドラムスを担当。

「来日50周年、ビートルズの軌跡をたどる」の出演者の森高千里がこの曲のドラムのリンゴスター演奏術の難
しさに気付かされたというエピソードやOKAMOTO'Sによるカバー演奏などに刺激され取り上げてみた。歌詞の訳は
第1曲目のみ。時空間で揺れ動き、葛藤する女性(あるいは男性)の心の救済(あるいは慈愛)として意訳する。

Lady Madonna

 

 

【投票する政党がない!】

24日、英国のEU離脱が国民投票できまったとたん、米国の次期大統領候補のドナルド・トランプ候補が、早
速、スコットランドのターンベリーでEUU離脱(ブレグジット)の賛否を問う国民投票で離脱派が勝利したこ
とを「素晴らしいことだ。イギリス国民は国を取り戻したと話す(「THE HUFFINGTON POST」2016.06.26)。
それによると彼は、国民の感情――(1)移民(ムスリム系)排除と(2)グローバリゼーションからの主権を
取り戻す――という2つの感情は、彼の考えがよく反映されて(一致)していると、また、「イギリスポンドの
貨幣価値が下がると自分のビジネスは儲かる」と自ら所有するゴルフ場で報道陣に語ったという。しかし、「経
済的混乱を理由にEU離脱支持者側に強い支持を示している。長期的に見ると、今回のEU離脱を支持する国民投
票が、多くの人が予想するようにイギリス国内の経済的低迷や失業率の停滞を引き起こせば、トランプは自らの
間違いに気がつくかもしれない」と同紙は付け加えている。
 



「不況と言われるゴルフ界」を救うのは、こういう人物かもしれない?!

しかし、トランプのこれまでのネットやテレビからの情報から判断すると、彼の見識や教養というものがいっこ
うに見えてこず、彼の「情報操作術」の巧みさ?と「強欲・傲慢」のイメージしか印象に残らず、彼には失礼だ
が「中国の文化大革命」での「頭が悪いが腕っぷしの強い」政治派閥の頭目としか映らず、要するに「無教養」
「アホ丸出し」。英米流金融資本主義+住宅資本主義(=グローバリズム)の双生児、つまるとことろ「トラン
次期大統領候補-共同体主義-孤立主義=強欲」という等式が即興で浮かぶのである(申し訳ないが。何か彼
の優れた見識があれば教えて欲しい)。確かに、オバマ大統領やIMF(世界銀行)、EUの理想主義の行き過
ぎた金融政策、市場万能主義、平和主義は混乱や抑圧を生んだが、全世界が最大級の動乱期に突入していること
を深く洞察すれば、唯一の外交政策は、孤立主義ではなく、「共生と贈与」を必要とする時代であることが理解
できるはず。「信頼を築くは難しく、不信は生じ易し」なのであろう。話は逸れた。参議院選挙、夏の陣。
 

 
正直に言えば、先回の衆議院選挙もそうだったのだが、投票すべき政党、候補者が決まらない。わたし(たち)
がこだわるのは次の7項目である。

1.二大政党制はどうする(二院制の参議院では優先度は低下するが)?
2.マニフェストの定着は?
3.政治資金規制法の改正は?
4.非暴力的平和政策の促進は?
5.失われた30年にしないための財政政策の推進は?
6.地方分権の促進は?
7.原発政策の国民投票の是非は?

1は、現行の小選挙区制を見直し野党が結束しないとどうにもならない。2は、民主党が消費税導入という約束
違反し、その後も増税・緊縮政策を続けていきている。3は、現政権は「反動」している以上、野党が結束しな
ければ果たせない。4は、国連による「刀狩り」政策の推進のための関連する「憲法と法律」の見直しと国民の
合意形成。5は、国債を「借金」とする見方を改め、「信用創造のツール」とする見方に変え、デフレ脱却を果
たす。6は、応益税の消費税を自治体に全面移譲し、逆累進性法人税を導入(安全と社会保障は応能税の所得税
と法人税
に特化)。7は、国民合意を前提として早期実施、これは野党が結束しなければ動かない。


蛇足(いや、特筆)だが、7は、エネルギー省を新設し「最終的には、再生エネルギー百パーセントをめざす」
機能的組織に改組、初代担当大臣は民間から公募、任命する。実現すれば、不肖このわたくしも応募する意思あ
り。応募資格は「チャレンジャーであること」を明記する。そこで、「独立・自主」の精神を加えて考えていく
と、消去法で2つの党の名前が残こる。さて、どうしようか。

                                               以上





  

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ジカとデングの共通の敵

2016年06月25日 | 時事書評

   

    

        借金を支払うために自分は小説家になったんだと公然と言っている文学者が出てきた。
        いわゆる文学なるものが重大な転換期に遭遇しているとしか僕には思えないんです


         

                                          
                              Takaaki Yoshimoto 25 Nov, 1924 - 16 Mar, 2012 

 

 

Dengue virus sero-cross-reactivity drives antibody-dependent enhancement of infection with zika virus

● ジカとデングの共通の敵を見つける


23日、欧州の研究チームが、ジカウイルスを攻撃する抗体を発見。脳損傷を引き起こすジカウイルスに対する
予防ワクチンの開発に向けた道を開く。同
研究チームによると、免疫系の抗体は、培養皿内のヒト細胞に感染し
たジカウイルスを「効果的に無力化」する。また、ジカウイルスと近縁のデングウイルスにも有効に作用する。
この発見は、ジカ熱とデング熱の両方の感染症に対する「万能ワクチンの開発につながる可能性がある」と研究
チームみている。
ジカウイルスを攻撃する分子は、デングウイルスに感染したことがある人々から採取され、デ
ング熱抗体として作られる。

  Zika virus

英科学誌ネイチャー(Nature)と英科学誌「ネイチャー・イムノロジー(Nature Immunology)」への共同執筆者
のフェリックス・レイは、この抗体は、ジカウイルスに感染する危険にさらされ妊婦を守るために利用できる可
能があると述べる。また、
今回の研究では、デングウイルスとジカウイルスは非常に近い近縁関係にあるため、
デングウイルス抗体の一部が、ジカウイルスをもかなり強力に無力化できるという予想外の成果があったと付け
加え、しかし、
実用的なワクチン完成には時間がかかりそうだとも。特に、臨床試験を実施するために、やるべ
きことがまだ数多くあることはその通りだろう。そもそも、
デングとジカは、どちらもネッタイシマカが媒介するウイ
ルス。ジカに有効な薬剤ないが、ブラジルの風土病のデングには有効なワクチンがあるといことが今回の知見に至った。
直近のリオ五輪開催までに間に合わないが、いずれ有効性が実証されるだろう。

● 韓国のフレキスブル1マイクロメートル化合物半導体太陽電池

鉛筆に巻き1付けられるほど薄くて曲げられる太陽電池を韓国の光州科学技術院の研究者が厚さ1マイクロメート
ルの太陽
電池を開発する。その製法は、薄型太陽電池をヒ化ガリウム半導体をフレキシブル基板上に直接印刷す
ることでセルを形成。170℃の温度で圧力をかけ、一時的にフォトレジストの表面の層を溶かして一時的な接
着剤とし、そこに電極を接着する。テスト結果では、従来の分厚い太陽電池と同等の発電効率を示すことができ
たという(「限界厚み」と定義できるかも)。さらに、曲げ具合としては、1.4ミリメートルの半径の円形のも
のを包み込める。この技術用途としては、薄型太陽電池の製品化が進み、メガネフレームなどにセルを形成する
ことで大きな電池が不要なスマートグラスなどが考えられる。

何度も記載するが、「ゼロ廃棄物工学システム」という環境条件を満たせば、すでに「オール太陽電池システム」
完成するそれも早期に可能だと言うことの1つとしてこの開発成果はウエルカムである。

Ultra-thin flexible GaAs photovoltaics in vertical forms printed on metal surfaces without interlayer adhesives



Last California Plant to Close as Nuclear Power Struggles

● PG&E:2025年までに原発を廃止

21日、米国カリフォルニア州のエネルギー事業大手であるPacific Gas & Electric(PG&E)社は、省エネルギー、
再生可能エネルギー、蓄電池への投資を州が義務付ける水準よりも増加させる一方、同社が保有する原子力発電

