極東極楽 ごくとうごくらく

豊饒なセカンドライフを求め大還暦までの旅日記

帝國のロングマーチ 15

2016年07月09日 | 時事書評

 

                       

          日本を含む先進資本主義国の今の課題は、いかにして、自国の民
                 衆や他国の民衆に対して国家を開いていくか、ということにある。                

   

                                            
                             Takaaki Yoshimoto 25 Nov, 1924 - 16 Mar, 2012 

 

 

 

    

【帝國のロングマーチ 15】     

      

● 折々の読書  『China 2049』35     

                                          秘密裏に遂行される「世界覇権100年戦略」      

ニクソン政権からオバマ政権にいたるまで、米国の対中政策の中心的な立場にいた著者マイケル・ピル
ズベリーが自分も今まで中国の巧みな情報戦略に騙されつづけてきたと認めたうえで、中国の知られざ
る秘密戦略「100年マラソン( The Hundred-Year Marathon )」の全貌を描いたもの。日本に関する言及
も随所にあり、これからの数十年先の世界情勢、日中関係そして、ビジネスや日常生活を見通すうえで、
職種や年齢を問わず興味をそそる内容となっている。 
    

 【目次】

   序  章  希望的観測
 第1章 中国の夢
 第2章 争う国々
 第3章 アプローチしたのは中国
 第4章 ミスター・ホワイトとミズ・グリーン
 第5章 アメリカという巨大な悪魔
 第6章 中国のメッセージポリス
 第7章 殺手鍋(シャショウジィエン)
 第8章 資本主義者の欺瞞
 第9章 2049年の中国の世界秩序
 第10章 威嚇射撃
 第11章 戦国としてのアメリカ
 謝 辞
 解 説 ピルズベリー博士の警告を日本はどう受け止めるべきか
     森本敏(拓殖大学特任教授・元防衛大臣)     

  

   第7章 殺手鐗(シャショウジィエン) 

                   難知如陰、動如雷震
                   ――知り難きこと陰の如く、動くこと雷の震うが如し 

                                    『孫子』軍争篇

  中国の殺手鐗計画は、アメリカでの諜報活動に支えられて進展してきた。2005年、FBIが
 嫌疑をかけていたタイ・ワンマクという男とその妻が、キャセイパシフ
ィック航空のロサンゼルス
 から香港へ向かう便に搭乗しようとした,しかしその9日
前に、FBI捜査官はタイが中国にいる
 諜報部員にかけた電話を録音していた。その
電話で彼は、「北米のレッド・フラワーが一緒だ」と
 言った。中国の諜報機関のコ
ード・ネームだ,FBI捜査官は、タイの弟が出したゴミの中から、
 びりびりに破い
た書類を発見した。タイの弟、チ・マクがレッド・フラワーだったのだ。チは、潜
 水
艦の無音推進システム、船内通信システム、最新の駆逐艦の能力など、米海軍の最新技術に関す
 る情報収集を命じられていた(注12),もしチがそれに成功していたら、大
いに殺手鐗計画の助け
 となったことだろう。

  Chi Mak Wikipedia

  アメリカはまた、中国の軍事力増強のパートナーを喜んで引き受けてもいた。わた
しが1980
 年代にアメリカ政府に承認を急がせた中国への武器輸出と技術譲渡は、
冷戦下では間違いなく意味
 があったが、その多くは今も続いている。
覇権国アメリカの自己満足を誘い、刺激するのを避ける
 ことのほかに、中国の戦略
が意図するのは、指導者層が恐れる、アメリカが仕掛ける脅威に応じる
 ことだ。多く
のアメリカ当局者は(わたしも含め)中国の指導者がどれほど深刻に、アメリカを
 脅威」と見なしているかを理解するのが遅かった。その影響を示す証拠が集まるにつ
れ、全員では
 ないものの多くの人が、中国に対してこれまでとは別の見方をするよう
になった。中国は従来型の
 戦力投射を増強するより、アメリカの脅威に対抗すること
にはるかに大きな関心を寄せていた。殺
 手鐗はこのアプローチの重要な構成要素である。

  
わたしは国防総省から、中国が脅威をどのように認識しているかを調査するよう命じられた。わ
 たしが発見したことの多くは、すぐには信じてもらえなかった。しか
し、わたしが中国の文書の中
 に発見し、「七つの恐怖]と名づけたものは、軍部と政府
の指導者の姿勢を反映したものと言える。
 というのも、「七つの恐怖{が記されていた
のは、もっぱら中国軍部の内部資料であり、それらの
 恐怖について文書に綴った者
は、民意を動かすつもりでそうしたわけではないからだ,それは、幅
 広く民意を動か
すために書かれたプロパガンダではなかった。