所を25年までに段階的に縮小、廃止することを公表。 PG&E社の発表は同州におけるエネルギーの情勢を反映
するものとし、労働や環境などの団体との共同提案される。同社はサンフランシスコやシリコンバレーなどカリ
フォルニア州北部をサービス供給地域としており、同州中部にあるサンルイスオビスポ(San Luis Obispo)郡ア
ビラ・ビーチ(Avila Beach)に原子炉2基を持つ「ディアブロ・キャニオン(Diablo Canyon)原子力発電所」を
保有、運営する。カリフォルニア州は全米でも環境に対する取り組みに極めて積極的な地域で、ディアブロ・キ
ャニオン原発の電力に対する必要性が大幅に減少するとの認識を示する。今回発表された共同提案の下、同社は
米原子力規制委員会(NRC)による運転許認可が失効する時点でディアブロ・キャニオン原発の運転を終了させ
ると見込まれる。同社によると、同原発の運転許認可は1号基が24年11月2日、2号基が25年8月26日
にそれぞれ失効する。同社と関係団体は、同原発を停止するまでの間に温室効果ガスを発生しないクリーンな電
源によって同原発を置き換えていくとする。

カルフォルニア州は日本と同様に活断層王国。当然といえば当然でしょう。



Diablo Canyon Power Plant



● フェンネルシードルパウダー日記

最近、定着しつつあるのが、納豆へふりかけること。納豆菌に絡め取られるのと同時に、納豆臭さが完全に消え
ねばねばは口に残るものの、清涼感が付加されこれはおすすめだ。勿論、醤油や麺つゆやマスタードを加えるの
だが、これは大正解だと思う。




   

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ビートルズ・ラブ・ソングス Ⅲ

2016年06月11日 | 時事書評

 

    


  


               踊りなんて、(誰も)見てくれなきゃ何の意味で踊ってるんだ、ということに
               なっちゃうんだけど、ほんとうに大切なのは、踊ってる人そのものです。
           

 

                                  

                                             Takaaki Yoshimoto 25 Nov, 1924 - 16 Mar, 2012  

  

 

【ビートルズ・ラブ・ソングス Ⅲ】

 ● エニー・タイム・アット・オール 

この極は64年に発表された英国盤公式オリジナル・アルバム『ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!』の
B面1曲目に収録された楽曲。レノン=マッカートニーの作。実質的にはジョン・レノンの作品。レコーディン
グに
入った時点では未完成であったためレコーディング中に完成されたという。冒頭の「バン」というドラム音
はリンゴ・
スターによる、スネア・ドラムとバス・ドラムを同時に叩き出した音が印象的な仕上がりとなり、続
くタイトル・コ
ールは最初にジョン・レノンが、続くリフレンはポール・マッカートニーが歌っている。ジョン・
レノンは後年、セカンドアルバム『ウィズ・ザ・ビートルズ』A面1曲目の「イット・ウォント・ビー・ロング」
に感化して作曲したと語っているという。米国盤『サムシング・ニュー』のモノラル盤ヴァージョンでは間奏の
ピアノが遅れてフェード・インしているとか(Wikipedia)。「どんな時も/どんな時も/どんな時だって/君が
するべきことは/電話だけ/そしたら僕は君の元へ行く/誰か屍すべき人が必要なら/ただ僕の目を見てみなよ
/そしたら僕は君の元へ/君を楽しませるよ/君が辛くて/悲しい気持ちなら/僕も本当に共感するだろう/悲
しんでねいで/今夜僕に電話してきてよ/太陽が霞んでしまっても/僕がそれを輝かせるよ・・・」と歌い世界
の女性たちを魅了していたっけ。 ^^;


The Beatles - "Something New" Full Album

 

 【おしまいの断片・考 Ⅱ】 

   ひとつくらい

   空か興奮の色に染まったその朝、一刻も早く机に向かいたくて

   早いうちから彼は目を覚ました。トーストと卵を食べ、煙草をふかし

   コーヒーを飲みながら、これからとりかかる仕事についてずっと考えていた。

   森を通り技ける険しい道のり。風が空の雲を

   吹き飛ばし、窓の外の彼にわずかに残った本の葉を

   ぱたぱたとふるわせた。彼らに残されているのはあと数日。

   数日ののちには、本の葉は消えてしまう。モこにはひとつの詩があるな、たぶん。

   そのことを考えてみなくては。彼は机の前に

   座り、長いあいだ迷っていたのだが、やがてひとつの

   決断をした。それは結局、その目に彼がなした

   もっとも重要な決断であった。彼の欠陥だらけの人生が彼のために用意した

   何ものか。彼は詩の収められた紙ばさみをわぎに押しやった。

   とくにその中のひとつの詩は、寝つかれぬ夜を過ごしたあとでも、彼の心をまだ

   しっかりとつかんでいたのだけれど(でも結局のところ、ひとつくらい増えても

   減っても、なんていうことないだろう。どうせまだしばらく日にちはかかる

   んだものな)。彼の前には手つかずの一日が広がっていた。

   まずは周辺を整理しておいた方がいいな。現実の用事をいくつか片づけて

   しまおう。長いあいだほったらかしにしていた家の雑用もすませて

   おこう。さあやるぞ。その日一日、彼は必死に働いた。

   そこには愛憎乱れる感情が入り込み、憐れみの心が少し(ほんの少し)あり、

   仲間意識があり、絶望と喜びさえあった。

   彼の人生の遥か彼方にいる人々とか、これまでに会ったこともなければ

   これから会うこともないであろう人々に向かって手紙を書いていると、

   そして「イエス」とか「ノオ」とか「ことと次第によって」とか返事をし

   許諾の、拒絶の理由をいちいち説明していると、時折憤怒の念が勢いよく
  
   燃え上がったが、それもやがてすうっと消えていった。こんなことって

   果たして大事なのかな? 何かそこに意味があるのかな?

   大事な場合もあるにはある。彼は電話を受け、電話をかけた。おかけで

   追加の電話をかける必要ができてしまった。誰々さんに電話をかけると、

   すみません今は話せないんです。明日こちらからかけますから、という答えが返ってきた。

   日が落ちる頃にはもうくたべた、一目かけてまっとうな労働に似た

   ようなことをしたという手応え(でももちろんそいつは錯覚)を感じつつ

   一服して目録を作り、もし物事をおろそかにしたくなかったなら、

   そしてもうこれ以上手紙を書きたくなかったら

   ――書きたくなかった――明朝かけなくてはならない

   二、三の電話をメモした。そうこうするうちに、

   やれやれこんなこともううんざりだな、と彼はふと思った。でもとにかく最後まで

   やっちまおう。数週間前から延ばし延ばしにしていた手紙の返事をひとつ

   書いてしまうのだ。それから彼はふと顔を上げた。外はもう暗い。

   風はやんだ。木々も――今ではもうしんとしている。木の葉はあらかた

   もぎとられてしまった。でもこれでようやく、一件落着。

   彼が目をそらしつづけている詩の紙ばさみをべつにすればという

   ことだが。彼はとうとう紙ばさみを引き出しに入れて、目につかない

   ようにする。うん、これでよし。引き出しの中なら安全だし、その気になれば

   すぐに取り出せる。すべては明日だ。今日できることは洗いざらいすませた。

   あと何人かに電話しなくちゃならないし、

   よくわからない誰かから電話がかかってくるはずだ。電話のおかけで

   短い手紙を何通が書くことになった。

   でもやれやれ、やっと片づいた。これでなんとか森の中からは技け出せた。

   お疲れさま。これで枕を高くして寝られるというものだ。

   やらなくてぱとずっと気になっていたことなのだ。彼の義務感は満たされる。

   彼は誰をも失望させなかった。

   でも整頓された机に向かっているそのときに

   朝のうち書こうとしていた詩の記憶がさわさわと

   彼の心を悩ませた。それにもうひとつそこには、置き去りに

   してしまった詩かあるのだ。

   大事なのはそいつじゃないか。それ以外のあれこれなんて実に

   取るにもたりないことだ。なのにこの男は一日じゅう電話でべらべら

   お喋りをしたり、阿呆な手紙を書いたりしていて、そのあいだ

   ずっと彼の詩は投げ出され、放りだされ、見捨てられ――

   それどころじゃない、試みられてさえいない。この男には詩なんてもったいないぞ。

   こんなやつに仮にも詩心と名のつくものが宿ってよいものか。

       この男の詩が、もしこれ以上この世に生み出されるとしたら、

   そんなもの鼠にでも食われてしかるべきだな。
                                    Once more

 

   イントロダクション


                                          テス・ギャラガー
                                           村上春樹 訳 

  チェーホフの文章をそこに加えるようにしようと我々はきめていた。チェーホフの小説は我々の精神のサ
 ヴァイヴァルにはあまりにも不可欠なものだったので、ちょうどミウォシュがホイットマソの詩を自分の本
 に入れたときのように、チェーホフは我々にとって共に進む仲間のように思えたのだ。あたかも、レイが終
 生チェーホフの作品を深く敬愛していたからこそ、その大胆なばかりの愛によって、彼の作品を取り上げる
 許可を勝ち得たかのようでもあった。

  ある夜に私はレイと二人で、ある作曲家がテレビでインタヴューされるのを見ていた。その作曲家はチャ
 イコフスキーがあるときベートーヴェンのいくつかの楽節をまるごと自分の作品に流用して使ったことを話
 した。そのことで誰かに詰問されたとき、チャイコフスキーは臆することなくこう言った。「私にはそうす
 る権利がある。私は彼を愛しているのだから」と。レイはそのやりとりをメモした。この「愛すればこそ権
 利がある」というくだりは、自分の作品とチェーホフをかくも大胆に結びつけてしまおうという彼の決定に
 大きな影響を及ぼしたと私は思っている。それらチェーホフのパッセージは、レイの詩を彼の短篇小説に結
 びつけることにもなった。

 彼の最後の短篇集はチェーホフに捧げられた『使い走り』という短篇で終わって
いるからだ。選ばれたチェ
 ーホフの文章は、レイの原稿の中に実にこのうえなく自然に落ち着いたように見
えた。それらは響きの上か
 らも、情感の上からも、それまでにレイが書いてきた詩にうまく調和を与え、ま
たそれを増幅させていた。
 折に触れてレイは、チェーホフの引用を通して、自分自身に向かって、また他者
に向かって、敗北に終わる
 しかない状況の中でがんばりつづけるという厳しい仕事を遂行するすべを伝える
ことを可能にしたり(『下
 流に』)、あるいは癌との持久戦において相手に取り込まれてしまわないために
自分の中にかくしとおすし
 かなかった恐怖の存在をはっきりと言葉にして認めることができた(『虫のしら
せ』『雀の夜』)。

  私のアレンジしたものを二人で検討して、本は最終的には六つのセクションに分かれることになった。本
 書の最初のセクションには、以前に出版された旧作が収められている。それらは、さまざまな理由によって、
 最近の作品と一緒に並ぶ機会のなかった一群の詩である。それによってレイは、ちょうど自分の作品にチェ
 ーホフの時代を持ち込み、根づかせたのと同じように、自らのかつての人生をもそこに運び入れたわけだ。
 そしておそらくそれらを想像力を介してとりこむことで、彼は双方の人生を変容させたのだろう。そういう
 点においては、ミウォシュの『到達されざる大地』の中の、彼がしるしをつけたパッセージがレイの密かな
 目的を説明しているかもしれない。


  カール・ヤスパースの弟子であるジャンヌが、私に自由の哲学というものを教えてくれた。それは今現
  在、今日なされているひとつの選択は、過去に向けて自らを投射し、我々の過去の行動を変化させるこ
  とになるのだと認識することによって成立している。


  詩であれ小説であれ、レイの書くものにはひとつの強い衝動がある。それは、いまだに心をかき立てる過
 去の光景や人物を再訪することであり、そこから解放されるとまではいわずとも、少なくともその状況の効
 果的な分析を引き出すことである。本書における初期の恋愛詩は暗い要素をうっすらとほのめかしているが、
 その要素はもっとあとの『奇跡』『不埓な鰻』あるいは『目覚めよ』といった作品においてより明確に現実
 化することになる。かつての詩や、『象』や『コンパートメント』に現れた抑圧するものとしての息子は、
 『私の息子の古い写真について』に再び現れる。その傷はいまだ生々しいが、それでも詩の最後には「もっ
 と先になれば、我々はうまくやっていけるさ」という回復の認知がある。『ささやかだけれど、役にたつこ
 と』で胸苦しいまでに追求された「死んだ子供」というテーマは、詩『レモネード』の中に再び現れてくる。
 その詩の中では、父親に言いつけられてレモネードの入った魔法瓶を取りにいった男の子が川で溺れて死ぬ
 ことになる。

  ふたつめのセクションでは、アイデンティティーの喪失を扱ったトマス・トランシュトレマーの『名前
 という詩に着想を得た一群の詩が紹介されている。おそらくこれらの詩はそれぞれの「疾患」によって、あ
 るいはまた荒らぶれたもの、異形なるものが吹き出し、我々をもう後戻りすることのできない不条理の領域
 へと運びこんでいくその方式によって、性格づけられることになるだろう。『親密さ』において言語的攻撃
 をかける女性は、『奇跡』において肉体的攻撃をかける女性に出会うことになる。彼の最初の結婚生活を扱
  った詩において、飲酒はあいかわらず崩壊の儀式に結びついている。そして彼はそれが引き起こした深い傷
  痕を、まるでつい昨日起こったことのようにひとつひとつ列挙した。

 

 I feel sleepy during the car and drive into the trees at the side of the road.
 Curl me in the back seat and sleep. How long? Hours. The darkness could fall.

 Suddenly I'm awake and do not recognize me. Wide awake, but it does not help.
 Where am I? Who am I? I'm something that wakes up in a rear seat, twisting
 around in panic as a cat in a sack. Who?

 At last my life back. My name is like an angel. Outside the walls blowing
  a trumpet (as in Leonorauvertyren) and saving steps will quickly quickly down
 the stairs too long. That's me! That's me!

 But impossible to forget the fifteen-second fight in oblivion hell, a few meters
  from the main road where traffic passes by with the lights turned on.
 

 

                      Tomas Tranströmer – "The name"



  第Ⅲ部に含まれた『キッチン』(これは『サマー・スティールヘッド』の世界を思い出させる)では、少
 年期のイノセソスが出し抜けに断ち切られることになる。『ちょうざめ』や『もうひとつのミステリー』の
 ような、わけのわからないものが、まったくわけのわからないままに放置されることになる詩もある。『サ
 スペンダー』におけるワーキング・クラスの家庭における暴力性は、農民たちの生活や、少年たちの感受性
 の破壊ぶりを扱ったチェーホフの文章に呼応している。

  第Ⅳ部の冒頭に収められた『一八八〇年、クラクフに戻る』においてミウォシュが問いかける回答困難な
 問いは――「勝ったり、負けたり、そんなことはノもし世界が私たちを結局 忘れてしまうのなら、いった
 い何だというのだ?」――記憶とは自分のそのまま委託された 作ものなのだという詩人の意識に、まっこ
 うから挑みかかる。そしていうまでもないことだが、自らの死に直面したレイの頭には、自分の書いたもの
 が肉体の死を超えて生き残ったときに、そこに含まれた自分の記憶も果たしてまた重要なものとして存続す
 るのだろうか、という自問もあった。ひとりの芸術家のオブセッションなりしるしなりは、たとえ断片的な
 ものであれ断続的なものであれ、それが誰か他の人間に必要とされているかどうかに関係なく、欠くことの
 できぬものとして存在するのだということを彼の詩は静かに示している。またそれと同時に『ひとつくらい
 とか『メモでふくらんだ彼のバスロトフのポケット』といった詩は、創作の持つ気まぐれな側面をユーモラ
 スに明かして見せる。そして何らかの意味のあるものはすべからく、このようないわば「盲撃ち」のプロセ
 スによって蓄積されていくのだというまさに驚嘆すべき事実を我々に知らしめてくれる。

 このセクションにはまた、レイと文学人 生との最初の触れ合いを散文体で記録したものが収められている。
 彼は配達係としてある家に荷物を届けにいくのだが、そこでひとりの老人から「ポエトリー」という雑誌を
 貰うことになる。『使い走り』と同じように、ここに描かれているのは、きわめて特別な物事を明るく照ら
 しだすごくありきたりの瞬間である。ひとつの手からひとりの若い青年、将来作家になる青年に手渡された
 一冊の雑誌は、詩を読んだり書いたりすることが立派な営みであると信じられているひとつの世界の存在を
 彼に教えることになる。それは彼にとっては驚き以外の何ものでもなかった。

  『不埓な鰻』における騎士道の時代と現代との併置は、これまでに『爰について語るときに我々の語るこ
 と』や、あるいはもっと最近の『フラックバード・パイ』においても我々が目にしてきたところのものであ
 る。このような対位法によって、現代の素材に新鮮なバーバリズムを纏わせることが可能になっているよう
 に見える。第V部の冒頭にあるローウェルからの引用(「しかし、何がおこったかを語ってもいいじゃない
 か」)の光の下で、我々はあかあかと容赦なくあばきたてられた「真実なるもの」の偏執的なマグネティズ
 ムを、その罠と暴力性を、しっかり覗き込むことになるのだ。

  同じセクションに収められた『夏の霧』は、レイがこの詩をちょっと読んでみてくれないかと私に手渡し
 たときにロにした言葉のために、私にとってはいっそう特別な意味を持つものとなっている。レイはそのと
 き私にこう言った。こんな事情のせいで僕には、君が僕のために今してくれていることのお返しを君に対し
 てしてあげられなくて、そのことについてはほんとうに済まないと思っているんだよ、と。「それで、僕は
 この詩の中でちょっとしたことを試してみたんだ」と彼は言った。「うまくいっているかどうか、自分では
 よくわからないんだけどね」彼がそこで試みたのは、やがてくるであろう私自身の孤独に対抗するひとつの
 贈り物として、私の死を想定し、彼がそのときに感じるであろう哀しみを想像することだった。この詩が書
 かれた時期には、彼自身の死が私たちニ人にとって――彼の詩の中の言葉を借りれば「途方もない哀しみ」
 となっていたのだという事実を考えれば、これはひとしお感動的である。