  確かに、中国の指導者が考えるように、アメリカは少なくともアブラハム・リンカーンの時代に
 は中国を支配しようとした。しかし、現在、中国の指導者は何を根拠に
アメリカが自国を狙ってい
 ると考えているのだろう。わたしは中国の有力な知人たち
に、このようなアメリカの大いなる陰謀
 の証拠と見なされているものを集めてほしい
と依頼した。彼らは軍部と民間の研究者数名から、一
 連の書籍と論文を入手した。こ
れらの資料と、2001年から2012年までの6回の訪中で自分
 が行ったインタビ
ューから、中国の指導者はアメリカが戦国時代の覇権国のような行動をとると考
 えて
いる、とわたしは結論づけた。それを知った当初はわたしも非論理的で奇妙だと思ったのだが、
  中国の指導者は、「ジョン・タイラーからビル・クリントンまでのアメリカ
大統領は戦国時代の格
  言を学び、それらの深遠な教えに従って中国の成長を邪魔しよ
うとしている」と主張していた。こ
  れは事実とは正反対だ。アメリカは長く中国の統
治を支援し、その経済の発展と、国際社会におけ
  る地位の確立を後押ししてきた(
13), 

  驚いたことに、わたしがまとめた報告書は信じがたい事実を裏づけていた。それは、かつてわた
 しや他の人が、たとえ中国で最高位にいた亡命者から聞かされても信
じようとしなかった事実だっ
 た。中国外務省出身の亡命者、陳優脆は中国政府の意思
決定に見られるいくつかの病的傾向を特定
 した。敵の行動に最悪の意図を読み取る
頑ななイデオロギーに縛られている、現実を見ようとしな
 い、である(注14)。そして
奇妙なことに、中国政府は、アメリカの戦略計画は中国を中心に据え
 ている、と考え
ていた。

 

  中国の七つの恐怖は、以下の通りだ

 【恐怖●】アメリカの戦争計画は中国を封鎖することだ

  戦略的な「行為者」の行動は、感情、文化、恐れといったその人の精神的な特性に左右される。
 中国はその長い海岸線が封鎖されることを恐れている。海岸に沿って一
連の島々が並んでいるせい
 で、より攻撃を受けやすいと感じるようだ(注15)。中国の
軍人の多くが恐れているのは、海岸線
 に沿って並ぶ日本からフィリピンまでの島々
に、外国軍が要塞を築き、やすやすと中国を封鎖する
 ことである(注16)。また、その
島々は、中国の船や潜水艦が外洋へ出るのを妨害する、天然の障
 害物のようにも見え
る(注17)。実際、かつて日本の海上幕僚長は、中国の潜水艦は日米の対潜水
  艦システ
ムに検知されることなく琉球諸島、台湾の北あるは南、あるいはバシー(ルソン)海峡を
 通って太平洋の深海へ潜入することはできないだろう、と豪語した(注18
)。中国の軍事書の作者
 はしばしば、この島々による封鎖を突破するための軍事演習や作戦策
定が必要だと説く(注19)。
 あるオペレーションズ・リサーチ分析は、封鎖を破るため
に中国の潜水艦が乗り越えなければなら
 ないむつの防御システムについて説明してい
る(注20)。その七つとは、アメリカが構築した対潜
 水艦ネット、水中音波システム、
機雷、水上戦闘艦、対潜機、潜水艦、偵察衛星からなる封鎖シス
 テムである(注21)。

The Sixteen Fears:China's Strategic Psychology Michael Pillsbury Oct 4, 2012



 【恐怖●】アメリカは他国による中国の海洋資源の強奪を支援している

  中国の軍事書の作者は、中国海軍が弱いせいで、領海内の貴重な資源が外国軍によって強奪され
 ており、中国の海洋開発の可能性を脅かしている、と主張する。その状況を改善するためにさまざ
 まな提案がなされている。国家安全部のシンクタンクの元研究員、張文木は、次のように述べる。
 「海軍は中国のシーパワーに、そしてシーパワ
ーは中国の将来の発展に関わりがある。わたしの見
 るところ、シーパワーが欠けてい
たら、国の発展は期待できない(注22)」。中国軍の雑誌『軍事
 経済研究』の2005
年の論文は、「中国の対外経済、外国との貿笥、海外市場はすべて、強力な
 軍隊という
後ろ盾を必要とする」と述べている(注23)。



 【恐怖●】アメリカは中国のシーレーンを妨害しようとしている

  多くの中国の著作物は中国のシーレーンの脆弱さに触れており、特に、石油輸送の生命線である
 マラッカ海峡に言及している,外洋海軍の増強を訴える人々は、中国の
エネルギー輸入が無防備で
 あることをその理由として挙げる(注24)。ある中国の研究
者は、アメリカ、日本、インドの艦隊
 は「中国の石油供給に、圧倒的なプレッシャ
ーをかけている」と述べるが(注25)、別の研究は「
  中国の石油輸送ルートを封鎖する
力と度胸があるのはアメリカだけだ」と結論づけている(注26)。
 同様に、中国人民解
放軍国防大学の教授が2002年に著した教科書、『戦役理論学習指南(戦闘
 理論研究
の手引き)』は、シーレーンヘの攻撃と防衛についていくつかのシナリオを挙げている
 注27)。同大学から出版されたこちらも重要な教科書、「戦役学(戦闘の科学)』の2
006年版
 も、シーレーンの防衛について論じている(注28)。緊急性を説く研究者も
いて、次のように述べ
 る。「海ヒ通商や石油輸送のルートが切断されるという問題につ
いて……中国は『雨が降る前に屋
 根を修理しなくてはならない(注29)』」。これらの主
張は、潜水艦中心の海軍から航空機を主軸
 とする海軍への移行を望んでいるようだ。



 【恐怖●】アメリカは中国の分断を狙っている

  中国は、軍内部だけで使用する訓練マニュアルにおいて、さまざまな侵略に対抗す
る戦闘計画を
 概説している(注30)。2005年に、中国人民解放軍国防大学、軍事科
学院、その他トップレベ
 ルの戦略シンクタンクの研究者が集結して行った影響力のあ
る研究は、中国のむつの軍区の脆弱性
 を評定し、さまざまな侵攻ルートについて検討
した(注31)。彼らはそれぞれの軍区の地形とこれ
 までの外国軍による侵略の頻度か
ら、陸からの侵略に対する脆弱性を予測し、さらには隣国を未来
 の侵略者と見なして
さえいる。最近の人民解放軍の再編は、陸上攻撃への対抗力を高めるのが目的
 のよう
だ(注32)。



 【恐怖●】アメリカは中国国内の反逆者を援助する

  ロシアとの国境沿いの三つの軍区には北京軍区も含まれるが、2005年の研究、「中国戦区軍
 事地理(中国の戦域の軍用地理学)」で言及されている通り、その3軍区
は装甲車での攻撃と空挺
 着陸(訳注*パラシュートでの着陸)に対して脆弱と見られている
注33)。2005年に内モン
  ゴル自治区で行われた軍事演習「北剣」は、戦車や装甲躯など2800台以上の軍用車輛を役人し
 た最大規模の機動演習だった。外国軍の支援を受けたテロリストヘの攻撃をシミュレートする装甲
 部隊も参加し、2000キロメートル超の空輸も行っている。中国政府のスポークスマンは、その
 演習は、外国の支援を受けた国内のテロリストを想定したものだと発表したが、その外国がアメリ
 カだとは明言しなかった(注34)。



 【恐怖●】アメリカは中国国内の暴動、内乱、テロを助長する

  台湾、チベット、新疆の「分裂分子」を外国が支援することに対して中国が声高に抗議するのは、
 お得意の誇張表現と見なされているが、そこには領土の完全性に関する根深い懸念が反映されてい
 る(注35)。党中央対外連絡部のある研究者は、分裂分子と法輪功学習者の活動による脅威 を、
 覇権国アメリカによる脅威に並ぶものと見なしている(注36)。



 【恐怖●】アメリカは航空母艦で攻撃を仕掛けてくる

  少なくとも10年にわたって、中国の軍事書の作者はアメリカの航空母艦による脅威を評定し、そ
 れらを阻止する最善の方法を探ってきた(注37)。オペレーションズーリサーチ分析は、中国軍は
 どうすればアメリカの航空母艦の脆弱さを突くことができるかを示唆しており(注38)、他の研究
  は中国が開発すべき特殊な兵器システムについて言及している(注39)。中国の地対空ミサイルは、
  この空母による攻撃への恐れの表れである。



「中国7つの恐怖」が掲載され、ロシアマルクス主義の強烈な「反植民地主義」の――例えば、「シー
ンを守れ」というスローガンは、戦後日本の保守政治委員(タカ派)が主張されたが、中国のそれは、
反植民地主義の裏返し考えれば極めて強固なもではないかと起想させる。そして、この過剰な思い込み
を解く作業の喫緊性、つまり、大規模な国家間戦争の「露呈」を意味する。戦後70年にして、戦争の
当事者として日本が開戦する事態が我々当時国家国民に迫る。戦争とという過剰過程に突入すれば後戻
りできなくなり、そして、大きな禍根を残すことになる。ここは、戦争を煽ることなく冷静に対処する
しかない。「いでよ!墨子」である。

  

                                                                              この項つづく

 

 

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