      の霧

   眠って、数時間のあいだすべてを忘れてしまうこと……
   七月の霧笛を耳にして目覚めること。
   重い心をいだいて窓の外に目をむけ、梨の本にかかった
   霧を見ること。交差点の流れを緩慢にし、まるで
   健康なからだを蝕んでいく病のようにあたり一帯をつつんでいる
   霧を。彼女が生きることをやめたあとも生きつづけること……
   ライトをつけた自動車がゆっくりと通りすぎていく。そして時計は
   五日前に逆戻りする。電話が何度も何度も鳴って、僕をこちらの世界につれ戻し、
   あの人の死のニュースを僕にもたらした。彼女は何気なく家を出ていった。
   マーケットで罷いっぱいのキイチゴを買って、その
   帰りを待っていたのに。(今日この目から僕はこれまでとは
   ちがった生きかたをするつもりだ。たとえばもう二度と、
   朝の五時にかかってきた電話に答えたりはすまい。でもわかってはいても、それでも
   やはり僕はつい受話器をとって、その運命的な言葉をロにしてしまったのだ、
    「もしもし」。これからはベルなんかずっと鳴らしっぱなしにしておくぞ)
   でもなにぱともあれ、僕はあの人の葬儀に出なくてはならない。今日、それも
   数時間のうちに葬儀がある。でも葬列がこの霧の中を墓地までのそのそと
   進んでいくというのは、なんだか空恐ろしいし、滑稽だ。町の人間はみんな
   どうせライトを対して運転するし、観光客だって……
   この霧が午後の三時までには消えてしまいますように!
   晴れあがった空の下であの人を葬ることができますように。陽光をなにより
   彼女ぱだいじにしていたのだから。だれだって知っている。この暗い仮面劇に
   あの人が加わっているのは、ただたんに選択権がなかったせいだということを。
   選択する力を彼女は失った! きっとそんなことに本人は我慢ならない
   はずだ! 四月にスイートピーを植えようと決意することを愛し、
   まだ蔓ののびる前からせっせと支柱の用意をしていた
   あの人には。


書くことと頭で了解することの間でこれほど手間取るというか、詳細まで深く理解することへの難しさを思い

知らされる。従って、このテーマを終えるまで相当時間が必要だと反省する。

                                          この項つづく                                    

   ● レイも愛した渓流釣り

● 舛添都知事のミカタ

女性って、枝葉末節になぜもこだわるのかなと思う。ご主人が亡くなられていくばくも経ずして生前の悪態を
突く
シーンにしばしば出会ってきた。今朝も、桝添都知事の不正出費疑惑について彼女は許されないと強い口
調でまくし立てるので、確かにそうだけれど、一通り弁明しているようだし許してあげたらどうなのだと言う
が彼女は?「聞いとらん!」。そんこともあり、ANNの『正義のミカタ』の放送でもこの問題を取り上げて
いた。某政治評論家が解説していたが、コメンテイターの高橋洋一嘉悦大学教授が、米国の政治家の支出科目
は、ネガティブ・ルールで禁止科目を決めており、それと適用すると違法となるが、日本では株投資の支出は
禁止されているが「違法」ではない。米国などの先進例を参考に政治資金規正法を改正すれば問題ない。改
に反対する政治家を選挙民がリーコールすれば良くなると指摘
。夏の参議院選挙は、野党がそろって国民に
案すればこの件は落着する
。これが正道であろう。

    


 

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おしまいの断片・考

2016年06月09日 | 時事書評

 

    

  

           世界的な作家といわれ、社会的な地位や発言力をもつことよりも、
           自分が接する家族と、文句なしに円満に気持ちよく生きられたら、
                    そのほうがはるかにいいことなのではないか、
                    そんなふうにぼくは思うのです。

 

                                  

                                             Takaaki Yoshimoto 25 Nov, 1924 - 16 Mar, 2012  

 

【おしまいの断片・考Ⅰ】




    プロポーズ


   私は彼女に申し入れ、それから彼女は私に申し入れる。我々はお互いの頼みを

   受け入れる。かけひきはない。十一年近く一緒に暮らしたから相手の胸の

   うちは痛いほどよくわかっている。のばしのばしにしてきたことも、ようやく

   機が然した。今なら筋が通る。我々は薔薇の咲き乱れた庭園にでも

   いるべきだ。あるいは少なくとも海に突き出した

   美しい崖の上にでも。しかし

   我々はカウチの上にいる。読みかけの本を膝に置いたまま、あるいは

   古いベティー・デイヴィスの映画

   妖艶な白黒画面の中で繰り広げられるのを前に(背景の暖炉では炎が

   まがまがしく踊り、彼女は可愛らしい銃身の短い回転拳銃を手に大理石の

   階段を登っていく。かつての愛人を消す

   ために。男にプレゼントされた毛皮のコートを彼女は肩にだらりと羽織っている。ああ

   美しき、生死をかけた関係。かくも世界で

   真実たること)、よくうとうと眠ってしまうその

   カウチに。

   数日前に、ちょっとしたことが判明した。

   自分たちのためにあると思い込んでいた将来の歳月がほんとうはないのだと

   いうことが。医者は最後には、私があとに残していくはずの「なきがら」の話

   まで持ち出した。我々が涙と暗濃の帳の中に入ってしまうのをなんとか

   防ごうとして。「でもこの人は自分の人生を愛しているんです」という声を

   私は聞いた。彼女の声。若い医者は間髪を入れずに応じる。「わかっています。

   あなたはこれからそういった七つの段階を通り技けねばなりません。しかし最後は

   受容に終わります」

   そのあとで、我々はこれまでに入ったことのないカフエでランチを

   食べた。彼女はパストラミを、私はス-プを注文した。たくさんの

   人々がそこでランチを食べていた。幸いなことに知った顔は

   見えなかった。我々は計画を立てなくてはならなかった。時間はまるで万力の

   ように我々を締めあげ、永続的なるもののために場所をあけさせるべくぐいぐいと

   希望をしぼりだしていた。フ氷続的」という言葉を思うと私は大声で叫びだしたく

   なった。「おい、ここにはエジプト人でもいるのか?」と。

   家に戻ると我々は互いにすがりあい、愁嘆場もなく

   誤魔化しもなく、その意味をとことん突き詰めることにした。こうなって

   しまったからには、隠し立てをするのは愚かだ。馬鹿げた無意味な

   ことだ。いったいどれくらいの人聞かここまでたどりつくのか? ふと私はそう

   思った。ここからお祝いまではそんなに

   遠い距離じゃない。みんなで集まって、それぞれの友達を達れてきて

   シャソペソやらペリエやらを

   回したりして。「リノだ」と私は言った。「リノに行って結婚しようぜ」

   リノではね、と私は彼女に言う、結婚

   再婚なんでもござれ、二十四時間営業、休みなしなんだよ。猶予期間なんて

   ゼロ。「誓います」「誓います」それでおしまい。牧師に

   十ドル余分に払ったら、たぶんどこかで

   立会人だって調達してきてくれる。彼女もその手の話は

   いっぱい聞いた。離婚したあと結婚指輪をトラッキー川に

   投げ捨てて、十分後には別の相手と手に手をとってしずしずと祭壇に

   向かうらしい。彼女だってこの前の結婚指輪をアイリッシュ海に投げ捨てたんじゃ

   なかったのか? でも彼女は賛成する。リノはまさにうってつけの

   場所。彼女は私がバースで買ってやった緑のコットソ・ドレスを持っている。

   それをクリーニングに出す。

   これで準備完了。まるで正しい解答をきっちり見つけたみたいな

   感じだ。希望というものが消滅したあとに

   何か残されるかという質問に対する解答を。フェルト張りテーブルの上を

   転がるさいころのくぐもった音、かたかたかたというルーレットの回転音、

   
スロット機械が夜の奥へとじゃらじゃら鳴り響き、そしてもうコ斐の、もう

   一度のチャンス。そして我々の予約したそのスイート。

                                       Proposal



   イントロダクション


                                          テス・ギャラガー
                                           村上春樹 訳 

  その途方に暮れてしまうような日々に、少しでも本の執筆に専念するためにも、私たちは肺癌の再発のこ
 とは一切誰にも言わないでおこうと決めた。訪問客の相手をしたり、あるい
は知合いのひとりひとりに涙な
 がらの別れの挨拶をしたりするよりは、自分たちがやりたい
物事に意識を集中させたかったのだ。我々がや
 ろうと決めたひとつは、一緒に住んだ11年
の日々を、6月17日にネバダ州リノで結婚式をあげて祝おう
 ということだった。レイが安ピカ式」と呼んだその結婚式は、市役所の筋向かいにあるハート・オブ・
リノ
 教会でおこなわれた。教会の窓には、金色の小さな電球をちりばめた巨大なハートが飾られていた。SHE
 HABA ESPANOL(スペイン語話します)という看板も出ていた。式のあとで我々はギャソブルを
 やりにカジノに行った。そこで私はルーレットをやり、なんということか三日間負け知らずで勝ちつづけた
 のである。

  家に戻るとレイは『フロポーズ』という詩を書いた。この詩はその時期の切迫性を如実に伝えている。そ
 れは邪念なしに生きられる人生の、あるいは人生を暫定的なもの以上に拡大するために我々が頼る希望とい
 うクッションを抜きに生きられる人生の、剥ぎ出しの感覚である。結婚したことによって、我々は新しい場
 所に錨をおろすことになった。まるで今日この日に大きな慰めを得るために、賢明にも、今の今までこの祝
 い事をずっと保留しておいたのだというように思えた。そしておそらくまた、まるでカフカが書くところの
 「陽気で無内容な旅」から得られるような、朧の底が技けてしまいそうな壮大な大笑いを、もう一度経験す
 るために。

  この時期にまた、レイは『GRAVY』を書いている。この詩のアイデアは二人でファソ・デ・フカ海峡
 に面するヴェランダに座って、来し方行く末についてあれこれ話をしているときに出てきた。「私に出会う
 前の、あなたがもう少しで死ぬところだったときのことを前に話してくれたわよね?」と私は彼に言った。
 「あのときにあなたが死んでいても不思議はなかったし、そうなっていたら、あなたに会うことだってかっ
 た。こういう何もかもが起こりはしなかったのよね」私たちは、自分たちが与えられたものにあらためて驚
 きつつ静かにそこに座っていた。「本当にこれはグレイヴィーだったね」とレイは言った。「まさにグレイ
 ヴィーだ」(「グレイヴィー」の意味については448ページを参照)

  レイが本書のために書きためてぎた詩の多くは、この前年(1987年)の夏の7月から8月の終わりに
 かけて草稿が書かれたものである。それからおおよそ1年後に、この6月に、完成した詩が十分な数たまっ
 たので、私がそれらの詩をいくつかのセクションに分類し、本のかたちにしていくことになった。私はそれ
 までもレイの詩集に関しては、あるいは彼の小説の多くに関しても、同じような作業をしていた。原稿の順
 番を決めるために私は、かなり原始的な方法を取る。すべてのページを居間の床にばらまき、四つんばいに
 なって部屋の中を追って読んでまわり、この作品の次にはどの作品がくればいいかと見当をつけていくので
 ある。直観と物語と情感によって、それは進められる。



元気なときは「死」を身近に考えることがあっても、入院しなければならないほど、調子が悪い、具合が悪い時
や、途轍もなく落ち込んだとしても、回復すれば、嘘のように遠離ってしまうが、死に至る病だと医者から告知
されればどうなるか、それをレイを通し考えてみたいと記載しはじめた。癌による死を考えながら「沈黙の20
16年」が頭を過ぎる。


                                           この項つづく

  US 8848273b2

Aberration-Free Ultrathin Flat Lenses and Axicons at Telecom Wavelengths
Based on Plasmonic Metasurfaces


【デグサマニーの返礼 Ⅰ:安価かつ環境に優しい共融系二次電池】



昨夜の「超薄膜レンズの衝撃-メタレンズ」の騒動は今朝も続くことになる。というのも、件の研究室での開発
の経緯について調べる必要があるが、やるべき作業が手つかずに放置されているのでそれに時間を当てるつもり
にいたが、産総研の「安価かつ環境に優しい共融系二次電池の開発」が目につき、結果こちらの作業を優先させ、
つぎに、メタレンズの知財調査、その後、残件(三次元プリンタでの試作)に移るということで、明後日に変更
する。

さて、「安価かつ環境に優しい共融系二次電池の開発」は、中国の研究グループと三菱自動車工業株式会社との
共同研究。2種類の固体物質を共融点組成で混合することで凝固温度が大幅に低下させ――三塩化鉄六水和物 と
尿素とを共融点組成で混合――液体化させこれを正極側の活物質に用い。正極側の電解液を別途必要とせず、ま
た固体で問題になる構造劣化が生じない点が利点となる。これを金属リチウムの負極と組み合わせると、電圧が
約3.4ボルト、正極側の体積容量(共融系液体の体積当たりの容量)141ミリアンペア/立方センチメートル
の二次電池として動作させ実験を行い、ほぼ理論通りの結果を得る。但し、3回目(3サイクル目)の充放電特
性測定結果、温度が高い場合は理論容量の97%まで放電電流量が得られたが、温度の低い場合は60%にとど
まりおり改善が必要であるという(下図参照)。


また、一定電流密度で、3時間放電と.3時間充電とを繰り返した充放電試験の最初の20サイクルの測定では、
下図(縦軸は充放電時の電池の電圧、横軸は時間経過を示し、黒線/25℃、赤線/40℃のように。電池容量
に比べ、ほぼ変化のない繰り返し特性が得られ、温度が低い場合の充電時(上側)と放電時(下側)の電圧差は、
が40℃より大きくなっており、上図と同様、この電池は温度の低い側に課題があることが見て取れる。ただし、
試作段階の電池としては繰り返しの充放電動作が安定しており、正極の活物質が液体であることの利点が現れて
いるものと期待している。


なぜ、注目したかというと、レアアースを使用することなく安価な三塩化鉄六水和物と尿素で電解液を使わない
ことと、三塩化鉄を過去に取り扱ってきたので興味を惹くことになる。大規模な太陽光発電システムには、この
ような「レドックスフロー電池」は、苛性ソーダ製造工程から大量に排出される塩素を利用することができるの
で有利だと考える。これは、「デクサマニーからヘーリオスへの返礼」の一つとして参考にさせてもらった次第。

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海遊館のイワトビペンギン

2016年06月07日 | 時事書評

    

  

            (何の職業であっても)自分の中の問答の行き来が豊富になって、
             自分の中にたまっていくことが、いちばん(大切)です。

 

 

                                        

                                Takaaki Yoshimoto 25 Nov, 1924 - 16 Mar, 2012  

              ※ これは二度目の掲載となる。

 

 

   イントロダクション


                                          テス・ギャラガー
                                           村上春樹 訳

  私たちが二人とも『六号室』のこのふたつの情景にこれほど激しく引かれたのば、おそらくそれがレイの病
 気のことで私たちがくぐり技けていた苦しい試練に直接結びついていたからだろう。それは二番目のパッセー
 ジにおいてより明確である。そこでは二人の登場人物(不満を抱いている医師と、年長者の横柄な郵便局長)
 がふとした成り行きで人の魂について討論することになる。

  「じゃあ、あなたは人間の魂の不滅性を信じてはおられんわけですな?」
  「信じてはおりませんとも、ミハイル・アヴェリヤーヌィチさん。そんなものを信じなくてはならない理
  由もありませんからね」

  「私もまあそれを疑わんではない」とミハイル・アヴェリヤーヌィチは認めた。「しかしこれでも、私は
  心の底でふと感じるんですよ。私は決して死んでしまったりはしないのだ
とね。『おレ爺さん、もう死に
  どぎだぞ』と誰かが言う。でも私は、自分の魂の中で小さ
な声がこう言うのが聞こえるんですな。『そん
  なことを信じてはいけない。お前は死には
しないんだ』とね」

  その一節を組みこむにあたって、レイは「行いとしてそこに残る言葉」の力を強調した。そこから「魂の中
 の小さな声」が生まれてくるのだと。彼はチェーホフのこの短篇の中で「生について、死について、さまざま
 な思いを放棄してしまっていた我々の姿勢が、見るからに脆くはあるけれど執拗な性質を持った信念に、思い
 がけなくも突然、道を譲りわたす様」を目にして、ほとんど感謝に近い思いを抱いているように見受けられる。
  私は私たち二人の生活にチェーホフを持ち込みつづけた。毎日朝いちばんに一篇の彼の小説を読み、朝食を
 取りに下に降りていったときに、その話をレイにして聞かせた。私はできるだけその語り口に忠実に話をした
 ので、レイは話にひきずりこまれないわけにはいかなかったし、結局午後には自分で本を開いて短篇を読む羽
 目になった。そして夕方までには私たちはその短篇について討論ができるようになっていた。



  レイが影響を受けたもうひとつの書物は、その年のはじめに彼が読んでいた、チェスワフ・ミウォシュの『
 到達されざる大地』であり、それは彼自身の本にふさわしいフォームと広がりについての彼の考え方に影響を
 与えはじめた。ミウォシュは彼が言うところの「より広い空間を持ったフォーム」のために、カサノヴァの『
 回顧録』の散文を引用し、ボードレールやら、彼の叔父であるオスカル・ミウォシュやパスカルやゲーテやら、
 その他彼が自分で詩を書いていく上で影響を受けた思想家や作家たちの書物から断片を引用し、編入した。

  彼はまた告白やら、問いかけやら、自己洞察やらのかたちを取った内省的思索を、本の中に取り入れていた。
 レイはそのようなミウォシュのアプローチの包括性にとても強く引かれていた。その他、レイがこの時期に読
 んでいた本としては、ガルシア・ロルカ、ヤロスラフ・サイフェルト、トマス・トラソシュトレマー、ローウ
 ェル、ミウォシュの『詩撰集』、トルストイの『イワソ・イリイチの死』の再読などがあげられる。これらの
 中から彼は完全なかたちでの詩をいくつか選び出し、私たちは後口それらをこの本の各セクションの冒頭に置
 くことにした。

  しかし六月の初めに、肺の中に癌細胞が再び発見されたという悪夢のようなニュースが伝えられたとき、自
 分たちの確固とした姿勢をたてなおすべく私たちがほとんど本能的に立ち戻った場所は、チェーホフだった
 ある夜、私は彼の短篇小説の自分でしるしをつけておいたいくつかのパッセージを読みかえしていて、それら
 がまるで当時レイが書いていた詩に向かって直接に語りかけているように見えることを発見した。私はその詩
 の書き直しを手伝い、それをコンピューターに清書する役をつとめていたのだ。ふとした衝動に駆られて、私
 はタイプライターに向かい、それらの抜粋部分を適当に改行して詩のかたちにし、タイトルをつけてみた。私
 がその結果をレイに見せたとき、我々はなんだかチェーホフの中に含まれていたもう一人のチェーホフを発見
 したような気持ちになった。でも私は頭の中にレイの書きかけの詩を置いてそれらのパッセージを見ていたわ
 けだから、むしろチェーホフの方が我々に向かってつかつかと歩み寄ってきたような感じもした

    彼はちゃんと自分の時代の中にとどまりながら、その一方で、まるで我々の同時代人と化してしまったみた
  いだった。吹雪の中での猛烈な馬車レースやら、にしんの頭のスープやら、牡牛の目玉を材料にした料理やら、
  野菜スープを作るためにカタバミを摘む料理人たちやら、酔っぱらいの親たちの汚らしい言葉を当たり前のも
  のとして育っている百姓の子供たちやらの世界――こういった世界はレイモソド・カーヴァーの世界とうまく
 馴染んでとけあった。城の中を見物してまわっている途中で首切り台の上に頭を置いてみて、連れの手刀を斧
 がわりに首筋に受けてみる男とか、酔っぱらった父親がかなりいかがわしい目的で見知らぬ女と台所に二人で
 いるところにばったり出くわす息子とか、ヘリコプターの金属ばさみで遥か樹上にまでつり上げられる溺死し
 た子供とか、そういった人々が登場するレイモソド・カーヴァーの世界とだ。

  ひとたびチェーホフの中に詩人を見出すと、レイは本に取り入れたいパッセージ(※文章の一節)を自分で
 マークして、それを自分でタイプするようになった。その結果生まれたのは、いねば韻文と散文の中間に位置
 するもので、これは我々をいたく喜ばせた。というのはレイの新しい詩のいくつかは、詩と短篇小説の境界線
 をかなり不明確な ものにしていたからだった。彼の短篇小説がしばしば演劇の、あるいは詩のやり方からパ
 ワーを獲得していたのとちょうど同じようにである。レイは彼の言語と思考のあいだの乖離を徹底して潰して
 いったので、その結果生じた手法の透明性は、破壊的な感じや、場ちがいの領域に踏み込んでしまったような
 違和然もなしに、各ジャンル間の区別を溶解させてしまうことになった。詩という形をとってはいても、物語
 は、詩的に強調された「いかにも」という語法や言語の使用を避けることができたし、その結果として物語の
 本来の力を損なうこ となく、のびやかに進行することができた。そしてまた、それは詩として構想されたこ
 とによって、物語ではありながらいつもとは違った種類の読者の注意を喚起することができたのである。 


                                           この項つづく

【帝國のロングマーチ Ⅷ】 

  

● 折々の読書  『China 2049』29    

                                  秘密裏に遂行される「世界覇権100年戦略」     


                                                    マイケル・ピルズベリー 著
                                                    野中香方子 訳   

 ニクソン政権からオバマ政権にいたるまで、米国の対中政策の中心的な立場にいた著者マイケル・ピルズベリーが
自分も今まで中国の巧みな情報戦略に騙されつづけてきたと認めたうえで、中国の知られざる秘密戦略「100年マ
ラソン( The Hundred-Year Marathon )」の全貌を描いたもの。日本に関する言及も随所にあり、これからの数十
年先の世界情勢、日中関係そして、ビジネスや日常生活を見通すうえで、職種や年齢を問わず興味をそそる内容と
なっている。 
   

 【目次】

  序 章 希望的観測
 第1章 中国の夢
 第2章 争う国々
 第3章 アプローチしたのは中国
 第4章 ミスター・ホワイトとミズ・グリーン
 第5章 アメリカという巨大な悪魔
 第6章 中国のメッセージポリス
 第7章 殺手鍋(シャショウジィエン)
 第8章 資本主義者の欺瞞
 第9章 2049年の中国の世界秩序
 第10章 威嚇射撃
 第11章 戦国としてのアメリカ
 謝 辞
 解 説 ピルズベリー博士の警告を日本はどう受け止めるべきか
     森本敏(拓殖大学特任教授・元防衛大臣)   

   

    第6章 中国のメッセージポリス    

                                   樹上開花-樹上に花を開す

                                  『兵法三十六計』第二十九計   

   彼女は、中国政府がいかにして国民の政策への批判を日常的に監視(そして抹殺)しているかを教えてく
 れた。特別なメッセージを考案する際にはタカ派とハト派の衝突がしばしば起きた、と彼女は言う。これは
 ホワイトがもたらした情報と一致した。ホワイトによると、1980年代、タカ派が共産党の宣伝局を掌握
 し、国内の聴衆に向けてアメリカをどれほど悪党として描くかをめぐってハト派と論争していたそうだ,彼
 らは海外の大使や中国の諜報機関からフィードバック情報を集め、一種のフィードバック・ループの中でメ
 ッセージを調整し直すようにしているという,

  ミズ・リーによると、その作戦には120億ドルの年間予算が充てられ、党の常務委員会によって運営さ
 れていた。メンバーは毎週、北京の密室で集まり、多くの時間を費やして、宣伝システムに流すメッセージ
 を作成した,そのシステムには、中国の新聞、テレビ番組、海外で出版された雑誌、それに、中国のインタ
 ーネットが含まれた。この作戦のもう一つの部門は、党の本部がある地区から道路を隔てたところを拠点と
 する秘密組織で、1000人以ヒのスタッフが働いていた。そこは「統一戦線工作部」と呼ばれ、独自に情
 報を収集し分析している。わたしは1999年にそこを訪れた。責任者はわたしに、当組織の関心は「国内」
 問題にある、と言った。当時のわたしたちは、その裏の意味を理解していなかったが、中国の指導者が直接
 管理するこの集団は、確実に「正しい」メッセージだけが、まずは国内へ、そして海外へと発信されるよう
 にしようとしているのだ,このことは、中国のプロパガンダの多くが、中国人にはわかるが、外国人にはわ
 からない奇妙な諺やスローガンを伴っている理由を説明するかもしれない。

  このプログラムの成果としてミズ・リーがまず挙げたのは、中国とアメリカとの貿易正常化と、中国の世
 界貿易機関(WTO)への正式加盟を決めた2000年の米議会投票への影響だった。いずれの決定も、中
 国経済を大いに後押しした。この件に関して中国の戦略は、国内でも国外でも、中国に社会主義経済を放棄
 するつもりはまったくないという情報を打ち消し、代わりに、中国のハト派の改革論者は自由市場への移行
 を望んでおりそれが成功しそうだ、とほのめかすことだった。疑い深いアメリカ議会を味方に引き入れるに
 は、どうしても必要な戦略だったのだろう。

  彼女が示した次の例は、ダライ・ラマのチベット帰還を巡る交渉で、ピル・クリントン大統領が圧力をか
 けようとするのを中国が回避したことだ。中国は、ダライ・ラマの政治的要求を誇張し、また、彼を「僧衣
 をまとったジャッカル」と呼ぶことで、宗教的指導者ではなく政治家なのだというイメージを強め、別の人
 間をチベットの指導者の地位に据えようとした(注14)。

  三つ目の例として彼女は、中国の人権活動家や、亡命した元上級官僚へのアメリカの支援を、中国政府が
 どのように妨害したかを詳しく語った。以上、三つの事例のうち、最も成功したのは、中国のWTO加盟を
 決める投票の操作だった、と彼女は言った。
  ミズ・リーの説明を聞いて、わたしたちは大いに驚いたが、アメリカ政府の内外には、中国がアメリカ議
 会とホワイトハウスに手を伸ばしていることを疑う者もいた。しかし、上院議員のフレッド・トンプソンと
 ジョン・グレンが率いた1996年の調査では、アメリカの政治プロセスに直接影響を及ぼそうとする中国
 の試みが明らかになった。「ザ・プラン」と呼ばれるその計画では、アメリカの選挙資金法を無視して、中
 国の現金が直接、親中派の選挙活動費に役人された(注15)。2000年3月、FBIとCIAによる、機
 密扱いでない議会宛ての報告書には、北京は「世界の中国観を……監撹し、それに影響を及ぼしている」と
 記されていた。その報告書によれば、中国は、「中国の利益に影響する国の動きと重要人物に関する情報」
 を集めようとしており、「アメリカの諜報機関への潜入を重要な目標としている(注16)」。ミズ・リーに
 よると、2000年までに中国は、アメリカの政治家への違法な選挙資金の提供をやめたそうだ。上院の調
  査を受けてのことだ。しかし、アメリカの政治を操ることをあきらめたわけではなく、別の合法的な方法を
  見つけたのである。中国のメディアやシンクタンクからワシントンにいる親中派に送られるメッセージを操
 作し、好ましくない思想を排除したり、国を警戒させそうな情報を流さないようにしたりするやり方だ。ミ
 ズ・リーの説明は、わたしたちが考えていたよりはるかに中国が有能であることを示していた,

  ミズ・リーによると、中国は何年もかけて、自分たちに都合のいいメッセージを発信する程度に応じて、
 外国の重要人物をさまざまなカテゴリに分類したそうだ。主要国の中国大使館は、これらの人々を追跡する
 ための「友愛委員会」をつくり、主な政治家、財田t指導者、メディアで影響力のある人物を評価し、「友
 好的」から「敵対的]までのランク付けをした。そして特に友好的な人物を中国の「親友一と呼んでいる。
 アメリカの「親友」のリストには、多くの学者、政府官僚と元政府官僚、それに両政党の国家安全政策アド
 バイザーが含まれている。

  ウィリアムC・トリプレットニ世は上院外交委員会の前顧問で、中国に関する2冊の本を共著し、アメリ
 カの親中派を表す「レッド・チーム」という新しい言葉をつくった,実際のところ、レッド・チームの大半
 は、人民解放軍の共産党的本質を理解できていないか、あえてそれを無視しているかのどちらかだ。レッド・
 チームに対抗するグループを、トリプレットは「ブルー・チーム」と名づけた。親中派とのイデオロギート
 の戦いに巻き込まれた人々である。当然ながら、レッド・チームというレッテルを貼られた人々は憤慨し、
 中国の傀儡であることを否定する。彼らは、中国政府は彼らにも、他の誰に対しても、嘘をついていないと
 断言する。

注14.  Chai Yuqiu,ed.,Moulue ku [A Storehouse of  Deceptive Strategy ](Guangxi: Guangxi Renmin Chubanshe, 1995),
           152

注15.Nick Mulvennev, “China to Meet Dalai Lama Aides amid Tibet Tension.”  Reuters, April 25, 2008, 以下のサ
          イトで入f可能。
           http://mg.co.za/article/2008-04-25-china-to-meet-dalai-lama-aides-amid-tibet-tension.

注16 Brian Duffy and Bob Woodward, “FBI Warned 6 on Hill About China Money,” Wαshinton Post,March 9. 1997,
           以下のサイ
トで人手可能。
           http://www.washingtonpost.com/wp-srv/politics/special/campfin/stories/cf030997.htm
                 


                                          この項つづく

 



【イタリアン野外料理: アサリとムール貝のトマト煮】

春になるとアサリは海水がぬるむと同時に、活発に活動を始めるので美味しくなる。殻が大きく重たいものを選び、
砂抜きは、海水と々温度、濃度の塩水(2~3%)漬す。あまり冷たいと殻が開けにくい。煮すぎると塩気が強く
なるので注意すること。火を通しても、殼の開かない貝は、無理に開けると砂がつまっていることがある。

● 材料(2人前):アサリ(殻付き)/400グラム、ムール貝/6個、白ワイン/50ミリリットル、トマト
  ソース/百ミリリットル、赤唐辛子/1本、水/50ミリリットル、レモン/半分、オリーブオイル/大さじ
  2杯、ニンニクなど香辛料は好みで
● 作り方:(1)フライパンにオリーヴオイルとつぶしたニンニク、赤唐辛子を入れ(A)、香りが出たら、アサ

  リ、ムール貝、白ワインを加え(B)、蒸し煮する。(2) 白ワインが煮つまってきたら水を足す。アサリの
  殼が開
きはじめたら、煮汁の塩味を確かめ、もし濃いようなら水を少し足す。(3)トマトソースを加え(C)
  レモンを絞り
(D)、ひと煮立ちさせてから皿に盛る。



「トレッキングと修景」を掲載しはじめたので、イタリアン・アウトドアクッキングの掲載を再開させる。国立公

園内での火気は禁止、もしくは、指定以外での使用は厳禁なので要細心。材料は原則2人分とする。また、ゴミは
持ち帰りを原則とする。

 ● 今夜の一品

Cole & Mason® Croft 6 Jar Herb & Spice Rack

あれから、しばらく、自家製のフェンネルシード・ローストパウダーの使い道を考えていたが、あるとき、口に
するものにすべ
て振りかけようと思いつき実践する。日本酒-これはお屠蘇であることに気付き、ビール-これ
は、似たもの同士でパットしない有意差なしに、ご飯以外の食事で口にする料理にはすべて振りかけるたが、す
べて効果ありであることがわかっる。面白いは、生ニンニクペーストにオリーブオイルを和え、そこにフェンネ
ルパウダーを加えると、ぎゅっと水飴状になることを発見する。理由?これから考えることにして、次に、テイ
ブルトップ・ハーブスパイス・ストッカーというかジャー物色し、英国はコール・エンド・メイソン社(願上写
真ダブクリック)に目をつけした。スパイス・ハーブの種類を増やしていき、時宜をみて取り寄せること決める
(この計画は彼女には内緒)。

  

● 世界初、ミナミイワトビペンギンの人工授精が成功か

大阪の海遊館では、絶滅のおそれがあり、人工孵化に取り組んでいたミナミイワトビペンギンのヒナが3羽かえ
った。人工授精によるヒナなら世界初の成功と期待されている。このサザン・ロックホッピング・ペンギンは、
4日~6日朝にかけて3羽かえり、8センチほどの大きさに成長。ミナミイワトビペンギンは国際自然保護連合
のレッドリストに指定されていて、海遊館では5年前から人工繁殖に取り組んできたす。今後DNA鑑定を行い、
もし、人工授精によるヒナとわかれば世界初。海遊館でミナミイワトビペンギンのヒナがかえるのは6年ぶりに
る。へぇ~そうなんだ、知らなかった。これで、大阪の子供たちは大喜びだし、入場者数や観光客数もぐっと
増えるかも。


Madagascar Penguins Best and funniest Team work

 

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マネーモンスター再考

2016年06月04日 | 時事書評

 

    

  

          僕が親としてダメだったことは、あります。これは本当にダメ親だという証拠です。うちの
     上の子がまだ小さいときです。子どもがちょっと反抗的なことを言ったのかもしれない──
     そのあたりは覚えていませんが、僕が、そばにあった時計を投げつけたらしいんです。僕は
     そんなことは覚えてないけど、うちの子の一生の恨みとして残っています。

 

                                        

                                Takaaki Yoshimoto 25 Nov, 1924 - 16 Mar, 2012  

 
先日、海上保安庁が行った南海トラフの海底地殻変動の実測データに基づく「ひずみ」の蓄積分布などの研究成
果が英国科学雑誌「Nature」電子版に掲載され話題になった。「週刊MEGA地震予測」にて海上保安庁の東日本
大震災後の日本海溝沿いの海底基準点の地殻変動図を掲載、今回は南海トラフ付近の海底の移動速度図を掲載。
それによると、海上保安庁の調査によると東日本大震災後から16年6月までの約4年間に蓄積した観測データ
を解析した結果、下図のような変動が見られました。 南海トラフの陸側の海底が西、北西及び西北西方向に年
間2~6センチメートル
の速度で動いている。一方、JESEAによる最新の陸の動きの解析をみる(上/右図)と
中国地方は東方向に約5年間で最大20センチメートル程度動いている。 四国の香川県でも東方向に最大13
センチメートル程度動いている。南海トラフに近い高知県の岬部は9センチメートル下、紀伊半島南端の岬部は
4センチメートル以下と数値は小さくなっており、 動く方向も内陸部の動きとほぼ正反対の北西方向に動いて
おり海底の動きと同じ方向に同期その境目(赤点線)にひずみが溜まっていると考えられ、また、これらの岬
部は他
の地域と異なり沈降傾向にあるという。

 

  ● 今夜の一曲

Off The Ground

   There must have been a lot of heartache
   For you to sink so low.
   You must have had a ton of pressure.
   Only answer if the answer's no.

   I need loving, you need loving too.
   Doesn't take a lot to get off the ground.

   There must have been a lot of magic
   When the world was born.
   Let me be the one you wish for,
   One you call for, when you're all alone.

   I need loving, you need loving too.
   Wouldn't take a lot to get off the ground.

   Off the ground, off the ground.
   Fly around, fly around.
   Hear the sound, hear the sound.
   Off the ground, off the ground.

   Though it takes a lot of power
   To make a big tree grow.
   It doesn't need a pot of knowledge,
   For a seed knows what a seed must know.

   You need loving, I need loving too.
   Doesn't take a lot to get off the ground.

   Off the ground, off the ground.
   Fly around, fly around.
   Hear the sound, hear the sound.
   Off the ground, off the ground.

   Hear the sound, hear the sound.
   Off the ground, off the ground.
   Yeah yeah, off the ground.

93年にポール・マッカートニーが発表したシングル。当初、この曲はフォークソング調の曲だったが、セッシ
ョンのキーボードプレイヤーであるポール・ウィックス・ウィッケンズが、コンピュータサウンドをベースにア
レンジされコンピュータ音楽にリメイクされる。
この曲のプロモーションビデオは、タイトル通り、ポールが空
を飛ぶシーンが映し出される。なお、この冒頭の短いギターソロは、「Soggy Noodle」というタイトルでアルバ
ム「ザ・コンプリート・ワークス」に収録される。歌詞というと、「距離を置いて」あるいは「最適化」を映像
化し、メイク・ラブの手解き風に"うまく行くさ!"と歌う。

 

Save Us   UK Exclusive

   I can try to give you everything you ever wanted
   You're not hard to please
   And the only thing I'm asking is return is something
   You can give with Ease

   Keep on sending your love
   In the heat of battle
   You've got something that'll save us
   Save us now

   I've got the feeling of a jungle rhythm beating in me
   When I'm close to you
   I don't really want to ask for many flavors
   But there's something you can do

   Keep on sending your love
   In the heat of battle
   You've got something that'll save us
   Save us now

   Ohhhhhh
   You're my woman
   Ohhhhhh
   Keep it coming
   You got something that can save us, save us, save us

   Keep on sending your love
   In the heat of battle
   You've got something that'll save us
   Save us now

セイヴ・アス(Save Us)は、13年にポール・マッカートニーが発表した楽曲。9月22日にラスベガスで行わ
れた「iHeart Radio Music Festival」にて、アルバム発売に先駆けて初披露、アウトゼアーツアーでは、11月の日
本公演より、ジュニアズ・ファームと入れ替わりになる形でセットリストに加えらる。 東京ドーム公演にてこの
曲が披露される様子は、NEW - ジャパン・ツアー・エディションのボーナス・DVDに収録されている。ドラム
はポール・エプワースが受け持ち、その他の楽器(ボーカル、コーラス、エレクトリックギター、ベース、ピア
ノ)は全てポールの演奏になる。


 



【リーマンショックの悪夢】

● 映画『マネーモンスター』6月10日全国公開

司会者リー・ゲイツの軽快なトークと財テク情報で高視聴率を稼いでいるTV番組「マネーモンスター」。生放送
中、番組ディレクターのパティはセットの陰に潜む不審者に気付く。しかし、銃声が突然鳴り響くと犯人はリー
を人質に取り、そのまま番組はジャックされてしまう。「マネーモンスター」で不正な株の情報操作が意図的に
行われ、全財産を失くしたと視聴者に訴える犯人。その原因は、数日前のオンエアでリーが発した情報だった。
犯人の主張に、リーは自分自身も誤情報を無自覚にタレ流していたことに気付かされる。一体何が起きているの
か!?ウォール街の闇に封じ込まれた情報操作を暴くため、リーは人質から共犯へと立場を逆転させる。一方で
警察の銃口は彼らに狙いを定めていた。事件の中継を通じて、徐々に見えてくる“真実”とは?その核心が暴か
れようとした時、彼らと全米の視聴者は決して知ってはならない“真実”――2008年のリーマン・ブラザー
ズが倒産するがこれをハリウッドが現代版ウォール街の欲望が絡んだスリリングな詐欺犯罪劇に凝縮し仕立て上
げる――
を知ることになり、金融工学駆使した英米流金融資本主義の過酷な収奪・疲弊した現実の米国社会では、
ドナルド・トランプとバーニー・サンダースが大統領予備選挙の善戦を際立たせる。しばし、館内で「マネーモ
ンスター」の再考も悪くないだろう。

 

尚、12年10月、本作の撮影が13年初頭から開始されると報じられるが製作スケジュール遅れ、主要撮影は
15年2月からニューヨークで開始、ウォール街での15日間にわたる撮影が始まる。今年年5月13日、全米
3104館で公開され公開初週末に1478万ドルを稼ぎ出し、週末興行収入ランキング初登場3位を記録。日
本では10日から全国公開される。

 Caitriona Balfe as Diane Leicester

 

※ ボルダリングが盛んになっている。「ナショトレ」もオプションに入れたいものだ。

【トレッキングと修景 Ⅶ】

● 命のバックパック

「ナショトレ」を考えついてもう1年ほど立つが事業としてどれほどの費用が必要かざっくり計算、初期投資整
備拡充費用込みで5年で年間3650人・日/年として約5億円、5年以降は5千万円以下(5年目以
降年間
1825人・日/年以下)とはじく。
常時選任者は、事業スタート3年から「森林公園管理士」の資格取得を義
務付け、森林
組合、自治体などの関連団体と時宜をえ協議し、防災・景観整備を行い、付加価値などの見積試算・
事業影響評価を行い、付加価値がプラスになれば滋賀県の国土資産価値上昇に貢献できる。



それはさておき、今夜は「バックバック」を考えてみよう。アウトドアギアのなかでバックバックは重要アイテ
ム。もっとも滋賀は山岳環境に恵まれ、車でのピストン登山、あるいは公共交通機関を利用し簡単にトレッキン
グが楽しめるので、バックパックは軽量軽装で可能(実は可愛らしいリックを愛用しているショト。トレッキン
グポール二本差し込こみ、家で準備したお結び二個との再利用のペトルポットにほうじ茶を入れ、あとは常携ア
イテムを詰め込み、切り替えればハイキング感覚でトレッキングを楽しむことができ、朝7時に家をでて、午後
3時には帰宅できるコースが沢山あるから面白い。 



パックパックのサイズは、「容量(=リットル)」で表示。どれほどの容量が必要なのか?テント泊、小屋泊、
帰りと、トレッキングの種類と日程により、持っていく道具と食料の量と重さは、大きく変わる。テント泊に
必要
なバックバックの容量は、およそ50~70リットル。小屋泊で30~50リットル、日帰りなら15~30リッ
トル
で充分だろう。寒い時期はポリュームのある防寒兼や保温ボトルなども持つため、若干大きめのほうが使いや
すい。容量の次に、自分の体に合うかどうか確認点検する。フィットしないバックバックは、トレッキングをツラ
くし疲労させる。また、使い勝手を大きく左右する細かい点見逃せない。荷物の山し入れの方法、小物を入れるポ
ケットの大きさや付けられ方などは大切。ストラップの非常用の笛、入りきらない荷物を取り付けるコードなど、
数多い。大型タイプほど細かな工夫が多く、そのためにバックパック自体が重くなることがある。無意味に重いバ
ックパックにするのはさける。自分にとって使いやすいタイプをじっくり考えて購入する。

また、デザインがよくても肩が痛かったり、どこも痛まなくても野暮ったかったりと、どこかしっくしないこと
があ
る。文句のないバックパックは過積載で背負っても、体のどの部分も痛まなくいつまでも歩いていける。し
かしこれが
ほかの人の体には合うかどうかは保証できない。

● ナショトレ・ワンポイントテク


さまざまな体型の人や使い方に合わせるため、ハーネスなどのストラブブは長めに付けられている。しかし、一
度自分の体に合わせ、使い方にも憎れてきたら.余分になっている長さがわかってくる。必要以上の長さは切り
落とそう。なかでもトッブスタビライザーやショルダーハーネスのストラップは強風にあおられる顔面へ打ちつ
け、ひどい場合はミミズ簾れになる。切り取った後はライターの火であぷり、繊維の毛羽立ちを溶かして固める
とそれ以上ほつれないようにしておこう。


 

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